第九十三話
空中に浮かぶ者たちの間を、強い風が激しく渦巻いていた。
その下には、アストラヴェルの街が混乱の中に広がっている。いくつもの地区から煙が立ち上り、建物の合間では炎が燃え上がっていた。戦闘の音は、彼らがいるこの高さにまで響いている。
サイラスはしばらく街を見渡した。
「状況が変わりすぎたな」
声は落ち着いていたが、その目はアストラヴェルの各所を絶えず追っていた。
「敵軍は外側から圧力をかけ続けている。一方で、地下からはモンスターが次々と街へ侵入している」
そこで一度言葉を切り、視線を一つの地区から立ち上る煙へ向ける。
「そして今、カオス・タイドがもうすぐアストラヴェルを四方から取り囲む」
サイラスの目が細くなる。
「無秩序に散開すれば、守りの空白が生まれる」
その右手では、レオンがエリスのイージス・シャードの上に立ち、なおも陣形を維持していた。
「レオン、俺と来い」
「了解」
レオンは軽くこめかみに手を当てて敬礼すると、すぐに手を下ろした。
サイラスは続けてエリスへ視線を向ける。
「エリス、生徒たちのことは任せる」
エリスが彼を見る。
「指示は?」
「アストラヴェルで、まだ到達できるすべての地点を埋めてくれ。街のどこにも、防衛の穴を作るな」
街を揺るがし続ける轟音の中でも、サイラスの声ははっきりと響いた。
「市民が危険にさらされているなら、何よりも先に彼らを救え」
エリスはそれ以上何も尋ねず、頷いた。
「了解」
その身体がすぐさま下方へと飛び出し、生徒たちが移送されることになっている集合地点へ向かっていく。
サイラスはエリスの姿が遠ざかるのを見届けてから、残ったメンバーへ再び視線を向けた。
「残りは散開しろ。市民を最優先だ」
「了解!」
返事がほとんど同時に重なった。
次々と、メンバーたちは空中で分かれていく。
東地区へ向かう者もいれば、西や北へ進路を取る者もいた。数秒もしないうちに、一団だった彼らの姿は、街中の異なる地点へ向かって伸びていく幾筋もの光へと変わっていた。
そして今、残ったのはサイラスとレオンだけだった。
レオンが彼を見る。
「俺たちはどこへ行く?」
サイラスはすぐには答えなかった。
視線は、はるか下方の街路へと落ちている。
レオンもその先を追う。
崩壊した街路の一つで、二つの影が激しくぶつかり合っていた。
カエラ。
そして、ラン。
「そっちへ行く」
サイラスの身体が下へ向かって急降下を始める。
レオンもすぐに後を追った。
サイラスはわずかに速度を落とす。
「二人の戦いは、いったん止める必要がある」
レオンが彼を見る。
「なぜ?」
「メイドと話す必要がある。ラインマー指揮官がさっきの人物と一緒にどこへ向かったのか、彼女なら知っているかもしれない」
サイラスは再び、はるか下に広がるアストラヴェルへ目を向ける。
「ラインマー指揮官は街を出た。あの人物と行動を共にしているなら、何か重要なことを知っている可能性がある」
レオンはしばしサイラスの視線の先を追い、それから再び下で戦い続ける二人へ目を戻した。
「つまり、しばらく二人の戦いに割って入れってことか?」
「そうだ」
サイラスは再び、わずかに速度を上げた。
「無理に深追いする必要はない。俺が動ける隙を作ってくれれば、それでいい」
レオンはしばし黙った。
やがて、頷く。
「わかった。任せろ」
二人は速度を上げた。
高度が急速に下がるにつれ、風が身体を強く打ちつける。カエラとランの戦いが次第にはっきりと見えてくる一方、その下ではアストラヴェルの建物や街路が次々と流れていった。
その頃、街の別の場所では、ニアが空を切り裂くように駆けていた。
