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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: オツタロ


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情報運用部 2014年4月~2015年4月 ②

課長の他チームへの支援についてなぜ課長が補佐するのかというのが気になり個人的に調べていた。

支援されている同期の女性はコネ入社の社員だった。

コネ入社自体は珍しくなく毎年どこかの社長の子息や令嬢といった人が入社していて私の代では2名いた。

新入社員研修を終え彼女は配属されたが仕事ができなかったらしい。

最初はOJTの女性社員も熱心に教えていたが一身上の都合で退職することになり彼女を指導する人がいなくなってしまった。

本来その穴を埋める先輩社員が配属されたがOJTらしいことはしなかったのだ。

唯一任されていた休日システム利用の調整業務もトラブルを起こしてしまっていた。

しかしコネ入社なので部長その他の社員も誰も指摘することができず放置されていた。

プロジェクトに参加させて残業させてしまうと問題になるということでプロジェクト経験は皆無だった。

上司である課長もどうしてよいかわからず放置していたところ、私のチームの課長がサポートを申し出たらしい。


ある日新しい派遣会社と契約して新たに4名増やすことになった。

最初は2名が来て正社員が抱えていた業務の一部を彼らに教育して業務をシフトしていった。

その2名は優秀だったのでチームないでの評判もよく追加の2名も来ることになった。

この2名が事前に聞いていたIT知識がなくエクセルの関数が使用できるという話だったがそれも使用できないことが分かった。

課長が探してきた派遣会社であったので課長に事情を確認したが

「俺は悪くない。あんなやつが来るとは聞いていない。」

「いつもみたいに派遣社員の人を交代するとかできないのでしょうか。

彼ら2名は仕事にも対しても全体的にレベルが低いです。おそらくIT知識があまりないのが原因かと思います。」

仕事が十分にできない派遣社員に対しては遠回しな言い方はせずに本人と派遣元会社に”もうすぐクビにする”と伝えることが社内的にはよくあった。

暴力沙汰になるのは情報基盤部だけだが言葉の暴力としては社内に一様にあったように感じる。

私も彼らに

「エクセルもまともに使えないのであれば派遣会社にいって交代してもらうしかない。」

と言った。

彼らは苦しそうな表情で

「ここをクビになったら行くところなんてありません。ここに居させてください。

俺たち元ひきこもりなんです。

前の派遣先でもクビになっちゃって、営業さんから次クビになったらお前らはうちの会社からもクビにするって言われているんです。

一通りの研修は受けてこの会社に派遣されているんですが専門的なことは何も教えられていないんですよ。」

「とは言ってもね。あなたたちの会社が提出したスキルシートにはエクセルの関数ができるとか、プログラミングができるとか書かれているそうですよ。私は直接その書類を見ていませんが課長もその認識です。」

「それは営業さんが勝手に書いたもんなんで俺たちは何が書かれているかは知らないです。」

私はかわいそうだとは思いながら、仕事面では戦力になっていないのでどうしたものかと思った。

戦力になっていないが彼らは純粋な増員枠なので期待されていたプラスがないということでマイナスなったわけではないとも考えた。

この増員にも何か背景がありそうだと思ったので深く追求しないことにした。

課長には「彼らはこのまま交代させずに当チームにいるんですね?」と聞き

「そうだ。」と課長は短く答えた。


私のチームでは派遣会社は一社だけ使用していたので単価上昇の牽制のために彼らを追加したのではないかと勝手に想像している。


ある時トイレから戻ってきた席に座ったところ。

すると課長から「今日はトイレの回数が多いな。腹でも痛いのか?」と聞かれた。

たしかにトイレに行っていたので間違いではないし、腹の調子がよくないのも事実なので正解なのだが違和感を覚えた。

「まさか、、、回数とか計ってないですよね?」

半分冗談で聞いてみた。

この会社では電話を受けた回数を記録して飲み会の時の説教に使う人が何人もいる会社だ。

トイレの回数を記録する人がいてもおかしくはないと思ったのだ。

課長は左手をこちらに見えるように上げた。そこにはストップウォッチが握られていた。

「部下の離席時間は可能な限り記録している。誰がいつ、何分席を外していたのか。

マネジメントとはこういう小さな積み重ねが大事なんだ。」

心の底から気持ち悪いと感じた。

「男同士とは言えさすがにそれは何かのハラスメントに抵触するのではないでしょうか。

それをマネジメントと言っていますが私はそうは思いません。」

「お前みたいな平社員にマネジメントの何がわかるの?

