第6話 第一層の第二エリアへ
ハイサイ!nankul naisaです。
読んでいただきありがとうございます。
揺らぎをくぐると、見慣れた第一エリアの岩肌が広がった。
今日は稼ぎではない。影真は足を止めずに通路を進んだ。ひよこモンスターが現れてもサクッと倒し、まっすぐボス跡地へ向かう。
◇◆◇
ボス跡地は静かだった。
あの激しい戦闘の痕跡は残っていない。ただ広い石造りの広間に、一つだけ違うものがあった。
壁の一角に、淡く揺らめく歪みがある。
「……よし、楽しみだな」
影真は歪みの前に立ち、しばらく眺めた。第一エリアの揺らぎより少し色が違う。青みがかった光が、静かに揺れている。
深呼吸を一つ。
手を伸ばすと、視界が切り替わった。
◇◆◇
第二エリアは、第一エリアとは明らかに空気が違った。
岩肌は同じだが、通路が広い。天井も高く、光苔の色が青みがかっている。湿度も少し高く、足元の石畳が微かに湿り気を帯びている。
静かだった。ひよこエリアの素朴な雰囲気とは違う、どこか張り詰めた空気を感じる。
「……いいね、テンションが上がる」
影真は慎重に周囲を見回しながら、ゆっくりと進んだ。
◇◆◇
最初の遭遇は、思ったより早かった。
通路の曲がり角を過ぎたとき、小さな影が岩の上に座っていた。
猫だった。
丸い頭、大きな目、ふわふわとした灰色の毛並み。ギルドのイラストそのままの落書きみたいなネコモンスター。その黄色い瞳が影真を捉えた瞬間、空気が変わった。
ただのネコモンスターではない。
「……ラッキーだな、単独みたいだ」
影真は慎重に構えを取る。まずは様子見だ。
◇◆◇
ネコモンスターが動いた。
速い。
ひよこの突進とは質が違う。地面を蹴る動作がほとんど見えないまま、影真の眼前に迫っていた。
「っ」
咄嗟に体を引く。爪が空を裂き、革グローブの表面を掠めた。
影真は距離を取る。心臓が跳ねている。
「……マジか、予想より速いっ」
再びネコモンスターが動く。今度は左から右へ、視界の端を掠めるように動いてから正面へ跳んでくる。
踏み込んで拳を振るうが、空を切った。すでにネコモンスターは横へ移動していた。
「……タイミングがわからないな」
ひよこは直線的だった。だが猫は違う。動きに緩急があり、フェイントが混じっている。攻撃のタイミングが掴めない。
ならば、と影真は短剣を構えた。リーチを伸ばせば当たるかもしれない。
ネコモンスターが跳ぶ瞬間を狙って逆手の短剣を振るう。
――空振り。
ネコモンスターはすでに着地し、別の角度から爪を走らせていた。腕に浅い傷が入る。
「……短剣も反応するのか」
今度は壁際に誘い込もうと試みた。少しずつ後退しながら通路の端へ追い込む。
だがネコモンスターは壁際でも軽々と方向を変え、影真の背後を取ろうとしてくる。慌てて振り返ると、悠々と元の場所に戻っていた。
「……これはなめられてるのか?」
思わず声が出た。
石を拾って投げてみる。ひよこには有効だった牽制だ。
ネコモンスターは身をかわしながら、石を投げた腕の隙を狙って突っ込んできた。
「っ、反応が早すぎる」
グローブで爪を受けながら、影真は内心舌を巻いた。単純な手はすぐに対応される。動きを読まれている、というより、速度で簡単に対応されてしまうみたいだ。
数回の攻防を繰り返したが、拳を当てられたのは軽く一度だけだった。逆に爪を二度もらい、グローブと腕に浅い傷が入っている。
◇◆◇
影真は一度距離を取り、息を整えた。
ネコモンスターは追ってこない。じっとこちらを見ている。その黄色い瞳が、値踏みするように細くなった。
「……今日は様子見でここまでにしよう」
無理をしない。ダンジョンの中での鉄則だ。
「大丈夫、焦る必要は俺にはない」
もしかしたら初日でも倒せると思っていた。だが、ダンジョンはそんなに甘くなかった。
反応速度。そして動体視力。それがまだまだ足りない。悔しい。
影真は慎重に後退しながら、来た道を戻っていく。ネコモンスターは嘲るように興味を無くしあくびをしてる。
◇◆◇
第一エリアへ戻ると、見慣れたひよこモンスターが通路を歩いていた。
サクッと魔石に変える。
影真はそれを眺めながら、腕の浅い傷に触れた。攻撃力は低く大したことはない。だがあの速さに対応できなかった事実は残る。
「……まずは反応速度か」
魔石を手のひらに乗せる。今まで「強くなりたい」と漠然と望んでいた。だが今日からは違う。
もっと速く反応できるように、と強く意識しながら触れる。
――すっ、と。
吸い込まれた、すぐには効果は出ないだろうが確実に力になるだろう。
「……これぐらいの方が攻略しがいがある」
壁にぶつかって初めて、何が必要かがわかる。
影真は口角をわずかに上げた。ネコモンスターに翻弄され嘲られた悔しさより、やることが明確になった充実感とワクワクの方が勝っていた。
まずは第二エリアに挑戦する、無理せずに撤退して第一エリアで稼ぎながら足りないものをイメージして吸収を重ねる。そして、第二エリアに挑戦するを繰り返す。
焦る必要はない。やることは明確になった。
「またすぐに挑戦してやる」
そう呟き、影真は冷蔵庫前の出口へ向かった。
最後までお付き合いありがとうございました。
ゆる~く更新出来たらと思ってます。




