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第二十話

両開きの扉がゆっくりと開く。


蝶番がかすかな音を立てたが、それはアステリアの軽やかな足音に紛れ、ほとんど聞き取れないほどだった。


そして彼女は肩を使って慎重に扉を閉める。室内の静けさを乱さないよう、最後まで細心の注意を払って。


扉がぴたりと閉まった瞬間、アステリアは顔を上げた。


その瞳はきらきらと輝き、抑えきれない笑みがそのまま浮かんでいる。


まるで、自分の胸に収まりきらないほどの喜びを抱えながら、何よりも大切な宝物を連れ出すことに成功したかのようだった。


「ケイル様……ちょっとだけお散歩しましょうね……えへへ……」


小さく囁く声は、二人だけの秘密を分け合うように柔らかい。


そう言いながら腕の位置を整え、抱いている小さな身体を少しだけ引き寄せる。もちろん、傷つけないように細心の注意を払いながら。


アステリアは歩き出した。


まず右足が前へ出る。


軽く、ほとんど音も立てずに。


だが次の一歩を踏み出そうと左足を持ち上げた、その瞬間――


動きが止まった。


不意に何かに驚かされたように、身体がぴたりと固まる。


廊下の先に、エアリンが立っていた。


いつも通り背筋を伸ばし、静かで揺るぎない姿勢のまま。


その視線はまずアステリアの腕の中にいる小さな姿へ向けられ、それからゆっくりと持ち上がり、妹の顔をまっすぐ捉える。


そして残念なことに、今のアステリアはあまりにも分かりやすかった。


「アステリア」


エアリンが静かに呼びかける。


わずかに眉を上げながら、


「ケイル様をどちらへお連れするつもりですか?」


アステリアは一度瞬きをすると、待っていましたと言わんばかりに笑顔をさらに大きくした。


少し身を乗り出しながら答える。


「ちょっと外に行くだけです」


声は弾んでいた。


「前庭とか……それか少し村のほうにも。今日は夕方の空気がすごく気持ちいいんです」


無意識の癖のように腕が動き、抱いている蓮司の位置を整える。


それから再びエアリンを見上げた。


「ちゃんと許可ももらってますよ」


今度は少し念を押すように続ける。


「マリアーネ様から許可をいただきました」


エアリンはすぐには答えなかった。


静かな視線のまま、いつもより少し長く妹を見つめる。


口に出す必要もない何かを確かめるように。


やがて小さく息を吐いた。


「……そうですか」


ぽつりと呟く。


その視線は再び赤ん坊へ落ちた。


抱き方。


小さな頭を支える手。


歩幅。


一つひとつを確認するように見ている。


「それで、村の外にも連れて行くつもりなんですね?」


声色は相変わらず穏やかだった。


だがその奥に、わずかな鋭さが混じる。


アステリアは迷いなく頷いた。


「はい。ほんの少しだけです」


気軽な調子で答える。


「みんなだってケイル様を見たら喜ぶでしょう? それに、そんなに遠くまでは行きませんから」


エアリンは静かに息を吐いた。


反対しているわけではない。


ただ、この話がどう転ぶかは最初から予想できていた。


「あなたが連れて行くとなると」


再び視線を上げる。


「その『そんなに遠くない』が、そうでなくなるほうを心配しています」


アステリアはすぐに唇を尖らせた。


「お姉さま……」


不満げな声を漏らす。


肩も少しだけ持ち上がった。


怒っているというより、自分が軽く見られたことへの納得のいかなさが滲んでいる。


しかも腕の力はわずかに強まり、まるで自分がちゃんと大事に抱いていることを証明しようとしているかのようだった。


「ちゃんと気をつけますよ」


少しだけ声の調子を落としながらも、自信は失っていない。


「ケイル様は人形じゃないんですから」


エアリンは数秒ほど黙っていた。


すぐには返さない。


少し強張った眉。


わずかに早くなった呼吸。


妹の表情の変化を静かに見ていた。


「……だからこそです」


やがてそう答える。


声は変わらず穏やかだった。


「あなたは張り切りすぎている」


アステリアは言葉を失った。


頬が少しだけ膨らむ。


視線を逸らしたかと思うと、またエアリンへ戻す。


納得していない顔だ。


けれど完全には否定できないらしい。


「……ただ嬉しいだけです」


小さく呟く。


さっきより少しだけ勢いの落ちた声。


それでも口元には笑みが残っていた。


「こういう機会、なかなかありませんから」


短い沈黙が流れる。


エアリンはそんな妹を見つめ、それから再び腕の中の赤ん坊へ目を向けた。


ゆっくりと息を吐く。


まるで、ほとんど決まりかけている答えを最後に確認するように。


「……私も一緒に行きましょうか」


