「〇〇家之墓、これからも賑やかです。」(中盤①)
⭐︎権藤さん、駆け込む
そして、その日の夕方。
「――決まったぞぉぉぉぉ!!」
山門の方から、権藤さんの、想像もしていなかったくらい大きな声が響いてきた。
杖をついているはずなのに、その足取りは、驚くほど速かった。
「円海さん! 慈念さん! みんな、聞いてくれ!」
墓地中の霊が、いっせいに、その声の方を振り向いた。
源蔵じいちゃんも、鬼塚さんも、麗華も、雷太さんも、清一さんも。
あたしも。
慈念さんが、本堂から飛び出してきた。
「――権藤さん、どうしたんですか、そんなに慌てて」
「市議会の結果じゃ! さっき、市役所から連絡があってな!」
権藤さんは、息を切らしながら、言った。
「――道路の拡張ルート、一部変更になった! 無縁仏の区画と、山門前の空き地は……そのまま、残ることになった!」
――一瞬、静寂が、墓地を包んだ。
「……ほ、本当に……?」
慈念さんの声が、震えていた。
「本当じゃ! ……ただし、条件がある。西側の資材置き場になっとった区画、あそこは、道路用地として、市に譲渡することになった」
権藤さんは、そこで、一度、深く息をついた。
「……全部が全部、残せたわけじゃない。……じゃが、無縁仏も、あの空き地も、無事じゃ」
――守られた。
あたしは、その言葉を、頭の中で、何度も繰り返した。
⭐︎翻訳される、喜び
円海さんと慈念さんが、墓地を回りながら、一基一基の墓前で手を合わせ、この結果を、丁寧に報告していった。
あたしたちの姿は、二人には見えていない。
それでも、お坊さんというのは、そういうことをする人たちなのだ。
いつもは、生きている人の言葉の奥にある本当の気持ちを、あたしたちが感じ取る。
でも、今日は、その逆だった。慈念さんの声を通して、市の決定という、生きている人の言葉が、あたしたちに、届けられていく。
「――無縁仏の区画は、そのまま、残るとのことです」
慈念さんが、西の端の、無縁仏の合祀墓の前で、手を合わせたまま、声を張り上げた。
「……清一さん。……あなたが待ち続けてきた、あの場所も、そのままです」
――西の端で、清一さんが、ゆっくりと、顔を上げた。
その表情は、まだ、信じられない、というような、ぽかんとしたものだった。
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