情報運用部 2014年4月~2015年4月
課長が交代することになった。
新しい課長は人事部で課長をしていて私の代の新入社員研修を取りまとめていた人だった。
辞令がでる前日部長より呼ばれて新しい課長のことを伝えられた。
私が新入社員研修時代にひと悶着あったことを知っていたらしい。
新課長は人事部に異動する前は開発部門にいたが、プログラムができず開発業務ができなかったため人事部に異動になったというのは情報基盤部にいたときに聞いた噂話だった。
新課長はゴルフが趣味で毎年の新入社員に自信がおすすめするゴルフセットを買わせていた人物である。
社内の有志(とは言っても自派閥に属している人)のゴルフ大会を開くなど積極的な活動をしていた。
あだなは”飲み会部長”で本人が周りそう呼ぶように言っていた。
年齢は40前半であるがまだ自分が卒業した神奈川県の大学の音楽サークルにOBとして参加していて女子大生の知り合いが多いのを自慢している。
妻子持ちだが女癖がよくないのも一部では有名だった。
メンバーとして新課長、前課長、先輩、私という構成になった。
前課長がなぜ降格になったのかは不明である。
就任日、新課長が挨拶にきた。
「今日から私がトップです。それを忘れないでください。
私はITの知識がありません、しかしそれは私への説明を省いていい理由にはなりません。
私が十分に理解できるようにあなたたちが責任をもって説明してください。
もし業務にミスがあった場合はそれは説明したあなたたちの責任です。
私の責任ではありませんので勘違いしないでください。」
んんん?と内心思いながら黙っていることにした。
それから仕事は大変な労力になった。
本人は応用情報処理技術者試験に合格していると言っているが基本的なIT知識がないのである。
勉強した内容はどこにいったのか。
課長に説明するための資料作りが追加になり以前のようなスピードでは仕事はできなくなった。
5月
週次のチームミーティングにて課長がある発言をした。
「この中に私を課長と認めないで仕事をしている人がいます。
課長の力の強さをわかっていませんね。
これから1人クビにすることにします。
そうすれば私がどれだけ大きな力を持っているかがわかるでしょう。」
ミーティングには正社員のほかチーム所属の派遣社員も参加していた。
基本的には正社員のみが発言をして派遣社員は黙って聞いているだけという形式。
それから2週間後1人のベテラン派遣社員が交代という名目で消えていた。
その週のミーティングにて
「1人クビになりましたね。これは偶然ではありません、私が課長の力を使ってクビにしたんです。
なぜ彼はクビになったのでしょうか。
仕事は真面目でした。ベテランでした。
しかしそれゆえ私を軽んじた態度をとっていた。
彼は私に挨拶をしなかった。
派遣社員なのに私と朝に会った時会釈だけしたのです。
派遣社員なのにです。
挨拶は社会人の常識です。
それができていない人はこのチームにはいりません。
ましてや派遣社員が正社員に対して会釈だけで済ますなど上下関係もわからないことに私は驚きました。
すぐに彼をクビにするように部長に掛け合い、派遣元会社にも要請をしました。
そして彼はクビになったのです。
彼の後任はまだ決まっていません。
しかし仕事量は一切減らしません。
なぜだかわかりますか。これは連帯責任なのです。
あなたたち一人ひとりがこのチームを派遣社員が調子に乗るようなチームを作り上げてきたのです。
私は改革します。
そのために彼をクビにしました。
これから私が必要ないと判断した人にはこのチームからいなくなってもらいます。」
この瞬間から明らかにチームの雰囲気が悪くなったのを感じた。
それからしばらくして新しい派遣社員1名と正社員が2名配属された。
一気に人が増えたが正社員2名はどちらも課長の派閥に属している人で社内では有名だった。
それからいくつかのルールがチーム内で作られた。
ルール1 一般派遣社員を名前呼びしてはいけない。
情報基盤部でも同じルールがあったがこの部署ではそんなルールはなかった。
派遣社員たちをまとめている会社代表と呼ばれている派遣社員のみ名前呼びOKでそれ以外の派遣社員の名前呼びは禁止という。
ルール2 週次ミーティングは正社員用と派遣社員用、正社員/派遣社員合同用に分ける。
今までは正社員と派遣社員で一緒にミーティングをしていて正社員のみの連絡事項はミーティングが終わった後に派遣社員の方に先に戻ってもらい連絡事項があるというのが通常だった。
