第1話 報告
ハイサイ!nankul naisaです。
読んでいただきありがとうございます。プロローグが終わって1章を書いていきたいと思います。
ゆっくりのんびりやっていきたいと思います。
選択の間が静かに消え、気づけば影真はダンジョンへ戻っていた。
少しふらつきながらも、すぐそばの出口へ向かう。
冷蔵庫の前。
いつもと変わらない光景だった。
体は正直で、足がじわりと重い。肩には鈍い痛みが残っている。ボス戦でもらったかすり傷が、今さらのようにズキズキと疼いていた。
「……まずは、風呂だな」
誰に言うでもなく呟き、影真はのろのろと浴室へ向かった。
◇◆◇
湯船に沈みながら、右肩の擦り傷を確認する。大した傷ではない。だが、じんわりと熱を持っていた。
どこか夢心地で、今はあまり思考がまとまらない。どうせ脳が勝手に整理してくれるだろうと、目を閉じて外の風の音に耳を澄ませる。
胸に吸い込まれた光球。
魔石が指先から消えた感触。
体の内側に宿った、確かな何か。
試したい気持ちはある。だが、今夜はもういい。
ボスに勝ったのに、睡魔に負けるわけにはいかない。
湯船から上がり、買っておいた回復薬を塗る。これはあくまで回復を早めるだけのものだ。魔法の薬のように一瞬で治るわけではない。
もちろん、金を出せばそういう高級品もある。だが、駆け出しの探索者には厳しい。
影真はそのままベッドへ倒れ込んだ。
◇◆◇
目が覚めると、窓から差し込む光が眩しかった。
「……どれぐらい寝ていたんだ」
時計を見ると、午後二時を過ぎている。
普段より数時間遅い。ダンジョン内部の時間の影響か、それとも単純に疲れていたのか。たぶん両方だ。
しばらく天井をぼーっと眺めてから、のそりと起き上がる。
腹が鳴った。
台所で適当に食べ物を見繕い、ソファへ座る。ポッドキャストをつけると、どこかの探索者が浅層で活躍しているニュースが流れていた。
影真はそれを半分聞き流しながら、もう半分の意識で昨日のボス戦を反芻する。
あの顎への拳。
喉元への逆手の短剣。
今でも鮮明に覚えている。
悪くなかった。だが、まだまだ甘い。頭の中のイメージに、全然追いついていない。
「まあ、いいさ。少しずつでいい」
◇◆◇
夕方、重い腰を上げてギルドへ向かう。
外の空気は少し涼しく、歩くと気持ちよかった。
腰の袋には、ボスが落とした大きな魔石が入っている。普通の極小魔石より明らかに重い。換金額がどうなるのか、少し気になっていた。
ギルドの扉を開けると、見慣れたカウンターと、見慣れた受付嬢の顔があった。
「あ、影真さん。今日は遅かったですね」
「……まあな」
「珍しい」
短いやり取りをしながら、影真は袋をカウンターへ置いた。
受付嬢が中を確認した瞬間、僅かに目を見開く。
「これ……ボス個体の魔石ですか?」
「そう」
「倒したんですか、一人で?」
「ああ」
受付嬢はしばらく魔石を眺め、それから影真の顔を見て、また魔石を見る。
「……すごいですね」
「頑張った」
素っ気なく返したが、うれしかった。
影真は探索者カードを差し出す。端末へ通すと、青白い光が走り、数字が跳ね上がった。
【残高:15,000P → 165,000P】
やはりボスが報酬が破格だ。
◇◆◇
「そ、そういえば」
影真は高揚する気持ちを静めるために続けた。
「ボスを倒した後、特殊な空間に移動した」
受付嬢の手が止まる。
「……選択の間、ですか」
「名前があるのか」
「報告例が何件かあります。ただ、詳細はほとんど分かっていなくて」
影真は少し間を置いて続けた。
「能力をもらった」
「どんな能力ですか?」
「……うーん、よくわからん」
嘘ではない。試したのは一度だけだ。
受付嬢は頬を引きつらせながら、ぎこちなく微笑む。
「記録しておきますね」
そう言って、端末へ入力を始めた。
カウンター越しに受付嬢が聞く。
「……影真さんは、やっぱり正直な人ですね」
「なにが?」
「また指がせわしなく動いてますよ」
影真は少し目を見開いた。
「……嬉しくてもいいだろ」
少し拗ねた。
受付嬢はきょとんとした顔をして、それからくすりと笑う。
「もちろんです」
「ボスは他にもいるのだろう?」
影真は無理やり話を逸らした。
「はい、まだ四体います」
「四体か……」
「もう次を考えてるんですか?」
「まあ、一応考えてるけど」
「とりあえずは、ゆっくり休んだらどうですか?」
「ああ、そうさせてもらおう」
影真はカードを受け取り、軽く会釈して踵を返した。
ギルドを出る。夕暮れの気持ちいい風が吹く。
ポケットの中で探索者カードに触れる。数字だけではない、何かが確実に積み重なっていく感覚が快感だった。
影真は空を一瞥し、帰り道に軽く食料を買って家へ向かう。
冷蔵庫の中のダンジョン、まだまだ楽しみは始まったばかりなのだから。
最後までお付き合いありがとうございました。
ゆる~く更新出来たらと思ってます。




