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Gypsophila  作者: 蠢爾
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プロローグ

ビルの灯りが、星のように点る二三時。


昼間には見えない、陰と陽の混じりあう混沌とした空気に包まれる、暗い空間。


この深夜という不思議な時間が、ぼくは大好きだ。


その大好きな時間、


ぼくはいつも屋上で歌を謳う。


横を見ても何も映らない、見える限り一番高いところで、


ただ、歌を謳う。


彼女と作った曲も、自分で作った曲も、誰かが作った曲も、


色々な歌を、ただひたすらに。


空を見上げて、


楽器は持たずに、


たったひとりで。


じめじめと汗ばむ夏の風や、


乾いて澄んだ冷たい冬の風、


色々な風を受けながら、ただ一凛の花に向けて歌を謳う。


馬鹿みたいにそうやってぼくが謳い続けるのは、心に一凛の花が咲き続けるからだ。


その花は昔、突然


「君に救いはある?


 もしないなら私のために謳って


 空からでも君を見つけられるように。」そう言って、姿を消した。


その言葉を残した彼女は、長すぎる人生に飽き飽きしていたぼくに


光のある方を教えてくれたひとだった。


それも、掴みどころのない、ひらひらとした日曜午前の陽の光みたいな光の在り処を。


そして、決して手を差し伸べず、ただ隣に座って背中を撫でてくれた。


しゃがんで俯くぼくの眼に、優しく空を映してくれた。



「私にはこの世界が美しいものに見えて仕方がないんだ。」


そう言って、綺麗に笑って泣いていた。



そんな彼女の言葉が、今でもぼくを生かしている。


世の中の一番汚いものを真っ直ぐに見て、


そのなかに美しさを見出してしまった彼女の言葉が。



つまるところ、ぼくは彼女の言葉に生かされて、彼女自身に救われている。



だから、今でもぼくは謳っている。



横を見渡しても何も映らない、一番高いところで。


一番、空に近いところで。



今夜は月がとても綺麗だ。


雲が少なくて、よく見える。


いつもだったら、このまま夜が明けるまで歌を謳うけれど、


今日は何となく、歌を謳う気分じゃない。


ただ、このまま家に帰る気も無いし、


さっき来る道で買った、温かいミルクティーでも飲みながら、


ぼくと彼女について、少し話をしようかな。

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