第21話 新たな疑惑
第一層の静寂を切り裂き、ガストンたち四人との戦闘が幕を開けた。
三人の男たちが一斉に得物を構え、殺気を放ちながら距離を詰めてくる。
既にレベルカンストしている俺からすれば、こいつらを倒して切り抜けるのは造作もない。が、如何なる理由があろうと、他の冒険者を傷付けるのは良くないだろう。
俺とパニなら無傷で無力化させる事が出来る。なら……
「パニ、いいか。絶対にこいつらにダメージを与えるなよ。死なせたら後味悪いし、何よりギルドへ証人として突出さなきゃ駄目だからな」
「了解です、ムクロウさん! 痛くないように、でも全力で攪乱しちゃいますね!」
するとパニエッタが杖を掲げ、高位の幻影魔法を展開する。
男たちが踏み込んだ瞬間、彼らの視界から俺たちの姿が消え、代わりに無数の「ムクロウ」と「パニエッタ」が通路を埋め尽くした。
「なっ、なんだ!? どれが本物だ!」
「こっちだよ、マヌケ」
混乱するガストンたちの背後に、俺は一瞬で回り込んだ。
スキル『神速』による移動。
俺は神槍を抜くことすらせず、急所を的確に突いて重心を崩し、頭部に一撃入れて床に転がしていく。
圧倒的な俺との実力差の前に、四人の男たちは一分と持たず、あっという間に床に這いつくばることとなった。
「……さて、ガストン。観念して例の魔道具を出せ。無駄な抵抗はやめとけよ?」
俺が冷たく言い放つと、床に顔を押し付けられたガストンが必死の声を上げた。
「ね、ねえんだよ! 本当に、ここにはねえんだ!」
「はぁ? 取引の場所だろ、ここ。誰が持ってるんだよ」
「わ、分からねえ……。俺だって、いつも顔を隠した正体不明の奴から受け取っていただけなんだ! 今日もお前らを痛めつけるだけで、魔道具は持って来てねえんだよ!」
俺は思わず深い溜息をついた。
末端の使い捨て、かよ。
魔道具が無いと言っている以上、問答しても無駄だな。こいつらはさっさとギルドへ突き出して、あとはギルドの判断に任せよう。
呆れ果てた俺はとりあえず、彼らを縛り上げて迷宮を出ることにした。
冒険者ギルドへと帰還し、俺がガストンたちをヴァネッサの前に放り出すと、タイミングを見計らったかのように奥の扉が開いた。
白銀の甲冑を纏った王国騎士の女が、部下を引き連れて現れた。
「ご苦労様、ムクロウ殿。彼らの確保、感謝するわ」
「おたくは?」
「申し遅れました。私は王国騎士団のアリゼミラと申します」
王国騎士団っ! マジか!?
こんな若くて綺麗な女が騎士団て、ファンタジー小説だけの設定じゃなかったのかよ! て、ここもファンタジー世界だったか。
俺の隣で、何故かアリゼミラに敵対心丸出しのパニエッタの視線を無視して、アリゼミラは傍らの騎士たちに指示を出した。
「ここからは騎士団の仕事よ。彼らの身柄は我々が預かり、背後関係を徹底的に洗わせてもらうわ。……レバルク殿、異論はないわね?」
呼びかけに応じるように、ギルド長のレバルクがゆっくりと歩み寄ってきた。
「もちろんです、アリゼミラ殿。ギルドとしても、これ以上は看過できませんからな。……しかし、ムクロウ殿。肝心の魔道具は?」
レバルクの鋭い視線が俺を刺す。
俺は肩をすくめて答えた。
「空振りだ。こいつらは単なる運び屋の末端だ。ブツも俺には渡すつもりはなかったんだとよ。黒幕は相当慎重だな」
「そうですか……」
レバルクが片眉を上げて、アリゼミラに視線を向ける。
ガストンたちを連れて行った部下たちを見送り、アリゼミラが応える。
「では、これから奴らを徹底的に締め上げて白状させる必要がありますね」
「そうなりますな」
レバルクとアリゼミラが不敵な笑みを浮かべる。
レバルクはともかく、アリゼミラのような美女から厳しく調書を取られるなんて……なんて羨ましい……いや、可哀想な連中だ。
連れて行かれるガストンに向かって心の中で合掌しながら、俺はレバルクとアリゼミラに告げる。
「じゃあ、容疑者も捕まえてきたことだし、俺たちはこれで……」
そう言って、俺がパニを連れてそそくさと立ち去ろうとしたが……。
「……待ってください。ムクロウ殿、パニエッタ殿。少し聞きたいことがあるのだが」
アリゼミラの呼び止めに、俺の心臓が嫌な音を立てた。
彼女はレバルクを伴い、俺たちの正面に立ち塞がる。
「貴方たちの『ステータス不表示』の件についてよ。今回ガストンのような例が出た以上、不表示の冒険者は全て調査対象になるわ。何か心当たりはないかしら? 過去に特殊な魔道具を使用したり、あるいは強い呪いを受けた経験などは?」
パニは不安そうに俺を見上げながら、
「えっとぉ……ワタシ、記憶がないので分かりません」と首を傾げた。
そして俺はといえば、「あ、いや……まあ、体質ですかね? 登録は初めてですし、はい」と、自分でも分かるほど狼狽えた受け答えをしてしまった。
それを見ていたレバルクが、追い打ちをかけるように口を開く。
「ほう、初めて……。にしては、あのガストンたちを無傷で制圧ですか……。とても新人のそれとは思えませんがな。ムクロウ殿、貴殿は一体どこでその力を培ったのかな?」
……マズい。完全に騎士団とギルドの重鎮にロックオンされている。
俺は「あー、独学です、独学」と適当な言葉を濁し、質問が終わるやいなや、いそいそとギルドを後にした。
逃げるように立ち去る俺たちの後ろ姿を見送りながら、アリゼミラは瞳の奥に深い疑念を宿した。
「……パニエッタは記憶喪失、そしてあのムクロウという男は明らかに何かを隠しているわね」
彼女の呟きに、レバルクも厳格そうな口髭を撫でながら頷く。
「ええ。あの男、底が知れませんな。……アリゼミラ殿、我々ギルドも協力しましょう。ステータス不表示の冒険者リストの精査、そしてあの二人の徹底した身辺調査。改めてその要請を受け入れます」
闇の売人の尻尾を掴んだはずが、俺たち自身に、新たな火種が降りかかろうとしていた。
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