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31もふ 美しく痛ましい姿

「承知しました。確かにジュリアン様ご自身は格闘に自信があるご様子。腕のある兵隊を相手に街中での奮闘も素晴らしいものでした」


ストリートマーケットでミーラヤさんとフィーリウスを助けた時のことか。これもやっぱりこいつらの仕業ってわけだ。


「ですが、ご友人は料理人であってあなた様のようには戦えませんよね。先ほどジュリアン様が見せた動揺する様子がそれを物語っております」


あの時のアミックは二人をかばうようにしただけだった。そして確かに魔導映像投影装置に映されたアミックを見て慌てた。


「さっそくですがそのご判断が間違いということをご覧にいれましょう」


魔導映像投影装置に映る屋台。アミックの前後左右から迫る手慣れた動きを見せる私服の軍人。


「アミック。僕だ。四人の男が前後左右から接近してる。襲撃者だ。全員暗殺用のダガーを手にしてる。気取られる前に対応して」

「うにゃ!? 分かった!」


僕は僕の首にかけられたネックレスにあるペンダントヘッドの黄水晶シトリンを手に掴み魔力をこめて話していた。返事もしっかり聞こえた。

これは僕が作った特製の魔道具。有り体に言うと通信機。水晶振動子は高い周波数精度と安定性で通信装置に使用するのに適している。魔導書から解読した魔導技術で実は魔導映像投影装置とワンセットにあったのを片方だけ報告したんだよね。成果は小出しにするかいざという時までとっとくものだよ。


アンジュとのディナー後、奴隷商人に襲われた時に作る事を思いついていた。だってアンジュやアミックがもしも攫われてしまったらと思ったら嫌だったから。レクスみたいにね。役に立ってくれてほんとに良かった。

つまり僕に起きた事を連絡しようと思えばできていたんだよね。だけど話を聞きたかったし、連絡を入れるとうっかり俺様国王が暴走すると思ったから。


「なんですと!?」


ふふん。初めて表情が崩れたね。ルテさん、ごめん。さっきは鉄の忍耐力をわざとやめて動揺して見せたんだよ。でも上手くいったでしょ?

魔導映像投影装置に映るアミックが即座に行動を始めた。


背後の一人に振り返りざま、肉を叩くハンマーを飛び道具にしておでこに命中。不意打ちの一撃で昏倒。

次いで迫る左の敵一人に熱いフライパン油をかけて、右のもう一人には激辛だろうスパイスの缶を鼻先に命中させて激しく咳き込ませる。怯むその二人に跳び膝蹴りと回し蹴りの連続技を急所に喰らわせて昏倒した。

最後に店前の敵がカウンターを飛び越しながら投げつけたスローイングダガーを素手で掴むと敵の太ももに投げ返して命中。怯んで屈んだあごに跳び膝蹴りが命中してしっかり倒した。

ここまでものの十数秒。


「アミック。おつかれさま。悪いんだけどさ。国立魔導図書館に行ってくれる? そこでクションシュカ館長に伝えて。僕とミーラヤさんがどこかの貴族の拠点に拘束されてると」

「なんだと!? 無事なんだな!?」


ペンダントヘッドに怒鳴るアミックが魔導映像投影装置に映ってる。


「今のところはね。さあ早く」

「分かった! ジュリに何かあったらタダじゃおかないからな!」


倒れた四人に吐き捨てて店主に挨拶をすると駆け出していた。


「あ。まだ襲われるかもしれないからアミックも気をつけてね」


ペンダントヘッドから手を離して笑顔が消えた男に向き直る。


「ね? 問題ないでしょ?」


魔力で強化した僕よりもアミックは強いんだ。山猫獣人の動きは俊敏で目にも止まらない。それに加えて僕と鍛錬をずっとしてた。バロンからみっちり教わった格闘術をアミックにも伝授した。


屋敷を襲撃されて悔しかったのは僕だけじゃない。僕はレクスに出会ってからオオカミに襲われた日も含めて。アミックは襲撃されたあの日から。ずっと今日に至るまでの十二年間、無駄に過ごした日は一日もない。寝坊はするけど。


「なるほど。よく分かりました。ではせめて、偽りの王の親しいご友人あるジュリアン様には捕虜として役に立っていただくことにしましょう。痛々しいお姿を見せつければいかに傍若無人な狼も言う事を聞いていただけるでしょうからね」


あら。穏やかな笑顔が元に戻った。僕をそういう風に使うとは思わなかった。そうか。確かにアンジュには効果があるかもしれない。うーん。自分に対する利用価値をもっと考えるべきだったかな。アンジュの足手まといになるのは嫌だなあ。やっぱりもっと早く連絡しとけば良かったかも。


ていうことは? なんとか脱出するしかないよね? 運が良ければミーラヤさんも回収できるかな? 同じ建物内にいればだけど。だけどこの男って強そうなんだよなあ。人数だっていっぱいだろうし。バロンに格闘術を教わったけど期間は短いし独学みたいなものだし。勝つ自信はないなあ。


「えーと。痛いのは遠慮したいかな」

「少々我慢いただければすぐに終わります」


男が指を鳴らすと部屋の中に兵隊が二十人ほど入ってきた。小剣やら棍棒やら室内戦闘に向いてる武器を持ってるし。しょうがない。ただ殴られるのも嫌だし逃げるのを最優先にやり合うしかないかも。肉体操作はもう始めてる。

先手必勝!


