第三十六話
ラインマーは無言のまま山道を進み続けていた。
白と黒のロングコートが冷たい風を受けて静かに揺れる。その背後では、吹雪の名残のように氷の結晶片がまだかすかに舞っていた。
歩みは変わらず落ち着いている。
だが、その黒い靴が石畳を踏むたびに、ケイルの目にはなぜか重く映った。
ケイルは先ほどの衝突で亀裂の入った崖壁の残骸の近くに立ったまま、その姿を見つめていた。肩の脇にある岩の隙間からは細かな砂埃がゆっくりと舞い落ちている。それでも視線は、いま隊商へ向かって歩いてくる白髪の男から一度も離れなかった。
(……すごい)
いや。
そんな言葉では軽すぎる気がした。
小さく唾を飲み込む。
先ほどの戦いの光景が、頭の中で何度も繰り返されていた。
わずか数秒で凍りついた肉体。
今こうして立っている場所にまで残っている冷気。
そして、最後のあのアッパーカット――
(……あれはやばいだろ)
思わずそんな声が唇から漏れた。
ほとんど独り言のような小さな呟きだった。
だが、思考はむしろますます暴走していく。
(氷の力か……)
(あれは、ただの魔法って感じじゃない)
詠唱はなかった。
魔法陣もなかった。
お父様はほとんど動きさえしていない。
近づいてくるラインマーを見つめながら、ケイルはわずかに眉をひそめた。
(冷たい)
(静かだ)
(まるで殺すことに慣れきった人みたいに)
なぜだろう。
頭に浮かんだのは、前世で蓮司だった頃、夜明けまでこっそり読んでいたファンタジー漫画のキャラクターだった。
物語の序盤では飄々としているのに、実は歴戦の怪物だった――そんな戦場帰りのベテラン。
主人公陣営の誰よりも危険な存在であることが後になって判明する、あの手のキャラクターだ。
そして今――
そんな人物が、自分の父親の顔をしてこちらへ歩いてきている。
(……意味が分からない)
ケイルの口元がわずかに引きつった。
だが同時に、胸の奥では別の感情がゆっくりと膨らんでいく。
(……一体どんな家族なんだよ)
父親は表情一つ変えずに人を生きたまま凍らせる戦場のベテランだったらしい。
近づいてくるラインマーを見つめる。
そして、その姿が近づけば近づくほど――
感じ方も変わっていった。
軍服を思わせる黒い装いのせいだけではない。
胸元や肩に付いた星型の金属徽章が淡い陽光を反射しているからでもない。
違う。
変わったのは、その空気だった。
先ほど戦場を支配していた冷たい気配が、いまもなおラインマーの身体にまとわりついている。
重い。
静かだ。
まるで目の前にいるのが、家で紅茶を飲みながら本を読んでいる穏やかな父親ではなく、何年も戦火の中を生き抜いてきた人間であるかのようだった。
やがてラインマーはケイルの前で足を止めた。
数秒の沈黙が流れる。
理由も分からないまま、自分が少し緊張していることにケイルは気づいた。
そして何より奇妙だったのは――
今のラインマーの視線がひどく読みづらいことだった。
普段と変わらず穏やかだ。
だが、その灰色の瞳のずっと奥には、とても古く、そして遥か遠い何かが沈んでいるように感じられた。
「……どうした。そんな顔をして」
低い声が静かに響く。
ケイルは我に返ったように小さく肩を震わせた。
「え? あ、いや……その……」
言葉が途中で止まる。
怖がるべきなのか。
驚くべきなのか。
それとも、自分の家族について根本から考え直すべきなのか。
ラインマーは数秒ほどその顔を見つめていた。
