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30もふ 笑顔に送る笑顔

「アミックは大事な幼馴染だ。正直に言うよ。彼に危害を加えて欲しくない。だけどいくつか教えて欲しい事がある。そしたら協力を約束する」


アミックを助けるために駆け引きなんていらない。だけど最低限は知っておきたい事もある。


「ふむ。いいでしょう。内容次第ですが」


「屋敷を襲撃したのはあなただよね? 雇われた村人は口封じ?」

「その通りです」


言葉数が少ない。男の表情は変わらず笑顔のまま。余計な単語から情報を引き出させないつもり? こいつらの仲間になればどうせそのうち事実を知る事になる。だからさっさと教えてほしい。遅いか早いかの違いは大きいかもしれないけど。


「どうやってあの猛吹雪の中を移動したの? 襲撃者も入れれば、恐らく全員で20から30人はいてもおかしくないでしょ」


レクスと執事たちにメイドさんに料理長。レクスの直属の家来は10人以上いた。冬籠りの間だけ働く村人も10人はいた。村人を殺害してレクスたちを連れ去った襲撃者の人数も考慮するとなかなかの人数だ。


「オオカミの調教が得意な者がおりましたので。移動には頭数が必要ですが雪ならではの移動方法がありますからね」

「もしかして……オオカミにそりを引かせた?」


にっこりと笑顔で返事がきた。犬ぞりと同じだ。なるほど。それは思いつかなかった。厳しい冬は家に籠るのが当たり前で犬を飼う家は少なかったし、ましてオオカミなんて。オオカミか……オオカミ?


「秋の終わりにオオカミの群れを放ったのもあなたが?」


レクスを襲ったオオカミの事を思い出した。あの事件がきっかけで僕の魔力操作の腕が格段に上がったんだ。


「おや? あの場にいらしたのですね?」


初めて反応が変わった。それも一瞬の事で笑顔は変わらない。


「僕とアミックの事を知ったのは王都にきてから?」

「はい」


つまりあの時、村から雇った使用人については把握してなかったってことか。僕たちのことなんてどうでも良かったんだ。でも、なんでオオカミがレクスを襲ったのか理由が分かった。拉致しようとしたんだ。失敗したから大がかりな屋敷の襲撃を実行した。そして村人の口封じをした。


オオカミの時はレクスだけを狙ったんだよね? 口封じは成功しても死者が出れば事件になる。白銀狼の少女レクスを攫って何をしようとしたのか。僕の推測ではレクスは王陛下と王妹の子どもかもしれないということ。次代の王候補はアンジュしかいない。ということは?


「アンジュの他に王位継承者を擁立するだけなら口封じをする必要はないよね? 実際に第二王位継承権が擁立されるなんて事も起きてないし。いや、途中で何かあって失敗した? それとも……アンジュの身代わりにしようとした? 屋敷の襲撃と王妃の死は同じ十二年前。でも先代王陛下の死は二年と少し前。身代わりなんてしてもすぐにバレるに決まってる」


心の中で考えていたことが口をついていた。僕が勝手に推測する分には何も反応しないで男は黙って聞いている。襲撃や口封じに拉致、なんにしてもごり押しで雑な計画なのは間違いなさそうだ。


「十二年前、王妃の死後にアンジュは隣国ファールに留学していた。ファールは死んだ王妃の故郷。アンジュが帰ってきたのは三年前。そして先日フィーリウスと一緒にミーラヤさんもファールからきている。そして確かにアンジュと呼ばれていた。そのミーラヤさんを拉致したのもあなただ」


十二年前がすべての始まりだとして、その時に王都で何か謀略があったのは間違いなさそうだ。二年前には先代王陛下の代わりに戴冠しまアンジュの王権を脅かそうとする派閥を粛清した。


「どう考えてもミーラヤさんが本物の王位継承者アンジュ王太子殿下って事だよね?」


男の笑顔がまるで変わらない。肯定ということでいいよね?

