雨降って地固まった婚約破棄。
久しぶりの投稿ため誤字脱字があると思います。あたたかい目で見守って下さい。
「オルゾ・セーガレ公爵令嬢!!この場をもって婚約破棄を宣言する!!」
卒業パーティーの終盤、私は婚約者であるこの国の王太であるバッカ様に婚約破棄を突きつけられた。
バッカ様の後ろには、ここ数か月バッカ様と放課後を一緒に過ごしているペペ・セナペ子爵令嬢の姿が見える。
私とバッカ様は、国一番の穀倉地帯を領地として持つ我が家と王家の関係強化のために、
私たちが5歳の時に王命で結ばれた。それから13年……様々な努力の甲斐があり、私たちはとても良い関係を築くことができていた。私にはバッカ様の考えることが手に取るように分かった。
だから、こんな盛大な婚約破棄を行うとは思わなかった。
「理由は分かっているだろうな!!
婚約破棄の理由は……
私がバカだからである!!」
バッカ様は腰に手をあて、胸を反らしながら意気揚々と透き通る声で言った。
婚約破棄の理由を聞いて、私はため息が出た。
バッカ様がバカなことはこの国に住んでいる全ての国民が知っていること。一部の国民からは「バカバッカ」と言われています。
もちろん、私も婚約を交わした当時からバッカ様がバカな事は知っていました。
なんせ、婚約して直ぐ我が家を訪れたバッカ様は、東西を逆に覚えていたため我が家の敷地内で半日も迷子になったくらいですからね。
見つかった場所が、この国が昔他国と戦争を行っていた時に使用していた我が家の地下牢。屋敷から離れた場所あり、きっちりと鍵を掛けていたのになぜか地下牢の中で見つかった。
「私は全く勉強ができない。学園の勉強はもちろん、王太子教育も私がバカなため遅々として進んでいない」
学園のテストを受ければ、最下位もしくは下から2番目の成績。卒業テストでは合格点ギリギリの点数でした。しかも、2回目の追試でやっと卒業テストに合格しました。
また、学園卒業までに終わらせなければならない王太子教育では、三分の一しか終わっていません。
「軍事についても全く分からないし、剣術は全くできない」
バッカ様は王太子教育の中で特に軍事関係の勉強が苦手。我が国の国王は政治のトップでもあり軍のトップでもあります。
戦争が起こった場合、作戦を考えるのは軍部のトップですが進言された作戦を実行するかどうか判断するのは国王です。作戦の良し悪しを判断するには、戦況を素早く把握する能力や兵法や地理など膨大な知識が必要です。
バッカ様は多くの情報を取捨選択して最善の策を導くことが苦手です。それは政治に関することにも言えます
また、我が国の王族は剣術を嗜みます。軍のトップとしてある程度の強さを示す必要があります。しかし、バッカ様は何年訓練しても新米兵士に負けてしまうほど剣術の才能がありません。
「それに私は人を簡単に信じてしまう。言葉の裏を読むこともできず相手の腹芸を見抜くこともできない。私自身腹芸ができない」
バッカ様の言う通り、簡単に人の話を信じてしまいます。この前も南方からやって来た商人に「これは南方にだけ生息している珍しい鹿の置物です」と言われて、どう見ても馬にしか見えない置物を、大金をはたいて買ってしまいました。
「以上のことより、私有責でオルゾと婚約破棄をする。オルゾ、君は何も心配なんてしなくとも大丈夫だ。私の個人資産から十分に慰謝料を支払うし、私の数少ない人脈を駆使してオルゾの素晴らしさを宣伝しといた。色々な国や人から『オルゾを国賓として受け入れたい』と手紙をもらった。さすがオルゾだ」
「……バッカ様は私と婚約破棄をしたあと、どうされるおつもりなのですか?」
婚約破棄を宣言しているのに、私のことを思って色々と行動しているバッカ様の今後が心配になってしまった。
「ああ、オルゾ。婚約破棄をした私のことを気に掛けてくれるとは……なんて優しいのだ!!でも、私のことは心配する必要はない。ここで、彼女を紹介しよう。セナペ嬢、前へ」
バッカ様に促され、何とも言えない表情を浮かべながらセナペ子爵令嬢は前に出た。
