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不器用な怪異たちシリーズ  作者: 瀬戸 陽子


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【本編】Ep.29 おばあさんとの再会

仲間たちと笑う日々の中で

座敷童子の胸に残っていたのは

壊れてしまった家と

優しかったおばあさんの記憶


死神の言葉に背中を押され

彼女は静かに歩き出す

その先で待っていたのは

失われたはずの温もりだった

1.邂逅


夕暮れの風が、アパートの廊下をゆっくりと抜けていく。


座敷童子はその風に紛れるように、静かに歩いていた。

新しい家での生活も気づけばもう数ヶ月。

なぎと賑やかな仲間たちのそばで過ごす日々は穏やかだった。


呪いの人形、幽霊さん、神様。

それに九尾と口裂け女さん。


真剣にお話したかと思えば、次の日には大声で笑ったり。


…それでも、ふとした瞬間に思い出す。


あの古い家の匂い。

金平糖の瓶の音。

おばあさんの、あの優しい声。


胸の奥が、少しだけきゅっとなる。


そんなときだった。


背後から、気配のようなものがふっと揺れた。

振り返ると、黒い影が夕陽に溶けるように立っていた。


黒いローブに身を包み、空気が一気に下がる。


目の前には……死神。


座敷童子は少しだけ目を伏せた。

あの日のことが胸に蘇る。


家が壊されていく音。

畳の切れ端が足元に落ちた瞬間。

そして――

おばあさんがいなくなったあの静けさ。


座敷童子:

「……何しに来たの?」


死神:

「…今は仕事じゃないよ。

最近この辺賑やかになってるからね。

ただの通りすがり」


座敷童子:

「……おばあさんを、連れていったの?」


声は震えていた。

怒りでもなく、悲しみでもなく、ただ“分からない”という不安の震え。


死神はしばらく黙っていた。

風が二人の間を通り抜ける。


死神:

「個人情報だから詳しくは言えないけど……ひとつだけ言える。

知りたいならその場所に行ってみるといい。」


座敷童子は顔を上げる。


座敷童子の胸の奥で、何かが小さく揺れた。


座敷童子は迷った。

怖かった。

もし違ったら、またあの空っぽの気持ちに戻ってしまう気がした。


それでも――

死神の声は、嘘をついているようには聞こえなかった。


座敷童子:

「……行ってみる」



死神は何も反応せず、影に溶けるように姿を消した。



2.新しい家の前で


数ヶ月前に更地となってしまった場所に、

真新しい家が建っていた。


白い壁。

新しい木の匂い。

知らない生活の音。


座敷童子:

「……ここじゃない」


胸がぎゅっと痛む。

自分の知っている家じゃない。

自分の居場所じゃない。


「…なぎのところに帰ろう」


…そのとき


「……あら、風が気持ちいいねぇ」


懐かしい声が、夕暮れの光の中から聞こえた。


座敷童子はゆっくりと振り返る。


玄関先で、植木に水をやるおばあさんがいた。

少し痩せたけれど、笑顔はあの日のままだった。


おばあさん:

「また金平糖、買っちゃったよ。

誰にあげるわけでもないのにねぇ」


風がひとつ吹き抜けた。

座敷童子の胸の奥で、何かがほどけていく。


座敷童子:

「……よかった」


声は届かない。

でも、風だけがそっと答えた。


おばあさんはその風に目を細め、

「おやおや」と微笑んだ。


おばあさん

「また会えたね。

ほら、金平糖をお食べ。」


座敷童子:

「…なんで分かるの?」


おばあさん:

「いつも金平糖つまみ食いしたり、おうち走り回ってたよねぇ。」


顔をくしゃくしゃにして笑っている。


息子:

「お母さん、寒くなる前に家に入りなよ。

あれ?誰かいるのかい?」


おばあさん:

「私はもう十分幸せだよ。新しいお家の人も幸せにしてあげてね。」


温かさで胸がいっぱいになる。

座敷童子の目からは涙が溢れていた。


座敷童子:

「またね、おばあさん」



座敷童子は静かに背を向ける。

もう、安心していい。

もう、あの家のことを抱え込まなくていい。


夕暮れの道を歩きながら、

座敷童子は小さくつぶやいた。


座敷童子:

「ありがとう、死神さん」


風が優しく揺れた。

まるで、遠くから返事が届いたように。

次話:

2026/6/05 20:00に更新します

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