第九十五話
熱風がカシアンの顔を撫でる。
彼はアストラヴェルの東部地区、その上空を疾走していた。
空は煙に覆われている。
いくつもの建物が屋根の一部を失い、眼下の通りには瓦礫と炎、そしてもう動かなくなった人々の姿が散らばっていた。あちこちから銃撃音が響き、それが、まだ立ち続けている建物の窓を震わせるほどの怪物の咆哮と混ざり合っている。
それでも、カシアンは飛び続けた。
背中の大きな翼が力強く羽ばたき、二本の塔の間に生じた狭い隙間を抜けていく。煙の中を突き抜けた瞬間、白い鎧が一瞬だけ光を弾いた。
右手には、金色の刃を備えた赤と黒のランスが握られている。
眼下では、ディソナンスのトルーパーたちが隊列を組んで前進していた。手にしたライフルの銃口は、バリケードの陰に身を隠すアストラヴェルの兵士たちへと向けられている。
カシアンは高度を下げた。
口元に薄い笑みが浮かぶ。
「……あそこだ」
そのまま身体を傾ける。
左翼をぴたりと畳み、
矢のように一直線に落下した。
トルーパーたちがその存在に気づいたのは、頭上を大きな影が横切った瞬間だった。
「なに――」
ズドンッ!
カシアンが隊列のど真ん中へと叩き込まれる。
両足が石畳を踏み砕き、砂埃と砕けた石片が四方へと弾け飛んだ。
五体のトルーパーがまとめて吹き飛ばされる。
カシアンは舞い上がった砂埃の中で、何事もなかったかのように立っていた。ランスは身体の横に構えられ、その穂先だけが地面を向いている。
一体のトルーパーがライフルを持ち上げた。
バチッ!
エネルギー弾が撃ち出される。
カシアンは、ただ僅かに首を傾けた。
弾丸は顔の数センチ横を通り過ぎる。
そこへ、別のトルーパーが側面から突っ込んできた。
カシアンが身体を捻る。
拳が肩先を掠めていく。
ガキィンッ!
横薙ぎに振るわれたランスがライフルを叩き落とし、その手から武器を弾き飛ばした。
カシアンはそのまま身体を回転させる。
シュッ!
低い軌道を描いた斬撃が、トルーパーを地面へと叩き伏せた。
残る二体が、左右から同時に襲いかかる。
カシアンは身を屈めた。
一撃が頭上を通り過ぎる。
半歩だけ身体をずらす。
すると、もう一方の攻撃が仲間へと直撃した。
二体が体勢を立て直すより早く、カシアンの手の中でランスが回転する。
ズブッ!
一突き。
最も近くにいたトルーパーの胸部を穂先が貫いた。
カシアンはランスを引き抜きざま、その身体をもう一体の仲間へと押し飛ばす。
二体がよろめく。
一回転。
ヒュッ!
水平に薙ぎ払われた一閃が、二体をまとめて沈めた。
最後のトルーパーが至近距離からライフルを構える。
カシアンが振り向く。
銃撃。
身体を横へ滑らせる。
エネルギー弾が胸元を掠めていく。
バキンッ!
ランスがライフルの銃身を叩き、歪ませた。
その動きから一切途切れることなく、カシアンは槍を下から上へと振り抜く。
穂先が最後のトルーパーの胸部を貫いた。
その身体が一瞬だけ宙へ浮き、
そのまま横へと投げ飛ばされる。
静寂。
五体のトルーパーが、通りの上に倒れ伏していた。
その中心に、カシアンは立っている。
余裕すら感じさせるほど、悠然と。
まるで、今の戦いなど準備運動にすぎなかったかのように。
だが――
グオオオオオッ!
地区全体を揺るがす咆哮が轟いた。
通りの先に積み上がった瓦礫が弾け飛ぶ。
一体のシックスレンダーが、その中から姿を現した。
別の路地からは、二体のグレイブマウ。
さらに三体のシックスレンダーが屋根から飛び降り、その一方で、二体のグレイブマウが瓦礫の陰から這い出してくる。
空からは、二体のドレッドウィングが急降下してきた。
怪物たちは、あらゆる方向から迫ってくる。
カシアンは顔を上げた。
「……ふーん」
数は、なおも増えていく。
気づけば、十体もの怪物が彼を取り囲んでいた。
最初に飛びかかったのはシックスレンダーだった。
カシアンが跳ぶ。
両足が地面を離れたのは、ほんの数メートル。
その手の中でランスが回転する。
ザシュッ!