「知っている者もいると思うが、改めて彼女のことを紹介しよう。彼女はペペ・セナペ子爵令嬢だ。セナペ子爵家の領地には『北の厳しい修道院』がある。私は、平民になり市井で暮らしたとしても、すぐに人に騙され悲惨な人生を送ることになる。多くの人に迷惑になる前に、『北の厳しい修道院』でお世話になろうと思っている」
バッカ様の言う通り、バッカ様が平民となり市井で暮らした場合、すぐに騙されたりカモにされたりして一文無しになることは間違いないです。
しかし、バッカ様はセナペ子爵領にある修道院に行く予定だったのですか……修道院は基本的に自分のことは自分で行わなければなりません。王太子として生活をしているバッカ様が修道院での生活に耐えられるとは思えません。
「もちろん、いきなり修道院に行っても迷惑をかけてしまうことは分かっている。セナペ子爵令嬢にお願いしてセナペ子爵領の風習や修道院での生活について教えてもらった。その時に炊事・洗濯・掃除……その他多くの生活に必要なことについて学んだ。特に、掃除が得意だ」
セナペ子爵令嬢は、バッカ様の話が話をしているとき天を仰いでいた。それもそうでしょう。王太子に使用人がするような仕事である掃除洗濯を教えていたのだから。バッカ様がお願いしたこととは言え、下手したら不敬罪として捕まる可能性もあります。
「だから、オルゾ。いや、セーガレ公爵令嬢。君は何も心配する必要はない。君は君のやりたいことをすればいい。もう、この国に縛られる必要はない」
「……それでは、バッカ様。私のお願いを一つ聞いてもらってもいいですか?」
慈愛に満ちた目を私に向けているバッカ様最後のお願いをすることにした。
私の願い
それは……
「バッカ様
私と結婚してください」
「ああ、分かった。私との結婚だな……ん?」
私の願い。それはバッカ様のお嫁さんになること。
東西を逆に教えられて信じてしまうところも、器用に針金を使って鍵を開けられるのに剣術が苦手なところも、物覚えが悪いためテストで赤点を取ってしまうところも、全てが愛おしい。
「私は、勉強ができないバカだ」
「知っております」
物覚えが悪いことを自覚して、忘れないように何回も同じ場所を繰り返し勉強する姿を毎日のように見ていた。
「私は、軍事について分からない。本当に剣術も本当に苦手だ」
「知っております」
バッカ様は人と争うことを嫌う性格です。軍事の勉強の中には血生臭いことも学ばなければなりません。バッカ様はそのことに耐えられなかった。
人と争うことが苦手なバッカ様が、剣術が苦手なことも当然なことです。それでも、朝晩欠かすことなく人の倍以上素振りをしていることを知っています。
「勝手に君との婚約破棄をしたのだ。私は廃嫡になってしまう。もう、この国の王になることはない」
「それの何に問題がありますか?私は王太子だからバッカ様に恋をしたのではありません。努力を怠らないバッカ様だから恋をしたのです。バッカ様が平民になるというのなら、私も平民になり、ただのオルゾとしてバッカ様と共に生きます」
初めて会った時は、金髪碧眼というお伽噺に登場する王子様のような外見に惹かれた。でも、国民に王宮に勤める使用人たちに馬鹿にされても、努力を怠らないバッカ様に本気で恋をした。
お人好しで、心優しく、人の何倍も時間がかかってしまうバッカ様は国王に向いていない。しかし、バッカ様は立派な国王になろうと努力をしている。そんなバッカ様を支えたいと思ったから辛く厳しい王太子妃教育を乗り越えることができたのです。
「私は……」
「バッカ様は私のことがお嫌いですか?」
「そんなことない!!勉強ができて、政治・軍事について明るいところも、国一番の淑女と言われているところも。オルゾのすべてが大好きだ!!オルゾ愛している!!」
煮え切らない態度のバッカ様、私ことが嫌いか尋ねると、バッカ様全力でそれを否定し私に愛の告白をしてきた。
「オルゾ、私はバカだ。私の能力では君を幸せにすることはできない」
「分かっております。私とバッカ様……二人で力を合わせて、二人で幸せになりましょう」
「オルゾ……私と結婚してくれ」
「はい、バッカ様」
