「〇〇家之墓、これからも賑やかです。」(中盤②)
⭐︎歓喜のドタバタ
「――やったぁぁぁぁぁぁ!!!」
一番に叫んだのは、源蔵じいちゃんだった。
「わしの家が、わしの家のまま、残るということじゃぁぁぁ!! 鬼塚ぁ、聞いたか!!」
「聞いたよ! 聞こえてるよジジイ!!」
鬼塚さんは、墓の裏に隠していた(盗んだ)お供え物を、片っ端から引っ張り出してきた。
「今日は、俺の奢りだ! みんな食え! プリンもロールケーキもある!」
「それ、全部盗品じゃろうがぁぁぁ!!」
「今日くらい、目を瞑れよジジイ!!」
「――皆様ぁぁぁぁ!!」
麗華が、日傘を放り出して、大声で泣きじゃくっていた。
「わたくし、これでようやく……美月さんの、結婚式も、お宮参りも、七五三も……安心して見届けられますわぁぁぁ……!!」
「麗華、まだ全然泣くの早いよ、これから何年もあるんだから!」
「今泣かせてくださいませぇぇぇ!!」
北の端からは、これまでにない大音量で、見えないギターの音が響いてきた。
「――祝いのセッションだ! 全員、乗れ!」
雷太さんの弾く即興のメロディに合わせて、墓場中の霊たちが、踊り出す。
首が、あちこちで、景気よく飛び交った。
そして――
「――かっ、観自在っ……菩薩ぅ……!!」
歓喜のあまり、慈念さんが、本堂から、思いきり声を張り上げてお経を読み始めてしまった。
――ずしっっっ。
「「「「うっ……!」」」」
いつもの三倍の胃もたれが、喜びに沸く墓地全体を、容赦なく襲った。
「……お、お経のタイミング、選べよぉ……」
鬼塚さんが、青い顔で崩れ落ちながら、恨めしそうにつぶやいた。
「――これ、慈念。今は、勤行の時間ではないぞ」
本堂の中から、円海さんの、呆れたような声が聞こえた。
「……す、すみません。……嬉しくて、つい、我を忘れてました……」
慈念さんの、申し訳なさそうな声が続く。
――もちろん、鬼塚さんへの返事じゃない。
――でも、その胃もたれさえ、なんだか、今日は、幸せの一部みたいだった。
⭐︎清一さんの、静かな時間
お祭り騒ぎから少し離れて、あたしは、西の端に向かった。
清一さんは、あの空き地に、一人で立っていた。
にぎやかな歓声が、遠くから、風に乗って聞こえてくる。
「……清一さん」
「……貞子ちゃんか」
清一さんは、ゆっくりと、あたしの方を振り向いた。その目には、涙が浮かんでいた。
「……ここで、これからも、待ち続けてええんじゃな」
その声は、震えていた。
「……勇は、もう来ん。……それでも、わしは、ここで、待つことを、やめんでもええんじゃな」
「――うん」
あたしは、清一さんの隣に立った。
「清一さんが、待ち続けたいなら、ここは、これからも、ちゃんと、清一さんの場所だよ」
清一さんは、しばらく、空き地の地面を、じっと見つめていた。
それから、山門の方を、見上げた。
「……勇。……聞こえとるか。……お前が最後に立った場所は、これからも、ちゃんと、残るぞ」
風が、ふわりと、吹いた。
その風に、清一さんの白い髪が、静かに揺れた。
「……ありがとうな、貞子ちゃん。……お前がおらんかったら、わしは、とっくに、名前も、この場所も、忘れとった」
「――お礼を言うのは、あたしの方だよ」
あたしは、首を振った。
「清一さんがいてくれたから、あたし、名前を大事にすることの意味、教えてもらったんだから」
清一さんは、ほっほっと、久しぶりに、いつもの穏やかな笑い声をあげた。
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