斜めに振り下ろされた一閃が、シックスレンダーの身体を真っ二つに切り裂いた。
カシアンは着地すると同時に、身体を回転させた。
横合いからグレイブマウが迫る。
ズドンッ!
ランスがその顎を打ち抜き、怪物の頭部が勢いよく跳ね上がった。
その勢いを利用し、カシアンは再び跳躍する。
背後から一体のシックスレンダーが飛びかかってきた。
振り向きもせず、ランスを後方へと回す。
ズブッ!
穂先が怪物の頭蓋を貫いた。
カシアンは空中で身体を回転させながら武器を引き抜き、そのままシックスレンダーの身体を前方へ投げ飛ばす。
バキッ!
飛んでいった身体が、突進してきたグレイブマウへと激突した。
二体は瓦礫の間を転がっていく。
だが、カシアンはすでに動いていた。
足が建物の側面に触れる。
それを足場にして、再び勢いよく飛び出した。
ランスが上空から突き下ろされる。
ズブッ!
一体のグレイブマウを貫き、そのまま下へと投げ落とす。
巨体が道路へ叩きつけられ、同時に二体のシックスレンダーを巻き込んだ。
カシアンもその後を追って降下する。
ランスが水平に薙ぎ払われる。
ザシュッ!
一つの首が切り落とされた。
次の回転が、そのまま刺突へと変わる。
もう一体の怪物が崩れ落ちる。
残った怪物たちが再び包囲するより早く、カシアンはすでに位置を変えていた。
一閃。
一突き。
そして、振り返りざまの一回転。
シュッ!
ズブッ!
数秒も経たないうちに、彼を取り囲んでいた怪物たちはすべて瓦礫の間に散らばっていた。
カシアンが地面を踏みしめる。
大きく翼を広げる。
一度、強く羽ばたいた瞬間――
その身体が高く空へと舞い上がった。
しかし、それを迎えたのはすぐさま響き渡る連続射撃だった。
バチッ! バチッ! バチッ!
建物のバルコニーに、数十体ものディソナンスのガンナーが姿を現す。
一斉に武器を構えた。
無数のエネルギー弾が空へと撃ち出される。
カシアンは身体を傾けた。
一発が肩のすぐ脇を通り過ぎる。
そのまま身体を縦に回転させる。
二発の射撃が足元ですれ違った。
さらに三発が追いすがる。
カシアンは急降下し、建物と煙の間を縫うように鋭く方向を変えた。
弾幕が建物の壁面へと突き刺さる。
ドォン!
それでもカシアンは動き続ける。
上昇。
急降下。
旋回。
四方八方から迫る無数の銃撃が、彼を追い続け、周囲の空間すべてをエネルギーの軌跡で埋め尽くしていく。
そして、ついに――
止まった。
両翼を大きく広げる。
その身体が空中に静止する。
ガンナーたちが再び照準を合わせた。
カシアンは短く息を吸う。
そして――
ゴォォォォン!
両翼が激しく羽ばたいた。
巨大な風圧が、その身体を中心に爆発する。
強烈な気流が通り全体を薙ぎ払った。
砂埃も、砕けた石も、建物の瓦礫も、すべてが一斉に宙へと巻き上げられる。
ガンナーたちがバルコニーから吹き飛ばされた。
何体かは壁面へ叩きつけられ、
残りは建物の破片とともに落下していく。
猛烈な風圧が道路を容赦なく打ちつける。
ドォン!
アスファルトと石畳がひび割れ、砕け散った。
カシアンは砂埃の渦中で、なお空中に浮かんでいた。
しかし――
左手側の煙の向こうから、何かが飛び出してきた。
速い。
あまりにも速い。
カシアンは即座に振り向く。
黒い一対の爪が、ほんの一瞬前まで彼の頭があった場所を薙いだ。
身体を傾ける。
ドレッドウィングが、紙一重の距離で彼の横を通り過ぎた。
ランスを振るう余裕はない。
カシアンはただ、柄を回した。
ドゴンッ!
ランスが側面からドレッドウィングの身体を打ち抜いた。
怪物は空中を大きく弾き飛ばされ、そのまま一棟の建物へと激突する。
ガシャァン!
壁面が崩れ落ちた。
カシアンは、立ち込める煙を見つめた。
一秒。
そして、あらゆる方向から翼を羽ばたかせる音が響き始めた。
バサッ! バサッ! バサッ!
