第9話 直感
ハイサイ!nankul naisaです。
読んでいただきありがとうございます。
第一エリアへ戻り、影真は岩壁に背にヤンキー座りで考えていた。
二匹同時の動きを追い切れない。片方の耳の動きを見れば、もう片方の重心の変化を見逃す。目で追って判断する速度には、限界がある。
「……見るだけじゃ、間に合わないな」
単独の時は、癖を観察して読むだけで十分だった。だが二匹になると情報量が倍になる。視覚に頼った判断では、処理が追いつかない。
ならば、別の何かに頼るしかない。
影真は自分の戦闘を思い返した。ボス戦で、姿勢を低くして顎の下へ滑り込んだあの瞬間。頭で考える前に、体が先に動いていた。
あれは、直感だった。
「……直感、か」
目で見て判断するのではなく、感覚で先に動く。それを鍛えられないだろうか。
◇◆◇
極小魔石を手のひらに乗せる。
影真は目を閉じ、強く意識した。
もっと直感を研ぎ澄ませたい。考えるより先に、体が反応できるように。
――すっ、と。
魔石が吸い込まれた。頭の奥ではなく、もっと深いところ、胸のあたりがじわりと熱を持つような感覚があった。
「……これは、期待できそうだな」
反応速度の強化とは違う手応えがあった。
◇◆◇
影真は再び第二エリアへ踏み込んだ。
あの二匹はまだそこにいた。
「……試させてもらうか」
二匹が同時に散開する。左と右。影真は目の焦点をあえてぼかし、考えるより先に動くことを意識した。
だが、うまくいかない。
頭では「感じろ」と強く意識しても、体は反射的に視覚情報を追ってしまう。左を見れば右を見失う癖が、まだ抜けていなかった。
「っ」
右からの爪を辛うじて避けたが、体勢が崩れる。左のネコモンスターの突進をまともに受け、肩に衝撃が走った。
「……まだまだ甘いか」
距離を取り、息を整える。直感はまだ体に馴染んでいない。理屈ではわかっていても、実戦で発揮するには経験が足りなかった。
今日は潔く撤退だな。
◇◆◇
第一エリアへ戻り、ひよこモンスターを狩りながら魔石を吸収する。
もっと直感を研ぎ澄ませたい。今日感じたネコモンスターの気配、動きの予兆を思い出しながら、強く意識して触れる。
――すっ、と。
単純なひよこの動きでも、直感を意識して対峙すると発見があった。突進の直前、地面を蹴る前のわずかな沈み込み。目で捉えるより早く、体がその予兆を感じ取っている瞬間があった。
「……こういうことか」
ひよこ相手に感覚を復習、そして第二エリアへ戻る。その繰り返しだった。三度目、四度目と挑戦を重ねるうちに、攻防の中で少しずつだが直感が研ぎ澄まされていくのを感じる。
◇◆◇
五度目の挑戦。
通路の先に、あの二匹がいた。
「……今度こそ」
影真は深く息を吸い、目の焦点をあえてぼかした。見るのではなく、感じる。
二匹が同時に散開する。左と右。
考えるより先に、体が反応する。左から迫る爪を紙一重で避けながら、右のネコモンスターへ向けて自然と拳が出ていた。
「っ――やっとか」
確かな手応え。
もう一匹が横から突っ込んでくる。影真は振り返る前に、すでに半歩下がっていた。まるで後ろを把握してるかのように。
「……この感じは今までにないな」
二匹の気配を同時に捉えられている感覚があった。
「これは、最高に楽しいぜ」
影真は口角を上げ、構えを取り直した。
◇◆◇
攻防が続く。
一匹に拳を、もう一匹に短剣を。直感に従って体を動かすうちに、少しずつ二匹の動きに差をつけられるようになってきた。
一匹が大きく隙を見せた瞬間、影真は迷わず踏み込んだ。逆手の短剣を脇腹へ突き立てる。
「ミャギャッ!」
もう一匹が援護に入ろうとする気配を、影真は察知していた。振り向かずに肘を後方へ突き出す。狙い通り、肘が飛びかかってきたネコモンスターの顔面を捉えた。
「ミャッ!?」
怯んだ隙に、影真は最初の一匹へ止めを刺す。喉元へ短剣を深く押し込んだ。
「――ミャァ」
馬鹿にするようなメルヘンな音と共に、一匹が魔石へと変わった。
残る一匹は、明らかに動揺していた。仲間を失った直後の隙を、影真は見逃さなかった。
踏み込み、拳で顎をかちあげる。頭が跳ね上がったところへ、短剣を喉元へ突き立てた。
「――ミャッ」
二匹目も、メルヘンな音と共に魔石へと変わった。
◇◆◇
通路に静寂が戻る。
影真はしばらくその場に立ち尽くし、荒い息を整えた。
「……やっとだな」
達成感が全身を満たす。単独戦とは比べ物にならない疲労感だったが、それ以上の充実感があった。
二つの魔石を袋へ収めながら、影真は小さく笑った。
「直感、まだまだ未熟だな。もっと磨かないとな」
◇◆◇
その日の夕方、影真はギルドへ向かった。
袋の中には、この数日で稼いだひよこモンスターの魔石が十個、そしてネコモンスターの魔石が二つ入っていた。
カウンターに置くと、受付嬢が中を確認しながら数字を打ち込んでいく。
「ひよこの魔石が十個、それとネコの魔石が二つですね」
「複数のネコモンスターを倒せた」
「おめでとうございます……!」
受付嬢は目を輝かせてから、少し驚いたように付け加えた。
「それに、久しぶりの換金じゃないですか?」
「ああ、かなり苦戦したからな」
探索者カードを差し出す。端末に通すと、青白い光と共に数字が更新された。
【残高:167,400P → 181,400P】
「大変でしたね」
「今回もかなり勉強になった」
受付嬢は端末を操作する手を止め、少し身を乗り出した。
「そういえば、この前のアドバイス、少しは参考になりましたか? パーティーの話とか、ソロの人の話とか」
影真は少し考えてから苦笑い気味に答えた。
「参考にはならなかったな」
「……ですよね」
受付嬢が申し訳なさそうな顔をする。
「でも、参考にならないってわかったのが逆に良かった」
「えっ、どういうことですか?」
「誰かの真似じゃ通用しないってわかったから、俺にしかできない攻略法を考えた」
受付嬢が首を傾げる。
影真は少し身を乗り出して答えた。
「直感を鍛えることにした」
「直感、ですか?」
「目で追うんじゃなくて、感じて動く。」
影真は淡々と説明した。だが口調とは裏腹に、少し高揚した響きが混じっていた。
受付嬢はしばらく目を丸くしていたが、やがてくすりと笑った。
「それは、影真さんらしいですね」
「そうだな」
影真も笑って答えていた。
「はい。誰の真似もせずに、自分のやり方を探すところが」
少し照れくさくなり、影真は視線を逸らした。
「……まあ、それが好きなんだろうな」
◇◆◇
ギルドを出て、夕暮れの風の中を歩く。
直感という新しい武器。地道な積み重ね。少しずつ、確かに前へ進んでいる。
「……次は、どうしようかな」
影真は空を見上げ、頬を緩めた。
最後までお付き合いありがとうございました。
ゆる~く更新出来たらと思ってます。




