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Gypsophila  作者: 蠢爾
2/15

「この世界は汚いものばかりだ」


「人生なんてただ辛くて苦しい自分へ課された罰」


「生きるのなんて楽しいわけがない」


そういうこの世界への罵倒と諦めを、ぼくは何回も聞いてきた。


大なり小なりこういう感情はいつの世にもあるから


これはもう、人間という生き物の(さが)なのかもしれないけれど、


文明が進化して、とても便利になった今の時代だからこそ増えたようにも感じる。


便利と引き換えに現代社会が課す重荷は、百年ぽっちの人生に対して重すぎるんだと思う。


現にぼくなんて、


何百年という時間を経てもなお、その重荷に耐えきれないんだから。



今言っちゃったけど、


ぼくの人生は、生まれてからもう何百年という長いものになる。


その人間離れした人生の尺は、


不老不死という、一昔前の商業作品のような能力のせいなんだ。


だから、生まれてからずっと、ぼくの心臓は終わりを知らない。


こんな話、嘘だと思われても仕方ないと思う。


不老不死の人間なんて滅多に見ないだろうし、ぼくも他に見たことがない。


未だに自分でも変な話だと思うしね。



「不老不死」


一見、誰もが憧れるチート設定のように見えるかもしれないけど、


現実はそこまで幸せなものじゃない。


確かに、肉体は一番美しい状態から衰えないし、人生は無限に続くよ。


でも、死ねないっていうのはなかなか難しいものなんだ。


不老不死っていうものの特性上、


大人になれば化け物でしかないけれど、


一応、生まれてから一番美しい身体の状態になるまで成長は普通に進む。


だから、幼少期のいじめみたいなものは少なかった。


そりゃ、噂を聞き付けた輩が嫌がらせをしたり、からかったりすることはあったけど、


その頃は母親も父親もいたし、


ふたりとも沢山の愛情を注いでくれていたから、あまり辛さは無かった。


金銭的にも精神的にもゆとりのある生活だったし、


幼少期に関しては、他の子と何ら変わりなかった。


むしろ、恵まれてたよ。


ただ、成人して、身体の成長が老いへと変化し始めるころ、


ぼくの身体の時間は止まった。


そして、世界は変わった。


長い時間を共に過ごしてきて、ぼくの身体に理解のある人はいいけれど、


当たり前ながら、社会に出てから関わる人のほとんどはそうじゃない。


全く老いのないぼくを見て、ひそひそと怪しんだり噂したりする声は絶えなかったし、


「おいくつなんですか?」なんて質問には嘘をつくことしかできなかった。


仲間や恋人に「この人なら、」と思って、不老不死を打ち明けたときは大抵信じてもらえなかったし、


信じていない割には、みんなすっとぼくから離れていった。


あの動揺を隠しきれない顔は、ショックだったよ。


「あ、あー えっと、


 そっか。そうなんだ。


 だから、ずっと見た目が変わらなかったんだね。


 そっか。ははははは。」


「何か話さなければ、」そんな思いから発せられる気持ちのない言葉と、


身体を舐めまわす、好奇心と懐疑の視線。


そして、慌てたような、乾ききった笑い声。


それは、直接的な罵倒や拒絶よりも辛かった。


だって、発するのが自分にとってとても大事な人だから。


もう、大して交流もなく、仲も良くないひとに陰口を叩かれるのは十分慣れた。


どうぞご勝手に、そう思うようになってた。


でも、大切な人にそういう態度を取られるのは、色々な意味でこたえた。


勿論、ぼくが打ち明けなくても、


気持ち悪いとか怪しいとかいう感情から、離れていく人も沢山いたよ。



まぁでも、そんなひとたちも死んで消えていっちゃった。


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