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第三話

※少しだけお知らせです。


この作品はスローペース寄りの物語になっています。

大きな転機(転生を含む)が訪れるまでには少し時間がかかりますが、序盤の展開はすべてそこへ繋がっています。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

歓声は、まだ完全には収まっていなかった。


会場のあちこちでは、今なお『NONAME』の名が響いている。

それも徐々に、再び音量を上げ始めたBGMの中へと溶け込んでいった。


ステージの照明が、もう一度ゆっくりと落ちる。


先ほどまで左側を照らしていたスポットライトは、そのまま静かに移動し――今度は右側の通路へ向け

られた。


だが今回は――


先ほどのような熱狂はない。


代わりに広がっていたのは、どこか異質なざわめきだった。


「そして今――」


実況の声が再び響く。

その口調は相変わらず熱を帯びていたが、先ほどとは違う鋭さが混じっていた。


「今回、決勝の舞台で彼らと相対するのは……誰も予想しなかった形で、ここまで勝ち上がってきたチーム!」


客席のあちこちで囁き声が漏れる。


小さく笑う者もいた。


露骨に顔をしかめる者もいる。


「当初は軽視され、見向きもされず……優勝候補の予想にすら入っていなかったチームが!」


スポットライトが暗い通路を貫いた。


コツ……コツ……


足音が響く。


ゆっくりと。


一定のリズムで。


五つの影が、闇の奥から姿を現した。


「数々の壁を打ち破り、ついにこの場所へ辿り着いた――グランドファイナル進出チーム!!」


照明が一斉に灯る。


「――THE RED DEVIL!!」


観客の反応は、真っ二つに割れた。


「うおおおおっ!!」


歓声は確かにあった。

だが、先ほどとは比べものにならない。


「チッ……なんだよ、あいつら」


最前列からそんな声がはっきり聞こえてくる。


「どこのチームだよ」


「急に出てきて決勝とか意味わかんねぇ」


「どうせ運が良かっただけだろ」


その囁きは、隠そうとすらされていなかった。


むしろ、好き放題に流されている。


The Red Devilのメンバーたちは、そんな空気にも構わずゆっくりと歩みを進める。


彼らのジャケットは深い赤を基調とし、肩から腰へ黒いラインが斜めに走っていた。

胸元には、湾曲した角を持つ悪魔の頭部――チームロゴが大きく刻まれている。


だが、先ほどのチームとは違った。


手を振る者はいない。


笑みを浮かべる者もいない。


その表情は――


無表情。


いや、正確には。


冷たい。


先頭を歩く男が、わずかに顎を上げる。


その目は観客席をなぞっていたが、誰か個人を見ているわけではない。


ふっと、口元がわずかに吊り上がった。


小さな笑み。


だがそれは、喜びから浮かぶものではなかった。


どちらかと言えば――見下すような笑み。


「ご覧ください……」


実況の声が再び響く。

今度はやや抑え気味で、会場の空気を中立に保とうとしているようだった。


「予測不能なプレイスタイル……そして数々の強豪チームを沈めてきた戦略性。その実力は本物です!」


ステージ右側の巨大スクリーンが点灯する。


赤黒い光を纏った『The Red Devil』のロゴが映し出され、その周囲では淡い炎のようなエフェクトが揺

らめいていた。


続いて、メンバー名が順番に表示される。


HELLION

RAVAGER

BLOODLUST

VEX

MALICE


だが


大きな歓声は起こらない。


先ほどのように名前を叫ぶ者もいなかった。


返ってくるのは、どこか気の抜けた反応ばかり。


あるいは――無関心。


彼らはそのまま、ステージ中央へ向かって歩き続ける。


足音が一定のリズムで床を打つ。


静かに。


だが迷いなく。


まるで、周囲の反応など最初から存在していないかのように。


その一方で――


ステージ反対側にいた鈴木が、小さく舌打ちした。


「チッ……ずいぶん気取ってんな」


低い声だったが、蓮司にははっきり聞こえていた。


佐々木はわずかに俯き、眉をひそめる。


「なんか変だな……」


小さく漏らした声には、戸惑いが滲んでいた。


「空気、急におかしくなってないか?」


平田はまだ笑みを浮かべていたが、その表情は先ほどほど明るくない。


「んー……なんか普通に怖いかも、あの人たち」


アキラは何も言わなかった。


ただ真っ直ぐ前を見つめている。


黙ったまま。


観察するように。


そして――


蓮司もまた、無言で彼らを見つめていた。


わずかに目を細める。


何かがおかしい。


歩き方じゃない。


表情でもない。


ただ――


理由のない違和感だけが、胸の奥に静かに広がっていた。


まるで。


本来ここに存在してはいけない何かを、見てしまったような感覚だった。


何かが――不快だった。


The Red Devilのリーダー格と思しき男が、歩きながらふいに横へ視線を向ける。


視線が――


交わった。


ほんの一瞬。


だが、それだけで十分だった。


あの薄い笑みが、再び浮かぶ。


今度は先ほどよりもはっきりと。


そして、さらに――嫌悪感を煽るように。


蓮司は何も返さない。


ただ、その指先だけが――


無意識に、わずかに力を帯びていた。