それを明示的に分けるという。週次のミーティングが1個増えるというだけでも負担なのにという状態である。
ルール3 業務単位で進捗率を出す。
今までは期限と全体スケジュール、取り組むべき課題などを書きミーティングで進捗を大まかに伝えるというのが今までのやり方だったが、これからは完了したタスクをそのプロジェクトの全体タスクで割った値を出すという。
何が問題かというと後で追加タスクが出てきた際に完了率が下がる。下がった理由を説明しても理解してもらえないという点である。
ルール4 派遣社員の監視
派遣社員がミーティングに遅刻した場合それが1分であっても叱責し課長に報告しなければならない。
目的は派遣社員の月額単価を引き下げる為だと説明された。
とは言っても派遣社員も正社員同様に複数のプロジェクトに参加しているのが普通だった。
打ち合わせの後に打ち合わせがあることも珍しくなく打ち合わせが長引いてしまうこともよくあった。
そのような場合でも例外なく報告せよとのことだった。
月額単価を引き下げることでチームが負担しているコストを下げて評価を上げることが目的なのだろうと推察していた。
私は一切この手の報告はしなかった。
ルール5 打ち合わせ時間は常に短く
30分の打ち合わせならば20分で終わること。
60分の打ち合わせならば45分で終わること。
そうやっていけば打ち合わせが長引いても時間までに終わることが次の打ち合わせに遅れることがない。
打ち合わせのリーダーは常に時間を意識しないといけない。
と言っていることは素晴らしいと思う。
自分が打ち合わせのリーダーでなくただの参加者の場合、打ち合わせの時間が迫っていることを必ず言えるわけではないし聞き入れてもらえないことある、と反論したが
「そうやって自分はただの一員だから何もできないと言うのではなく周りを巻き込んでいく、言わば巻き込み力を鍛えていかないといけない。言い訳は成長しない。」
と言われた。
新しいルールができてからミーティングが進捗確認のために予定時間を大きく過ぎるということ常態かしていった。
「なぜ先週に比べて完了率が下がっているのか?」
「今週新たなに必要なタスクがわかったので重要タスクであったため追加しました。」
「重要なタスクなのにプロジェクト開始前にわからなかったのか。」
「実際にプロジェクト始めてみて資料作りなど、他部署との打ち合わせをする中で作業の漏れがわかりました。」
「それは誰の責任?どの派遣社員が悪いの?」
「誰と言うよりかは・・・そういうことよりも作業の進捗に一生懸命になるべきかと。。。」
「犯人捜しは必要だよね。なぜなぜ分析をして犯人である派遣社員を見つけ出してマイナス評価をしないといけない。それができないならメンバー全員がマイナス評価をもらうということでいいんだよね。
犯人捜しは絶対だよね。
私の指示に従わないということはあなたもマイナス評価が着くけどいいよね。」
だいたいこんな感じでミーティングが進んでいくようになった。
幸いなのか課長は業務について理解するつもりがないらしく進捗資料をアバウトに作成しておけば回避できるということがわかった。完了率の数字しか見ていないということである。
密告制度もあり派遣社員のみんなの顔色が悪くなっていた。
私は何もできず見ていることしかできなかった。
私はルールを破り一般派遣社員の名前を呼び仕事をしていたので課長から度々注意を受けていた。
しまいに会議室に呼び出されてしまった。
「何回注意されたら覚えるんだ?
俺の子供のほうがお前より利口だよ。
お前がやっている行為は正社員に対しての人権侵害だよ。」
「人の名前を呼ばないであいつとかお前とか言うほうが人権侵害でしょう。
あなたがこの部署に来る前まではこんなに雰囲気は悪くなかった。
あなたのわけわからんルールのせいで迷惑しているんですよ。」
「俺が言っているのは俺らの人権の話だ!論点をずらすな!
派遣社員は人ではない、物だ!文房具の一種類でしかない。
それを人間扱いするとは、俺らとあいつらが同じ人間と思っているなんてお前頭おかしいよ。」
「彼らは人です。一人の人です。
おかしいのはあなたです。」
課長の顔面は今にも手が出そうなほど怒っていて机を挟んで椅子に座っていなかったら殴られていただろうという気迫があった。
課長は胸ポケットからボールペンを取り出して
「これは誰だ?
