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3もふ 王子様系ロリータ

雪解けの穏やかなせせらぎが流れる川を越え、森に囲まれたなだらかな丘の上にある屋敷に到着した。ほどよく配置された小塔、階段状の切妻、銃眼のある塔。石造りで二階建てと三階建ての二棟に分かれたその外観はまるで小さな城のようだった。

周囲には野菜畑。それほど大きくない手入れの行き届いた庭園にはラベンダーの花が咲き誇っていて、他にも様々なハーブが茂っている。使用人らしき人たちが労働していた。ここにくるまでの間、この屋敷以外にも貴族の別荘が点在しているあたりはさすが人気の避暑地といったところだね。


「ジュリ。手を」

「ありがとう」


先に馬を降りたバロンから手を差し伸べられて抱えられると馬から降ろされる。馬は従者が手綱を引いて厩舎へと向かっていった。バロンに抱えられて分かったのだけれど14歳と聞いた通り、バロンの体は大人のようにはがっしりとはしていなかった。だけど僕のことを支えているあたりしっかり鍛えられているのは間違いない。


「さて。屋敷に案内しよう。や。さっそくお嬢様がおいでだ。ほら」


バロンが目線で僕を促す。示された方に目を向けると……

半分ほど開かれた玄関の大扉から半身を覗かせてこちらを伺う小さな姿があった。ゆるく波を打つ銀色の長髪が膝下までかかっている。好奇心に満ちた金色の瞳が僕を見つめている。白銀に輝く狼の耳とふさふさのしっぽがゆらゆらと揺れている。

息を飲んだ。なぜかすぐにでも消えてしまいそうな儚さを感じる。そして謎めいた美しさを感じる。こんなに可愛くて綺麗な女の子がいるなんてと、自分の目を疑うほどに惹き込まれていた。


「お嬢様。体調はいかがですか?」

「魔力をもらったばかりだから気分がいいと思うの」


愛らしく心地よい鈴のような声が僕の耳をくすぐった。バロンに声をかけられた少女がぱあっと顔を輝かせる。くるぶしまであるひだの多いワンピースのスカートをひらひらと花が舞うようにはためかせて駆けてきた。

やばい。可愛い。

こんな可愛い女の子を見たことがない。


「お嬢様。この者がジュリアン・タイラー男爵です。今日からお嬢様の騎士でありご友人となります」


バロンに紹介されてとりあえず深々と会釈をする。確か格上の貴族から名乗りを受けてからでないと話してはいけなかったはず。


「レクスと申します。お会いできて嬉しいです」


レクスと名乗った少女が片足を斜め後ろに引いて、もう片方の足は軽く膝を曲げ、背筋は伸ばしたまま両手でスカートの裾を軽く持ち上げていた。

くう。なんて可憐なんだ。これが本で読んだことのあるカーテシーか。僕にはよく分からないけどきっと洗練されたものなんだろう。


「ジュリアン・タイラーと申します。この度、男爵位を叙爵いたしました。これよりお嬢様をお守りするために共に歩んでいくことをお許しください」


貴族としての礼をする。ここにくるまでの間にバロンから所作を聞いていたけど、口で聞いただけだし初めてのことだからきっと不格好だ。練習したいとお願いしたけど「気にしなくてもいい」と言われてここまできてしまった。だけどさ。ほんとは「命に変えてもお守りします」って宣言しろと言われていたんだ。


「わたくしの側に仕えることを許します。ジュリアンて言うのね! わたしのことはレクスって呼んで! 様なんていらないから! だってお友達になるんですものね!」


僕の名乗りを聞き終わって形式的な返答を終わらせた途端に満面の笑顔を浮かべて飛びつく勢いで話してくる。

くう。なんて可愛いんだ。守ってあげたい。

なんて庇護欲が出るあたり前世の記憶がちょっとでもあるせいかな?


「バロン。いいの?」


僕なんかが仕える主人を呼び捨てにしてもいいものなのか。下手すると体罰なんてない?


「お嬢様が言うんだからいいと思うよ? ボトールはどう思う?」


お嬢様の向こうに控えている黒いロングテールコートに身を包んだ男性に言葉を投げかけていた。腰まである長い白髪を一本の三つ編みに束ねて胸の前に下ろしている。腰から白く長い毛に覆われたしっぽが揺れている。頭の上には竹を割ったような長い耳が突き出ていた。きっと白馬の獣人だ。


「はい。レクスお嬢様のおっしゃる通りでよろしいかと」


穏やかな響きが耳に溶けるような美声だった。見た目20歳前後。執事なのに端正な顔立ちと所作が高貴な雰囲気を醸し出している。そして油断のならない視線がちょっと怖いかもしれない。


「だってさ。執事のボトールのお墨付きをもらったからね。お嬢様、敬語もいらないですか?」


執事のオーケーがあればいいのか? なんてこの時は思った。

けどこの執事さん。あとで聞いた話では王族の遠縁にあたる人で訳あってレクスに忠誠を誓って執事として側にいるんだとか。その訳というのは現国王との何かが関係しているらしい。


「うん! 普通に話したい! ジュリアンはそれでいい?」


コテンと小首を傾げる様子がいちいち可愛らしい。銀色の長いまつ毛が上目遣いと相まって雷に打たれたような衝撃を覚えてしまう。あははー。もう僕はこの女の子の虜になってしまったようだ。今後どうなるかは分からないけれどこの場は素直に従っておこう。


