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13もふ 王のロングケープコート

「アンジュ。朝から図書館なんていい身分だな」


振り返った僕の瞳に映る姿。

ピンと立てた立派な狼の耳。ゆるく波を打つ白銀の長髪。長い銀色のまつ毛に心が吸い込まれそうな金色の瞳。


野生味があふれて美しく端正な顔立ちをしている筋肉質で背の高い男。それなのに女性のようにも感じる綺麗な容貌をしていて気品と優雅さを兼ね備えて見えるから不思議だ。がたいがいいように見えて案外細いから?


柔らかくも力強い瞳。どこか懐かしさを感じる白銀狼獣人の視線が僕を捉えている。懐かしい、と感じるのはこの男の持つ特徴一つ一つがあの子を思い出させるからだ。

そう。僕の永遠の少女。

レクス。


「当然だ。俺はこの国の王様だからな」


ふふん。と鼻を鳴らしながら不適な笑みを浮かべてふんぞりかえるように胸を張っている。相変わらず自信満々だ。

僕を呼び止めた美声の持ち主。この国、高い山と深い森に囲まれた小国ベスティアの新しい国王で名をアンジュ・ソルエユニクと言う。みんなの迷惑をこれっぽっちも考えない俺様な国王。

レクスが先代王陛下と王妹の不義の子という僕の推測があたりそうなくらいにレクスの面影も感じる。可憐で小さなレクスと、割りかしごつくてでっかいアンジュは似つかないけど。


「またみんなに黙って政務や公務やらから抜け出してきたんでしょ。つまりサボりだ」

「あっはっは! そうとも言う! 俺に文句を言う奴はいないからな!」


輝くような笑顔を振りまきながら僕の肩に気安く腕を回してくる。王衣から覗く厚い胸元、滑らかな白い肌が眩しい。背比べをしたら僕よりも頭一つ以上背が高くて見上げるくらいだ。でかい体からすんと香る香水の匂いが心地いい。


「しょうがないなあ。で、どんな本がいいの?」

「そうだな? 離れ離れになった恋人が幸せになる話なんていいな!」


アンジュは毎回のように恋愛ものの物語を要求してくる。一国の王のくせに少女趣味があるから不思議だ。

白銀の長髪には王冠の代わりに装飾が精緻な金のヘアチェーンが幾重にか巻かれている。ネックレスやブレスレットにピアスに指輪、身につけている貴金属もどちらかと言うと女性に好まれる物が多い。

ひだが多くてウエストのないワンピースタイプの衣装が白銀の髪と白い肌によく似合っていて、王だけに許されたロングケープコートを羽織っている。狼のふさふさ銀色しっぽは隠れていて見えない。


「また恋愛もの? それなら自分で探せばいいのに」

「ジュリが選んでくれた本がいいんだよ。嫌か?」


アンジュが拗ねたような眼差しで僕を見下ろしている。まったく、この国で一番偉い王様のくせに僕にはこんな表情を見せてくるんだから。この国の行く末が心配だ。


「いいけどさ。なんでそんなに恋愛ものがいいのさ」

「そりゃああれだ。俺は自由な恋愛ができないからな。悲しくも熱く燃え上がるような物語が読みたいのさ! 俺は心の底からきゅんきゅんしたい!」


「女子か」


王女様とかだったら納得のセリフだけどね。白銀狼のイケメン王様が瞳をキラキラさせて声高に言うことじゃないと思う。


「国王になった時から他国や貴族からの縁談を全部断ってるんでしょ? 実際に会ってみればいいのに」


「そんな気にはならないな。俺は一人でいいのさ」

「そうは言うけどさ。アンジュって俺の二つ下の21だよね? そろそろ世継ぎがどうとかいう話が出てるんじゃない?」

「……そんな話は聞きたくない」


ありゃ。言いすぎたかな? 悲しそうに目を伏せてしょんぼりしてる。アンジュの狼耳と頭が僕の頬に擦り付けられる。そんなに寄りかかられると重いんだけど。体重差と体格差があるんだからもっと気を遣えって。まあ今でも魔力操作の鍛錬はしてるからさ。肉体操作すれば大丈夫なんだけど。


僕に甘えてくるアンジュは頑なに婚姻に繋がるような話を拒否している。こんなに綺麗なイケメンだから女性に大人気なのに。聞いた話じゃつまみ食いなんてことも全然してないらしいし。なんでか理由を聞いたことはないけど、今度聞いてみるかな?