でもそうするとアンジュは誰? アンジュとミーラヤさん、そしてレクスの関係。もう少しで全部が分かる気がするのに情報が足りない。ん? 足りない? 足すんじゃなくて引いてみたら? そうだよ。もう少しで分かる気がする。

その人物が実はいない存在だとしたら……


「あなたの主人というのは先代王陛下の妹。王妹殿下なのかな?」


引っかけになるか分からないけど聞いてみよう。王妹が我が子を王にしようとするなら話は簡単だ。だけどレクスは女の子。俺様な現国王じゃない。もしかしてレクスには双子の男子がいるとか? それならまた違った推測をする必要がある。


「違いますね。勘違いでおかしな動きをされても困りますのではっきり申し上げます。我々は現国王に大いに不満があります。今となってはですが、私の主人は正当な王位継承者に王権を振るって欲しいのですよ」


ミーラヤさんが本物のアンジュで間違いなさそうだ。でもそうするとなんでレクスを拉致する必要があるのかが分からない。十二年もあれば勢力図も変わるし白が黒になる事もある。

そして、今となってはという言葉が気になった。とうとう余計な一言を発したんだ。


「あなたの主人は傀儡の王が欲しいんだ。最初はレクス。理由は分からないけど十二年前に王妹殿下の娘であるレクスの擁立に失敗した。この頃に王妃が死んでいる。もしかして暗殺した? 結果、身を守るために本物のアンジュ王太子殿下がファールに逃げたんじゃない?」


黙ってるから話を続けよう。


「二年ほど前に王陛下が病死。偽物のアンジュを取り込もうとして失敗。粛清された貴族たちがいる。そして今回、正当な後継者であるミーラヤさんを標的にした。つまり不当な王を廃し、本物のアンジュ王太子殿下を手中に収める。無節操だし雑もいいとこだね」


まあ、ミーラヤさんとして生きてきたんだろうから傀儡としてはいいかもだけど、フィーリウス殿下が黙ってないでしょ? もしかして二人の関係を知らない? これについては黙っておこう。


それに時によって利用しやすそうな駒にころころ変えてる。それはそれでアリかもしれないけど。風向きが変わればトカゲのしっぽみたいに切ればいいと思ってるのかもしれない。

そういう意味では狡猾とも言えるかも? でもまあちょっとは精神的に揺さぶられて欲しいから余計な事を言ってみた。


「聞き捨てならない発言は控えて欲しいですね。ですが概ねその通りです」


認めた。そして忠誠心は高そうだ。だけど主人については言い当てる材料がまだ出てこない。少なくとも傀儡の王を用立てようとするあたり、王位継承順位の高い王族傍系ではなさそうだ。この雑なやり口から想像するに、単純に暗殺することを選ぶだろうから。決めつけすぎ?


敵対派閥としては公爵家以下いくらでも考えられる。懇意にしている腹黒宰相や大臣さんたちは除外できるかな? 人のいいお歴々が僕やアンジュにこんなことするなんて思えない。でもそれは政治の事となると違うかな? 僕は甘いかな?


それに気になることもある。なんで偽物のアンジュが王として戴冠できたのか。そもそもどこの誰って話が再燃する。白銀狼獣人だから間違いなく王族。やっぱりレクスの双子? 後ろ盾は? それこそ腹黒宰相や大臣たちは現国王派だよね。

一つ推測が成り立つとすれば、俺様アンジュとミーラヤさんが内通している可能性がある。今は亡き先代王陛下もだ。暗殺される危険を俺様アンジュが影武者として引き受けたのかもしれない。身元がどうあれ、それが一番しっくりくる気がする。


「話は大体分かったよ。現国王のアンジュを暗殺しないのはミーラヤさん、本物のアンジュ王太子殿下が正当の王であることを主張できる大義名分として利用したいんだ。毒殺や革命なんて事をすれば禍根になる。将来に渡って堂々と傀儡の王として操れる。そして少なくとも二人の命は保証されてるわけだ。例え現時点だけでも。それなら僕がどう動いても問題ないよね?」


ミーラヤさんを擁立したいならまず殺される事はない。それにあの俺様狼王が簡単にどうこうされるとは思えない。


「確かに問題はございません。ですがお友達はよろしいので?」


魔導映像投影装置に映るアミックに手振りで視線を促された。

男の物腰柔らかで穏やかな笑顔はまだ健在。どうあれ僕がどうなっても結局はどうでもいいのかもしれない。魔導技術が欲しかったとしてもそれはきっとついでなんだろう。


「問題ないよ?」


笑顔でいるばかりの男に、お返しとばかりににっこりと極上のスマイルを送った。

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