一体。
二体。
五体。
十の黒い影が、舞い上がる砂埃の向こうから姿を現す。
ドレッドウィング。
それらは建物の間へと散開し、やがて一斉にカシアンへと狙いを定めた。
カシアンが顔を上げる。
両翼がすぐさま羽ばたいた。
身体が上空へと上昇する。
ドレッドウィングたちも一斉に追いかけてきた。
群れが背後の空を埋め尽くし、煙と飛び交う瓦礫の間を縫うように迫ってくる。
カシアンは飛び続ける。
背後から一つの爪が襲いかかった。
身体を傾ける。
攻撃はそのまま空を切った。
右側から別のドレッドウィングが現れる。
カシアンは急降下し、怪物の爪を頭上へと通り過ぎさせた。
さらに後方から別の個体が迫る。
五体。
十体。
十数体。
カシアンは肩越しに一瞬だけ振り返った。
「……随分と多いな」
そのまま数秒間、飛び続ける。
そして――
両翼を身体へとぴたりと畳む。
身体が百八十度回転した。
飛行方向が、一瞬で反転する。
カシアンは逆に、ドレッドウィングの群れへ向かって一直線に突っ込んでいった。
何体かの怪物が慌てて翼を広げ、回避しようとする。
だが、遅い。
赤黒いランスが持ち上がる。
ザシュッ!
カシアンは二体のドレッドウィングの間をすり抜け、その一閃の軌道で片方の首を薙ぎ払った。
そのまま即座に進行方向を変える。
左翼が強く羽ばたく。
身体が鋭く右へと滑った。
ザシュッ!
二つの首が宙を舞った。
黒い血が鎧に触れるより早く、カシアンは次の隙間を駆け抜ける。
下方から一体のドレッドウィングが迫った。
カシアンは逆に身体を沈める。
ズブッ!
ランスが怪物の顎を貫いた。
そのまま槍を引き抜きながら、速度を落とさず突き進む。
前方から三体のドレッドウィングが同時に迫る。
カシアンはランスを一度だけ回転させる。
ザシュッ!
長い斬撃が三体をまとめて薙ぎ払った。
二体の身体が両断される。
残る一体は片翼を失い、身体を捻りながら落下していった。
カシアンはすでにその横を通り過ぎている。
左からさらに二体のドレッドウィングが襲いかかる。
その二体の間で身体を回転させる。
ズブッ!
ランスが片方の胸部を貫いた。
カシアンはその怪物を進行方向から引き抜くようにして前方へ投げ飛ばす。
バキッ!
飛ばされた身体が、追いかけてきていた別のドレッドウィングへと激突した。
二体はそのまま一緒に落下していく。
一体のドレッドウィングが大きく顎を開く。
その喉の奥で赤い光が灯った。
カシアンがちらりと見る。
エネルギー光線が放たれる。
ヴァァァン!
カシアンは片翼を羽ばたかせた。
身体が横へと滑るように移動する。
攻撃は背後を通り過ぎていった。
その動きのまま、カシアンは身体を回転させる。
ザシュッ!
ランスがドレッドウィングの首を薙ぎ払った。
その身体が瞬時に制御を失う。
さらに二体が背後から迫る。
カシアンは突然停止した。
両翼を畳む。
二体のドレッドウィングが、そのまま彼の横を通り過ぎていく。
カシアンは再び翼を開く。
身体がドレッドウィングたちの間を駆け抜けた。
ランスが高速で回転する。
ザシュッ!
一枚の翼が切断される。
ズブッ!
続く一突きが、二体目の怪物の胸部を貫いた。
カシアンはそのまま急降下する。
眼下では、一体のドレッドウィングが進路を塞ごうとしていた。
カシアンはランスを振り下ろした。
槍の穂先が真っ直ぐ下を向く。
カシアンの身体が、空から投げ落とされた槍そのもののように落下する。
ズブッ!
ランスがドレッドウィングの身体を貫いた。
落下の勢いに引きずられ、怪物の身体が数メートルにわたって引きずられる。そのままカシアンが手を放すと、
ドレッドウィングの身体が自由落下していく。
ドォォォン!
地面へと叩きつけられる。
ランスもまた、地中深くまで突き刺さった。
カシアンはその数十メートル上空で停止する。
そして、眼下へと視線を向けた。
ランスは砂埃の中で、静かに地面へ突き立っている。
だが、次の瞬間――
シュッ!