その背後ではミラが腰を下ろし、体勢を崩さないようにニアの身体の後ろを掴んでいる。
「そこの建物に降ろして」
ミラが前方の建物を指差す。
飛行経路から少し離れた場所に、ヴィクトリアン様式の二階建ての家が立っていた。
「オーケー」
ニアはすぐに進路を変えた。
一度急降下してから鋭く旋回し、二人をその建物へと近づけていく。屋根と同じ高さまで来ると、ニアは再び姿勢を整え、そのまま真っ直ぐに進んだ。
十分に距離が縮まったところで、ミラは手を離した。
「乗せてくれてありがと」
ニアは答えない。
ミラはそのまま飛び降りた。
身体が数メートル落下した直後、両足が屋根をしっかりと捉える。
止まることなく、ニアは再び遠ざかっていき、自分の担当区域を確保するため別の進路へと向かった。
ミラは屋根の上に立っていた。
建物の間を吹き抜ける風がアイボリー色の髪を撫で、頭の両側から伸びる長い髪が後方へと大きくなびいていく。黒いマントの裾も風に煽られ、その下に身につけた戦闘服がわずかに覗いた。
その眼下に広がるアストラヴェルは、もはや以前と同じ街には見えなかった。
街路には瓦礫が散乱し、いくつもの建物が壁や屋根を失っている。未だ燃え続ける建物からは薄い煙が這うように流れ出し、金属がぶつかり合う音や兵士たちの叫び声、モンスターの咆哮が、崩れた建物の間で入り混じっていた。
そんな光景の中で、ミラは気負う様子もなく立っていた。
一対のバーミリオンの瞳が、下で繰り広げられている戦闘を追っていく。
アストラヴェルの兵士たちは未だに街路を守ろうとしていたが、襲い来るモンスターの数は増え続けていた。瓦礫の間からグレイブマウが突進し、その巨大な頭部で兵士たちの防御を叩き崩す。その一方では、シックスレンダーが陣形の間を素早く駆け抜け、何人もの兵士を後退させていた。
ミラはわずかに顎を上げる。
その口元に、小さな笑みが浮かんだ。
そして、手を横へ伸ばす。
掌へレゾナンスの光が集まり、やがて一振りの巨大な武器の輪郭を形作っていく。
カービィ。
ミラの身体とほとんど同じ大きさを持つキャノンが、完全な姿となって目の前に現れた。
黒と白の金属フレームが、砲身の先端に脈動する赤いレゾナンス・コアの光を受けて輝く。ボディに沿って伸びるモジュールレールの間では、装甲パネルに刻まれた細い赤いラインが淡く明滅していた。
その上部には、**白いうさぎの頭部を象った小さなオーナメント**が吊り下げられており、風が吹くたびにゆっくりと揺れている。
ミラはそれを一瞥した。
「It's time, Kirby」
指がグリップを強く握り込む。
キャノンがゆっくりと持ち上がり、ミラの正面へと収まった。
ミラは屋根の上に長く留まらなかった。
カービィを完全に手に取ると、そのまま建物の縁へ歩いていく。
背後から吹きつける風がアイボリー色の髪を大きく舞い上げ、頭部に装着された集音用のイヤー・デバイスの間を何本もの髪が通り抜けていく。赤いアクセントの入った黒いマントが動きに合わせて翻り、ミラはわずかに膝を曲げた。
次の瞬間、ミラは飛び降りた。
身体が建物の縁を越え、そのまま下へ滑り落ちていく。
ブーツが瓦礫の間の街路へと激しく叩きつけられた。
着地した後も、片手には自分の身体とほとんど変わらない大きさのカービィを握ったままだった。
そして、すぐに走り出す。
小柄な身体からは想像できないほど軽快な足取りで、ミラは瓦礫の間を駆け抜けながら、カービィの砲口を前方の戦場へ向けていった。
一人のアストラヴェル兵士が追い詰められていた。
目の前では、グレイブマウが大きく口を開いている。
兵士は盾を持ち上げた。
だが、遅かった。
遠方から赤い光が一直線に飛来する。
――ドォンッ!