「……アンジュが国王になってそろそろ二年だよね」


先代国王は病の床に伏し二年前に天に召された。その王妃は十二年ほど前に天に召されている。

前王が崩御されて即刻戴冠したのがアンジュだ。アンジュは先代国王と王妃の間に生を受けたこの国唯一の直系王位継承者。

アンジュの美しさは先代国王を超える『奇跡の美王』と国内や近隣諸国から褒め称えられている。


王妃の死後すぐに幼い頃から長らく、王妃の故郷である隣国ファールに留学していたらしいけど三年ほど前に帰国していた。そしてこの頃、アンジュを利用して王権を脅かそうと、政変にもなり得そうだった大きな派閥争いが起きている。


結果、アンジュと腹黒宰相はそれを逆手に取って多くの貴族たちを粛清したというのがもっぱらの噂だ。それはアンジュに敵対する勢力がいなくなることと同義なことで。揺るぎのない一枚岩のような国政が行われ民にとってもより良い国造りが始まっている。


「そうだが? 今年も宴を催すとあの腹黒宰相から言われてる。貴族たちと社交辞令を言い合うのがほんっとうにめんどくさい事この上ない!」


「どうせお世辞なんて言わないくせに」

「あたり前だ!」


しょんぼりして甘えてきたかと思ったら怒り始めた。会って数分しか経ってないのに、得意げになったり、笑顔になったり、拗ねて見せたり、乙女みたいな顔したり、ころころと表情が変わって忙しい奴。

レクスを思い出す。


アンジュがこんな風に自然体で話す相手は僕だけだ。そのことは周知の事実で、この場所で遠巻きにしている図書館の職員や閲覧者もあたたかい視線を僕たちに投げかけている。

同時に女子たちからはうっとりした目で見られてる。僕の童顔で華奢に見える容姿はかなり美形な部類に入るという自覚はある。そしてワイルド美形で細いのにたくましいアンジュと並ぶ姿はタイプ別のギャップもあって萌えるらしい。


だけどアンジュが一人でいる時は話が別だ。誰かがアンジュに下手に近づいて話しかけると睨まれて咬みつかれる勢いで唸り声を上げられる。不機嫌な時はやばい。そんなアンジュと平然と話せる人材はそう多くはない。


まあ、アンジュのこんなところは可愛げがあっていいんだけどさ。そうなんだよなあ。綺麗な顔してるけどワイルド系でもあるこの王様のことを可愛いって思うことがあるんだよなあ。俺はおかしいのか?


「あのさ……二人だけでお祝いでもする?」


下から目線だけを上げてアンジュに聞いてみる。去年は記念すべき戴冠一周年ということもあって、国内外からの来客やイベントが盛りだくさんだった。腹黒宰相からパンパンにスケジュールを詰め込まれたせいでアンジュが忙しすぎてお祝いする時期を逃してしまったんだ。あの時のアンジュの疲弊ぶりと言ったらそれはもう。だから今年はお祝いしてあげようかなって考えてた。


二人だけって言うのには理由がある。アンジュはあまり大勢でいるのを嫌うからだ。僕と二人だけでいる方が自由な気持ちでいられて嬉しいみたいだし。普段から自由が過ぎる気もするけれどこういう時こそ気楽に楽しませてあげたい。


「え!? ほんとか!?」


うーん。これでもかって言うくらいに喜んでるなあ。ふさふさ狼しっぽがぶんぶん揺れてるせいでワンピースとロングケープコートがめくれそうな勢いなんだけど。王様がはしたないからおよしさなさいよ。太ももとおしりが見えちゃうよ?


「うん。アンジュが僕のことを司書になれるようにクションシュカ館長に勧めてくれてからも二年になるし」

「そうだな! ジュリも就職二周年記念だったな! それじゃあジュリの二周年も祝わないとだな!」


うん。二人の記念を一緒に祝うのも良いよな。お祝いしてお祝いされるなんて良いことじゃないか。お祝いするならアミックが働いているレストランにしようかな? アミックとアンジュは会ったことがないし紹介するのも良いかもしれない。そしたら驚くだろうなあ。王様だもんな。


だけどアンジュと僕が友人であることをアミックは知ってる。アンジュの話をするとなんだか不機嫌になるんだよな、あいつは。


「それじゃあさ。アンジュのスケジュールに合わせるから教えてよ。レストランに予約入れておくから」

「分かった! 腹黒宰相にきっちり話をつけておくさ! 俺様にまかせろ! ふっふふ〜ん♪」


おおう。めっちゃ楽しみにしている表情が可愛いな。いつも思うことだけど、まるでレクスみたいな印象を受ける。その度に僕の心は懐かしくてたまらなくなる。

レクスの笑顔は輝くように美しくて可愛かった。またあの笑顔に会いたい。


レクスは生きているのか。どこにいるのか。ずっと頭から離れない。

今も探していないわけじゃない。20歳になる前に王都に引っ越してきてからは憲兵隊の詰所にも行ったりもした。だけどみんなの姓も分からないし証拠も何もないからまったくこれっぽっちも相手にされなかったけど。

何年も前のことだから当然と言えば当然だ。あの日から十二年も経ってるし、手掛かりもないし探しようがない。あきらめたわけじゃない。だけど……どうしようもなくて普通に暮らせてしまっていた。


三年ほど前、そんな僕の前に現れたアンジュ。

小国ベスティアの新国王であり。

僕の大親友だ。

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