やがて大きな手がゆっくりと持ち上がる。
ケイルは反射的に息を呑んだ。
だが、その手は何かをするでもなく――
ぽん、と優しく頭の上に置かれた。
「……本来なら、お前に見せるべきではないものを見せてしまったな、ケイル」
ラインマーの声は相変わらず淡々としていた。
だがケイルは慌てて首を横に振る。
「いや……そんなこと言わないでよ、お父様……」
ほとんど反射的に言葉が出ていた。
ラインマーはわずかに沈黙し、やがて手を引く。
ケイルは数秒のあいだ父親を見つめ続けた。
目の前にいる人物を、まだ完全には理解しきれていない。
正直なところ――
頭の中は、まだひどく混乱していた。
さきほどの光景は、あまりにも現実離れしていて簡単には受け入れられなかった。
だからこそ――
「あれ、すごくかっこよかったよ」
ケイルは自分の首筋を掻きながら、どこか照れくさそうに笑った。
「いや、本当に。お父様、めちゃくちゃかっこよかった」
声には感心と困惑が入り混じっている。
「あの動きもそうだし、氷の力も……それに、あの雰囲気も」
再び視線がラインマーの黒い装いへ向けられる。
その目に宿る色が少し変わった。
「……まるで別の人を見てるみたいだった」
山から吹き下ろす風が二人の間を静かに通り過ぎる。
ケイルは一度だけ頬の内側を噛み、それから続けた。
「それでも、お父様はお父様なんだけど」
小さく笑う。
今度の笑みは先ほどより少し弱かった。
「なのに、なんだろう……さっきのお父様は本当に別人みたいに見えたんだ」
「たくさんの修羅場をくぐり抜けてきた戦争帰りの人みたいで」
そこで言葉を区切る。
そして再び眉を寄せた。
「でも……だからこそ分からないんだ」
視線がラインマーへ戻る。
「お父様なのは間違いないのに、同時に別の人を見てるような気もして」
再び風が吹く。
ラインマーの白髪がわずかに揺れた。
それでもケイルは気づかぬまま言葉を続ける。
「お父様が無事で本当に良かったし、正直に言うと誇らしくも思った」
口元が少しだけ緩んだ。
「だって、あんなにすごいお父様がいるなんてかっこいいじゃないか。僕もお父様みたいな力が欲しいな」
ほんのわずかな間、ラインマーは答えなかった。
ただ静かにケイルの顔を見つめる。
そして――
「……怖くなかったのか?」
その問いは静かだった。
だがケイルはむしろ不思議そうな顔をする。
「怖い?」
小さく首を傾げた。
「何が? お父様があの人たちにしたこと?」
そして首を横に振る。
「全然」
あまりにも自然な返答だったため、ラインマーはわずかに沈黙した。
「だって、先に襲ってきたのは向こうだし。それに僕だって、戦いを見ただけで傷つくような小さな子供じゃないよ」
そう言いながら、自分の手のひらへ目を落とす。
「確かに、僕は何もできなかったけど」
その部分だけ少し声が小さくなった。
(悔しいな)
あれだけのことが起きたのに、自分はただ見ていることしかできなかった。
七歳の身体は、本当に役立たずだ。
「それでも、考えることくらいはできる」
顔を上げる。
しばしの沈黙が落ちた。
やがてラインマーは短く息を吐く。
「……そうか」
目をわずかに細めた。
「お前は時々、妙に大人びた話し方をするな」
その瞬間、ケイルの心臓が一拍止まりかけた。
(やばい)
(まずい)
頭の中で蓮司が反射的に焦る。
(まさか気づかれた?)
(いや、そんなはずない)
(外から見れば普通の七歳児だよな……?)