グレイブマウの頭部が、噛みつくよりも先に吹き飛んだ。
オレンジ色の電撃が周囲へ弾け、モンスターの身体の破片が飛び散る。そのまま黒い塵へと崩れ、空中へ溶けていった。
「――何だ?」
兵士は、いったい何が起きたのか理解する暇すらなかった。
その直後、街路の別の場所では、一人の兵士が剣を前へ突き出し、横合いから襲いかかってきたシックスレンダーをどうにか食い止めようとしていた。
赤い光が再び閃いた。
シックスレンダーの爪と剣がぶつかった瞬間、その身体へ爆発が直撃する。
胸部から頭部にかけて、魔物の身体が砕け散った。残された電撃が地面を走り、路面を青白く照らす。
少し離れた場所では、グレイブマウの体当たりを受け、一人の兵士が地面へ倒れ込んでいた。
魔物が前脚を持ち上げる。
その影が、兵士の身体全体を覆った。
振り下ろされる、その寸前。
横合いから飛来した赤い光が、グレイブマウの頭部を貫いた。
巨体が空中で静止する。
そして次の瞬間、黒い破片となって四方へ飛び散った。
街路の端では、二人の兵士が後退しながら銃を撃ち続けていた。
シックスレンダーは、その銃撃の雨の隙間を縫うようにして迫ってくる。
その爪が、もう一人の兵士へ届こうとしていた。
その背後に、赤い閃光が走る。
――ドォンッ!
魔物は爆発の中へ消えた。
攻撃を寸前で免れた兵士は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
安堵の息を吐く暇もなかった。
崩れた建物の陰から、別のグレイブマウが飛び出してくる。
大きく口を開く。
再び、赤い光が灯った。
爆発が魔物の身体の前半分を吹き飛ばす。
それは兵士たちから、わずか数メートルしか離れていなかった。
薄い煙が街路一帯に漂う。
五体の魔物。
五発の射撃。
五度の爆発。
そこでようやく、兵士たちは気づいた。
攻撃は、それぞれ別の場所から飛んできたわけではない。
誰かが、こちらへ近づきながら攻撃を続けている。
ミラは走り続けていた。
片手でカービィをわずかに横へ引く。
そして、突然足を止めた。
片方のブーツが瓦礫を押し退けるように滑り、身体を低く沈める。その横には、巨大なキャノンが安定した状態で構えられていた。
砲口の先からは、まだ薄い煙が立ち上っている。
何人もの兵士が、それほど大きな武器の陰に立つ小柄な少女を見つめた。
目が大きく見開かれる。
「ミラお嬢様?」
ミラが顔を上げる。
「あなたが、俺たちを助けてくれたんですか?」
彼女は頷いた。
「うん」
ミラの手の中で、カービィがわずかに回転する。
「ここから先は、私の担当」
視線が兵士たちを越え、その先で未だに魔物がひしめく街路へ向けられる。
「あなたたちは、別の地区にまだ取り残されている市民を探して」
兵士たちは互いに顔を見合わせた。
誰も反論しなかった。
「了解!」
そのうちの一人が、すぐさま仲間へ合図を送る。
「行くぞ! 他の市民を探せ!」
彼らはすぐにその場を離れ、駆け出していった。
ミラは再び前を向く。
瓦礫の間では、十数体のグレイブマウとシックスレンダーがなおも動き回っていた。
短く息を吐く。
「多いな」
右側から一体のシックスレンダーが飛びかかってくる。
ミラは即座に左へ動いた。
魔物の爪が空を切る。
彼女は跳ぶ。
小さな身体が空中で回転し、その間にカービィを下方へ向ける。
直後、赤い閃光がその動きに追従した。
――ドォンッ!
真下にいたシックスレンダーが吹き飛ぶ。
ミラは片膝をついて着地すると、そのまま瓦礫の上を転がり、身体が完全に止まるより先に立ち上がった。
その左右から、二体のグレイブマウが同時に迫る。
ミラは数歩後退する。
その手の中で、カービィが回転する。
左の魔物へ一発。
続けて右へ一発。
二つの赤い爆発が、ほとんど同時に咲いた。
だが、二つの爆発による粉塵が路面へ落ちるより先に、ミラはすでに次の動きへ移っていた。
背後からシックスレンダーが現れる。
ミラは横目で一瞥するだけだった。
身体を低く沈める。
魔物の爪が、頭上わずか数センチのところを通り過ぎた。
その攻撃の下へ滑り込むように潜り抜け、身体を捻る。
そして下方からカービィを跳ね上げる。
――ドォンッ!