なんだけど。


「痛いなあ」

「ここまでとは思いませんでした。ですが少々ご無理があったのでは?」


兵隊を半分ほど倒したけど、こっちもかなりやられてしまった。打撲に切り傷に何ヶ所か怪我した。司書のローブもぼろぼろだし。僕の戦い方に対応されてたし、戦い慣れしてる人たちに遅れをとってしまった。ていうか人数多すぎ。


「でもあと半分だよね?」

「いえいえ。まだまだ補充できますから」


男の指の音でさらに兵隊が入ってくる。やっぱり無理そう。


「しょうがない降伏するしかないよね?」

「賢い選択です。ですがもう少し素敵な化粧を施したいと思います」

「えー。遠慮したいんだけど」


と言ってやめてくれるわけでもなく。兵隊たちが僕を取り囲む。こうなったらできるとこまでやるしかないよね?

で、長いこと戦いは続くんだけど……


「お強いですね? まさかこれほどとは」

「うん。僕もびっくり」


兵隊全員が床にのびてる。後から後から湧いてきた全員、魔力をこめた攻撃で昏倒させた。


「まさか剣が刺さらないとは驚きです」

「うん。僕もびっくり。魔力の障壁を張ると刃物が通らないんだね」


僕の両腕の禍々しい魔力紋が怪しく光り輝いてる。膨大な魔力で盾を作れないかと体に膜を張るイメージで構築したらできた。追い詰められたおかげで形勢大逆転。上手くできるようになるまでにさらに怪我が増えてふらふらだけど。


「でもそっちも魔力で防御力を底上げしてない?」

「どうでしょう? 私はただの軍人ですので」


とぼけたこと言ってるけど確かに魔力感知に反応してる。出会った時から感知していた。防御魔法と思われたけど違うかも? 正しく解読できるまでには至らなかった。それなら男の魔力に干渉して無理やり解除できないかな? そしたら簡単に倒せるかも?


「そろそろ脱出させてもらいたいな」

「私を倒したらご随意に」

「じゃあ」


穏やかな笑顔が張り付いたままの男が小剣を手に攻撃してくる。僕の首を切り落とすくらいの苛烈な攻撃で。魔力の障壁が切られる。体に刃が通る。痛い。やっぱり強かった。だけどね?


「えい」


男の鳩尾に魔力をこめた重い一発で防御と思われる魔力を解除できた。直後、側頭部に飛び蹴りを喰らわした。男の意識を刈りとった。倒した。と、思っていた。


「あれ?」


僕の視界が揺れる。意識が混濁する。気は失わなかったけど床に倒れた。


「いやあ。まさか私の変幻魔法を解除されるとは思わなかった。これまでに私の魔法は一度たりとも看破されたことはないんだけどねえ。ジュリくん。さすが魔王紋を授かっただけはあるね」


魔王紋? 変幻魔法? まさか偽装魔法も?

誰? 聞き覚えのある声。足が見えた。軍用ブーツだ。倒れたままに視線を上げていくと服装が変わってる。軍服に身を包んだ姿。切れ長の目に高い鼻。にっこりといつも微笑んでいる狐の獣人。軍務省大臣の……


「レーヴ……様」

「戦い慣れしてないせいか魔力の操作にムラがあるようだ。攻撃の瞬間に防御に回す魔力が激減してたよ。それに決まったと思う攻撃の瞬間と倒した直後に油断しない方がいい。まあおかげで実幻魔法の罠にかかってもらえたわけだね」


ああ。やっぱり僕は甘いんだ。この男は僕のことをよく知っている。知っているのに知らないフリをしてずっと僕と話をしていたんだ。狐に化かされた気分だよ。

レーヴだけじゃなくて他にも狐獣人の軍人が押しかけてきてる。レーヴの私兵だ。僕の口に液体が注がれて口を塞がれた。鼻を押さえられて飲み込んでしまう。


「これで撮影というのができるのだったかな? どれ。もうちょっと服を破いて胸や太ももを露わにしてもらおうね。あの偽物には良く効くだろうしね」


魔導映像記録装置を向けられて僕の服が剣で裂かれていく。体が麻痺して動けない。


「ジュリくんの美しく痛ましい姿がそそるねえ。食べてしまいたいくらいだ」


食べられてたまるか。なんとかしないと。体内の魔力をどうにかして毒素を中和するとか全身から排出するとかできないかな? こんなことなら治癒魔法とかは学んでおけば良かったよ。


「これで良し。痛い思いをさせてすまないね。私としてはジュリくんの力と技術は非常に重要だと思っているんだ。場合によっては魔王紋を持つジュリくんが王になってくれるのも良いんじゃないかともね」


穏やかに微笑みながら僕を見下ろすレーヴ。

僕が王? そんなの嫌に決まってる。


「そのためには今の国内情勢を有利に進められるようにしないとなんだ。我々同胞が憂うベスティアの未来のためにね。知ってるかい? 小国ベスティアの平和があるのは遠い過去から連綿と暗躍する私たち同胞の犠牲の上に成り立っているということを」


そんなの知らない。くっそ。好き勝手言ってる。


「……それにしても美しい。傷ついたその顔に魔王紋。そそると言ったのはほんとなんだ。偽物に随分と迫られていたようだがもう抱かれたのかな? いずれは私もジュリくんと一夜を共にしたいものだ」


ええ? 僕のあごに手をかけるな! 口を近づけるな! ちょっと待て! やめ! 嘘!?


「俺のジュリはどこだあああ!」


レーヴの舌が僕の頬にべたりと触れたところで止まった。

え? 床にまで響くように怒鳴るこの美声は……


「俺様の鼻から隠れられると思うなよ! そこか!」


狐獣人たちをまるで紙クズのように薙ぎ倒しながら部屋に侵入するたくましい姿。

王にだけ許されたロングケープコートを翻してる。

僕の俺様大親友だった。


あは。僕がどこに隠れていても見つけられるんだよね。アンジュもレクスも。

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