ケイルは慌てて頭の横を掻きながら笑った。
「あはは……気のせいだと思うよ」
できる限り自然な笑顔を作る。
「僕はいつものお父様の子供だから」
ラインマーはなおも数秒、その顔を見つめていた。
灰色の瞳は穏やかだ。
穏やかすぎて、かえって落ち着かない。
「……だが、年齢以上に早く成長する子供というのは確かにいる」
やがてラインマーはそう言った。
「特によく考える子供はな」
ケイルはすぐさま勢いよく頷く。
「そう、それ! 僕もそういう意味で言ったんだ!」
(助かった……)
あと少しで犯罪者のように尋問される気分になるところだった。
そんなふうに内心で安堵の息を吐いていた、その時――
「今のお前の頭の中には、私に聞きたいことが山ほどあるんじゃないか?」
ケイルの目がぱっと輝いた。
そして勢いよく頷く。
「うん、もちろん!」
ケイルは勢いよく返事をすると、両手を腰に当てて胸を張った。
「前にお父様と約束した通り、ちゃんとたくさん質問を考えておいたんだから!」
そう言いながら、まるで大きな発表会でもしているかのように何もない空間を指差す。
「お父様のことだけじゃないよ。カエラもそうだし、お母様も怪しいし、それにうちの家族全体がなんだか変なんだ!」
考えれば考えるほど、どれもこれも現実味がなかった。
だからこそ、その好奇心はますます抑えられなくなっていた。
ラインマーは一度目を閉じる。
そして小さく息を吐いた。
その表情には少しずつ諦めにも似た色が浮かぶ。
「ずいぶん多いな。分かった……後で馬車の中で説明しよう」
その言葉を聞いた途端、ケイルは満足そうな顔になった。
だが、当の本人が頭の中で質問を整理しているその間も――
ラインマーの視線は密かに変化していた。
静かだ。
しかし、その胸中にはまだ引っ掛かるものが残っている。
ケイルは落ち着きすぎていた。
そして受け入れるのも早すぎた。
恐れていない。
取り乱してもいない。
先ほどのような光景を目の当たりにした後にもかかわらず、年相応の混乱すらほとんど見せていない。
むしろ逆だった。
理解しようとしている。
頭の中で情報を整理し、一つ一つの欠片を繋ぎ合わせようとしている。
まるで全てに説明がつくと信じているかのように。
そしてなぜだろう。
今こうして息子の瞳を見ていると、説明のつかない違和感が少しずつ強くなっていく。
まるでケイルの内側に――
自分ですら読み切れない何かが潜んでいるような。
ラインマーはそれ以上何も言わず、隊商の後方に続く石道を再び歩き始めた。
山風の中に黒い靴音が静かに響く。
その隣を歩くケイルは、ときおりこっそりと隣の高い背中へ視線を向けていた。
そして不思議なことに、それがかえって好奇心を刺激していた。
一方その頃。
馬車の近くで警戒に当たっていたカエラは、隊列の後方から二人が戻ってくるのを見つけると、わずかに姿勢を正した。
琥珀色の瞳がかすかに見開かれる。
「……ラインマー様。若様も」
思わずそんな声が漏れた。
表情そのものは普段と変わらず冷静だ。
だが、戦闘が終わってからというもの、頭の中は一度も静まっていなかった。
特にラインマー本人が戦場へ出たことが大きい。
カエラはすぐに踵を返し、二人の方へ歩き出した。
白黒のメイド服のスカートが風に揺れる。
そしてケイルに怪我がないことを確認した瞬間、胸の奥から安堵が漏れた。
(よかった……)
だが、その歩みは不意に緩む。
視線が今のラインマーの姿を捉えたからだ。
黒い軍服。
冷たい銀髪。
そしてなお身体に残る重い気配。
ほんの一瞬、カエラは言葉を失った。
視線がわずかに下がる。
「……その姿……まさか」
小さな呟きは風に溶けて消えた。
その一方で、ラインマーの隣を歩くケイルは先ほどから好奇心いっぱいの目で父親を見続けていた。
そして見ているうちに――