蚊の鳴くような小さな告白に、私は頷きバッカ様の手を取った。
私がバッカ様の手を取ると、卒業生たちが盛大に拍手をしてくれた。
卒業式という晴れの場を、私とバッカ様の婚約破棄騒動で汚してしまったのに、嫌な顔せず、私たちを祝福してくれる同級生たちの姿に、熱いものが込み上げてきた。
「大変です!!バッカ様の婚約破棄騒動を聞きつけた国王陛下と王妃殿下がこちらに向かっています!!」
卒業生の一人である北の辺境伯の三男が大声を上げた。三男の後ろには、黒装束を身にまとっている人が立っていた。
我が国では、領地を有する貴族には領地を守るために私兵を持つことが許されています。しかし、王家で言う「影」のような諜報部隊を持つことは禁止されている。しかし、それぞれの方角の国境を守る四つの辺境伯は特例として諜報部隊を持つことが許されています。
三男の後ろに立っている黒装束は、きっと北の辺境伯所属の諜報部隊の一員なのでしょう。
国王陛下と王妃殿下と言う言葉を聞いて、バッカ様の顔は青くなった。バッカ様はご自分の両親がとても苦手だ。
国王陛下も王妃殿下も悪い人ではない。為政者としては有能である。
しかし、国王陛下も王妃殿下も有能過ぎるがため、バッカ様のことが……出来ない人の気持ちが分からない。
国王陛下も王妃殿下の挫折や苦労することなく、王太子教育・王太子妃教育を修了した。そのため、なんでバッカ様が王太子教育に躓いているのか分からない。二人にとって王太子教育はできて当たり前なことなのだ。
有能過ぎるお二人は、「次期国王たるもの、どんな困難も自分で解決しなければならない」と言い、バッカ様が使用人たちに馬鹿にされていることを知っていながら、それを放置しました。幼いバッカ様が助けを求めても、「自分で解決しなさい」と笑顔で言い放ちました。
それでも、腐らず自分のできることを自分のペースで確実にこなしていこうと、効率の悪いやり方でも努力を続けたバッカ様は、尊敬に値します。
「バッカ様、オルゾ様。馬車の準備はできております」
私と顔を青くしているバッカ様に話しかけてきたのは、高速馬車鉄道を経営している伯爵家の次女だ。
「道中の警護は我らにお任せください」
南の辺境伯の三男はそう言いながら、今にも倒れそうなバッカ様を支えた。
「バッカ様、オルゾ様には指一本触れさせません!!」
東の辺境伯の四女は勇ましく言い、拳を高く突き上げた。
「例え、バッカ様が平民になろうともどこまでもついて行きます」
西の辺境伯の三男はいつの間にか平民が着るような服装に変わっていた。
「これからは王太子と側近ではなく、友として側にいさせていただきたいと思います」
騎士団長の次男はそう言いながら、バッカ様の手を取った。
「バッカ様!旅支度は済んでいます!」
「セナペ領までの食料の調達は済んでいます!」
「お金の心配はしないでください!」
「バッカ様、オルゾ様。私はどこまでもついて行きます!」
「僕もお二人について行きます!」
「俺も!」
「私も!!」
ぞくぞくと卒業生たちからバッカ様を支援する声が上がる。そして、バッカ様と私についていくという声も。
同級生たちは知っている。バッカ様がとても努力家であることを。人が見ていない場所で努力を続けていたことを。
これは、バッカ様が人望と人徳、両方もっているから起こること。
「みんな……」
バッカ様は驚きの表情を浮かべたあと、嬉し涙を静かに流した。
「バッカ様、すぐにこの書類にサインをして出発してください。バッカ様と共にセナペに行く人たちは、こちらの書類にサインをお願いします」
宰相の長男である侯爵子息が私たちに差し出した書類は、王籍・貴族籍から抜けるための書類だ。
貴族籍から抜けるための書類には当主のサインもしくは成人した本人のサインが必要だ。
午前中に行われた学園の卒業式をもって、私たちは大人としての義務と責任を負うことになった。つまり、学園から巣立つことは一人前の成人となったことの証。私たちのサインだけで私たちは平民になれる。
私たちは、自分たちのサインで平民になれる。しかし、王族であるバッカ様は自分だけもサインでは王籍から抜けることができない。王族が王籍から抜けるためには本人以外の成人した王族のサインが二名分必要だ。