その言葉に、アステリアはぱちりと瞬きをした。


「えっ?」


「私も行きます」


今度ははっきりと言う。


肩の力も少し抜けていた。


「見守るためです。そのほうが安心でしょう」


一歩だけ近づく。


もう一度、蓮司の様子を確認するために。


手がわずかに伸びかけたが、途中で止まった。


触れることは選ばない。


「外へ連れて行くなら、せめて一人では行かないでください」


アステリアはしばらく姉を見つめていた。


先ほどまでの不満は少しずつほどけていく。


代わりに、もっと柔らかなものが胸に広がっていた。


瞳が再び輝き始める。


今度はさっきほど勢い任せではなく、どこか落ち着いた光だった。


「……分かりました」


そう言うと、笑顔がふわりと広がる。


「じゃあ、一緒にお散歩しましょう」


声にも再び活気が戻る。


少し持て余していた高揚感が、今度は落ち着いた形で表に出てきた。


「お姉さまがいてくれるなら、私も安心です」


飾り気のない、素直な言葉だった。


エアリンはすぐには返事をしない。


けれど、その口元がほんのわずかに緩む。


気づかない者もいるほどの小さな変化だった。


やがて彼女は視線を廊下の先へ向ける。


「でしたら、あまり長居はしないように」


静かな声でそう言った。


アステリアは勢いよく頷いた。


「はいっ!」


再び歩き出す。


今度は一人ではない。


隣にはエアリンがいた。


半歩ほど後ろを保ちながら、落ち着いた歩調で寄り添うように歩いている。


近すぎず、遠すぎず。


妹を見守るには十分で、それでいて行動を妨げることもない絶妙な距離だった。


言葉はほとんど交わさないまま、二人は廊下を進み、階段を下りていく。


歩調は自然と揃っていた。


その腕に抱かれた小さな身体を連れ、正面玄関へと向かう。


その先では、午後の光が静かに待っていた。


やがて二人は玄関の前で足を止める。


エアリンが半歩前へ出た。


迷いなく手を伸ばし、大きな扉をゆっくりと押し開く。


重厚な扉は静かに動き、その隙間からまず光が流れ込んできた。


暖かく、深みのある光。


窓越しに差し込んでいた柔らかな明るさとはまるで違う。


アステリアは待ちきれない様子で一歩を踏み出した。


慎重に。


その隣をエアリンが続く。


背後では扉が静かに閉じていき、家の中の世界はゆっくりと遠ざかっていった。


そして――


二人が完全に敷居を越えた瞬間。


空気が変わる。


夕暮れの風が丘の方から穏やかに吹き下ろし、頬や髪を優しく撫でていく。


運ばれてくるのは、陽だまりを残した土の匂い。


日差しを浴びた草の香り。


そして自由気ままに咲く野花たちの淡い芳香。


どれも自然のままなのに、不思議と生命の息吹に満ちていた。


空はもう朝のような明るさではない。


深い青の上に金色の光が重なり、その色彩はゆっくりと穏やかな橙へと移り変わっている。


まるで太陽がわざと歩みを緩め、この世界に最後の温もりを味わわせているかのようだった。


遠くには広大な畑が広がっている。


土地の起伏に沿って続くその景色を、夕陽が柔らかく照らしていた。


風が吹くたび、作物の表面に色の波が生まれる。


まるで緑の海が静かに呼吸しているようだった。


土の道には何人かの人影も見える。


足取りは穏やかで、交わされる会話にも気負いはない。


時折聞こえる小さな笑い声が風に乗り、かすかにこちらまで届いてくる。


庭先では小さな花々が揺れていた。


夕陽を受けた花弁は昼間よりも深く、暖かな色を帯びている。


まるで一日の終わりを惜しむように、ほんの少しだけ長く咲いていた。


すべてが静かだった。


何もない空虚な静寂ではない。


満たされた穏やかさ。


そんな世界の中で――


蓮司は黙っていた。


小さな瞳が、今までよりも大きく開かれている。


この世界で意識を取り戻して以来、初めて見る景色だった。


光。


空。


広がり。


狭い部屋の天井とは比べものにならないほど鮮やかで、生き生きとしている。


(……これが……)


思考が一瞬止まる。


疲れたからではない。


あまりにも多くの情報が、一度に押し寄せてきたからだ。


(……外の世界……?)


風が初めて肌に触れた。


柔らかい。


ほとんど気にならないほど微かな感触なのに、その小さな身体は無意識に反応していた。


呼吸がわずかに変わる。


まるで身体そのものが、この新しい感覚を理解しようとしているかのように。


(……ありえない……)


視線がゆっくりと動く。


空の輪郭を追い、


畑へと下り、


さらに遠くを歩く人々の姿へ。


そのすべてが説明し難いほど現実だった。


(……想像していたのと、全然違う……)


