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27もふ 血縁の香り

「それじゃあベスティアにいる間は王城にいるんですね」


王城のすぐそば。一般人が立ち入れるところまでやってきて四人でいる。合流した護衛の騎士さんたちに見守られながら。


「もちろん。視察が終われば数日後には帰国する予定だ。今日は観光だけではなく書物に関する有意義な話ができて楽しい一日だったよ。ありがとう、ジュリ」


一日っていうほど長い時間じゃなかったけどね。昼頃に訪れたストリートマーケットを後にした僕たち四人は王都の広間にある女神像がある噴水池や繁華街とかを散策した。


「こちらこそ。フィーリウス殿下と仲良くなれて嬉しいです。また王都を観光される際は必ず護衛をつけてくださいね」

「二人の時間を邪魔されたくなくて従者を置いてきてしまった。またああいう手合いに絡まれないよう今後は護衛をつけるとしよう」


結局、ほんとに護衛がいなかった。戦えもしないファールの第三王子が二人きりで街中をうろうろするなんてどんだけ能天気なんだと思ったけど口にできるわけもなく。


「ミーラヤさんのためにもぜひそうしてください。お二人はどうも人攫いに会いやすい性質みたいですから」


そんな性質あるわけないけど。

軍人臭い四人組の他に、時間と場所を変えて二度も襲撃に会った。どっちも軍人臭かった。どう考えてもおかしいでしょ。僕とアミックがいなかったらとっくに持ってかれてる。三度目になってさすがにおかしいということで王城近くまで戻ってきたわけだ。


命を奪いにくるような襲撃じゃなかった。拉致が目的だと思われる。普通に考えるなら標的は第三王子なんだろうけど、ミーラヤさんに狙いが定められていたのではと思った。だとしたらなんでなんだろうと思って聞いてはみたけど、心当たりがないなどと通り一遍の事を言われて終わった。


「承知した。それでは明日、国立魔導図書館で会おう」

「楽しみにしてます」


握手を求められたのでにっこりと笑顔を送って応じる。正直、この第三王子様にはもっと危機感を持ってほしいと思った。いくらなんでも危機管理能力が欠如してる。無頓着すぎる。最初の第一印象通りお坊ちゃんだった。

だけど人となりは良いので嫌いじゃない。フィーリウスは文人の鏡と言えそうなくらい情報学に関する造詣も深そうだった。同志とも言えるお互いの本好きが高じて名前で呼び合う仲にもなれた。


「アミックと話ができて楽しかったよ。またいろんな食べ物のことを教えて欲しいな」

「へへ。ミーラヤと話せて俺も楽しかったよ。そのうち自分の店を持つつもりだから食べにきな」

「そうする!」


アミックとレクス、じゃないミーラヤさんが思いのほか仲良くなっていた。食べることが好きなミーラヤさんにアミックの料理人としての知識が大いにウケていた。僕なんかよりもよっぽど二人の会話が多くて悔しい。

アミックの言った通り男性ではあったけど、安全に観光するために女装しているんだとか。本当にレクスに似ている。そしてアンジュにも。男装するとアンジュみたいになるのかと想像したら不思議。


護衛に囲まれて二人が背を向けて王城へと向かって行く。


「結局レクスのこともアンジュの名についても答えてもらえなかったなあ」


一度だけフィーリウスが離れた隙にミーラヤさんに尋ねてみたけど知らぬ存ぜぬでなんの話も聞けなかった。あんまり聞きすぎてまた警戒されてしまった。声こそ違うけどレクスの顔でそんな表情をされることが悲しかった。


「ジュリ。ミーラヤはレクスお嬢様とは別人だけど関係者かもしんないぞ」

「僕も絶対にそう思うけどどうして?」


「料理長に聞いたことがあるんだけどさ。どっちも食べ物の好みが同じ。特に臭みの嗜好にこだわりがあるところ」

「そこまで細かいことは僕は聞いたことがないかも」

「人族よりも獣族は臭いに対するこだわりが強いからしょうがないな」


僕は人族の中でもそんなに鼻がいい方じゃないとは思う。


「あのさ。なんで男と女の違いが分かるの?」

「ああ。女は成長すると血の匂いがするからな。子どもだとよく分かんないけど」


なるほど。女性にとって血は近しいものだよね。


「それとさ。レクスお嬢様とミーラヤの匂いが違うとは言ったけど似てるって言ったろ。血縁者の香りがすると思う。そう遠くはないけど近いとも言えないような匂いだった」

「血縁の香りか。僕には到底分からないけど、あれだけ見た目が似てるんだしその可能性は高いよね。それにアンジュとも似てるし。アンジュの匂いってどうなの?」


もしもアンジュの血縁なら匂いで分かるかもしれない。


「あの王様って俺は一度しか会った事ないけど香水きつかったんだよ。だから分かんない」


そうだ。前にも香水が嫌いと言われたことがある。香水か……僕は気にしたことないけど確かにアンジュは香水の匂いがする。だけど……アンジュにキスをされた時、懐かしい甘い香りがしたんだ。それは、レクスがオオカミに攫われたあの日。レクスとした甘い口付けと同じ香りだったんだ。


