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墓場ぐらしのサダコさん  作者: 則本潮


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「墓場最強は、乙女ごころ。」(前半)

⭐︎三度目の正直、じゃなくて


「こらぁぁぁぁ鬼塚の小僧ぉぉぉ!! わしの目の前でタケノコご飯を吸い込むでない!!」


五月。墓地の若葉が、朝日を受けて銀色に光っている。そんな清々しい朝から、いつもの声が響き渡った。


「はぁ? お前が三日も気づかなかったのが悪いんだろうが」


「盗んだ側が開き直るでない!!」


スポーン。


いつもの音がして、いつもの首が、いつもの新緑の空を飛んだ。


「――あら、今日の飛距離、三メートルは伸びましたわね」


墓石の縁にちょこんと座って、あたしと麗華は、朝のお約束を見物していた。


「麗華、採点厳しくない? 昨日は二メートルで満点だったじゃん」


「昨日は追い風でしたもの。本日は無風、それであの記録は立派ですわ」


「意味わかんない採点基準」


首なしの鬼塚さんの体が、地面を手探りで動き回っている。飛んでいった首の方は、木の枝に引っかかって、逆さまのまま悪態をついていた。


「――おい、誰か取れ! 景色が逆さで気持ち悪ぃんだよ!」


「自業自得ですわ」


「ごきげんよう構文使うな西園寺! 助けろ!」


――でも、あたしは、いつもよりちょっとだけ、この殴り合いを冷めた目で見ていた。


「……ねえ麗華。ひいじいちゃんの拳、なんか、いつもより軽くない?」


「……あら、貞子さんもお気づきでしたの」


麗華が、日傘の影で、そっと声をひそめた。


「先週から、ですわよね。……源蔵さんの喧嘩、どこか上の空ですわ」


たしかに。

今日のスポーンも、いつもより音が控えめだった気がする。

木から落ちてきた鬼塚さんの首を、源蔵じいちゃんはいつもみたいに勝ち誇らずに、無言でぽいっと本体に投げ返しただけだった。


「……なんか悩んでるっぽいんだよね、最近。……ほら、先週、植木屋のおじさんが『田村さんとこの欄間』がどうとか言ってた日から」


「……存じておりますわ。あの日から、源蔵さんの縁側の引き出しから、彫刻刀の音がする夜が増えましたの」


――第六話の、あの引き出しの騒動を思い出す。あのときは、あたし宛ての表札だった。


「……今度は、何を作ってるんだろ」


「――貞子さん」


麗華が、日傘をぱたんと閉じた。目が、きらりと光っている。


「これは、探偵の出番ですわ」


「探偵?」


「西園寺麗華、九十七年の霊歴で培った観察眼にかけて、突き止めてご覧に入れますわ」


「……この前の『おはぎの正体』検証、全滅だったじゃん」


「あれとこれとは別ですわ!」


――こうして、あたしたちの、二人だけの捜査が始まった。


⭐︎尾行、もとい捜査開始


その日の夜。


「――シーッ。貞子さん、足音」


「幽霊に足音なんてないってば」


あたしと麗華は、桜庭家の縁側の下に、こっそり身を潜めていた。

源蔵じいちゃんの部屋からは、こつ、こつ、と、小さな音が漏れている。

彫刻刀が木を削る音だ。


「……何を彫ってるんだろ」


「覗いてみましょう」


麗華が、障子の隙間からそっと中を覗いた。あたしも、その後ろから顔を突っ込む。


――源蔵じいちゃんは、文机の前に座って、小さな木片に、真剣な顔で刃を入れていた。

眼鏡(生前の癖でかけているだけで、視力とは関係ないらしい)を鼻先までずらして、舌をちょっと出している。


木片には、まだ粗削りだけど、花びらのような曲線が、少しずつ形になっていた。


「……花?」


「……なんの花でしょう」


そのとき、源蔵じいちゃんが、はっと顔を上げた。


「――誰じゃ!」


「「し、失礼しましたぁぁぁ!!」」


あたしたちは、脱兎のごとく縁側から逃げ出した。

逃げ出しながら、あたしはちらっとだけ、部屋の隅の古い長持ち――多分、トメばあちゃんの嫁入り道具――が、少しだけ開いているのに気づいた。


そこから、色あせた布の切れ端が、はみ出していた。


「……麗華、見た? あの長持ち」


「……ひいばあちゃまの、ですわね。……源蔵さんが、何か探していたのかしら」


その夜、源蔵じいちゃんが縁側でうたた寝をしている隙に、あたしと麗華は、こっそりその長持ちに近づいた。


「……見ちゃ、まずくない?」


「――探偵に、遠慮という言葉はございませんわ」


麗華が、そっと蓋を開ける。


中に入っていたのは、彫りかけの木片でも、彫刻刀でもなかった。


古い、小さな紙の束。


黄ばんだ便箋に、丸くて可愛らしい――トメばあちゃんの、若い頃の字だった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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