俺はマネジメントの本を読み、管理職研修を受けているんだ。

目の前の仕事をただ処理しているだけの人間が何を言っているんだ?」

課長は淡々と話していた。

課長の席にはマネジメント関係や自己啓発本が何冊も並べられているがそのうちにどれかに本当に書かれているのだろうか。

いつもみたいに頭ごなしに怒るようなトーンでなかったのが逆に怖く感じた。

私は黙って席に座り仕事を再開した。


日常の仕事のほかに半年に一個のペースで業務資格を取得することが求められる。

全員ではなく部内の何人かだけ。

理由は人事部が資格取得数を計測しておりそれを各部署ごとに集計していた。

そして部門ごとに資格保有数を設定していた。

そのノルマをクリアするために何人かに白羽の矢が立てられ期限内に資格取得をしないといけないことになっていた。

私はこの部に配属されてから退職するまでずっとこの役目を担っていた。

立ち場が弱かったので任命されていたのだと思う。

受験の申し込み時に人事部に届け出を出していると合格時に受験費用と合格時に1万円程度の報奨金が支給されるルールとなっている。

人事部に届け出をしないで資格を取得した場合は報奨金のみが支給される。

課長が代わる前は合格を伝えるとおめでとうと言って喜んでくれたので私もうれしい気持ちになっていた。

新課長になってからは合格したことを伝えると

「はぁ?受かったの?うぜぇ。

いつまでも横に立ってんじゃねーよ。さっさと仕事しろ。」

としか言われなくなった。

この時私は前の課長が褒めてくれてことに自分でも思っていないほど幸せを感じていたのだと実感した。


ある日別の部署に打ち合わせで部屋に入ったときに

1年上の先輩社員とあった。

その人は近いうちに産休に入るらしかった。

その連絡を自分のチームや関係者に挨拶していた。

私もたまたまそのタイミングにいたので

「おめでとうございます。」とだけ言って立ち去った。

去り際に大きな声で

「いいよなぁ。産休に入って逃げる奴はよお。周りの迷惑も気にせずにさ~。

産休中って金もらえるんだってさ。いいよな女は働かなくても金がもらえて貴族様だよなぁ。

なんなら俺だって孕みたいわ~。」

男性数人がそんなことを話していた。

部屋を出ようとしている私のところまでもはっきりと聞こえていたので産休予定の先輩社員にも声は届いていただろう。


会社のいくつかの部署には障害者雇用の人がいた。

情報運用部にも障害者雇用の人がいてその人は片足が不自由な男性だった。

足をひきずるように歩いていた。

派遣社員に人権を認めない風潮のある会社なので当然ながら障害者もいじめの対象だった。

その男性に対して重たい荷物を持たせて歩かせる。

無理やり走らせようとするなどをが日常的に行われていた。

その人は私がこの部署に来て3カ月しないで退職していった。

みんなは口々に「今度はかわいい女の子がいいなぁ。それならかわいがってもいいんだけどな。」と言っていた。


ある日派遣社員が叱責を受けていた。

その派遣社員自体は私も部署の人ではなく他部署の正社員に同行している派遣社員であった。

この場合私が注意するのは社内の風潮として非常によろしくない。

しかし怒られている内容がその派遣社員が打ち合わせに遅刻して正社員がプロジェクトの説明をやるはめになってしまったことについてだった。

遅刻した理由も前の打ち合わせが伸びてしまって途中退席できなかった為だった。

私もいろいろな仕事を経験する中で気が付いたことの一つに正社員がただのハンコ係になっているというケースが散見されていた。

資料作りは派遣社員、プロジェクトのミーティングに出席するのも派遣社員、課長などの上席への稟議書の作成やそれの対面での説明も派遣社員というケースが当たり前のようにあってそれがだんだんと増えていっていると感じていた。

派遣社員だけで打ち合わせに参加してもいいかと思うが体裁だろうか基本的には本来のプロジェクト参加者の正社員の同行者として派遣社員が参加しているという状況だった。

これもいつまで体裁を保てるのかと憂慮していた。

そういう状況だったので叱責を受けている派遣社員があまりにも不憫に感じてしまった。

叱責中の正社員に対して口を出してしまった。

その社員はあからさまに不機嫌な顔で口を開いた。

「あん?何お前。俺に意見するってのか。」

「こんな衆人環視のところで叱責するというのはよいこととは言えません。

それに彼が叱責を受ける理由も正当ではありません。

あなたが本来のプロジェクト参加者なのだからあなたがプロジェクトの説明するのは何も間違っていない。」

「俺は恥をかかされたわけ。こいつが打ち合わせに遅れたせいで打ち合わせの開始時間も遅れたわけだよ。

これはいじめてもいいってこと。

派遣社員なんて何も価値がないんだからいじめられてサンドバックになるのも仕事の一つだよ。

隙を見せたこいつが悪い。」

「どんな理由だろうといじめをしていい理由はない。

一緒に働いている人をそのように扱うのはおかしいことだ。」

「いじめる理由?

