第10話 ジャックポット
ハイサイ!nankul naisaです。
読んでいただきありがとうございます。
ギルドを出た足で、影真はふらりと隣の建物へ向かった。
ギルド併設のスロット施設。前から気になっていたが、なかなか足を運ぶ機会がなかった。今日は複数のネコモンスターを撃破した達成感もある。たまには息抜きもいいだろう。
「……気になっていたし、やってみるか」
扉をくぐると、館内は静かな熱気に満ちていた。並んだ台の前で、探索者たちが思い思いに座っている。壁には「能力使用禁止・検知システム作動中」の張り紙があった。
影真は空いている台に座った。画面には剣、槍、斧、盾といった一般的な武具のイラストが並んでいる。
◇◆◇
「ジャックポット……4倍キャリーオーバー中、か」
台の上部に表示された文字を見て、影真は少し目を細めた。普段よりかなり額が膨らんでいるらしい。初心者向けのギルド系列スロットにしては、随分と気合の入った数字だ。
「まあ、記念に今回はマックスベットで」
財布を確認する。今日は稼ぎもあった。一勝負くらいは出来るだろう。
男ならもちろんマックスベット、1,000Pで勝負だろ。
カードを差し込み、台にポイントがチャージされる。
少しの緊張と高揚感の中大きいレバーを引いてみる。
◇◆◇
図柄が回る。剣、盾、槍のイラスト。
――止まる。
外れ。
「まあ、そんなもんだよな」
もう一度。また外れ。
影真は最初の緊張が嘘のように、淡々とレバーを引き続けた。この時、影真はネコモンスターとの複数戦闘を振り返っていた。
三回目、四回目、五回目。すべて外れ。
六回目。図柄が揃いかけたが、あと一つで逃した。
「……これは、もしかするのか」
周囲の探索者は影真の事など眼中になく各々で盛り上がっていた。それとは対照的に、絶望した顔でレバーを握りしめている人もいる。
◇◆◇
七回目、八回目、九回目。
影真の中に、諦めに近い感覚が芽生え始めていた。まあ、こんなものだろう。景品目当てというより、ただの暇つぶしだ。
十回目。財布の中の1,000Pを見つめる。
「……きりがいいからこれで終わるか」
レバーを引く。
図柄が回転する。槍、盾、剣――そして。
――J。
――J。
――J。
台全体が突然、けたたましい音と光を放ち始めた。
「――は?」
影真は硬直した。
「JACKPOT」の文字が画面いっぱいに点滅し、周囲の探索者たちが一斉に振り返る。
「うわ、マジかよ」「JJJ揃った……!?」「え、キャリーオーバー分全部……?」
ざわめきが広がる中、影真は自分の目を疑いながら画面を見つめていた。
◇◆◇
スタッフが慌てて駆け寄ってきた。
「お、おめでとうございます……! ジャックポット達成です!」
「……」
頭が真っ白だった。
案内された景品交換カウンターで、影真は説明を受けた。
「今回のジャックポットは、キャリーオーバーで通常の4倍、20万ポイント分となります。このポイントはお客様のギルドカードに記録されまして、こちらの景品リストからお選びいただけます」
影真はここで正気を取り戻した。
「カ、カードに記録? その場で貰えるわけじゃないのか」
「はい。ポイント形式になっております。ギルド系列の店舗でしたら手数料なしでご利用いただけますが、他の運営会社の店舗ですと交換の際に手数料が発生します」
「手数料か…」
影真はリストを一通り眺めた。刀、剣、槍、大盾――どれも見るからに上質な品で、交換ポイントもそれなりに高い。
やがて、隅の方にある項目で目を止めた。
「短剣は、一本いくらだ?」
「短剣ですと……一本10万ポイントとなります」
思わず目を細める。他の武器に比べて、驚くほど安い。
「二本でちょうど20万か」
「はい、一応はぴったりですが」
「なら、それを二本」
スタッフは少し申し訳なさそうな顔をした。
「よろしいのですか? 実は短剣はあまり人気がなくて……せっかくのジャックポットですし、貯めて違う武器への交換を目指す方が多いですよ」
「いや、俺はこれがいい」
影真にとっては渡りに船だった。剣も槍も自分のスタイルには合わない。短剣こそが今欲しいものだった。
「それに、こういうのは使い切った方が縁起がいい気がする」
「……確かに、そうかもしれないですね」
スタッフは微笑んで納得したように頷いた。
◇◆◇
カウンターに置かれた丁寧な作りの木箱が開けられる。中には磨き上げられた短剣が二本、丁寧に収められていた。刃は吸い込まれるように綺麗で柄はシンプルなデザインでワンポイントだけ繊細な意匠が施されている。
「……これはセール品では満足出来なくなるかもな」
影真は思わず呟いた。今使っている短剣は、駆け出しの頃にセールで買った安物だ。それに比べて、この二本は明らかに格が違う質感をしていた。
「短剣を使う方は少ないので……活用される方には実はかなりお得なリストだったようですね」
「それは僥倖だったな」
影真は少し口角を上げた。人気がないからこそ回ってきた幸運。悪くない流れを感じた。
◇◆◇
短剣を受け取り、施設を出る。
夕暮れの空の下、影真は手にした丁寧な作りの木箱を見下ろした。
「……とんでもない拾い物したな」
自然と笑ってしまう。
地道な反復で積み上げてきた戦闘の成果とはまったく違う、思いがけない幸運、まさに棚から牡丹餅だった。
この二本の短剣をどう次回の戦闘に試そうか考えるだけでワクワクが止まらない。今の逆手スタイルに合わせるか、それとも新しい戦い方を試すか。
「……次のダンジョンが、楽しみになってきたな」
影真は木箱を大事に抱え、家路についた。
最後までお付き合いありがとうございました。
ゆる~く更新出来たらと思ってます。