やがて両チームは、それぞれの位置で足を止める。


左。


そして右。


距離自体はそれほど離れていない。


それなのに――


まるで深い断絶でも横たわっているかのようだった。


ステージの照明が再び最大まで明るくなる。


BGMが一段階熱を増し、実況の声が会場中へ響き渡った。


「二つのチーム! 二つの運命! そして、この舞台に立てる勝者はただ一つ――ッ!!」


歓声が再び巻き起こる。


だが今度は、単なる熱狂だけではなかった。


その中には、別の感情が混じり始めている。


緊張。


そして誰一人として気づかぬまま――


何かが、静かに動き出していた。


本来なら、起こるはずのなかった何かが。


――始まる。


歓声がなおも響く中、両チームはそれぞれの席へと向かっていく。


ステージの照明がゆっくりと落ち、向かい合う二つのエリアだけをスポットライトが照らし出した。


左側。


そして右側。


そこに並んでいたのは、ただの椅子ではない。


頑丈なフレームを持つ専用チェアが整然と並び、長めの背もたれはわずかに後方へ傾斜している。

一見するとリクライニングチェアのようにも見えるが、その構造は遥かに複雑で、背面やアーム部分に

は細かなケーブルやセンサーモジュールが埋め込まれていた。


上部には、黒いバイザー付きのVRヘルメットが静かに吊り下げられている。


そのまま、ステージ下部のメインシステムへ直結されていた。


小さなインジケーターランプが、淡く点滅している。


静かに。


まるで――装着される瞬間を待っているかのように。


「さぁ観客の皆さん!」


実況の声が再び響く。

今度は落ち着いた口調ながらも、期待感を隠しきれていなかった。


「両チーム、スタンバイポジションへ到着しました!」


蓮司は、自分のチェアへ歩み寄る。


ほんの一瞬、その姿を見つめた。


冷たい金属フレーム。

黒いクッション。

滑らかな表面の奥に隠されたセンサー群。


どれも見慣れたものだ。


それなのに――


今日はなぜか、少しだけ違って見えた。


隣では、鈴木が気楽そうに身体を椅子へ放り出す。


「はぁ~……やっと座れた」


首を軽く鳴らしながら、だるそうに息を吐いた。


チェアが自動で反応し、背もたれがゆっくりと角度を変えていく。


佐々木はそれより慎重だった。


まだ肩に力が入ったまま、椅子の端を軽く握る。


それからようやく、小さく息を吐いて身体を預けた。


平田は背もたれを軽く叩いてから身体を倒し込む。


表情はいつも通り軽い。

だが、その目の奥にある緊張までは隠し切れていなかった。


アキラは――


すでに準備を終えていた。


落ち着いたまま背もたれに身体を預け、迷いなくVRヘルメットへ手を伸ばしている。


蓮司も、ゆっくりと腰を下ろした。


シートが背中へぴたりと沿う。


そのまま角度が調整され、身体が少しずつ後方へ倒れていく。


視界の先に、ステージの天井が広がった。


眩しい照明。


巨大スクリーン。


そして、数え切れないほどの観客たち。


そのすべてが、少しずつ遠ざかっていく。


「参加者は準備してください」


システム音声がスピーカーから流れる。


平坦で。


感情の欠片もない声だった。


蓮司は手を上げる。


指先が、頭上に吊るされたVRヘルメットへ触れた。


冷たい。


滑らかだ。


軽いはずなのに――持ち上げた瞬間、妙に重く感じた。


対面側では、The Red Devilのメンバーたちはすでにデバイスを装着していた。


その動きは揃いすぎるほど揃っている。


速く。


迷いがない。


「うおおおおおおおッ!!」


観客の歓声が、再び爆発する。


「まもなく試合開始ィィッ!!」


チェア横のインジケーターランプが色を変えた。


青から――赤へ。


「全参加者、デバイスを装着してください!!」


鈴木は迷いなくヘルメットを掴み、そのまま勢いよく被る。


「っしゃ。さっさと終わらせるぞ」


佐々木は深く息を吸い込み、それから静かにバイザーで顔を覆った。


平田も小さく笑みを浮かべたまま、デバイスを装着する。


アキラは――


すでに接続を完了していた。


無言で。


一切の無駄なく。


蓮司だけが、まだヘルメットを手に持ったまま動かなかった。


そして、ふと横目で相手側を見る。


だが視界に映ったのは、すでにチェアへ身を預けたまま静止しているThe Red Devilのメンバーたちだけだった。


顔は黒いバイザーに隠れている。


表情は見えない。


気配もない。


ただ――静かだった。


「……はぁ」


短い息が漏れる。


無意識のうちに。


蓮司はゆっくりとヘルメットを装着した。


その瞬間、外の世界が一気に遠ざかる。


観客の歓声は歪んだ残響へ変わり、ステージの光も音も、すべてが急速に沈んでいく。


代わりに広がったのは――


底の見えない闇だった。


「同期を開始します」


機械音声が響く。


近い。


近すぎる。


まるで、自分の頭の内側から直接聞こえてくるような感覚だった。


身体が軽い。


いや――


そもそも身体の感覚自体が曖昧になっていく。


「全システム――オンライン」


静寂。


ほんの一瞬。


だが、その数秒が妙に長く感じられた。


そして、すべてが切り替わる直前――


蓮司の脳裏に、ふいに何かが引っかかった。


かすかな違和感。


だが、それだけで眉がわずかに寄る。


説明できない感覚。


何かが――


おかしい。


.


.


