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同居生活が始まってから数日、アパートの空間は奇妙な均衡を保っていた。外から見れば、それはただの高校生の日常だった。制服に身を包んだ悠斗と澪は、朝の冷たい空気の中を並んで歩き、最寄りのコンビニで買い物を済ませる。澪は周囲に自然な笑みを向け、通行人や店員に対して「仲の良い恋人同士」を完璧に演じて見せた。
しかし、その内実は歪みきっていた。
部屋に戻ると、主導権は完全に澪に移行していた。彼女は悠斗の怯えや執着を巧みに手玉に取り、料理や洗濯といった日常の家事を彼にこなさせる一方で、自分はベッドの上で悠斗の過去の秘密や、この部屋に隠された執着の痕跡を一つずつ暴いていく。悠斗は自分が監禁したはずの少女に、いつしか支配されていることに気づいていたが、それを拒絶するどころか、奇妙な安堵感すら覚えていた。
「ねえ、悠斗くん」
ある夜、澪は窓辺の月明かりを受けながら、冷たい紅茶のカップを揺らした。
「この生活、いつまで続けるつもり? いつかは誰かに気づかれるか、あいつらが来るよ」
「あいつら……?」
悠斗が息を呑むと、澪はふっと不敵な笑みを浮かべた。
「そう、私をあのスーツケースに詰めて、海に捨てようとした人たち。私が消えたって気づいたら、きっとここを探しにくる。あるいは、私が生きていると知ったら……どうなるかな」
澪の言葉には、怯えどころか、どこか敵を待ち構えるような狂気が混じっていた。彼女は自分の過去を語らないが、あの夜の海で見せた冷徹な復讐心を、悠斗は思い出す。自分はただ彼女を閉じ込めたかっただけなのに、いつの間にか彼女が抱える闇の共犯者になろうとしている。
「……僕が、守るよ」
悠斗は絞り出すように言った。それは彼女に対する愛情というよりも、この狂った関係が終わってしまうことへの恐怖に近かった。
澪はその言葉に満足したように目を細め、悠斗の頬にそっと触れた。
「頼もしいね。じゃあ、準備を始めようか。もし彼らがここに来たら、私たち二人で、今度はあいつらをどう迎え撃つか――計画を立てないとね」
東京の端の古いアパートの小部屋で、二人の狂気はさらなる深みへと溶け合っていくのだった。




