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28もふ 女神様の面立ち

「あれ? いない?」


表通りから見て石柱の裏側に行ってみるとミーラヤさんの姿があるはずなのにない。樹木はまばらにあるけれど僕がここにくるまでの間、ミーラヤさんが石柱から移動する姿は見えなかった。

ふと気づく。石柱の幅は大人二人が手を広げたくらい。石柱の石壁を見たら常時発動している魔力感知の網に反応した。


「扉?」


普通に見ても触ってもなんの変哲もないただの石。だけど魔力感知の眼を通してなら分かった。石に魔力が付与されてる。さっそく石壁に込められた魔力の解読に取りかかる。なかなか複雑難解。だけど魔導書の魔力を読み解いてそこに隠された本当の意味を知るのと同じ手順。僕ならそれほど時間をかけることなく解ける。


「こうかな?」


どうも魔力供給をして鍵を開けるらしい。石壁に施された魔力回路に魔力を注いで正しい手順で繋げる。


「鍵開け成功」


石壁に四角く線ができたかと思ったら音もなく壁が開いた。奥側に開く両扉になって内側が見えた。覗いてみると暗い穴がある。だいぶ深そうだ。さらに観察してみると扉側の側面に石の突起が付いていて下へと続いてる。これを使って登り降りできそうだ。


「真っ暗だ」


でも迷うことはなかった。きっとこの先にミーラヤさんがいる。先に足を下ろしてから穴の下へと降りてゆくと扉が勝手に閉まっていく。


「ん? 少し明るくなった?」


扉が完全に閉まったら真っ暗になるかと思ったけど、ほんの少しだけ光源があるみたいだ。石が光を発しているようだった。


「古代の魔導技術かな?」


いくらか降りると地に足がついた。横穴が続いている。足を進めたら十字路に行き当たった。どっちに行った? 地上の建物の配置を考えると……王城方面、国立魔導図書館方面、大聖堂方面。ざっくりそんな感じ。そして、一つ思い出した。ミーラヤさんは墓参りに行きたいと言っていたとアミックから聞いている。大聖堂の地下には王族の墓所がある。アンジュと呼ばれレクスと似ているミーラヤさんの目的。大聖堂へ向かうと思われる道を選んだ。


「これって隠し通路だよね」


戦や内乱、暗殺。きっとだけど時の権力者が有事の際に逃げるための施設。通路はここだけじゃないかも知れないけど。石壁からは淡い光が放たれてる。王城を始めこの国の建造物は古代からあるとされている。魔導文明が栄えていた頃からあるのかも知れない。

ずっと直線というわけでもなかった一本道をしばらく進むと壁に行き当たった。歩数的には大聖堂のあたりだと思う。そして壁には石柱と同じ魔力回路があった。


「うん。問題ない」


音もなく開いた扉の先に広い空間があった。連なる巨大な柱が天井を支えている。柱と柱の間はアーチ状の丸い天井になっていた。壁にはいくつもの石像が立ち並び、まるで僕を見定めているようだった。

祭壇と思われる正面中央には女神様の像。壁全体がほんのりと明るく厳かな空間すべてが目に映る。静謐という言葉が相応しい場所だ。

そして……女神様にかしずくミーラヤさんの姿があった。


「誰だ!」


僕の足音に気づいたみたい。ここは静かでほんの少しの衣擦れでも聞こえてしまうかも知れない。


「えーと。ジュリアン・タイラーです」


にっこりと僕ができる極上のスマイルを作って手を振ってみるけど、すっごい警戒されてる。そうだよね。この間も最初から最後まで僕に対してはそうだったもんね。それが今この状況ならなおさらだよ。とりあえず話題を振ってみよう。


「女神様がとても美しいですね?」


僕たちを見下ろす女神像は慈悲深く微笑んでいるようにも冷たく蔑んでいるようにも見える。王都の噴水池にある女神像よりもかなり古い。そして、なんとなくこの女神様の面立ちには見覚えがある。僕が生まれる前の微かな記憶。もしかしたらあなたが僕をこの世界に転生させたのかな? なんのため?