まあ、国王陛下の命令で王籍から抜ける場合は、書類そのものが必要ないけど。
宰相子息がバッカ様に渡した書類にはすでに二名のサインがされていた。一人は前国王陛下であるバッカ様のおじい様のサイン。もう一人はバッカ様の叔父である王弟殿下のサイン。
王弟殿下は、私たちが卒業した学園の学園長をしている。バッカ様が在学中、なにかとバッカ様のことを気に掛けておられた王弟殿下が、前国王陛下を説得して書類にサインをもらったのでしょう。
「バッカ様、私は長子として家を継ぎ領地と領民を守る義務があります。そのため、バッカ様に着いて行くことはできません。しかし、心はいつもバッカ様と共にあります」
宰相子息は心苦しそうに言った。
「国王陛下、王妃殿下の足止めは私たちが行います」
「僕たちが足止めをしている間に王都から出てください」
「バッカ様とオルゾ様の新天地での活躍を願っております」
宰相子息の言葉に続き、家を継ぐ立場である同級生たちから声をかけられた。
「バッカ様、そろそろ出発しましょう」
「ああ、分かったオルゾ。私と共にセナペ領に行くものは出発の準備を。そして、ここに残る者たちよ、ありがとう。私も決して君たちのことを忘れない」
バッカ様の言葉に同級生たちはそれぞれ頷いた。同級生の半分は正装から動きやすい服装に着替え、残り半数は「バッカ様とオルゾ様は南に行かれた!!」と叫びながら会場を出ていった。
私たちは同級生の半分と、準備された高速馬車に乗りこんだ。
「スピード重視で馬を選びました。引退した軍馬が馬車を引っ張るため、早いですがその分揺れます。注意してください」
馬車に乗りこむとき、馬車を準備してくれた伯爵令嬢がそう言った。確かに早かった。確かに揺れに揺れた。私とバッカ様含め、みんな体を馬車のあらゆる場所にぶつけた。しかし、その甲斐もあり、普通よりも三日早くセナペ領に到着することができた。
そして、私たちは馬車から転げ落ちるように馬車から降り修道院の扉を叩いた。
「オルゾ、見てくれ!!昨日見たリスを彫ってみた!」
あの卒業パーティーから一年後、私とバッカ様は一緒に修道院にやって来た同級生たちと修道院から出て、セナペ領で商売を始めた。
最初は小さな商店から始めたが、みんなそれぞれの特技を活かして働いてくれたおかげですぐに商店からすぐに商会になることができた。
セナペ領に来てから、バッカ様は生き生きと生活している。
バッカ様は修道院に併設されている孤児院にいる子供たちに勉強を教えている。意外なことに、バッカ様は子供たちに勉強を教えることがとても上手だ。一回なぜそんなに勉強を教えることが上手なのか聞いた。
「子供たちが分からないって思うところは、私も子供のときに分からなかったところだ。だから、なぜ分からないのか、どうしたら理解できるのか分かるだけだよ。あの時、勉強をがむしゃらに頑張ってきてよかった」
バッカ様、嬉しそうに答えた。
そして、バッカ様は今日も楽しそうに子どもたちと、何とも言えない微妙な表情をした動物の木の置物を彫ったり、畑を作ると言い畑に向いていない土地に穴を掘っていたりしている。
数年後
バッカ様と子供たちが彫った木の置物は、偶然セナペ領を訪れた他国の王女の目にとまり、「かわいい!!全部欲しい!!」と言われ全て買い取られた。王女が自国に帰国した後、その国ではバッカ様たちの彫った木の置物が流行し、商会に大量な注文が入るようになった。
その翌年には、バッカ様が掘った穴からお湯が吹き出した。そのお湯には美白・疲労回復・火傷を治す・捻挫を治すなど様々な効能があることが分かった。その結果、セナペ領は国有数の療養地と呼ばれるようになった。
平民となった私たちの活躍をよく思はない貴族は多くいた。しかし、セナペ子爵を継いだセナペ子爵令嬢や家を継いだ同級生たち、国王陛下となった王弟の協力もあり、私たちは今幸せに暮らしている。
私たちを受け入れてくれたセナペ領とセナペ子爵に恩を返すため、私たちはこれからもこの地で生きて行く。