闇。


押し潰されるような静寂の中で、世界そのものが感覚から切り離されていく。


その中に、一筋の光が走った。


細く。


空間に入った亀裂のように、ゆっくりと広がっていく。


「マップセレクション――開始」


無機質なシステム音声が響く。


冷たく。


感情の欠片もない声だった。


その頃――


数千人の観客で埋め尽くされたアリーナでは。


ステージ上空に吊るされた二つの巨大スクリーンが、同時に点灯する。


カメラ映像が即座にメインモニターへ切り替わった。


表示されたのは、デジタル式のマップ選択インターフェース。


巨大な円形フレームの内部で、複数のパネルがゆっくりと回転している。


そこには様々なロケーション映像が映し出されていた。


「おおおおおおおおおッ!!」


観客席から歓声が巻き起こる。


「来たァァァッ!!」


実況が興奮気味に叫んだ。


「ランダムマップ選択システム、起動です!!」


パネルの回転速度が徐々に上がっていく。


映像が次々と切り替わった。


砂に埋もれた古代都市が広がる広大な砂漠。


巨大樹と根に侵食された緑の遺跡地帯。


夕焼け空に浮かぶ、崩壊寸前の空中群島。


ネオンが明滅する地下工業区画。


雨と光が滲む夜のメトロポリス。


「『Fractured Control』では、ダイナミックマップシステムを採用しています!」


実況の声が続く。


「試合ごとに戦場がランダムで決定されるため、両チームには即時の適応力が求められる!!」


回転はさらに加速する。


映像はもはや判別できない。


色と光だけが高速で流れ続けていた。


「予測不能! 事前対策も不可能!!」


時間が過ぎる。


数秒。


あるいは、それ以上。


やがて回転が少しずつ減速し始めた。


砂漠。


遺跡。


空中都市。


再び砂漠――


そして。


カチッ。


回転が止まる。


スクリーンが静止した。


映し出されたのは――


広大な砂漠の中心に築かれた巨大都市。


くすんだ黄金色の石造建築群は半ば砂に埋もれ、風化した巨大な柱と古代の彫刻が街中に残されている。


遥か彼方には、巨大なピラミッドがそびえ立っていた。


幾つもの亀裂を走らせながら。


まるで、長い時の中で忘れ去られた“何か”を、その奥に封じ込めているかのように。


巨大な文字が、スクリーン中央へ浮かび上がる。


――SOLARA DUNES――


「おおおおおおおおおおおッ!!」


観客席が大きく揺れた。


実況もすぐさま熱を込めて叫ぶ。


「第一マップ――『SOLARA DUNES』!! 狭い通路、開けた遺跡地帯、そして危険な高所エリアが入り組んだ古代砂漠都市です!!」


そこで一拍置き、声色がわずかに鋭さを帯びる。


「このマップは中~近距離戦に特化した構造! 高速ローテーション、鋭いフランク、そしてエリアコントロールが勝敗を大きく左右します!!」


観客の熱気に呼応するように、アリーナの照明が激しく点滅する。


「そして本日――The Rising StarはATTACKERスタート!!」


「うおおおおおおッ!!」


「対するThe Red DevilはDEFENDERとして迎え撃つゥゥゥ!!」


その内側で――


世界が再び書き換わる。


空虚だった闇に、ゆっくりと亀裂が走った。