ランスがひとりでに引き抜かれ、そのまま空へ向かって飛翔する。
カシアンが右手を伸ばす。
柄が再び、その手のひらへと戻ってきた。
一瞬、カシアンは別の交差点へと目を向ける。
東部地区の至るところで、赤い亀裂が道路を切り裂いていた。
その内部から、ディソナンスの軍勢が次々と姿を現している。
トルーパー。
シールドベアラー。
ガンナー。
その数は減るどころか、
むしろ増え続けていた。
瓦礫の間からは、グレイブマウが一体、また一体と這い出してくる。
ボーンハイドが瓦礫を突き破る。
地面の亀裂からシックスレンダーが飛び出す。
そして、再びドレッドウィングが空を埋め尽くしていく。
一つの集団が形成されるより先に、次の集団が現れる。
まるで、この地区には果てなど存在しないかのように。
アストラヴェルの兵士たちは、なおも後退を強いられていた。
その戦列は、ますます追い詰められていく。
絶え間なく降り注ぐエネルギー弾がバリケードを打ち続け、何体ものシールドベアラーが隊形を維持できずにいた。
「そういうことか……」
カシアンは顔を上げる。
両翼が羽ばたく。
身体がさらに高く上昇していく。
もっと高く。
さらに高く。
やがて、眼下の煙と建物さえも視界を遮らなくなった。
その高さから見下ろす東部地区は、まるで混沌の海だった。
通りはディソナンスの軍勢で埋め尽くされている。
怪物たちが瓦礫の間を這い回る。
ドレッドウィングが空を覆う。
そして、あらゆる場所から新たな軍勢が地面の亀裂を通って流れ出し続けている。
カシアンが息を吸う。
右手のランスを高く掲げる。
穂先が空を指す。
「お前たちが、まだ列を増やし続けるというのなら……」
その手が止まる。
頭上の空気が変わった。
一本の赤い線が現れる。
細く。
真っ直ぐに。
クキッ。
幾何学的な亀裂が空中に開く。
そこに透明な平面が形成される。
そして、もう一つ。
五つ。
十。
数十。
赤い平面がカシアンの背後へと広がり、規則正しい幾何学模様を形作っていく。
まるで空そのものが、小さな空間へと切り分けられたかのようだった。
機械ではない。
金属でもない。
ただ赤い亀裂だけが、空中に浮かんでいる。
やがて――それぞれの平面の向こう側から、槍の穂先が現れ始めた。
赤い。
濃く。
硬質な輝きを帯びた槍。
一つ。
十。
数十。
数百。
一瞬にして、カシアンの背後の空が赤い槍で埋め尽くされた。
その列は、地区の遥か上空まで伸びている。
まるで、空に一個の艦隊が展開されたかのようだった。
カシアンは眼下を見下ろす。
ディソナンスの戦列は、なおも前進している。
自分たちの頭上で何が待ち構えているのか、彼らは知らない。
「残念だな」
手の中のランスを一度だけ回す。
そして、それを真っ直ぐ下へ向ける。
「お前たちが生き残れる場所は、もうない」
手を振り下ろす。
ゴォォォォォン!
無数の幾何学平面が、一斉に開いた。
数百本の赤い槍が降り注ぐ。
それは雨ではない。
銃撃でもない。
まるで、空そのものが処刑を下しているかのようだった。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!
最初の槍が空中のドレッドウィングを貫き、そのまま眼下の道路へと突き刺さる。
ボーンハイド、シックスレンダー、グレイブマウも、何が起きたのか理解する暇さえなく次々と貫かれていく。
シールドベアラーたちが盾を掲げる。
一本の槍が、その防御を貫いた。
隊形が崩れる。
その背後にいたトルーパーの戦列を爆発が呑み込んだ。
一瞬にして、地区全体が爆撃場へと変わった。
ドォン! ドォン! ドォン!
一本、また一本と槍が道路を、建物を、怪物を、兵士たちを貫いていく。
再び隊列を組む隙すら与えない。
地面が爆ぜる。
壁が崩れ落ちる。
道路の間を新たな亀裂が走る。
砂埃と煙が立ち上り、地区のほぼ全域を呑み込んでいく。
地下から出てきたばかりの新たな軍勢も、遠くまで移動する暇さえない。
次の槍に撃ち抜かれる。
脅威として広がる前に、切り崩されていく。
爆撃はなおも続いた。
一つ、また一つと幾何学平面が消えていく。
それでも、残った平面からは槍が降り続ける。
そして、ついに――
最後の平面が崩れた。
最後の一本が、地上へと駆け落ちる。
ドォォォン!
