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第13話 迷宮の成り立ちとおじさんの目的

 迷宮都市の夜は、今日も冒険者たちの熱気に包まれていた。

 

 『踊る子羊亭』の酒場で、俺とパニは並んで夕食を囲んでいる。

 今日の第六層での誘導作戦は大成功だった。アルヴィンたちは大きな怪我を負うこともなくマッピングを終え、意気揚々と帰還していった。


 パニは木皿のシチューをスプーンですくい、もぐもぐと咀嚼しながら不思議そうに俺を見た。


「ムクロウさん、今日は凄かったですね。でも……ワタシ、少し不思議です。ムクロウさんは、迷宮制覇が目的じゃないんですか? あんなに強いのに」

「迷宮制覇、か。……まあ、俺の目的はあくまで『推し活』だからな」


 俺はエールのジョッキを置き、ふと『ダンガン』の公式設定を思い出した。

 この世界の成り立ち、そしてなぜ大陸中の冒険者が命を懸けてこの最果ての迷宮に挑むのか。

 食事を続けるパニに、俺の知っている数少ない『ダンガン』の公式設定、ストーリーを説明する。


「いいかパニ。このグランビーツ迷宮を造ったのは、三代前の国王なんだ」

「……王様が迷宮を? モンスターが住む場所をわざわざ造ったんですか?」

「ああ。彼は優秀な王であると同時に、歴史に名を残す偉大な魔術師でもあった。国を守るために、より強靭で、より強固な騎士団が必要だと考えた彼は、わずか数ヶ月で全二十階層に及ぶこの巨大な訓練施設――迷宮を造り出したんだよ」


 何度も読み返した『ダンガン』の説明書に記載されていた、グランビーツ迷宮の設定だ。


 地脈から無限に魔力を吸い上げ、結晶化した魔石を核としてモンスターを無限に肉付けするシステム。五層、十層、十五層に配置された強力な守護者ガーディアン。そして、最下層の二十階層に鎮座する迷宮主ダンジョンマスター


「その迷宮主を倒して『迷宮主の紋章』を手に入れた者は、グランビーツ王国騎士団への入団が許可される。それはつまり、一生食いっぱぐれない黄金の椅子を手に入れることと同じなんだ」


 ただ給料がいいだけの職業じゃない。本人はもちろん、配偶者やその子供にまでその手厚い恩恵が及ぶ。しかも王国騎士という特権階級だ。貧民街から成り上がろうとする者、家族を養おうとする者にとって、それは人生を懸けるに値する究極の「成り上がり」なのだ。


「……だからみんな、必死になって潜る。アルヴィンたちだって、それぞれの夢を持って騎士団入りを目指してるはずだ。ま、俺はあいつらがその夢を叶える瞬間を特等席で見たいだけなんだけどな」


 説明を終えて、俺はパニに向き直った。

 俺の見た目は二十代半ばといったところだが、中身は四十のおじさんだ。つい教師のような口調になってしまう。


「お前も、元々は騎士団に入るためにこの街に来たのか?」

「うーん……。どうだったんでしょうね?」

 

 パニは首を傾げ、少しだけ困ったように笑った。

 

「ワタシ、騎士団にはあまり興味がないみたいです。でも、今日みたいにムクロウと『推し活』をするのは、とっても楽しいです! ワタシ、これからもムクロウのお役に立ちたいです。だから……」


 パニはスプーンを置くと、上目遣いで俺の顔をじっと見つめてきた。

 

「明日も一緒に連れて行ってくれますか? 相棒として」

「……おう、頼むぞ。今日はかなり助かったしな」

 

 俺は自然と手を伸ばし、パニの柔らかな髪をクシャクシャと撫でた。


「ふぇっ!? ……えへへ、ムクロウさんに撫でられると本当に嬉しいです……」

 

 パニは嬉しそうに目を細めていたが、何を思ったのか、突然椅子をガタつかせて俺の隣に密着してきた。


「ねえ、ムクロウさん。ワタシ、もっとムクロウさんのお役に立ちたいんです。……例えば、夜の……マッサージとか、どうですか? 疲れ、とってあげますよ?」


 パニは頬を少し赤らめ、俺の腕に柔らかい体を押し付けてくる。

 可愛らしく小首を傾げ、潤んだ瞳で誘惑するように見つめてくるその姿は、確かに男心をくすぐるものがあったが……。


「……パニ。どこでそんな安っぽい誘惑の仕方を覚えたんだ? 記憶を失くす前はキャバクラにでも働いていたのか?」

 

 俺は冷めた声で言い放ち、空いた左手でパニの額をぐいっと押し返した。


「あいたっ!? ……ムクロウさん、冷たいです! キャバクラって何なのか分かんないですけど……せっかくワタシが勇気を出して……!」

「いいから飯を食え。食ったらさっさと自分の部屋に戻って寝ろ。明日もギルドに行って、迷宮に入るんだからな」

「うー! 分かってますよ、もう……」


 パニは頬を膨らませてシチューを乱暴に口へ運び始めた。

 

 俺に迷宮制覇なんてものは眼中にない。別に騎士団にも興味はない。


 

 せっかくこの『世界(ダンガン)』に来たんだ。 

 俺の青春……分身とも言える大好きな『推し』たちが夢を叶える姿を、間近で見届けたい。

 今あるのはただそれだけだ。


 俺の第二の人生は、どうやら思っていたよりも波乱万丈で、悪くない方向へ進んでいるようだ。

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