至近距離から放たれた赤い光が、シックスレンダーの腹部を撃ち抜いた。
魔物の身体が宙へ弾き飛ばされ、そのまま黒い破片となって砕け散る。
ミラは再び走り出す。
一歩。
二歩。
横転した車を飛び越える。
着地。
そのまま身体を回転させる。
――ドォンッ!
遠くで兵士へ飛びかかろうとしていたグレイブマウが、側面から爆発を受けて吹き飛んだ。
ミラは、その煙が消えるよりも早く、すでに次の場所へと動いている。
前方から次の魔物が現れた。
今度は、避けない。
ミラは身体を低くし、瓦礫で埋め尽くされた道路の上を数メートル滑る。
カービィが持ち上がる。
――ドォンッ!
魔物の頭部が消し飛んだ。
オレンジ色の電撃が、カービィの黒と白の装甲表面を反射しながら走る。
左から、もう一体が現れる。
ミラは身体を傾けた。
撃つ。
右から、もう一体。
身体を翻す。
撃つ。
瓦礫の上から、一体のシックスレンダーが跳びかかってきた。
ミラは一歩後ろへ下がり、カービィを空へ向ける。そして、魔物が落下してくる瞬間に引き金を引いた。
赤い爆発が空中でその身体を真っ二つに引き裂く。
一発の射撃でさえ、ミラが長く足を止めることはなかった。
彼女は動き続ける。
街路の片側から、反対側へ。
瓦礫を駆け上がり、そこから再び道路へ降りる。
攻撃を避けるために跳び上がり、両足が地面へ戻るよりも早く、次の標的へカービィを向ける。
魔物が近づくたび、カービィの砲口はすでに相手を捉えていた。
やがて――
目の前に、それまでよりもはるかに巨大なグレイブマウが現れた。
ミラが足を止める。
魔物が唸る。
大きく顎を開く。
一瞬、ミラはただそこに立っていた。
そして、前へ出る。
一歩。
二歩。
グレイブマウが噛み砕こうと突進してくる。
牙が閉じる、その直前。
ミラはカービィを持ち上げ、その砲口を魔物の口の中へ直接突き込んだ。
グレイブマウの目が見開かれる。
ミラは薄く笑った。
「くたばれ、このクソ野郎」
引き金を引く。
赤い光が魔物の口の中で灯った。
そして、そのまま喉を貫く。
胸部。
腹部。
グレイブマウの全身が、内側から赤い光に満たされていく。
光は次第に強くなり、皮膚の隙間ではオレンジ色の電撃が弾け始めた。
ミラはカービィを引き抜き、後ろへ下がる。
魔物の体内で、光がさらに膨れ上がる。
次の瞬間――
――ドォンッ!
グレイブマウが内側から爆発した。
砂煙と黒い破片の波が、街路一帯を薙ぎ払う。
ミラは、ゆっくりと通り過ぎていく煙の向こうに立っていた。
数秒間、動かない。
呼吸が少しだけ荒くなる。
そして、顔を上げた。
アストラヴェルの空は、いまだ煙と戦闘の光に覆われている。
その視線がはるか上空へと動く。
まるで、混沌とした空のどこかに何かを探すように。
しかし、それ以上そこに留まるよりも早く――
――バキッ!
背後の地面が再び裂けた。
ミラは視線を落とす。
街路を走る亀裂の隙間から、爪が次々と姿を現し始める。
一体。
二体。
五体。
十数体。
新たな群れが地下から這い上がり続けるにつれ、ミラの顔に浮かんでいた薄い笑みが消えていく。
彼女は息を吐いた。
「まだ終わってないの?」
カービィが再び前方へ向けられる。
その砲口の内部へ、赤い光が集まり始めた。
その頃、アストラヴェルの街路からはるか上空――
一筋の黄金の光が建物の間を駆け抜けた。
――ビューンッ!
ニアの背中に装着されたエーテル・プロパルション・パックが高密度のエネルギーを噴き出し、小さな身体の後方へ黄金色の光の軌跡を残す。
その推進力が再び爆発する。
ニアは次の地点へ向かって、さらに遠くへと飛び去っていった。