このボールペンは佐藤か?田中か?高橋か?
お前がやっているのは文房具に一個ずつに名前を付けているのと同じだ。
これ以上俺のルールに逆らうって言うんならこちらにも考えがある。
お前をこの会社に居れなくさせてやる。俺にはそれだけの力がある。
課長という役職だけじゃない。俺の持つ社内ネットワークの広さをお前も知っているだろう。
これ以上俺に逆らうな!」
怒った状態で課長は会議室を後にした。
私はそれからも気にせず一般派遣社員の人も名前を呼び仕事をしていた。
派遣社員からは
「これ以上名前を呼び続けたらあなたの身が危ない。
私たちのことは気にしなくていいから他の人と同じように命令口調で仕事をしてください。」
と言われたが
「この会社には愛想が尽きています。正直に言うと今すぐ辞めてしまいたい。
しかしその踏ん切りがつかない自分に苛立ちすら覚えています。
このまま課長の言うとおりに従っていたら私は人間ではなくなります。
それは私の人生の汚点になります。
そうなるくらいなら会社を辞めます。辞めるまでは仕事を続けます。」
と言い派遣社員の方は何とも言えない表情をして黙って一緒に仕事に取り組んでくれた。
課長の新たな仕事が増えた。
部内のほかのチームの仕事を手伝うというのだ。
ほかのチームにいる私の同期の女性の仕事をサポートするという。
仕事内容は休日に開発部門が開発しているシステムの試験テストで利用するシステムを一覧化するというものだった。
一覧化して利用予定システムが重複している場合にお互いに知らせて回避するように促す役割である。
そしてその回避を週の最後の平日までに行いその結果を金曜日夕方に関係者を集めて連絡するという。
大変そうに見えるがテスト予定のシステムを入力するのは開発部だし、システムの重複があった場合に実際に調整するのも開発部なので彼女はその連絡とその結果を受けて資料にまとめて発表する役割だった。
しかし何度か調整ができず週末のテスト実施時にシステムの重複がありトラブルに発展していることが何度かあった。
その結果再発防止策として私のチームの課長がその同期を補佐することになった。
同期が所属するチームにはきちんと課長がいるのになぜ別チームの課長が補佐するのか訳が分からなかった。
その同期が所属するチームについて説明しておく。
役割は2つで一つが休日の利用システムの社内調整で、もう一つが社内のパソコンの管理である。
チーム構成は課長と先輩社員とその同期の3名で他は派遣社員が2名いるだけのチームだった。
ほかのチームが派遣社員を増やすと不公平だと文句を言い自分のチームにも派遣社員を増やすように要望を出していた。
その不平を言っていたのが私の同期である。
その結果派遣社員の数は2名から6名になったが仕事内容は一切変わっていなかった。
一度そのチームにパソコンについて確認を取りにいったことがある。
同じ部屋なので数十メートルくらいしか離れていない。
チームナンバー2の社員(同期の先輩社員)に話しかけたところ
「アポとった?
手が空いているように見えてもさぁ。
本当は忙しいんだよね。
そういうのわかんないかな。
たとえ1分の会話でもアポイントメントを取るのって大事だと思うんだよね。
ビジネスパーソンの常識って言うのかな。
そういうのまだわかんない年齢だっけ?」
私はすみませんと言って自席に戻ることにした。
去り際に彼らが今日の飲み会の場所をどこにするか笑いながら話していた。
確認事項は翌日に打ち合わせを設定した。
とある一台のパソコンについて管理部門が知りたいだけだったので1分もかからずに打ち合わせは終わった。
数時間後そのチームに所属する派遣社員からメールが届いた。
エクセルファイルが添付されていたのでそれを開けた。
その瞬間パソコンがフリーズした。
5分くらい画面が白くなって操作を受け付けなくなった。
フリーズが解消されファイルの中身を見たところ社内にある4000台あまりのパソコンの管理情報がすべて載っていた。
それほど多量の情報なのでパソコンがフリーズしてしまったのである。
雑な仕事と判断して文句を言いに行ったが”これが俺たちの仕事のやり方だから”と言って相手にされなかった。