画面ではない。


想像でもない。


そして当然、自分の思い通りになるものでもない。


アステリアは少しだけ顔を下げた。


腕の中の小さな顔を覗き込む。


その変化に気づいた瞬間、瞳がふわりと和らいだ。


さっきまでよりも大きく開いた瞼。


もう空虚ではない視線。


目の前の景色を確かに映している瞳。


「えへへ……」


思わず笑みがこぼれる。


込み上げる嬉しさを抑えきれず、肩が少しだけ上下した。


「ほら、ケイル様……綺麗でしょう……?」


そう言いながら腕をそっと動かし、蓮司の視界がより開けるよう少しだけ抱き上げる。


まるで、この世界のすべてを見せてあげたいと言わんばかりに。


エアリンは隣で静かに見守っていた。


見ているのはアステリアだけではない。


その腕の中にいる赤ん坊もだ。


他の誰なら見落としてしまうような小さな変化。


だが観察に慣れた彼女には十分だった。


「……ちゃんと見ていますね」


小さく呟く。


まるで独り言のような声だった。


アステリアはすぐに振り向いた。


「だから言ったじゃないですか」


どこか得意げな声が返ってくる。


その小さな勝利を隠そうともしていない。


「きっとケイル様も喜ぶと思ったんです。ほら、あの目」


エアリンは何も答えなかった。


ただ――


その口元がわずかに緩む。


本当にわずかに。


気づく者がいるかどうかも分からないほど、小さく。


それは本当にわずかな変化だった。


ほとんど気づかないほどに。


風が再び吹き抜ける。


そして二人は急ぐことなく歩き出した。


蓮司を連れて。


先ほどまで遠くから眺めるだけだった世界へ、少しずつ近づいていくように。


屋敷前の広場を下り、綺麗に敷かれた石畳の小道を進む。


両脇には花々が広がり、夕風に揺れていた。


傾き始めた陽光は斜めに差し込み、長く伸びた影を足元へ落としている。


その影さえも、どこか温かな生命感を宿していた。


アステリアは少しだけ前を歩いていた。


身体は自然と前のめりになる。


湧き上がる高揚感を隠しきれないのだろう。


それでも腕は安定していた。


抱かれた蓮司を支える手に迷いはなく、意識せずとも丁寧さが染みついている。


「ほら、ケイル様……」


楽しげな声が響く。


まるで大切な宝物を案内するような口調だった。


「見えますか? あれが畑です。朝はもっと賑やかなんですけど、こういう夕方も綺麗なんですよ」


そう言いながら身体の向きを少し変える。


蓮司の視界が開けるように。


なだらかな大地に沿って広がる緑の景色。


風が吹くたび、その表面には穏やかな波が生まれる。


まるで世界そのものが静かに呼吸しているようだった。


「それから、あっちです」


間を空けることなく続ける。


瞳は楽しそうに輝いていた。


「畑仕事が終わると、みんなあの道を通るんです。いい人ばかりですから、きっとケイル様を見たら喜びますよ」


指差した先には、緩やかに下る土の道があった。


エアリンはその隣を歩いている。


足取りは落ち着いていて乱れがない。


時折周囲へ視線を巡らせながらも、アステリアの話を遮ることはしなかった。


まるで流れる川を見守るように、そのおしゃべりを静かに受け入れている。


蓮司は景色を見ていた。


小さな瞳がゆっくりと動く。


示された方向を追うように。


広大な畑から、


遠くを歩く人影へ。


そして少しずつ色を深めていく空へ。


(……ただの背景じゃない)


ふと、そんな感覚が胸をよぎった。


見えているものすべてが違う。


静止していない。


絵でもなければ映像でもない。


そこにあるものはそれぞれが独立して動き、自分の知らない法則で息づいている。


(……全部、自分で動いてる……)


