「〇〇家之墓、これからも賑やかです。」(中盤③)
⭐︎それぞれの後日談
その週末、寺には、これまでのエピソードに関わった生者たちが、次々と訪れた。
まるで、この結果を、みんなで分かち合いに来たみたいだった。
蒼太は、健さんと一緒に、報告に来た。
「――結局、俺の資料、どこまで役に立ったのか、わかんないけどさ」
蒼太は、少し照れくさそうに、桜庭家之墓の前で言った。
「担当の人が、『これだけたくさんの人が、この場所を大事に思ってるんですね』って、言ってたって、権藤さんから聞いた」
蒼太は、鞄から、小さな菓子折りを取り出して、供えた。
「……姉ちゃんの『シンジテル』がなかったら、俺、あそこで、投げ出してたと思う。……ありがとな」
――貞子は、透けていた体が、いつの間にか、しっかりと戻っていることに気づいた。
誰かに感謝されるということは、こんなにも、体に力をくれるものなのかと、初めて知った。
伽椰子も、久しぶりに、墓参りに来た。
「――教授、すごく張り切って、意見書書いてくれたよ」
伽椰子は、墓前にしゃがみ込んで、少し照れたように笑った。
「……サダの寺のために、私も、ちょっとは、役に立てたかな」
――ちょっとどころじゃないよ、カヤ。
貞子は、心の中で、そう答えた。
悦子さんと健さんは、田村家の欄間の写真を、あらためて持ってきた。
「――結局、この写真も、資料の一部に使わせてもらったんです」
健さんが、少し誇らしげに言った。
「桜庭さんの仕事が、こんな形で、また役に立つなんて、不思議な縁ですね」
その言葉を聞いて、源蔵じいちゃんは、縁側の陰で、こっそり、鼻をすすっていた。
哲也さんと結衣は、二人並んで、墓参りに来た。
「――説明会で発言したの、実は、生まれて初めてだったんです」
結衣が、少し誇らしげに言った。
「怖かったけど、……なんか、ギター借りるようになってから、なんとなく、頑張れる気がして」
北の端で、雷太さんが、見えないギターを、そっと爪弾いた。結衣は、その音に気づいたのか、少しだけ、辺りを見回した。
――続きは、また今度。
雷太さんは、そう言っていた約束を、まだ、大事に、抱えているみたいだった。
⭐︎トメばあちゃんの、一言
その夜、あたしは、桜庭家の縁側で、疲れきって座り込んでいた。この二ヶ月の、そして、この数日の出来事が、どっと押し寄せてきて、体が重かった。
「……さだちゃん」
トメばあちゃんが、いつものように、お茶を持ってきてくれた。
「……頑張ったわねえ」
「……うん」
あたしは、素直に頷いた。
「……清一さんのお名前のときも、伽椰子ちゃんの誕生日のときも、思ったけど……。あなた、本当に、無茶ばっかりするわねえ」
「……ごめん」
「謝らなくていいのよ」
トメばあちゃんは、あたしの隣に座って、湯呑みを両手で包んだ。
「……あなたが、清一さんの名前を見つけたときも、伽椰子ちゃんに気持ちを届けたときも、そして、今回、蒼太くんを励ましたときも。……あなたは、いつも、自分の体が透けるのも構わずに、誰かのために、頑張るのねえ」
トメばあちゃんは、あたしの頭を、しわしわの手で、そっと撫でた。
「……この一年で、あなたは、ずいぶん、強くなったわ。……最初にここに来たときは、ただ、きらきらしたことが好きな女の子だったのに」
「……今も、きらきらしたこと、好きだよ」
「ふふ、それは、変わらないでいいの」
トメばあちゃんは、優しく笑った。
「……でもね、さだちゃん。あなたのその頑張りは、ちゃんと、みんなに届いてる。……蒼太くんも、伽椰子ちゃんも、清一さんも。……あなたのおかげで、救われた人が、こんなにたくさんいるのよ」
――あたしは、なんだか、急に、涙が出そうになった。
「……ひいばあちゃん」
「なあに」
「……あたし、ちゃんと、役に立ててる……?」
「――もちろんよ」
トメばあちゃんは、迷わず、頷いた。
「あなたは、この墓場の、誰よりも、まっすぐに、人のために頑張る子よ。……名前の意味の通りにね」
――まっすぐで、ぶれない。
パパが教えてくれた、あたしの名前の意味。
あたしは、その意味の通りに、生きて――いや、死んでからも、ちゃんと、生きられているんだと、そのとき、初めて、心の底から思えた。
⭐︎大恩寺からの、一言
数日後、円海さんのもとに、大恩寺さんから、一通の手紙が届いた。
「……ほう」
円海さんは、それを読んで、少しだけ、驚いた顔をした。
「――慈念、これを見てみい」
手紙には、こう書かれていた。
『此度の一件、風の噂にて聞き及び申した。
実を申せば、貴寺の土地の件、本山にてかねてより話題に上りし折、拙僧よりいささか口添えいたし申した。
「あれだけの縁が集まる寺を、軽々しく扱うべきではなかろう」と。
出過ぎた真似とは存ずるが、貴寺の来し方を、拙僧なりに、見届けさせていただいた故のこと。
ご容赦願いたい。
三年の猶予、いよいよ大事に、お過ごしなされよ。
大恩寺隆賢』
「……あの人が……」
慈念さんが、目を丸くした。
「……厳しいだけの人だと、思ってました……」
「……人は、見かけだけでは、わからんものじゃ」
円海さんは、静かに、手紙を畳んだ。
「……型に厳しい者にも、その奥に、ちゃんと、優しさはあるものじゃ。……お前も、あの方から、まだまだ、学べることがあるじゃろう」
「……はい」
慈念さんは、深く、頷いた。
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