その姿がゆっくりと変化し始める。
黒い軍服は風に散る霧のように薄れていき、
ロングコートの輪郭も次第に消えていく。
冷たい銀色だった髪は毛先から少しずつ黒へ戻り、灰銀色の瞳も見慣れた深い色へと変わっていった。
ケイルは思わず何度も瞬きをする。
「……へ?」
反射的に少し身を寄せ、横顔を覗き込んだ。
「また変わった……」
ラインマーはちらりと視線を向けるだけだった。
だが、そんな反応でケイルが黙るはずもない。
「じゃあ……お父様って本当は何者なの?」
困惑と好奇心が入り混じった声だった。
「普段は普通の貴族商人みたいなのに……さっきは完全に指揮官だったよね」
小さな顎に手を当てながら真剣に考え込む。
「もしかして、本当に戦争経験のある人だったり……?」
ラインマーの歩調がわずかに緩んだ。
薄い霧が二人の間を流れていく。
そしてしばらくしてから、ラインマーは静かに口を開いた。
「……まあ、そんなところだ」
ケイルは勢いよく振り向いた。
「えっ、本当に!?」
「さっきお前が見たあの服だが」
ラインマーは落ち着いた口調で続ける。
「あれは昔、戦場にいた頃によく着ていたものだ」
声は淡々としていた。
どこか他人事のようですらある。
まるで自分の人生ではなく、誰か別の人間の話をしているかのようだった。
ケイルはぱちりと瞬きをする。
「じゃあ、お父様って本当に軍人だったの?」
「……昔の話だ」
短い返答。
その言葉は数秒ほど宙に残り、その後ラインマーは再び歩き出した。
「だが……あの頃のことは、私自身ですらほとんど覚えていない」
ケイルは眉をひそめる。
「覚えてない?」
ラインマーはわずかに頷いた。
「なぜ私があの力を持っているのかも分からない。ただ……触れてはならない何かがあるような気がする。そして思い出そうとするたびに、全てが霞んでしまう」
視線は真っ直ぐ前へ向けられたままだった。
穏やかだ。
だが、どこまでも遠い。
「今の自分自身についてさえ、曖昧な部分が多い」
ラインマーは何の感情も交えずにそう告げた。
しかし、それがかえってケイルには奇妙に映る。
隣を歩くその男は、自分の人生ではなく、まるで他人の人生について語っているようだった。
ケイルはしばらく黙ったまま歩き続ける。
(めちゃくちゃ謎なんだけど……)
こういうタイプのキャラクターは大抵、戦争を生き抜いた元化け物か、重要人物なのに記憶を失っているかのどちらかだ。
そしてなぜか、その両方とも全く安心できない。
乾いた風が山道を吹き抜ける。
ラインマーのコートの裾が静かに揺れた。
その直後だった。
不意に歩みが鈍る。
ケイルはすぐに顔を上げた。
「……お父様? どうしたの?」
ラインマーの身体がほんのわずかによろめく。
最初は分かりにくかった。
だが次の瞬間、右手が反射的にこめかみへ伸びる。
まるで何かが前触れもなく頭の中へ叩き込まれたかのように。
視界が脈打つ。
青空がゆっくりと回転しているように見えた。
さっきまで聞こえていた風の音も、急に遠ざかっていく。
空白の中へ飲み込まれていくように。
息が詰まった。
世界そのものが傾いたような感覚。
「……っ」
小さく顔を伏せながら視界を立て直そうとする。
しかし眩暈はさらに強くなった。
後頭部から眼窩の奥にかけて、鈍い痛みが突き刺さる。
その異変に気づいたケイルが慌てて近寄った。
「お父様? どうしたの?」
「私は――」
言葉は最後まで続かなかった。
足元が崩れる。
ドンッ。
高い身体が馬車の側面へ激しくぶつかり、木製の扉が大きく震えた。
ケイルは反射的に両手で父の腕を支える。
「えっ――お父様!?」
ラインマーは重い息を吐きながら身体を起こそうとした。
だが無理やり一歩踏み出した瞬間、
視界が再び大きく揺れる。
身体がぐらりと傾いた。
ガンッ――!