「大体にしてミーラヤさんは最初にフィーリウス殿下からアンジュと呼ばれてたんだ。そっちが本名ならミーラヤは偽名になる。気になることが多すぎるよ」

「だよなー。明日になったら王様に聞いてみればいいじゃん。どうせ会うんだろ?」

「……そうだね」


少し聞くのが怖い気がする。そんな予感がする。レクスと同じ顔。アンジュと似てる顔。レクスとアンジュとミーラヤ。何か関係がある。絶対にある。


「どっかで夜ごはん食べて帰ろう。疲れたよ」

「そうしようか。今日はありがとね」

「いいよ。レクスお嬢様の手がかりがあるかもしれないのは俺も分かるからさ。また今度遊びに行こうな!」


ちょっと複雑そうな顔をしてるアミックが気になった。

そして、手近なレストランで夕食をとることにした。

で、食後の事。


「えーと。アミック。これあげる」

「なんだ?」


包装された長細い箱を渡す。


「その、ちょっと早いけど誕生日プレゼント」


アミックと合う休みを待っていたら誕生日が過ぎてしまうので事前に用意をしていた。これは魔導研究者としての僕が作った特製の秘密のアイテム。世界に二つしかない。


「ほんとに!? 俺、嬉しい! 開けていいか!」

「もちろん」

「うわあ。ネックレスだあ」


アミックが丁寧に包みを開けてプレゼントを掲げてる。シルバーのチェーンにペンダントヘッドは黄水晶シトリン。笑顔と宝石がテーブルのキャンドルに輝いて眩しい。黄水晶シトリンは太陽のエネルギーを象徴していて宝石言葉は「繁栄」「富」「幸福」。アミックによく似合ってると思う。


「あれ? もしかしておそろい?」

「うん。僕も着けてる」

「嘘……ねえ、ジュリ。あ、あの、あの。着けてくれないか?」


顔を真っ赤にして上目遣いで尋ねてくる猫顔が可愛い。


「いいよ」


受け取って椅子に座ったままのアミックの背に回る。アミックの細い首に手を回してネックレスの留め具をかけた。黄水晶シトリンをつまんで満面の笑顔が輝いてる。


「ありがとう! 一生大事にする!」


立ち上がったアミックの唇が僕の頬に触れた。一度離れたアミックの唇がおずおずともう一度僕の肌に触れた。口元のすぐ近くに。

山猫獣人のスキンシップは外ではやめた方がいいと思う。みんなに見られたし。店を出ると腕をずっと組まれたまま家路に着いた。アミックの顔がずっと赤い。


で、シャワーを浴びてから少し大きめのベッドに先に横になったんだけど。またアミックが甘えてきた。泣かれてしまった。理由は分からないけどレクスに似たミーラヤさんに会ったことで屋敷でのあれこれを思い出してのことと勝手に推測した。


そして……母猫の愛情を求める子猫の終わらない行いをまたされてしまった。僕はそんなアミックに抗えなくて……胸だけでまた……。切ない想いはそのままに幸福感に満たされた僕。今日は疲れていたこともあってあっさり眠りについてしまった。


翌朝。


「今日は朝早いのにちゃんと起きれて偉かったな!」

「僕だって予定がある時はちゃんと起きるよ。今日は早めに準備しておきたいこともあるしね」


アミックにされてしまったことでぐっすり眠れたなんて言えない。目の下のくまがなくなるほど。

まだ太陽の輝きが少しも見えない暗い朝。アミックが作ってくれた朝食を終えて。司書のローブを羽織っていた。


「朝食とってもおいしかったよ。アミックは今日も休みなんでしょ」

「へへ。今日はこの後ゆっくり寝てからストリートマーケットでバイトしてくる」


料理のことになるとほんとに勤勉だなあ。腕前がどんどん上達するわけだ。


「そっか。屋台で働くんだっけ。そうそう。そのネックレスの機能はさっき説明した通りだから覚えておいてね」

「分かった。そうだ。昨日、言い忘れてたんだけどさ。ミーラヤは両親の墓参りがしたくてベスティアに帰ってきたかったって言ってたぞ」

「両親の? 教えてくれてありがとう」


玄関ドアを開けた僕の頬にキスをされた。


「へへ。いつものおまじない! それと誕プレの御礼な! いってらっしゃい!」

「うん……行ってきます」


まるで新婚さんみたいだけど、そうじゃないという山猫獣人の慣習。だけど昨晩のようなこともされてる。そろそろちゃんと確認しないといけないのかもしれない。アミックの想いを。

でも僕はきっと応えられない。僕の心にはレクスがいる。そして……俺様狼王の顔が浮かぶ。最近は自分の気持ちが分からなくなってる。


そんなことを思いながら職場に向かう。

今日はフィーリウス・レーギス第三王子が率いる隣国ファールの使節団が国立魔導図書館に視察にやってくる日だ。上級司書であり魔導書の修復士であり魔導研究者でもある僕はその案内役としての任務を仰せつかってる。正直、やる気はしなかったけどうっかりフィーリウスの性格も知れてそれなりにその気になっていた。


国立魔導図書館は王城に近い。僕とアミックが暮らすアパートメントから王城の前を通り過ぎて、そしてベスティアが誇る大聖堂の前を通ってから辿り着くんだ。大聖堂の地下には王族の墓所があって基本的に王族しか入れない。庶民はすぐ近くまで行けたりしないから遠目に石造りの荘厳な建造物を眺めることになる。最近は観光名所の一つになっているらしい。

こんな時間に出歩いているのは僕くらいだった。もうすぐ国立魔導図書館というところで発見した。


「あれって……」


なんのためにあるのか分からない古い建造物。巨大な石から削り出したとされる見上げるほどに高々と空にそびえる石の四角柱のほど近く。まばらに植栽された樹木から樹木へと身を潜めるように移動している黒いロングコート姿の人物が一人。枝の一本にフードが引っかかってその顔が見えた。


「ミーラヤさん?」


慌ててフードを被り直して石柱の裏へと隠れてる。まだ朝陽も差さない暗い時間。なんで一人でこんなところに。僕の足は彼女を追いかけていた。

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