第7話 第二エリアでの苦戦
ハイサイ!nankul naisaです。
読んでいただきありがとうございます。
今日も第二エリアへ踏み込む。
青みがかった光苔の明かり。湿った石畳。張り詰めた空気。まだ少し緊張する景色だ。
ふざけた落書きのようなネコモンスターはすぐに現れる。岩の上に座り、黄色い瞳でこちらを見ている。
「……今日は焦らない」
影真は構えを取りながら、心の中で決めていた。攻撃はしない。ただ動きを見る。
◇◆◇
ネコモンスターが動いた。
影真は避けることだけに専念した。拳も短剣も使わない。ただ体を動かして、爪をかわし続ける。
左へのフェイントから右へ跳ぶ。踏み込みの直前に僅かに重心が前へ傾く。跳ぶ前に耳が少し前へ倒れる。
「……なるほど」
攻撃しないと見えてくるものがある。ネコモンスターの動きに、少しずつ癖が見えてきた。
だが反応速度がまだ足りない。癖に気づいても体が追いつかない。爪を二度もらいながら、影真は今日も撤退した。
◇◆◇
第一エリアへ戻る。
ひよこモンスターを一体倒し、魔石を手のひらに乗せる。
頭の中にはネコモンスターの動きが鮮明に残っていた。あの重心の傾き。耳の動き。跳ぶ瞬間のわずかな予備動作。
もっと速く反応できるように。あの動きに体が追いつくように。
強く、はっきりとそう思いながら触れる。
――すっ、と。
「……これだ」
ただ漠然と強くなりたいと思って吸収するのとは違う手応えがあった。実戦でぶつかった壁が、吸収の方向を定めてくれている。
◇◆◇
翌日、また第二エリアへ踏み込んだ。
ネコモンスターと向き合う。構えを取りながら、昨日観察した癖を頭の中で反復する。
ネコモンスターが動いた。左へのフェイント。
――今度は体が反応した。
右へ踏み込んで距離を詰める。爪が空を裂く。影真の拳がネコモンスターの脇腹を掠めた。
「……当たった」
完全ではない。だが確かに当たった。
「拳で当てるのがやっとか、短剣はまだ難しそうだな」
ネコモンスターが距離を取る。黄色い瞳が、初めて警戒の色を帯びた。
◇◆◇
攻防が変わった。
ネコモンスターの動きを少しずつ読めるようになってきた。フェイントに惑わされる回数が減り、爪をもらう頻度も下がってきた。
だがまだ決め手がない。拳は掠めるが、短剣での一撃が入らない。
今日も撤退。だが手応えは確かにあった。
◇◆◇
また第一エリアへ戻り、吸収を重ねる。
「もっと速く反応できるように」と意識しながら触れた。反応速度強化をとにかく強く願う。
――すっ、と。魔石は強さに変わる。
その日の夜、影真はメモ帳に書き留めた。
耳が前へ倒れたら跳ぶ事が多い。重心が前へ傾いたら突進が多い。フェイントは必ず逆方向への実攻撃に繋がる事が多い。
観察した癖を言語化することで、頭の中の映像がより鮮明になった。ただイレギュラーに備えて予想外な事の想定もできる限りしておく。
◇◆◇
四度目から九度目の挑戦。
挑戦のたびに、少しずつ何かが変わった。
四度目は油断して被弾が多かった。五度目は集中してフェイントに対応し始めた。六度目は爪をもらわずに五分間回避し続けた。七度目は短剣の連撃を試みたが空振りが続いた。八度目は間合いの調整がうまくいき始めた。九度目は仕留めまであと一歩というところで隙が出来てしまい爪をもらい撤退した。
毎回、第一エリアへ戻って吸収を重ねた。頭の中のネコモンスターの動きをより鮮明にイメージしながら。
もっと速く。もっと無駄なく。もっと感覚を戦闘に馴染ませる。
渇望が魔石を通して力へと変わる。
◇◆◇
十度目の挑戦。
ネコモンスターと向き合う。今日は違う気がした。
ネコモンスターが動く。耳が前へ倒れる。
来る。
影真は息を殺した。体の力を抜き、膝を僅かに曲げて重心を落とす。ネコモンスターが地面を蹴った瞬間、影真は真横へ滑り込んだ。
爪が空を裂く。風圧が頬を撫でた。
その刹那、踏み込む。地面を蹴る感触が鋭い。
右拳をネコモンスターの脇腹へ叩き込んだ。
「ミャギャッ!」
確かな手応え。ネコモンスターがたたらを踏む。
影真は追撃を止めない。体勢を崩したネコモンスターの懐へ張り付くように近づき、逆手の短剣をフックパンチのように弧を描く。脇腹へ深く切り込んでいく。手ごたえは感じるが致命傷にはなってない。
「ミャァァァ!」
甲高い叫びが通路に反響する。ネコモンスターが暴れる。だが影真はすでに離脱していた。
距離を取って息を整える。ネコモンスターはよろめきながらも、まだ立っている。黄色い瞳が怒りで細くなった。
最後の突進が来る。
影真は動じなかった。重心の傾きを見た瞬間、横へ踏み出す。爪が肩を掠めた。構わず、右拳でネコモンスターの顎を打ち抜き脳を揺らす。モンスターに脳があるかわからないが目は回るようだ。
ネコモンスターは無防備な体勢になった。
「……っ、今だ」
その喉元へ、逆手持ちの短剣を左手で支えバックハンドで突き刺す。
「――ミャッ」
短い声だった。
ネコモンスターは痙攣し、戦闘にそぐわないメルヘンなどこか馬鹿にするような音と共に魔石へと変わった。
通路に静寂が戻る。
影真はしばらくその場に立ったまま、息を整える。
「……ふー、やっと倒せたか。腹立つ効果音だな」
どっと達成感が溢れた。心地良い疲労感と充実感に包まれる。
数日間の反復がようやく実を結んだ。地味で泥臭い積み重ねの、小さくても影真には大きな成果だった。
いつもより少し大きい魔石を袋へ収めながら、影真は小さく笑った。
「……次はいよいよ複数を相手に挑戦だな」
そう呟いて、次の挑戦への興奮を抑えるように来た道を戻って行った。
最後までお付き合いありがとうございました。
ゆる~く更新出来たらと思ってます。




