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巻き込まれた令嬢①

 私は、ペペ・セナペ


 北方にある小さな極貧領地を治めるセナペ子爵家の一人娘だ。我が領地には目立った名産はない。唯一の特徴は香辛料が効いた料理を食べることだ。


 私が通っている学園は貴族社会の縮図と言われている。学園内での多少の無礼や失態は目をつぶってもらえるが、学園生活と態度があまりにも酷過ぎると、卒業後自分に返ってくる恐ろしい場所だ。

この国では、女性にも爵位の相続権がある。セナペ子爵家には私しか子供がいない。変なこと……例えば、婚約者がいる男性に近づいて誘惑なんてした日には盛大なしっぺ返しとして、領地と爵位を取り上げられてしまう可能性が多いにある。

 そのため学園では、目立たず、大人しく高位貴族には関わらずに学園を卒業することを目標にしていたのに……

 

 

 大人しく学園生活を過ごしていた私に災難が訪れた。

 


「セナペ子爵令嬢。貴女にお願いがある」


 先生に用事を頼まれて訪れた部屋に中に、この国の王子であるバッカ王子が居た。


 こんな小さい部屋には似つかわしくない豪華なソファーとテーブルが置いてあり、バッカ王子達はソファーに座っている。


 放課後、担任の先生に頼まれて書類を持ってきただけなのに。『書類を部屋の中で待っている人に渡す簡単な手伝い』って先生言っていたのに。先生の嘘つき!!



「すまない、セナペ子爵令嬢。私が、君のクラス担任に君がここに来るように誘導するようにお願いしたのだ」


 しかも、バッカ王子の隣には王弟でもある学園長が座っている。


 え?なんで学園長もいるのでしょうか?

 私、何かやりましたか?




「セナペ嬢、長い話になるから座って聞いてほしい。それと、これから話すことは内々してほしい。



 実は……婚約破棄をしたいと思っている」


 バッカ王子にソファーに座ることを進められ、フカフカの座り心地を堪能していたら、いきなりバッカ王子は爆弾発言をした。


 婚約破棄……それは私に話してもいい内容なのでしょうか?

 


 オルゾ様は完璧な淑女だから婚約破棄されるような瑕疵なんてないし、そもそもバッカ王子とオルガ様の婚約は王命と言う話です。王命に逆らう訳ですからバッカ王子は廃嫡されてしまうのでは?



「私はバカだ」


「はい、それは知っております」


 あっ、ついバッカ王子がバカなことを肯定してしまった。ふ、不敬罪で捕まったらどうしよう……


「私のようなバカが国王になってしまったら、極悪非道な貴族の傀儡になってしまい国を荒廃させてしまう。傀儡になる前に、私は王太子の地位を叔父上に譲りたいと思っている。そのために、私はオルゾと婚約破棄をしなければならない」


 涙ながらに語るバッカ王子。その隣で、学園長は「うんうん」という擬音が付きそうなくらい頷いている。


 意味が分からない。いや、バッカ王子ご自分が傀儡になって国を荒廃させてしまう可能性を危惧していることはわかったが、なぜ婚約破棄が必要なのだろうか?



「早く、オルゾと婚約破棄をしなければ『カンスク』の一週目の世界になってしまう」


 バッカ王子はそう言うと、どこからか一冊の本を取り出し私に渡して来た。



 バッカ王子が言う『カンスク』は、いま巷で流行っているロマンス小説だ。正式タイトルは『完璧淑女は世界を救う』と言う。バカアホで浮気性の王太子と結婚した「完璧淑女」と名高い公爵令嬢が何回も死に戻りしながら、国だけでなく世界を救う話だ。


 その一週目と言うのが、極悪宰相の傀儡となったバカアホ王太子が国を荒廃させて、王太子妃となった完璧淑女を処刑してしまう話だ。


 王子でも巷で流行りのロマンス小説読むんだね。でも、うちの国でバッカ王子を傀儡にして実権を握ろうとする貴族いないと思うよ?


 バッカ様、バカ過ぎて傀儡にもならない……と言うのが、この国の貴族の常識だから。


「セナペ嬢、そういう訳だ。明日から私に平民スキル……いや、最低限自活できるだけの能力を私に付けてくれ!!頼む!」


「断ってもよろしいでしょうか……」


 王族と関わるなんて絶対に嫌だ。私は、まだ平穏な学生生活を諦めていない。



「セナペ子爵嬢。私からもお願いする。もちろん、タダでとは言わない。報酬としてこれだけ支払おう」


 学園長はそう言いながら、私に金額が書かれた小切手を差し出した。そこに書かれていた金額はセナペ領の昨年の税収10年分。


 これがあれば、今にも朽ち落ちてしまいそうなボロボロな橋を修理することも、古い修道院を改修することも、寒さに強い作物の苗を大量に買い領民たちに配ることも、優秀な平民の子供たちの進学を支援することができる!!!


「はい、喜んでお受けいたします!!」


 私は平穏な学園よりも、高額な報酬を選んだ。だって、このお金があれば色々と領地改革ができるんだもん。



 この決断は、生涯に渡り私を平穏な生活から遠ざけることになる。





一週間後


「バッカ様!何をしているのですか!」


「ホワイトシチューを作っているのだが……」


「料理していることは分かっております。私が聞いているのは、何でホワイトシチューにケッチャプをいれるのですか!!」


 料理をしたことのないバッカ様に料理を教えると、初心者なのに勝手にアレンジを始めた。

お菓子を作れば、甘い方が美味しいだろうと言いながら砂糖をレシピの10倍以上の量を入れたり、ムニエルの作り方を教えれば、薄力粉より強力粉の方が強そうだからと謎の理論で、薄力粉の代わりに強力粉を使ったりしている。


 料理初心者は、変なアレンジしない!!レシピに通りに作る!!




二か月後


「バッカ様!何をしているのですか!」


「シャツを洗濯しているのだが……」


「洗濯していることは分かっております。私が聞いているのは、床が泡だらけなのですか!!」



 洗濯をしたことのないバッカ様に洗濯を教えると、初心者なのに洗剤の分量を無視して洗濯をしていた。

 洗剤の量が多い方が汚れ落ちるが良いだろうと言いながら、適量の倍の洗剤を使ったり、衣服をゴシゴシと……服の素材に関係なく力一杯擦っていたりしていた。


 もっと優しく洗え!絹をそんなに力一杯擦ったらすぐに痛む。それに、洗剤の適量守れ!そんなに泡の量が凄いと洗い流すのに大量の水が必要なのよ!水は資源!!大切に!




五か月後


「バッカ様!何をしているのですか!!」


「床の掃除をしているのだが……」


「素晴らしい!!!!!!」


 掃除初心者なのに、バッカ様は上から下へ掃除をしていた!はたきで上の埃を落としてから床の拭き掃除をしていた!!それに、バッカ様は水回りの掃除も完璧だ。水垢一つなく完璧に磨き上げられている。すでに、バッカ様は掃除のプロだ!!


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