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『ダンジョン物語』  作者: nankul naisa
第一章
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17/20

第9話 直感

ハイサイ!nankul naisaです。

読んでいただきありがとうございます。



 第一エリアへ戻り、影真は岩壁に背にヤンキー座りで考えていた。


 二匹同時の動きを追い切れない。片方の耳の動きを見れば、もう片方の重心の変化を見逃す。目で追って判断する速度には、限界がある。


「……見るだけじゃ、間に合わないな」


 単独の時は、癖を観察して読むだけで十分だった。だが二匹になると情報量が倍になる。視覚に頼った判断では、処理が追いつかない。


 ならば、別の何かに頼るしかない。


 影真は自分の戦闘を思い返した。ボス戦で、姿勢を低くして顎の下へ滑り込んだあの瞬間。頭で考える前に、体が先に動いていた。


 あれは、直感だった。


「……直感、か」


 目で見て判断するのではなく、感覚で先に動く。それを鍛えられないだろうか。


 ◇◆◇


 極小魔石を手のひらに乗せる。


 影真は目を閉じ、強く意識した。


 もっと直感を研ぎ澄ませたい。考えるより先に、体が反応できるように。


 ――すっ、と。


 魔石が吸い込まれた。頭の奥ではなく、もっと深いところ、胸のあたりがじわりと熱を持つような感覚があった。


「……これは、期待できそうだな」


 反応速度の強化とは違う手応えがあった。


 ◇◆◇


 影真は再び第二エリアへ踏み込んだ。


 あの二匹はまだそこにいた。


「……試させてもらうか」


 二匹が同時に散開する。左と右。影真は目の焦点をあえてぼかし、考えるより先に動くことを意識した。


 だが、うまくいかない。


 頭では「感じろ」と強く意識しても、体は反射的に視覚情報を追ってしまう。左を見れば右を見失う癖が、まだ抜けていなかった。


「っ」


 右からの爪を辛うじて避けたが、体勢が崩れる。左のネコモンスターの突進をまともに受け、肩に衝撃が走った。


「……まだまだ甘いか」


 距離を取り、息を整える。直感はまだ体に馴染んでいない。理屈ではわかっていても、実戦で発揮するには経験が足りなかった。


 今日は潔く撤退だな。


 ◇◆◇


 第一エリアへ戻り、ひよこモンスターを狩りながら魔石を吸収する。


 もっと直感を研ぎ澄ませたい。今日感じたネコモンスターの気配、動きの予兆を思い出しながら、強く意識して触れる。


 ――すっ、と。


 単純なひよこの動きでも、直感を意識して対峙すると発見があった。突進の直前、地面を蹴る前のわずかな沈み込み。目で捉えるより早く、体がその予兆を感じ取っている瞬間があった。


「……こういうことか」


 ひよこ相手に感覚を復習、そして第二エリアへ戻る。その繰り返しだった。三度目、四度目と挑戦を重ねるうちに、攻防の中で少しずつだが直感が研ぎ澄まされていくのを感じる。


 ◇◆◇


 五度目の挑戦。


 通路の先に、あの二匹がいた。


「……今度こそ」


 影真は深く息を吸い、目の焦点をあえてぼかした。見るのではなく、感じる。


 二匹が同時に散開する。左と右。


 考えるより先に、体が反応する。左から迫る爪を紙一重で避けながら、右のネコモンスターへ向けて自然と拳が出ていた。


「っ――やっとか」


 確かな手応え。


 もう一匹が横から突っ込んでくる。影真は振り返る前に、すでに半歩下がっていた。まるで後ろを把握してるかのように。


「……この感じは今までにないな」


 二匹の気配を同時に捉えられている感覚があった。


「これは、最高に楽しいぜ」


 影真は口角を上げ、構えを取り直した。


 ◇◆◇


 攻防が続く。


 一匹に拳を、もう一匹に短剣を。直感に従って体を動かすうちに、少しずつ二匹の動きに差をつけられるようになってきた。


 一匹が大きく隙を見せた瞬間、影真は迷わず踏み込んだ。逆手の短剣を脇腹へ突き立てる。


「ミャギャッ!」


 もう一匹が援護に入ろうとする気配を、影真は察知していた。振り向かずに肘を後方へ突き出す。狙い通り、肘が飛びかかってきたネコモンスターの顔面を捉えた。


「ミャッ!?」


 怯んだ隙に、影真は最初の一匹へ止めを刺す。喉元へ短剣を深く押し込んだ。


「――ミャァ」


 馬鹿にするようなメルヘンな音と共に、一匹が魔石へと変わった。


 残る一匹は、明らかに動揺していた。仲間を失った直後の隙を、影真は見逃さなかった。


 踏み込み、拳で顎をかちあげる。頭が跳ね上がったところへ、短剣を喉元へ突き立てた。


「――ミャッ」


 二匹目も、メルヘンな音と共に魔石へと変わった。


 ◇◆◇


 通路に静寂が戻る。


 影真はしばらくその場に立ち尽くし、荒い息を整えた。


「……やっとだな」


 達成感が全身を満たす。単独戦とは比べ物にならない疲労感だったが、それ以上の充実感があった。


 二つの魔石を袋へ収めながら、影真は小さく笑った。


「直感、まだまだ未熟だな。もっと磨かないとな」


 ◇◆◇


 その日の夕方、影真はギルドへ向かった。


 袋の中には、この数日で稼いだひよこモンスターの魔石が十個、そしてネコモンスターの魔石が二つ入っていた。


 カウンターに置くと、受付嬢が中を確認しながら数字を打ち込んでいく。


「ひよこの魔石が十個、それとネコの魔石が二つですね」


「複数のネコモンスターを倒せた」


「おめでとうございます……!」


 受付嬢は目を輝かせてから、少し驚いたように付け加えた。


「それに、久しぶりの換金じゃないですか?」


「ああ、かなり苦戦したからな」


 探索者カードを差し出す。端末に通すと、青白い光と共に数字が更新された。


【残高:167,400P → 181,400P】


「大変でしたね」


「今回もかなり勉強になった」


 受付嬢は端末を操作する手を止め、少し身を乗り出した。


「そういえば、この前のアドバイス、少しは参考になりましたか? パーティーの話とか、ソロの人の話とか」


 影真は少し考えてから苦笑い気味に答えた。


「参考にはならなかったな」


「……ですよね」


 受付嬢が申し訳なさそうな顔をする。


「でも、参考にならないってわかったのが逆に良かった」


「えっ、どういうことですか?」


「誰かの真似じゃ通用しないってわかったから、俺にしかできない攻略法を考えた」


 受付嬢が首を傾げる。


 影真は少し身を乗り出して答えた。


「直感を鍛えることにした」


「直感、ですか?」


「目で追うんじゃなくて、感じて動く。」


 影真は淡々と説明した。だが口調とは裏腹に、少し高揚した響きが混じっていた。


 受付嬢はしばらく目を丸くしていたが、やがてくすりと笑った。


「それは、影真さんらしいですね」


「そうだな」


 影真も笑って答えていた。


「はい。誰の真似もせずに、自分のやり方を探すところが」


 少し照れくさくなり、影真は視線を逸らした。


「……まあ、それが好きなんだろうな」


 ◇◆◇


 ギルドを出て、夕暮れの風の中を歩く。


 直感という新しい武器。地道な積み重ね。少しずつ、確かに前へ進んでいる。


「……次は、どうしようかな」


 影真は空を見上げ、頬を緩めた。





最後までお付き合いありがとうございました。

ゆる~く更新出来たらと思ってます。

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