視線が再び動く。


今度はもっとゆっくり。


もっと注意深く。


そのときだった。


話し続けていたアステリアがふと口を止める。


わずかに眉を上げた。


腕の中の変化に気づいたからだ。


ただ目を開いているだけではない。


その視線が、はっきりと何かを追っている。


「えっ……」


小さく声を漏らす。


少しだけ身を乗り出した。


「ケイル様、何を見てるんですか……?」


エアリンも足を止める。


何も言わず、その視線の先を追った。


小さな瞳が向けられている方向へ。


静かな間が生まれる。


風がまた吹き抜けた。


そして、その先には――


草原を駆け回る子供たちの姿があった。


弾むような笑い声が夕暮れの空気に溶けている。


その近く。


少し離れた場所に、もっと大きな存在がいた。


ゆったりと動くその姿は、周囲の風景に自然に溶け込んでいる。


大きな身体。


慌てる様子のない動き。


そこにいることがあまりにも当たり前で。


まるでずっと昔から、この村の日常の一部であったかのようだった。


アステリアもその先を見る。


そしてすぐに何を見ているのか理解した。


「ああ……」


小さく呟く。


自然と笑みが浮かんだ。


「ケイル様、あれを見てたんですね」


そのまま少しだけ様子を眺める。


自分の見ているものと蓮司の見ているものが同じだと確かめるように。


「いつもあそこにいるんです」


声は柔らかかった。


「子供たちもよく遊んでますし……大丈夫ですよ」


エアリンはすぐには何も言わなかった。


数秒ほどその光景を見つめ続ける。


それからゆっくりと視線を蓮司へ戻した。


小さな瞳は変わらず一点を見つめている。


「……珍しいですね」


ぽつりと漏れる。


アステリアが首を傾げた。


「ん?」


だがエアリンは説明しなかった。


小さく首を振るだけ。


それ以上言葉を重ねるつもりはないらしい。


ただ、その視線だけは再び蓮司へ向けられていた。


先ほどとは少し違う意味を帯びながら。


「……いえ」


短く答える。


アステリアは一度だけ瞬きをした。


それ以上は深く考えず、小さく肩をすくめる。


そして再び腕の中へ視線を落とした。


今度の笑みは、どこか優しかった。


「綺麗でしょう……?」


囁くような声。


暖かな響きだった。


「ここはいつもこんな感じなんです。静かですけど、退屈じゃないんですよ」


そう言いながら抱き方を少しだけ調整する。


小さな視界が遮られないように。


目の前の世界を、少しでもたくさん見られるように。


まるでその光景を一つ残らず覚えていてほしいと願うように。


風は絶えず吹き続ける。


人々の営みもまた途切れることなく流れていく。


それでも――


その視線はまだ動かなかった。


ずっと同じ方向を見つめたまま。


村を横切る土の道。


人々がなぜか足を緩めるその場所で、


大きなその生き物は、夕風に揺れる古木の影の下、静かに身を横たえていた。


その姿は白い熊によく似ていた。


大きな身体は周囲の風景に自然と溶け込み、厚い毛並みは夕陽を受けて柔らかく輝いている。


身体の一部を覆う金属プレートも淡い光を反射していたが、不思議と無機質な印象はなかった。