「分かった。それじゃあレクス。僕のことはジュリって呼んでくれる?」

「よろしくねジュリ」


振り撒くような笑顔がなんとも表現し難いほど可愛い。


「何して遊ぼうか! ジュリは普段何をして遊んでるの?」

「えーと……」


レクスの屈託のない笑みにつられて素直に答えようとした。


「レクスお嬢様。まずはお嬢様のお体のためにもさっそくですが魔力供給の手順をジュリアン様に学んでいただきたいのです」


微笑んでレクスに申し入れるボトールさんの表情と口調は穏やかだ。

魔力供給? なんのことだろう? 僕がなんで男爵の位をもらってまでここに呼ばれた理由は何かまだ聞いていない。


「んー。分かった。じゃあわたしは見学してる!」


眉をひそめて柔らかそうなほっぺたをぷくっと膨らませている。

ふふ。ほんとは嫌なんだろうけど懸命に我慢している様子も可愛らしい。


「あ。ジュリが笑った!」


僕が笑ったことが気になったの? レクスの眉尻が少し上がっていた。


「え? うん。レクスが可愛くて」

「ひゃ!」


眉尻が下がって顔を赤くして黙ってしまった。

素直な感想を言っただけなんだけど、可愛いとか褒められ慣れていないのかな?


「ではジュリアン様はこちらに。お嬢様はバロンと共にお部屋でお待ちください」


口元が綻んでいるボトールさんに促されて玄関に入る。


「まずはマッドルームで履き物を変えてください」


玄関の隣にある小部屋に用意されていた靴に履き替える。屋敷には泥のついた靴や汚れた服で入るのは禁止と言われた。石造りの通路を進みながら、使用人は常勤が50人、非常勤が同じ程度いるとか、屋敷は花崗岩で造られているとか、寒冷な地でも育つ葉物野菜を育てているとか、いろんな説明をされながら案内された別棟の部屋へと入った。


「こちらがジュリアン様の居室になります」

「ここが?」


おおい。と言いたくなるほど広いんですけど。最初に入った部屋は客室も兼ねるリビングのような部屋だった。僕たち大家族が暮らしていた部屋と比べるべくもない。この部屋から見えるだけで扉が四つもある。


「こちらのお召し物をどうぞ」


ハンガーラックに掛けられた服を僕に差し出してくれた。

どうやら着替えなくてはいけないらしい。考えてみればもっともな話。僕が着ている服は貴族から見たら薄汚れた平民服。いじめ抜かれて鍛えられた穴あき貧乏服だ。


で。着替えた服装はと言うと……

グレーカラーの三角襟が長くてひらひらフリルタイの袖口が膨らんだ長袖ブラウス。アシンメトリーの黒いショートパンツを着させられた。自分で着替えるのではなくてボトールさんの手で着せ替えされた。ダイヤモンドチェックのハイソックスまで。恥ずかしいんだけど。

ショートパンツとハイソックスから覗く地肌を見つめられてなんだかもっと恥ずかしい。これは……王子様系ロリータ入ってないですか? 急に前世の記憶がほんの一部蘇ったよ? なんでこんな服があるのかな? ボトールさんの趣味ですか?


「おお。よくお似合いで。黒いお髪と瞳にベストマッチ。これは素晴らしい」


ボトールさんがぱっちんぱっちんと音色を高々と拍手しているし。恥ずかしい気持ちが高まるんですが? 僕を見る目がやたらと優しい? 若干怪しい視線を感じる。なんだか僕で楽しんでないですか?

なんにしてもバロンと同じように僕を蔑むような色を感じないのは嬉しい。


「それではお嬢様の待つお部屋へご案内いたします」


手招きされて部屋を出る。元の棟に戻って玄関奥の大広間から大階段を上がって2階の部屋に案内された。豪華絢爛と言うほどではないけど芸術的な調度品がほどよく配置されている。赤い絨毯の上には革張りのソファとオークウッドの透かし彫りテーブルが置かれてる。


「ジュリ! わたしが選んだ服を着てくれてる! とっても似合っていて素敵だね!」


ソファに座るレクスが手を叩いて喜んでいる。ボトールさんじゃなかった。レクスの好みだったんだね、この王子様系ロリータは。バロンはソファの後ろで控えるように立っていた。まるでお姫様を護衛する騎士って感じ。まあ、その通りだよね。


「はい。まったくその通りです。私も心躍るくらいに感動しております」


ええ。ボトールさんがしみじみと頷いてる。やっぱりあなたもそういう感じなんですね? ボトールさんが着てる黒いロングテールコートもよくよく見ればゴシック感のあるそこはかとない装飾があしらわれているし。


「はは。それなら良かった。着慣れなくて変な感じがするけど」

「ではジュリアン様。こちらにお座りください」


言われるままに二つ並べられたクッション付きのスツールに座る。もう片方にはボトールさんが座った。


「それではこれからジュリアン様の役割をお教えいたします」

「役割?」


「はい。魔力の操作と供給について学んでいただきます」


魔力の操作と供給?

それが僕がここでやるべきことなの?

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