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それで、活動も気付けば十年目で、
十周年記念アルバムの制作が終わったころ、
アオイと初めて出会ったあの公園に、ふたりで出かけたんだ。
ぽかぽか暖かい、春の日だった。
「もう十年経ったね。」
「あっという間だったね。」
「あと何年一緒かな。」
「ずっと一緒だよ。」
「そっか。」
そんな会話をしながら桜の下を散歩して、繋いだ手はご機嫌そうにゆらゆら揺れて、
ベンチに座ってお昼を食べて、
原っぱに寝転んでお昼寝をして。
全てにふわふわとしたフィルターが書けられたような、幸せな昼下がりだった。
少し遊んで、思い出話をして。
十五時を回ったころ、
そろそろ帰ろうか、って家路についた。
神社を通って、何処かの家の夕飯の匂いが鼻をかすめて、
錆びた電灯を横目に、少しオレンジがかった道を歩いてた。
計れない時間が流れてた。
それで、
「アオイ、ありがとう。」
気付いたら、そんな言葉を口にしてた。
アオイは「ん?」って首を傾げてからふわりと笑って、
「こちらこそ、ありがとう。」
そう言って、ぺこりとお辞儀をしてくれた。
それからアルバムを発表して、ファンの方に沢山のお祝いの言葉をいただいて、
ふたりでささやかな十周年のお祝いをした。
そして、日常が戻ってきたある日、彼女は忽然と姿を消した。
何の前触れもなく、音楽だけを残して。
突然すぎる出来事だった。
アオイの部屋に入ると、いつもの作業デスクには、
新しい歌詞と、曲のイメージを書いたメモがあった。
よく見るとそこには、
見慣れた文字で、小さく「またね。ありがとう。」って書かれてた。
アオイに出会う前のぼくなら、泣いていたかもしれない。
慣れた別れに、もはや何も感じなかったかもしれない。
でも、そのときのぼくは違った。
そのときぼくは、笑ってた。
アオイらしいなと思った。
これから先、一生会えないとしても、
ぼくらは悲しむことなく生きていける自信があった。
それは、別れとは違う感覚だった。
一人旅に出かける後ろ姿を見送るような感覚だった。
それは何処かで、アオイを絶対的に信じていたからかもしれない。
こうなるのを、何処かでずっと分かっていたからかもしれない。
それは大きな出来事だったし、ファンの方にも仲間にも説明しなきゃいけなかったんだけど、
本当に何の前触れもなく消えたから説明のしようがなくて。
どうしようか悩みながら活動者の仲間に電話かけたら、みんな「知ってるよ。」って言うんだもん。
超驚いたよ。
というか訳が分かんなかった。
その友達から聞いたんだけど、
実は、アオイは他の土地に旅立つことと、活動を休むことを、ちゃんと言ってたんだ。
勿論、ぼくには内緒で。
ファンの方にも似たようなことは言ってたらしくて、あんまり大きな騒動にはならなかった。
ちょっとはごたついたけど、悪い方向には行かなかったんだ。
助かったけど、
驚いたし、完全に一本とられたよ。本当に心臓止まるかと思った。止まらないけど。
でも、みんな詳しいことは聞いてないらしくて、結局何も分からないんだ。
だから、話そうにも「急に居なくなった。」としか言えないんだよね。




