「〇〇家之墓、これからも賑やかです。」(後半②)
⭐︎一年前と、今
その夜、あたしは、一人で、桜庭家之墓の前に立って、夜空を見上げていた。
――一年前、あたしは、ここで、初めて目を覚ました。
カーテンのない朝。
映らない鏡。
声のでかい、曾おじいちゃん。にこにこ顔の、曾おばあちゃん。
あのときのあたしは、死んだことに戸惑いながらも、なんとか、明るく振る舞おうとしていただけだった。
でも、今は、違う。
――死後の世界は、思ってたよりずっと、にぎやかだ。
一年前、あたしは、そう思った。
――そして、今。
死後の世界は、思ってたよりずっと、にぎやかで――あたたかい。
あたしは、そう、心から、思える。
清一さんの名前を、見つけた。
麗華の、九十年の恋の答えを、一緒に見届けた。
鬼塚さんとマサさんの、四十八年越しの絆を、目撃した。
慈念さんの声が、化けていく瞬間を、間近で聴いた。
伽椰子と、本当の名前を、呼び合った。
おはぎの、静かな優しさに、気づかせてもらった。
トメばあちゃんの、変わらない乙女心に、キュンキュンさせられた。
雷太さんが、成仏せずに残ることを選んだ姿を、見送った。
慈念さんと円海さんの、師弟の絆を、支えた。
そして――この場所を、みんなで、守り抜いた。
――ぜんぶ、ぜんぶ、あたしの、大切な記憶だ。
⭐︎新年の朝
明けて、一月一日。
「――貞子さん、明けましておめでとうございますわ」
麗華が、いつものように、日傘を差して、あたしの隣に座った。
「明けましておめでとう、麗華」
「今年もまた、賑やかな一年になりそうですわね」
「――だね」
墓地の向こうから、いつもの声が聞こえてくる。
「こらぁぁぁ鬼塚の小僧ぉぉぉ!! 新年早々、わしのお雑煮の餅を盗むでない!!」
「餅くらい分けろよジジイ、ケチくせえな!!」
スポーン。
いつもの音がして、いつもの首が、正月の澄んだ空を飛んだ。
北の端からは、新年らしい、少しめでたい響きの、見えないギターの音が聞こえてくる。
西の端では、清一さんが、いつもと変わらず、でも、いつもより、ずっと穏やかな顔で、あの空き地に立っている。
本堂からは、円海さんの神声と、それに寄り添う、慈念さんの、まだ少し不安定だけど、確かに自分の節を持った声が、重なって聞こえてくる。
「――かっ、観……自ざいっ……!」
「「「「……チッ」」」」
墓地中の舌打ちが、新年の空に、賑やかに響き渡った。
墓石の上では、おはぎが、今日も、心の底からどうでもよさそうな顔で、大あくびをしていた。
――でも、その尻尾は、いつもより、少しだけ、機嫌よさそうに、揺れている気がした。
あたしの名前は、桜庭貞子。
十六歳。幽霊だから、年はとらない。
好きなものは、プリといちごミルクと、きらきらしたもの全般と、自分の名前と――この、賑やかな墓場の、全部。
嫌いなものは、雨と、限定のリップを使い切る親友。
――でも、それも含めて、大好きだ。
ここは、某県某市、某寺の墓地。
死後の世界は、思ってたよりずっと、にぎやかで――あたたかい。
墓場は、今日も、成仏しない。
そして、これからも、ずっと、賑やかだ。
(第十二話 完)
――第二部・完――
最後までお読みいただきありがとうございました。
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彼女たちのドタバタストーリーはまだまだ続きます。
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