怪異相談室⑪ ほほえみ、その後
永遠に見られ続けた付喪神"ほほえみ"が
仲間たちとの会話を経て
少しだけ自分の表情を取り戻していく
そんな静かな後日談
相談室を出た“ほほえみ”は、
廊下の薄明かりの中でふわりと揺れていた。
白い光の輪郭が、前よりほんの少しだけ柔らかい。
神様が扉の隙間から顔を出す。
神様:
「どうじゃ、少しは気が晴れたかのう」
ほほえみ:
「……うん。
みんなに話したら、ちょっとだけ軽くなった気がするの」
神様:
「お主は見られることで存在が形になる。
だからこそ、唯一無二の芸術品なのじゃよ」
ほほえみ:
「……ねえ。
“今の私”を見てくれる人って、いるのかな」
神様は少しだけ目を細めた。
神様:
「おるとも。
お主を『有名な絵』としてではなく、ただの『一人の女性』として見つめる者が現れる。
それには数百年という時間が必要だっただけじゃ」
ほほえみ:
「どうして?」
神様:
「お主の微笑みは、心の奥にゆっくり染みるからじゃよ」
ほほえみは、ふわりと揺れた。
それは照れたようにも、安心したようにも見える。
そこへ、廊下の向こうから
とことこ歩いてくる影がひとつ。
座敷童子:
「あっ、ほほえみさん!
ねえねえ、また来てね!
今度は“怒り顔”の練習しよ!」
ほほえみ:
「やだってば……」
でも、その声はどこか楽しそうだった。
口裂け女もひょいと顔を出す。
「今度さ、私の“笑顔の作り方”教えてあげよっか?
ほら、私って笑うと……ね?」
ほほえみ:
「……うん、ちょっと興味あるかも」
口裂け女:
「まずは口角を耳まで……」
ほほえみ:
「それは無理!!」
呪いの人形は、ぽつりとつぶやく。
「…私も…“普通の顔”練習したい…」
全員:
「いや、お前はそのままでいい」
呪いの人形:
「……そっか……」
ほほえみ:
「……あなたの顔、私は嫌いじゃないよ」
呪いの人形:
「……うん」
ほほえみはくすりと笑った。
その笑みは、相談室に来たときよりも
ほんの少しだけ“今”を帯びている。
幽霊がそっと近づき、
指♡をひとつ、ほほえみに向けて差し出した。
九尾:
「…今までで1番いい顔してるぞ」
呪いの人形:
「…九尾が褒めた…」
ほほえみ:
「……ありがとう。
なんだか、また笑える気がする」
白い光がふわりと揺れ、
廊下の奥へとゆっくり消えていく。
その背中は、
“永遠に見られる微笑み”ではなく、
“今を生きる微笑み”に少しだけ近づいていた。
次話:
2026/6/3 20:00に更新します




