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『ダンジョン物語』  作者: nankul naisa
第一章
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14/20

第6話 第一層の第二エリアへ

ハイサイ!nankul naisaです。

読んでいただきありがとうございます。



 揺らぎをくぐると、見慣れた第一エリアの岩肌が広がった。


 今日は稼ぎではない。影真は足を止めずに通路を進んだ。ひよこモンスターが現れてもサクッと倒し、まっすぐボス跡地へ向かう。


 ◇◆◇


 ボス跡地は静かだった。


 あの激しい戦闘の痕跡は残っていない。ただ広い石造りの広間に、一つだけ違うものがあった。


 壁の一角に、淡く揺らめく歪みがある。


「……よし、楽しみだな」


 影真は歪みの前に立ち、しばらく眺めた。第一エリアの揺らぎより少し色が違う。青みがかった光が、静かに揺れている。


 深呼吸を一つ。


 手を伸ばすと、視界が切り替わった。


 ◇◆◇


 第二エリアは、第一エリアとは明らかに空気が違った。


 岩肌は同じだが、通路が広い。天井も高く、光苔の色が青みがかっている。湿度も少し高く、足元の石畳が微かに湿り気を帯びている。


 静かだった。ひよこエリアの素朴な雰囲気とは違う、どこか張り詰めた空気を感じる。


「……いいね、テンションが上がる」


 影真は慎重に周囲を見回しながら、ゆっくりと進んだ。


 ◇◆◇


 最初の遭遇は、思ったより早かった。


 通路の曲がり角を過ぎたとき、小さな影が岩の上に座っていた。


 猫だった。


 丸い頭、大きな目、ふわふわとした灰色の毛並み。ギルドのイラストそのままの落書きみたいなネコモンスター。その黄色い瞳が影真を捉えた瞬間、空気が変わった。


 ただのネコモンスターではない。


「……ラッキーだな、単独みたいだ」


 影真は慎重に構えを取る。まずは様子見だ。


 ◇◆◇


 ネコモンスターが動いた。


 速い。


 ひよこの突進とは質が違う。地面を蹴る動作がほとんど見えないまま、影真の眼前に迫っていた。


「っ」


 咄嗟に体を引く。爪が空を裂き、革グローブの表面を掠めた。


 影真は距離を取る。心臓が跳ねている。


「……マジか、予想より速いっ」


 再びネコモンスターが動く。今度は左から右へ、視界の端を掠めるように動いてから正面へ跳んでくる。


 踏み込んで拳を振るうが、空を切った。すでにネコモンスターは横へ移動していた。


「……タイミングがわからないな」


 ひよこは直線的だった。だが猫は違う。動きに緩急があり、フェイントが混じっている。攻撃のタイミングが掴めない。


 ならば、と影真は短剣を構えた。リーチを伸ばせば当たるかもしれない。


 ネコモンスターが跳ぶ瞬間を狙って逆手の短剣を振るう。


 ――空振り。


 ネコモンスターはすでに着地し、別の角度から爪を走らせていた。腕に浅い傷が入る。


「……短剣も反応するのか」


 今度は壁際に誘い込もうと試みた。少しずつ後退しながら通路の端へ追い込む。


 だがネコモンスターは壁際でも軽々と方向を変え、影真の背後を取ろうとしてくる。慌てて振り返ると、悠々と元の場所に戻っていた。


「……これはなめられてるのか?」


 思わず声が出た。


 石を拾って投げてみる。ひよこには有効だった牽制だ。


 ネコモンスターは身をかわしながら、石を投げた腕の隙を狙って突っ込んできた。


「っ、反応が早すぎる」


 グローブで爪を受けながら、影真は内心舌を巻いた。単純な手はすぐに対応される。動きを読まれている、というより、速度で簡単に対応されてしまうみたいだ。


 数回の攻防を繰り返したが、拳を当てられたのは軽く一度だけだった。逆に爪を二度もらい、グローブと腕に浅い傷が入っている。


 ◇◆◇


 影真は一度距離を取り、息を整えた。


 ネコモンスターは追ってこない。じっとこちらを見ている。その黄色い瞳が、値踏みするように細くなった。


「……今日は様子見でここまでにしよう」


 無理をしない。ダンジョンの中での鉄則だ。


「大丈夫、焦る必要は俺にはない」


 もしかしたら初日でも倒せると思っていた。だが、ダンジョンはそんなに甘くなかった。


 反応速度。そして動体視力。それがまだまだ足りない。悔しい。


 影真は慎重に後退しながら、来た道を戻っていく。ネコモンスターは嘲るように興味を無くしあくびをしてる。


 ◇◆◇


 第一エリアへ戻ると、見慣れたひよこモンスターが通路を歩いていた。

サクッと魔石に変える。


 影真はそれを眺めながら、腕の浅い傷に触れた。攻撃力は低く大したことはない。だがあの速さに対応できなかった事実は残る。


「……まずは反応速度か」


 魔石を手のひらに乗せる。今まで「強くなりたい」と漠然と望んでいた。だが今日からは違う。


 もっと速く反応できるように、と強く意識しながら触れる。


 ――すっ、と。


 吸い込まれた、すぐには効果は出ないだろうが確実に力になるだろう。


「……これぐらいの方が攻略しがいがある」


 壁にぶつかって初めて、何が必要かがわかる。


 影真は口角をわずかに上げた。ネコモンスターに翻弄され嘲られた悔しさより、やることが明確になった充実感とワクワクの方が勝っていた。


 まずは第二エリアに挑戦する、無理せずに撤退して第一エリアで稼ぎながら足りないものをイメージして吸収を重ねる。そして、第二エリアに挑戦するを繰り返す。


 焦る必要はない。やることは明確になった。


「またすぐに挑戦してやる」


 そう呟き、影真は冷蔵庫前の出口へ向かった。





最後までお付き合いありがとうございました。

ゆる~く更新出来たらと思ってます。

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