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第12話 天才魔導術師の片鱗

 「急ぐぞ、パニ! アルヴィンたちが第六層に踏み込む前に追いつかなきゃならないんだ!」

 

 迷宮の入り口を抜けた瞬間、俺は速度を上げた。背後ではパニエッタが必死に足を動かしてついてくる。


「ムクロウさん、なぜそんなに急ぐんですか?」

「決まっているだろ、『推し』を見つけるためだ!」

「な、なるほど……おし……?」


 パニは不思議そうに首を傾げているが、説明している暇はない。

 アルヴィンたちは第五層の守護者を倒している。だから次の探索場所は第六層の可能性が高い。

 初見殺しの罠がわんさか仕掛けられている第六層探索は、絶対に俺のサポートが必要なのだ。

 急がねば……。


「シッ!」


 行く手を阻むモンスターたちを、俺は足を止めることなく長槍の一振りで塵に変えていく。

 そのあまりに無駄のない作業を目の当たりにして、俺の後ろに付いて来るパニの瞳がキラキラと輝き出した。


「すごいです、ムクロウさん! まるでゴミを掃くみたいにモンスターが……!」

「褒めても何も出ないぞ。ほら、遅れるなよパニ」

「パニ? ……はい! ワタシ、パニって呼ばれるの、なんだか……好きです!」


 いつの間にか口を突いて出た略称を気に入ったのか、彼女はさらに足取りを軽くして、俺の後を必死に付いて来ていた。


 ◇◇◇


 第五層の中盤を過ぎたあたりで、俺の「推しセンサー」が最大級の反応を見せた。

 通路の先に、見覚えのある背中が四つ。


「いた……!」


 予想通りだ。しかも間に合った。

 俺はパニの肩を掴んで、岩陰に素早く身を隠した。

 

「しっ、静かに。……いいか、あそこにいる四人が俺の『推し』だ。絶対にバレるなよ」

「あの人たちが……ムクロウの推し……。ワタシ、しっかり目に焼き付けました」


 パニは俺に倣って、真剣な眼差しでアルヴィンたちを覗き込んでいる。

 

 アルヴィンたちは、既に紋章を持っているため第五層守護者のニードルドラゴンは出現しない。

 アルヴィンたちはその玄室を素通りし、いよいよ第六層へと足を踏み入れた。


 

 ――ここからが本番だ。


 第六層に入った途端、アルヴィンたちの動きが極端に慎重になった。

 

「……ここからは罠だらけだ。慎重に行こう」

 

 アルヴィンの声が聞こえる。

 彼らも警戒はしているが、どこに回転床があり、どこに不可視の落とし穴があるかまでは知らない。


「……まずい、そっちは落とし穴だ!」


 俺は自作のマップと彼らの進路を照らし合わせ、彼らの後ろをぴったりと追い掛ける。

 

 アルヴィンたちが前に歩を進める度に、俺は気配を絶って、とんでもない速度で先回りし、落とし穴の蓋を魔力で固定して回る。

 さらに別の場所では、回転床の感知盤に小石を挟んで無効化する。

 アルヴィンたちに罠を発動させない、その思いだけが俺の原動力だ。


「はぁ、はぁ……っ、死ぬかと思った……」

 

 これを数十回繰り返し、さすがに俺は肩で息をする。

 物理的な罠解除は、レベル99の俺には問題ない。だが彼らに気付かれずに先回りして解除して、更にまた戻っての繰り返しにさすがの俺でも疲労が溜まっていく。

 何か、もっと効率的で、確実な方法はないか……。


「……ムクロウ。罠だったら、ワタシが解除できるよ?」

 

 パニが隣でひょいと手を挙げた。

 

「は……?」

「【魔力感知阻害ジャミング・ベール】。えいっ」


 パニが可愛らしく手を振ると、アルヴィンたちの周囲の空気がわずかに歪んだ。

 

「これで、魔力で作動する罠はアルヴィンたちの魔力を感知できないよ。動かないから、ただの床と同じ」


 俺は絶句した。

 罠の発動を阻害する魔法だと……?

 そんな魔法……『ダンガン』の世界には存在しなかったぞ……!?

 

 旧世代のゲーマーである俺の知識を、パニの魔法が軽々と飛び越えていく。

 レベルは分からないが、パニは魔術師の上位職、魔導術師だ。もしかしたら俺が知らないような……『ダンガン』には存在しなかった魔法をもっと知っているのか?


「パニ……お前、他にはどんな魔法が使える?」

「あとは……そうですね。あっちに壁があるように見せたり、進行方向をぐにゃっと曲げて見せたり……『幻影』を見せる事が出来ます」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内に最強のサポートプランが構築された。

 

「よし、パニ! だったらこのマップを見ろ。ここが安全ルートで、ここが即死級の罠だ。お前のその幻影魔法で、罠のある通路を行き止まりの壁に見せろ。逆に安全な道を『唯一の正解』として見せるんだ!」

「分かりました! ワタシ、ムクロウのお役に立ちます!」


 それからの俺たちの連携は完璧だった。

 アルヴィンたちを安全ルートに誘い出す為、俺がパニを抱えて先に回り込み、パニが危険なルートに繋がる通路前に、岩壁の幻影を作って塞ぐ。

 更に安全ルートに繋がる通路にはパニが作った「いかにも希望の光」が差し込んでいるような、という幻影を見せる。

 こうしてアルヴィンたちがマップ上の安全なルートを辿るよう、俺達二人で誘導していった。 

 本来ならかなり時間のかかる第六層の踏破が、見る見るうちに進んでいく。

 アルヴィンたちはただ踏破するだけじゃなく、カイトがしっかりとマッピングしているようだし、次回以降もこの安全ルートを進んでくれるだろう。


  

「すごいぞパニ! 完璧だ!」

「えへへ……ムクロウに褒められると嬉しいです! ワタシは役に立ちましたか?」

「立った、立った。良くやったよ」

「じゃあ、今日は同じ部屋で寝てくれますか?」

「それは話が別」

「うー……。そうですか」


 暗い第六層の中で、俺の「推し活」は、パニエッタという強力な力を得て、加速していくのだった。

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