まるで昔からそこにいるのが当たり前であるかのように。


その近くには数人の子供たちがいた。


男の子が二人と女の子が一人。


軽く肩を押し合いながら小さく笑い、時折その大きな生き物へ視線を向ける。


当の本人――いや、本獣はというべきか。


穏やかに鼻を鳴らしながら目を半分閉じ、静かな休息の中にいた。


「グルメル、また寝てるな……」


一人の男の子が小声で囁く。


起こしてしまわないように。


そんな遠慮が声に滲んでいた。


「怒らないよ、きっと」


女の子は気軽に答えながら、前足の近くにある毛並みにそっと手を伸ばした。


グルメル。


彼らにとってはあまりにも馴染み深い名前だった。


村の一部。


守り手ではあるけれど、誰も守護者として意識しないほど身近な存在。


けれど――


その大きな耳が動いた。


ほんのわずかに。


まるで誰にも聞こえない何かを捉えたかのように。


半ば閉じられていた目がゆっくりと開く。


そして次の瞬間。


巨大な身体が立ち上がった。


速かった。


あまりにも突然に。


近くにいた子供たちが思わず息を呑む。


反射的に身体を引いた。


低く響く唸り声が喉の奥から漏れたからだ。


それはいつもの穏やかな鼻息ではない。


胸の奥まで震わせるような重い響きだった。


「グ、グルメル……?」


女の子の声がかすかに震える。


グルメルは完全に立ち上がっていた。


頭を高く上げ、


鼻先を動かし、


何度も空気を吸い込む。


まるで目に見えない何かを探しているように。


そして――


「GRRRROOOOOHHH!!」


咆哮が轟いた。


重く。


深く。


空気そのものを震わせながら。


その場にいた人々が一斉に足を止める。


手に持っていた荷物を落とす者。


驚きに目を見開く者。


誰もが信じられないものを見るような表情を浮かべていた。


「な、何があったんだ……?」


「グルメルだよな……?」


「どうしたんだ、急に……?」


グルメルが歩き出す。


一歩。


そしてもう一歩。


次の瞬間――


駆け出した。


ドォンッ、と大地が震える。


巨大な身体が一気に加速し、人々の間を突き抜けていく。


避けきれなかった者たちの肩をかすめるが、それでも傷つけないよう無意識に力を抑えているのが分かった。


「お、おい! どけっ!」


「何だよ!? どうしたんだ!?」


「グルメル! おい、待て!」


だが反応はない。


再び咆哮が響く。


今度は短く鋭い。


まるで進路を塞ぐなと警告するように。


向かう先は明らかだった。


丘の上。


ラインマー家の屋敷――ハウス・ラインマーへ。


「この熊、何かおかしいぞ……!」


「こんな様子、今までなかっただろ!?」


「追いかけるぞ!」


「急げ!」


困惑はいつしか不安へと変わっていた。


何人もの村人が走り出す。


グルメルの後を追うために。


その後ろでは、先ほどの三人の子供たちも顔を見合わせていた。


そして次の瞬間には、何の迷いもなく駆け出している。


「待ってー!」


「グルメルーっ!」

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