今度の衝撃はさらに大きかった。
馬車そのものがわずかに横へずれる。
そして次の瞬間、
ラインマーの身体は馬車の車輪近くの乾いた地面へ横倒しに倒れ込んだ。
重い音が響く。
それを見たケイルの表情が一変した。
「……まずい」
「お父様……? おい、聞こえる? 冗談だろ」
返事はない。
ケイルの目がわずかに見開かれる。
すぐにその場へ膝をつき、肩を揺すった。
必死に落ち着こうとしているが、声は少しずつ震え始めている。
呼吸はある。
だが目は閉じられたまま。
身体もまったく反応しない。
先ほどまで冷静だったケイルの顔に、初めてはっきりとした焦りが浮かんだ。
「待って――お父様!?」
その時。
馬車の側面の扉が開いた。
御者席に残っていた老御者が素早く飛び降りてくる。
顔にはまだ緊張が残っていたが、少なくともケイルほど取り乱してはいなかった。
「後ろで何があった!?」
だが地面に倒れたラインマーの姿を見た瞬間、その表情が険しく変わる。
「……旦那様!?」
ケイルは慌てて振り返った。
「急に頭を押さえて、そのまま倒れたんだ!」
老御者はすぐに膝をつき、ラインマーの状態を確認する。
肩を支えながら身体を起こし、呼びかけた。
「ラインマー様、聞こえますか?」
「ラインマー様?」
返事はない。
老御者の表情がわずかに強張った。
「……これは良くありませんね……」
その頃、隊商の脇から駆けつけたカエラも、馬車の近くに倒れているラインマーの姿を見た瞬間、その場で硬直した。
「ラインマー様!?」
思わず足をもつれさせそうになりながらも、すぐに反対側へ回り込み、その傍らに膝をつく。
山風に煽られ、金茶色の髪が乱れた。
「何があったんですか……?」
ケイルは小さく唇を噛む。
「さっき急にふらついて……」
周囲の声が、少しずつ遠ざかっていく。
半ば開いたラインマーの視界はゆっくりと霞み始め、
ケイルも、
カエラも、
老御者も、
まるで水の向こう側にいる影のようにぼやけて見えた。
口は動いている。
何かを話している。
だが耳に届く音は途切れ途切れで、
もはや意味を結ばない。
「……ひとまず中へ……」
「……状態が良くない……」
「……お父様、聞こえる……?」
「……旦那様、意識を……」
全てが混ざり合い、
遠ざかる残響となって意識の彼方へ消えていく。
身体が重い。
冷たい。
視界を覆う闇は次第に濃くなり、
やがて太陽の光さえ完全に飲み込んだ。
そして――
意識は音のない黒い虚無へと沈んでいった。
静寂。
空虚。
光はない。
方向もない。
あるのは、
果ての見えない冷たい闇だけ。
――その時だった。
虚無の奥から、
かすかな声が聞こえ始める。
女の声。
だがそれは人間のものとは思えなかった。
息は長く、
掠れ、
あまりにも長い時間を凍てつく暗闇の中で閉じ込められていた何かのようだった。
あぁぁ……
ひび割れた笑い声が遠くから響く。
そう……ついに今日という日が訪れ始めたのね……
ラインマーを包む闇が脈打つ。
まるで、その内側で何かが蠢いているかのように。
この牢獄も……永遠に私を閉じ込めておくことはできない……
声が少しずつ近づいてくる。
周囲の冷気が意識そのものへ突き刺さるほど鋭くなっていく。
……もうすぐ……
荒い吐息を伴う囁きが、
耳元すれすれで響いた。
混沌が訪れる……
小さな笑い声。
ひび割れ、
途切れ途切れの笑い。
だが、それゆえに余計におぞましい。
そして、その時が来れば……
混沌の波は歌い始める……
女の声がゆっくりと低く沈む。
ハハハ……
ハハハハハ――
そして最後に、
呪いのような一言が闇の中へ落とされた。
……お前の家族は滅びる。
狂気じみた笑い声が暗黒の世界にいつまでも反響し続ける。
やがてそれすらも少しずつ薄れていき――
あとに残ったのは、
先ほどまでよりもなお冷たく、
なお深い、
沈黙だけだった。




