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『ダンジョン物語』  作者: nankul naisa
第一章
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9/20

第1話 報告

ハイサイ!nankul naisaです。

読んでいただきありがとうございます。プロローグが終わって1章を書いていきたいと思います。

ゆっくりのんびりやっていきたいと思います。



 選択の間が静かに消え、気づけば影真はダンジョンへ戻っていた。


 少しふらつきながらも、すぐそばの出口へ向かう。


 冷蔵庫の前。

 いつもと変わらない光景だった。


 体は正直で、足がじわりと重い。肩には鈍い痛みが残っている。ボス戦でもらったかすり傷が、今さらのようにズキズキと疼いていた。


「……まずは、風呂だな」


 誰に言うでもなく呟き、影真はのろのろと浴室へ向かった。


 ◇◆◇


 湯船に沈みながら、右肩の擦り傷を確認する。大した傷ではない。だが、じんわりと熱を持っていた。


 どこか夢心地で、今はあまり思考がまとまらない。どうせ脳が勝手に整理してくれるだろうと、目を閉じて外の風の音に耳を澄ませる。


 胸に吸い込まれた光球。

 魔石が指先から消えた感触。

 体の内側に宿った、確かな何か。


 試したい気持ちはある。だが、今夜はもういい。


 ボスに勝ったのに、睡魔に負けるわけにはいかない。


 湯船から上がり、買っておいた回復薬を塗る。これはあくまで回復を早めるだけのものだ。魔法の薬のように一瞬で治るわけではない。


 もちろん、金を出せばそういう高級品もある。だが、駆け出しの探索者には厳しい。


 影真はそのままベッドへ倒れ込んだ。


 ◇◆◇


 目が覚めると、窓から差し込む光が眩しかった。


「……どれぐらい寝ていたんだ」


 時計を見ると、午後二時を過ぎている。


 普段より数時間遅い。ダンジョン内部の時間の影響か、それとも単純に疲れていたのか。たぶん両方だ。


 しばらく天井をぼーっと眺めてから、のそりと起き上がる。


 腹が鳴った。


 台所で適当に食べ物を見繕い、ソファへ座る。ポッドキャストをつけると、どこかの探索者が浅層で活躍しているニュースが流れていた。


 影真はそれを半分聞き流しながら、もう半分の意識で昨日のボス戦を反芻する。


 あの顎への拳。

 喉元への逆手の短剣。


 今でも鮮明に覚えている。


 悪くなかった。だが、まだまだ甘い。頭の中のイメージに、全然追いついていない。


「まあ、いいさ。少しずつでいい」


 ◇◆◇


 夕方、重い腰を上げてギルドへ向かう。


 外の空気は少し涼しく、歩くと気持ちよかった。


 腰の袋には、ボスが落とした大きな魔石が入っている。普通の極小魔石より明らかに重い。換金額がどうなるのか、少し気になっていた。


 ギルドの扉を開けると、見慣れたカウンターと、見慣れた受付嬢の顔があった。


「あ、影真さん。今日は遅かったですね」


「……まあな」


「珍しい」


 短いやり取りをしながら、影真は袋をカウンターへ置いた。


 受付嬢が中を確認した瞬間、僅かに目を見開く。


「これ……ボス個体の魔石ですか?」


「そう」


「倒したんですか、一人で?」


「ああ」


 受付嬢はしばらく魔石を眺め、それから影真の顔を見て、また魔石を見る。


「……すごいですね」


「頑張った」


 素っ気なく返したが、うれしかった。


 影真は探索者カードを差し出す。端末へ通すと、青白い光が走り、数字が跳ね上がった。


【残高:15,000P → 165,000P】


 やはりボスが報酬が破格だ。


 ◇◆◇


「そ、そういえば」


 影真は高揚する気持ちを静めるために続けた。


「ボスを倒した後、特殊な空間に移動した」


 受付嬢の手が止まる。


「……選択の間、ですか」


「名前があるのか」


「報告例が何件かあります。ただ、詳細はほとんど分かっていなくて」


 影真は少し間を置いて続けた。


「能力をもらった」


「どんな能力ですか?」


「……うーん、よくわからん」


 嘘ではない。試したのは一度だけだ。


 受付嬢は頬を引きつらせながら、ぎこちなく微笑む。


「記録しておきますね」


 そう言って、端末へ入力を始めた。


 カウンター越しに受付嬢が聞く。


「……影真さんは、やっぱり正直な人ですね」


「なにが?」


「また指がせわしなく動いてますよ」


 影真は少し目を見開いた。


「……嬉しくてもいいだろ」


少し拗ねた。


 受付嬢はきょとんとした顔をして、それからくすりと笑う。


「もちろんです」


「ボスは他にもいるのだろう?」


 影真は無理やり話を逸らした。


「はい、まだ四体います」


「四体か……」


「もう次を考えてるんですか?」


「まあ、一応考えてるけど」


「とりあえずは、ゆっくり休んだらどうですか?」


「ああ、そうさせてもらおう」


 影真はカードを受け取り、軽く会釈して踵を返した。


 ギルドを出る。夕暮れの気持ちいい風が吹く。


 ポケットの中で探索者カードに触れる。数字だけではない、何かが確実に積み重なっていく感覚が快感だった。


 影真は空を一瞥し、帰り道に軽く食料を買って家へ向かう。


 冷蔵庫の中のダンジョン、まだまだ楽しみは始まったばかりなのだから。





最後までお付き合いありがとうございました。

ゆる~く更新出来たらと思ってます。

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