まるで、内側からガラスが砕けるように。


足元から青い光が溢れ出す。


無数の発光粒子が空間へ舞い上がり、集まり、回転しながら高速で光のラインを描いていく。


地面。


空気。


空間そのもの。


そのすべてが、データによって構築されていた。


そして――


その中心から、人影が形作られていく。


足元から。


青い光が靴の輪郭を描き出し、そのまま上へと伸びていく。


脚。


ジャケット。


身体。


現実そのものを直接再構築しているかのように、一つずつパーツが生成されていった。


その中心に、蓮司が立っている。


ゆっくりと目を開く。


蒼い瞳。


鋭く研ぎ澄まされた視線。


純白のレザージャケットが彼の身体を包み込み、その下では黒を基調としたインナーの模様がわずかに覗いていた。


両手には黒いグローブ。


その指先では、二本のダガーが静かに回転している。


音もなく。


まるで最初から身体の一部だったかのように。


白髪が、乾いた砂漠の風に揺れる。


細かな砂塵が周囲を舞った。


その背後では――


他の四人も次々と姿を形成していく。


鈴木は大柄で頑丈な体格のまま現れ、重厚なアーマーと巨大なシールドを装備していた。

肩を回すたび、重い呼吸が漏れる。


「うわっ……いきなり暑っつ……」


ぼやきながら首元を軽く引っ張る。


アキラは静かに直立していた。


近未来的なデザインの軽量アーマーが淡く光を反射し、その手に握られた武器はすでに安定した射撃姿勢へ入っている。


視線は真っ直ぐ。


冷静に周囲を測っていた。


佐々木の背中には大量の爆薬が詰め込まれたバッグ。


腰には複数のグレネードが吊るされ、片手にはすでに拳銃が握られている。


人差し指が小さく動く。


リズムでも確かめるように。


そして最後に形成されたのは――平田だった。


青い光が消え、その姿が完全に露わになる。


他のメンバーよりも軽装。


柔軟性を重視したスーツの両腕には、薄いエネルギー層が脈打つように走っていた。


制御された電流のような光。


その手元では、小型モジュール状のデバイスが宙に浮かび、空中へ幾何学的な光のラインを投影している。


「よーし……まずは一本目か」


目を輝かせながら周囲を見回した。


役割は明白。


コントローラー兼サポートフィールド操作担当。


蓮司は一歩前へ出る。


ザッ――


足元の砂が滑った。


乾いた熱風が頬を撫でていく。


その先には、Solara Dunesの街並みが広がっていた。


石造建築の隙間を走る細い通路。


狙撃地点となり得る高い柱群。


瓦礫の奥に落ちる濃い影。


そして、身を晒せば一瞬で撃ち抜かれかねない危険な開放地帯。


すべてが、本物のようだった。


いや――


本物以上に現実味を帯びている。


「第一ラウンド開始まで……十秒」


システム音声が響く。


冷たく。


無機質なまま。


蓮司はダガーを一度だけ回転させ――


そのまま握り込んだ。


目つきが変わる。


「行くぞ」


背後では、仲間たちが即座に散開を始めていた。


再び砂風が吹き抜ける。


そして、その束の間の静寂の裏側で――


目には見えない“何か”が、静かに動き始めていた。

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