「なんであなたがここにいるんだ」


可憐なレクスとは違う男性の声が厳かな空間に響いた。


「今日は女装はしてないんですね。見違えました」


ミーラヤさんの顔の印象が変わってる。ちゃんとしっかり男性に見える。レクスと言うよりも俺様国王アンジュの面影がある。身長も同じくらいだし。だけど見間違えるほどじゃない。

僕の質問に返事がない。


「ここは王族の墓所ですよね。どなたのお墓参りなんですか?」

「答える必要はない」


身構えて僕を見据えている。フードは外されていて立派な灰色狼の耳が警戒を露わに伏せている。


「アミックから聞きました。ご両親のお墓参りをしたいと言ってたそうですね?」


ほんとは言うつもりはなかったのかも知れない。でも話が弾んでうっかり言ってしまったのかも知れない。アミック、グッジョブ。


「そうだ……父と母だ」


やっぱりそうだよね。いろいろな条件で当てはまる人物は一組しかいない。


「先代王陛下と王妃様、ということになりますよね?」


でもそれはあり得ないはず。崩御された二人の間に儲けられた子どもは一人、俺様狼王のアンジュだけだ。また返事がない。だけど……


「フィーリウス殿下にアンジュと呼ばれてましたよね?」

「……まったく。フィーは口が軽くて……」


その顔は観念したかのようだった。きっと真相を話してくれると期待した時、石床に足音が響いた。

僕たちじゃない。最初は一つ。続けていくつも。祭壇を背後に僕とミーラヤさんは帯剣しているたくさんの人族に囲まれてしまった。十数人はいる。服装はまちまち。だけど帯びている剣は同じ。訓練された動きから思うに間違いなく兵隊だろうけど身元が分かるような紋章とかは見当たらない。きっとベスティアの正規軍でも憲兵隊でもないどこかの貴族の私兵だ。


「やっとお会いできました。まさかこんな時間にこんな場所に訪れる道があるとは思いもしませんでした。見張りからの連絡があった時は慌てましたよ」


兵隊の間から足を進める一人の男。帯剣してるけどこちらも身元が分かるようなものはなし。雰囲気からすると貴族や騎士かも知れない。

この状況で僕がすべきことは正直分からない。だけどレクスに似たミーラヤさんを守りたい。彼の手を引いて僕の背中にいてもらうことにした。

ミーラヤさんも不安そうにして僕の背に手をかけている。


「あなたは護衛ですか? いえ。黒髪に黒い瞳と言えばジュリアン・タイラー男爵ですね。魔導書に関するご高明とお噂はかねがね」


この国の貴族なら僕を知らない人はいないよね。一代限りの男爵なのに黒忌み子で上級司書で、国への貢献度が高くて俺様国王のアンジュと友人で、腹黒宰相やお歴々の大臣たちに気に入られてる僕だもの。だけど僕は貴族全員を知ってるわけじゃない。


「存じ上げず申し訳ありません。よろしければお名前をお伺いしたいのですが?」


後々のことも考えてへりくだっておこう。高位な貴族だったら厄介かも知れないし。


「私もお初にお目にかかりますが。特にお話しすることはないですね。さて。夜が開けます。あまり時間がないので急ぎたく。この状況で無駄な抵抗はされないと思いますが……タイラー男爵もご同行願いましょうか。私ではどのように処置をしたら良いか判断いたしかねますので」


処置って嫌な言い方だなあ。

うん。確かに。ミーラヤさんを守りながらこんな人数を相手に大立ち回りができるとは思えない。こちらは素手。剣があっても使えないし無理。危険な目に遭わすわけにもいかない。ここはおとなしく言うことを聞いて機会を伺うしかないかも知れない。


「僕は今日。ファール王国の使節団をもてなす重要なお役目があります。僕が現れないと騒ぎになりますよ?」


自分で言ったけどそこまで騒ぎになるかな? 僕って遅刻魔だし。心配はしてくれるかも知れないけど時間はかかるかも知れない。


「いかようにも。その程度の事は問題ありません。……ふむ。それよりもあなた様の見識と技術を手にできることの方が主人にとって僥倖かも知れませんね」


あ。そっちの方に話を持ってく。だとしたら僕は行方不明か失踪か。そしたらきっと俺様国王が黙ってないと思うんだ。ここはおとなしく言うことを聞いてどこへなりとも連れて行ってもらおう。


「ミーラヤさん。しばらくご一緒ですね」


にっこりと極上スマイルを向けてみたら呆れた顔をされた。僕の心と体を鍛えまくった執事のルテさん。僕は今、鉄の忍耐力をしっかり発揮できてます。

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