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Gypsophila  作者: 蠢爾
11/15

それで、活動も気付けば十年目で、


十周年記念アルバムの制作が終わったころ、


アオイと初めて出会ったあの公園に、ふたりで出かけたんだ。


ぽかぽか暖かい、春の日だった。


「もう十年経ったね。」


「あっという間だったね。」


「あと何年一緒かな。」


「ずっと一緒だよ。」


「そっか。」


そんな会話をしながら桜の下を散歩して、繋いだ手はご機嫌そうにゆらゆら揺れて、


ベンチに座ってお昼を食べて、


原っぱに寝転んでお昼寝をして。


全てにふわふわとしたフィルターが書けられたような、幸せな昼下がりだった。


少し遊んで、思い出話をして。


十五時を回ったころ、


そろそろ帰ろうか、って家路についた。


神社を通って、何処かの家の夕飯の匂いが鼻をかすめて、


錆びた電灯を横目に、少しオレンジがかった道を歩いてた。


計れない時間が流れてた。


それで、


「アオイ、ありがとう。」

気付いたら、そんな言葉を口にしてた。


アオイは「ん?」って首を傾げてからふわりと笑って、

「こちらこそ、ありがとう。」

そう言って、ぺこりとお辞儀をしてくれた。



それからアルバムを発表して、ファンの方に沢山のお祝いの言葉をいただいて、

ふたりでささやかな十周年のお祝いをした。


そして、日常が戻ってきたある日、彼女は忽然と姿を消した。

何の前触れもなく、音楽だけを残して。


突然すぎる出来事だった。



アオイの部屋に入ると、いつもの作業デスクには、

新しい歌詞と、曲のイメージを書いたメモがあった。


よく見るとそこには、

見慣れた文字で、小さく「またね。ありがとう。」って書かれてた。


アオイに出会う前のぼくなら、泣いていたかもしれない。

慣れた別れに、もはや何も感じなかったかもしれない。


でも、そのときのぼくは違った。


そのときぼくは、笑ってた。


アオイらしいなと思った。


これから先、一生会えないとしても、


ぼくらは悲しむことなく生きていける自信があった。


それは、別れとは違う感覚だった。


一人旅に出かける後ろ姿を見送るような感覚だった。


それは何処かで、アオイを絶対的に信じていたからかもしれない。

こうなるのを、何処かでずっと分かっていたからかもしれない。



それは大きな出来事だったし、ファンの方にも仲間にも説明しなきゃいけなかったんだけど、

本当に何の前触れもなく消えたから説明のしようがなくて。


どうしようか悩みながら活動者の仲間に電話かけたら、みんな「知ってるよ。」って言うんだもん。

超驚いたよ。

というか訳が分かんなかった。


その友達から聞いたんだけど、

実は、アオイは他の土地に旅立つことと、活動を休むことを、ちゃんと言ってたんだ。

勿論、ぼくには内緒で。


ファンの方にも似たようなことは言ってたらしくて、あんまり大きな騒動にはならなかった。

ちょっとはごたついたけど、悪い方向には行かなかったんだ。


助かったけど、

驚いたし、完全に一本とられたよ。本当に心臓止まるかと思った。止まらないけど。



でも、みんな詳しいことは聞いてないらしくて、結局何も分からないんだ。


だから、話そうにも「急に居なくなった。」としか言えないんだよね。


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