その爆発が、通り全体を揺るがした。
静寂。
カシアンは、なおも戦場の上空に一人で浮かんでいた。
最後に残った赤い亀裂の光が、ゆっくりと消えていく。
ランスは、なおもその手に握られていた。
眼下に残されているのは、崩壊した道路、燃え続ける瓦礫、そして戦場を覆い尽くす砂埃の霧だけだった。
カシアンは、そのすべてを見下ろす。
再び、小さな笑みが浮かんだ。
「しばらくは……」
墓場と化した戦場へ、視線を巡らせる。
「……これで安全だな」
。
。
一方、アストラヴェルの別の場所では、別の戦いが繰り広げられていた。
床の半分が失われた建物の壁から、砂埃がぱらぱらと落ちている。
その下にある狭い通りを、ディソナンスの軍勢が瓦礫を掻き分けながら進んでいた。先頭にはトルーパーが並び、ライフルを構えている。その後ろには、淡い光を灯したエネルギーロッドを手にした数体のカスターが続いていた。
その瞬間、何かが彼らの間を駆け抜けた。
一体のトルーパーがライフルを持ち上げる。
「ん――」
銀色の閃光が、その首元を走った。
警告の声が最後まで響くより先に、頭部が切り離される。
隣のトルーパーが振り向く。
だが、遅い。
一本の刃が首を貫いた。
反対側から、もう一本の刃が続く。
シュンッ!
二つの身体が、ほとんど同時に倒れた。
レインはそのまま駆け抜けていく。
白灰色の外套が背後ではためき、両手には銀色の双剣が低く構えられている。その身体が動くたび、煙の中には淡い残像が一瞬だけ残された。
正面からスピアマンが襲いかかる。
レインは身体を傾けた。
槍の穂先が顔のすぐ脇を通り過ぎる。
一歩、踏み込む。
右の刃が槍の柄を叩き、敵の手から弾き飛ばした。
そのままレインは相手の腕の下へと滑り込む。
バキッ!
左の刃がヘルムの後頭部を打ち抜く。
スピアマンが崩れ落ちた。
ドォン!
その直後、エネルギー弾がほんの一瞬前までレインがいた場所を撃ち抜いた。
だが、レインはすでに素早く横へ移動している。
その場に残されたのは、彼の身体の淡い残像だけだった。
次の瞬間には、レインが再び駆け出していた。
離れるのではない。
自らの身体を前方へと一気に加速させ、シールドベアラーと三体のカスターへ向かって突っ込んでいく。
ディソナンスのユニットたちが、かろうじて振り向いた。
目を見開く。
しかし、レインの姿はすでに消えていた。
見えたのは、彼の白灰色の残像がその間を横切っていく光景だけ。
シュンッ!
白い閃光が走る。
銀の刃がシールドベアラーを斬り裂いた。
シュンッ!
再びレインの残像が駆け抜ける。
一体目のカスターの首が斬り裂かれる。
シュンッ!
次の閃光が反対側から現れる。
二体目のカスターが斬られた。
シュンッ!
最後のカスターは、杖を持ち上げることさえできなかった。
レインはすでに停止していた。
最後のカスターの身体を背に、彼は立っている。
銀の刃が、指の間で悠然と回転していた。
静寂。
ほんの一瞬の後――
ビシャッ!
四つの身体が、ほとんど同時に崩れ落ちた。
血が噴き出し、道路の隙間を流れていく。
レインは再び歩き出す。
煙の向こうから、重々しい唸り声が響いた。
グオオオオオッ!
一体のグレイブマウが壁を突き破り、その巨体を道路へと叩きつける。
砂埃が舞い上がる。
怪物はそのまま突進してきた。
レインは退かない。
むしろ、自ら走って迎え撃つ。
グレイブマウの顎が横薙ぎに迫る。
だが、レインはそれを跳び越え、その肩へと足を置いた。
怪物の身体を足場にして跳躍する。
右の刃が首筋を素早く斬りつけた。
だが、浅い。
レインは身体を捻る。
左の刃が同じ箇所を追い打つ。
シュンッ!
グレイブマウの首が切り落とされた。
巨体が道路へと崩れ落ちる。
レインが着地する。
砂埃が収まるより早く、再び大きな影が煙の向こうから飛び出してきた。
二体目のグレイブマウが顎を大きく開く。
レインは、ほんの半歩だけ身体をずらす。
怪物がその横を通り過ぎる。
三度の銀色の閃光が、ほとんど同時に走った。
シュンッ! シュンッ! シュンッ!
グレイブマウが倒れる。
レインは、そのまま歩き続けた。




