表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不器用な怪異たちシリーズ  作者: 瀬戸 陽子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/46

【本編】Ep.27 幽霊エピソード0 【華やかな夜】

大正の灯りの下で生まれた

ひとつの未練が

時代を越えて形を変え

今もそっと指先に残っている

【本編】Ep.27 幽霊エピソード0 【華やかな夜】

1. 華やかな夜


大正末期の、薄暗い路地に光が揺れていた。

香を焚く小さな店の暖簾の向こうで、彼女は座していた。

芸者としての顔。微笑むたび、客の目がきらめく。


指先で扇を軽く振り、笑みを浮かべる。

その一瞬、空気がふわりと揺れる。

手元を見つめる客は、微かに心を奪われる。


だが、その背後にある本心は誰にも見えない。

彼女は舞台で注目を集めるのは得意だ。

でも、心の奥ではいつも

「本当に自分を見てくれる人」

を探していた。


心に残るのは、華やかさよりも孤独。

一晩の喝采が過ぎると、ひとりになる時間が、あまりにも長くて冷たい。


喝采が消えたあと、

夜は、驚くほど長かった。


2. 本当の気持ち


彼女は芸者として人気があった。

しかし、心が、満たされたことは無かった。


「もっと…誰か、私の存在を覚えていてくれる人はいないだろうか」


そんな思いを胸に、夜ごと街を歩く。

客の笑顔や拍手は一瞬輝くけれど、手を振っても、名前を呼んでも、

誰かが自分を心から覚えていてくれるわけではない。


一晩経てば、夜露に消えてしまう。


それが、いつしか「人に喜ばれることを求めるように」になった。


小さな仕草、口元や手の動き、笑い声――

誰かが反応してくれるかどうかで、自分の存在を確認する。


細かい所作を、反応を、しっかりと刻んだ。

人に喜んで貰える為に…



3. 忘れられない日


ある冬の夜、しんしんと雪が舞う路地裏。


階段の土が硬い水で覆われていた。


気付く間もなく、全身に痛みが回る。


ひとり、誰もいない。

舞い上がる雪を見つめながら、涙をこらえた。


「いやだよ…誰も見てくれないなんて…」


その瞬間、命の灯が静かに消えた。

街の灯も、笑い声も、遠くなる。


だけど、彼女の胸の奥の“人に喜んでもらいたい”という思いは消えなかった。



4. 現代への漂流す


時は流れ、現代の廃ビル。

カメラを回す配信者の後ろに、ひっそりと手が映り込む。


彼女は無言で扇をささせるよう指を曲げた。

偶然、角度のせいで指ハートに見えた。


でも、彼女の意図は単純だ。

「誰か、喜んでくれるかな」

その思いだけ。


歓声やスマホの光が返ってくると、胸の奥が温かくなる。

あの時、誰かに見てほしくて孤独だった夜の気持ちが、少しだけ満たされる。


5. 指ハート幽霊


光を感じ、反応を確かめ、また同じ仕草をしてみる。

廃ビルの暗がりの中、彼女は繰り返す。


……指♡


無言で、でも全力で。

たとえ誰も直接触れてくれなくても、反応があれば、それだけで満たされる。


かつての孤独な芸者時代の想いが、

そのまま残留しているように。



死神:

「死後も、この感覚を忘れられなかった。

人に見られること――それが彼女の未練だった。」


そして今、指ハート幽霊は無言で手を上げる。

ただのジェスチャーかもしれない。

でも、その指先には、長い時間を経ても変わらぬ想いが宿っている。


光に反応して微かに揺れる指先。

それを見る人々は知らない。

その仕草には、かつての孤独と努力が重なり、無意識に愛らしく見えるのだ。


死神:

「そういうわけで、彼女はまだ天国に行かない。

誰かの反応を感じることで、初めて自分の存在が温かくなるからね。」



まだ、死神は彼女を連れて行かない。

彼女には、もう少し、現世で人の反応を楽しむ時間が必要だから。


そして彼女は、今日も誰かの笑顔を求めてそっと現れる。


……指♡



次話:

2026/5/27 20:00に更新します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