Ⅶ
アオイの優しさと強さを感じたのは、
ぼくが不老不死であることを打ち明けたときかな。
出逢いから五年が経ったころだったと思う。
アオイの家で曲の打ち合わせをして、終わってからゆるゆる過ごしてたとき、
「ちょっと、いいかな。
アオイにずっと言ってなかったことがあって、
その、今、聞いてくれる?」
マグカップを片手にくつろぐアオイに声をかけた。
「ん?
いいよ。聞かせて。」
アオイはパソコンを閉じて、ソファに座り直してからぼくの方を向いてくれた。
「アオイと話すようになって、一緒に活動するようになってから、もう五年くらい経ったじゃん。
誕生日も何回か祝ってもらった。
だから、もう、少しずつ気が付いてるかもしれないんだけどさ、
…ぼく、不老不死の身体なんだ。
だから、年はアオイに伝えた年の何十倍だし、
見た目も全く老いてない。
五年じゃ、見た目の変化はあんまり無いかもしれないけど、
これから十年経っても、五十年経っても、アオイがおばあちゃんになっても、
ぼくの見た目はこのままで、
みんなが死んでも、ぼくはずっと遠くの未来まで、何千年も生きてる。
今まで隠しててごめんなさい。
嘘をついてたのも、ごめん。
打ち合わせも終わったし、ぼく帰るね。
お疲れ様。」
そう言って、ぼくは腰を上げた。
アオイの顔は、驚きの色に染まってた。
やっぱりこのことを聞いて驚かない人はいないよな、って思いながら帰る支度を始めた。
何回も見たことのある光景だったからね。
でもそのとき、
「待って。」
そう言って、アオイが引き留めてくれたんだ。
顔は驚いたままだった。強張ってたよ。
「正直、私は、今の話を聞いて驚いてる。
…本当なのかどうか、理解しきれてない部分だってある。
でも、私はユキが話してくれて嬉しい。
だから、謝らないで。
隠してたのも何か理由があるんでしょ?
ユキがいつも寂しそうに笑ってるの、何でだろうってずっと思ってた。
でも、今少し何でか分かったような気がした。
だから、他にも私が知らないユキのこと、いっぱいあると思うけど、
また話してくれたら嬉しい。」
アオイは、そう言ってくれた。
驚きで強張ってたけど、その顔には優しい笑顔があった。
嬉しかったよ。
そんな言葉をかけてくれたのは、アオイが初めてだったから。
その時アオイが驚いてるのも、信じ切れてないのも、表情と声から分かった。
でも、その言葉を本心から言ってくれているのも分かった。
ぼくが今まで色々なひとから聞いてきた、
上辺だけを繕った言葉じゃないことは明らかだったんだ。
「気持ち悪くないの…?
嘘つきだって思わないの…?」
アオイの言葉が嘘じゃないとわかっていても、そう尋ねずにはいられなかった。
ぼくは、泣いてた。
「気持ち悪いなんて思うわけないでしょ。
だって五年も一緒に居るんだよ?
それだけの時間一緒に過ごしてきたわけだし、
私ユキのこと大好きだし、
そんなこと思うわけないじゃん。
それに、あんな泣きそうな顔で話されたら、それが嘘じゃないことくらい分かるよ。」
アオイは、当たり前のようにそう答えてくれた。拍子抜けするくらいさらっとね。
アオイは、笑ってた。
そこに、さっきまでの強張りは無かった。
で、こう続けたんだ。
「じゃあ、聞きたいことも話したいこともいっぱいあるしさ、
夜ごはん一緒に食べない?
ありものだけど、何か作るよ。」
今度はぼくが信じられなくなる番だった。
だって普通なら気味悪がるか、疑うであろう話をしたのに、
アオイは受け止めてくれたんだから。
それに、もっと知りたいって言ってくれたんだもん。
驚かないわけないよ。
気持ちを偽ることなく、本心からそう言ってくれたことが、
本当に、何より嬉しかったよ。
それに普通、気持ち悪い奴と自分の家でご飯食べないし。
それからふたりで夕飯を食べて、
音楽のことや、ぼくが昔見聞きしたことを、一晩中語りあった。
あの味噌汁の味は、一生忘れられない。
言い表せないくらい、すごく美味しかった。
それで次の日、アオイがいつも通りの笑顔で、
「おはよう。」
って挨拶してくれたとき、
今まで何度も見てきた景色のはずなのに、それがひどく貴重で奇跡的な場面のように感じたんだ。
温かくて、心から幸せだと思えた。
それが、生まれて初めて感じた他人からの愛だったのかもしれない。




