第14話 束の間の休日
翌朝、俺とパニは冒険者ギルドへと足を運んでいた。
カウンターでは、ヴァネッサが溜まった書類を捌きながら俺たちを迎え入れる。
「あら、二人とも。今日は早いのね」
「ああ。……それで、アルヴィンたちはもう迷宮へ向かったのか?」
「いいえ。彼らなら、今日から一週間ほど迷宮探索を休むって言ってたわよ。ここまでの疲れを癒やすための休養と、次に向けての準備なんですって」
その言葉を聞いた瞬間、俺は顔には出さず、心の中でガッツポーズを決めた。
「……素晴らしい。さすがは俺の『推し』だ。がむしゃらに突っ込むだけでなく、積極的休息の重要性を理解している……! 一流の証だな」
「……何だかよく分からないけど、ムクロウさんが嬉しそうで何よりです。あ、ワタシも一週間お休みですか?」
パニが俺の顔を覗き込んでくる。俺は頷き、彼女に告げた。
「というわけで、一週間ほど俺達は自由行動だ。俺も自分の用事があるから、じゃあな、パニ」
「……えい」
踵を返そうとした俺の右腕を、パニがガシッとホールドした。
「……逃がしませんよ?」
「いや、自由行動だから……」
「ワタシの自由はムクロウの隣にあるんです。ね、ヴァネッサさん?」
「……ええ。随分と仲良くなったみたいじゃない、お熱いことで」
「そんなんじゃねえから……」
ヴァネッサは呆れたように肩をすくめると、ふとパニの身なりに目を留めた。
「それよりムクロウ。パニエッタちゃん、いつまでもそんなボロボロの服を着させているの? もっとマシな服を買ってあげたら? 女の子なんだから」
言われてパニを見ると、確かに彼女が着ているローブは迷宮で見つけた時のままで、裾はボロボロ、汚れも目立つ。
これから俺の『推し活』の相棒として動いてもらうんだ。
装備品……というか、まずは外見を整えてやるのも、雇い主(?)としての責務だろう。
「そうだな……分かった。装備品を買いに行くか、パニ」
「わぁっ! ムクロウさんとお買い物デート! ワタシ、頑張ります!」
◇◇◇
街の服屋に入ると、恰幅のいい女性店員が「超美少女!」と叫びながらパニに詰め寄ってきた。
そのままパニは奥の試着室へと連れ去られ、着せ替え人形の如く次々と服を着せられていく。
どれも似合うわね、と言いながら何気にその店員がパニに尋ねる。
「……で、お嬢ちゃん。どんな系統の服がお好み?」
カーテンの向こうから、パニの澄んだ声が響く。
「そうですね……『意中の男が思わず押し倒したくなるような服』でお願いします!」
「……ぶっ!!」
俺は飲んでいた水を盛大に吹き出した。
「おいパニ! 何を口走ってるんだ! アンタも『かしこまりました!』みたいな顔でノリノリにならないでくれ!」
「いいじゃないか、男前! 若い子の情熱は応援しなきゃね!」
「応援の方向が間違ってる! 落ち着いた服だ! ちゃんと年相応の十五、六歳くらいに見える落ち着いた服にしてくれ!」
猛烈なツッコミを入れながら、なんとか俺の社会的抹殺を回避するデザインを選ばせ、俺たちは店を後にした。
パニは新しい紺色のワンピースに薄手のマントを羽織り、ご満悦の様子だ。
その後も魔導術師らしい杖やら、念の為の回復薬なども買い込んでいった。
◇◇
その帰り道、パニが街角にある一軒の店に興味を示した。
「ムクロウさん、あの『ぱふぇ』という食べ物……キラキラしていて、とっても美味しそうです」
「パフェ、か……」
『ダンガン』にはそんなスイーツの概念……というか、こんな街並みの風景はなかったからな。
俺にとっても、この迷宮都市グランビーツの風景はとても新鮮ではある。
とりあえず興味本位で店内を覗くと、そこはカップルと女性グループばかりの桃源郷。
二十代半ばの男が一人で入るには勇気がいるが、パニが嬉しそうにしているので俺は腹を括ることにした。
テーブルを挟んで座る。パニが運ばれてきたパフェを見て「わぁ……!」と目を輝かせていると、ふと店内の端に見覚えのある顔が二つあった。
(な、ナツメとルナリア……!?)
そこには、普段の迷宮探索用の装備を脱ぎ、私服姿で仲良くパフェを突っついているナツメとルナリアの姿があった。
私服姿の彼女たちは、年相応の可憐な少女そのものだ。
「……っ、……っっっ!!」
「ムクロウさん? 顔がすごいことになってますよ」
声にならない興奮で震える俺に、パニがジト目を向ける。
俺の視線の先にナツメとルナリアがいるのをパニも確認して、また俺に視線を戻す。
「パニ……見ろ。あれが、俺の『推し』だ。私服でパフェ……実体化した俺の理想そのものが、そこにある……」
「ムクロウさんは、ああいう感じが好きなんですか?」
「好きというか……魂の救済、人類の至宝、俺の生存理由そのものだ……」
「……あぁ、ダメだ。この人、手遅れなこと口走ってる」
パニは困惑しながらも、俺のあまりに幸せそうな……それでいて、どこか危うい表情を見て、小さく笑った。
◇◇
店を出て、パニと共に夕暮れの道を歩く。
俺がいつまでも「パフェ最高……私服尊い……」と呟いていると、パニが俺の袖を引いた。
「ムクロウさんが幸せそうなのを見て、ワタシも幸せな気分になりました。……でも」
「でも?」
「……ちょっと、キモさもあるかな、って」
グサッ、と胸に槍が突き刺さった。物理的な長槍よりも鋭い一撃だ。
「……パニ。それは、おじさん……いや、二十代の男でも、結構くる言葉だぞ」
「えへへ、冗談ですよ。……半分くらいは」
少しだけ落ち込む俺の隣で、パニは心底楽しそうに笑いながら、新しい服の裾を揺らして歩いていくのだった。
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