それは俺が選ばれた人間で、こいつが今まで何の努力もせずに何も考えずに派遣会社に就職した負け犬ってことで十分だよ。

脳みそついていたら派遣会社に就職とかしないでしょ。

そんなのネットで調べれば派遣社員の悲哀なんていくらでも出てくるよ。

そういうのがわかんないで就職しておいていじめないでくださいとかバカじゃん。

いじめれる枠に勝手に入ったのはそっちでしょ。

これは正当にいじめていいってこと。

今まで何の努力もしてこなかった人間が社会でいい思いできると思ってんの?

俺は小さいころから努力してきたわけ、塾にも通って受験にも勝っていい大学でてんの。

努力したやつが努力しなかったやつをいじめて何がいけないの?」

「派遣社員だからといって努力していないと結論づけるのは間違っている。

人を虐げるために勉強したわけもないだろう。」

「いや、いじめるために勉強してきましたが?

勉強の努力ってそういうもんでしょ。

ていうかさ、お前先輩に対して生意気だな。

どこ卒よ?」

やはり学歴バトルになるのかと思った。

嘘をついてもばれてしまうので私は正直の大学名を名乗った。

学歴バトルを挑まれる時点でこの人の大学は有名大学なのは間違いないだろう。

それか私の出身大学をあらかじめ知っているかだ。

「ん-。その大学聞いたことないなぁ。

名前からして地方の大学だよね。その時点で負け。

俺の勝ちだわ。

先輩社員に対しての生意気な発言は課長に報告しておくわ。

調子乗った罰だよ。」

そういってその社員は派遣社員に怒鳴って一緒に部屋を出て行った。

派遣社員はすみません、すみませんとその社員に頭を下げながら部屋を後にした。


周りにいた派遣社員たちはみな頭を下に向けていた。

正社員たちは私を睨みつけて、余計なことをするなと目で語っているようだった。

その日の夕方私は課長に呼び出されて先刻の先輩社員に対する非礼について叱責を受けた。


正社員の中にはハンコ押し係と呼ばれて派遣社員が作成した資料に検印のハンコを押すだけを生業としている人がいる。

検印のハンコを押すということはそれを精査したうえで押しているはずなのでプロジェクトの参加者であり成果があれば評価を受ける立場の人物ということになる。

私のチームの仕事の一つにサーバ室に入るための申請書の承認をするというものがある。

開発部門がサーバ室に入る際に私のチームにその申請書を提出するのだが、その資料に間違いがあった。

単なる日付間違いだったが申請書という手前、数年間保存されるものであるので修正するように依頼元に連絡した。

検印を押してある正社員に連絡すると

「なんで俺に連絡が来たのかわからん。

作成した派遣に直接連絡してよ。」

「あなたが作成者よりも上位にハンコを押しているのであなたにまずは連絡するのが筋でしょう。

この後作成した派遣社員の方にも連絡しますよ。

再提出になるということをお知らせしただけです。」

「俺が間違った書類にハンコを押したからって俺の責任なわけ?」

「責任というほど大した話ではないです。単なる日付間違いなので。

厳密な話というならば派遣社員の仕事というのは正社員の仕事を肩代わりしているだけではないでしょうか。

正社員だけでは手が回らず派遣社員がその代わりをしている。

その派遣社員が正しい仕事をしているのを保証しているのがその管理者たる正社員でしょう。

そうでなければ正社員を雇う意味が組織として意味がないわけです。」

「俺は派遣社員がハンコを押してくれって言われたからハンコを押しただけなわけ。

ハンコを押しただけで責任とか管理とか言われるのは理不尽だよ。

間違った書類にハンコを押してくださいって依頼した派遣社員が全部の責任を被るべきだ。

今回のケースでいうなら俺は被害者だ。」

書類の大小に差はあれどミスがあったら派遣社員がすべて悪いというのがこの会社で段々と広まっている現象だなと感じた。





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