怪異相談室⑦ 子どもが泣くと悲しい
怖がらせるために来るはずのなまはげが、
「子どもが泣くと悲しい」とこぼす夜。
優しさと役目の間で揺れる来訪神のお話です。
相談:子どもが泣くと悲しくなります
座敷童子:
「赤鬼さんだっ♪」
なまはげ:
「……ひとつ申しておきたいことがあるべ」
座敷童子:
「いきなり?」
なまはげ:
「よく言われるんだど……
俺は鬼ではねぇ」
幽霊:
指♡?(えっ?)
座敷童子:
「えっ?でも赤い顔して角の生えてるよ?」
呪いの人形:
「……包丁…持ってる…」
なまはげ:
「これは“装束”だべ。仮装みてぇなもんだ」
神様:
「ほっほっほ。来訪神じゃよ。ワシと同じじゃな」
幽霊:
指♡?…指♡!(えっ?…えっ!)
なまはげ:
「お久しゅうございます、神様。
俺ぁ年の瀬に家々を巡り、怠け心を戒め、福を授ける者だ。
……それなのに鬼扱いとは、さすがに心外だべよ」
座敷童子:
「でも“泣く子はいねが〜”って叫ぶよね」
なまはげ:
「あれは“しつけ”だ。教育的指導ってやつだべ」
座敷童子:
「包丁持ってるのに?」
なまはげ:
「いや……まぁ……そういうもんなんだど」
呪いの人形:
「…誰を呪ってるの?」
なまはげ:
「呪具じゃねぇ。厄を払うための道具だべ。
……と、話が逸れたな。
子どもが泣く顔を見ると、胸がぎゅっとすんだよ」
座敷童子:
「じゃあ、なんで脅かして泣かせるの?」
呪いの人形:
「…親より怖い存在を示し…
親が守ることで安心を与え…
反省を促す…」
神様:
「確かにつらい役回りじゃのう」
幽霊:
指♡…(うん…)
なまはげ:
「そうなんだべ。
だども最近の子どもは、泣かねぇんだよ」
座敷童子:
「泣かないならそれでいいじゃん」
呪いの人形:
「…泣く子を連れ去るフリ…
それが存在意義…」
なまはげ:
「よく分かってるな。
だども今は“なまはげキター!”って喜ばれるんだべよ」
神様:
「時代じゃな」
なまはげ:
「だから親族が俺以上に驚かすんだ。
“ここに隠れてろ”って言っておきながら、俺に隠れ場所を教えてくるんだべ」
座敷童子:
「でもさ」
なまはげ:
「うむ?」
座敷童子:
「“泣く”って、怖くて泣く必要はなくない?」
なまはげ:
「……なんだと?」
呪いの人形:
「…感情が揺れれば涙は出る…」
幽霊:
指♡(いいね!)
神様:
「“泣く”とは魂が動いた証よ」
なまはげ:
「いや、俺の役目は“怖がらせる”ことでは……」
座敷童子:
「じゃあさ、
“泣く子はいねぇが〜”って言ったあと、
全力で変顔すればいいじゃん」
なまはげ:
「……はぁ?」
呪いの人形:
「…赤鬼フェイスからの全力変顔…」
幽霊:
震えながら指♡(ウケてるらしい)
神様:
「福笑いの概念を内包しておるな」
なまはげ:
「内包すんなべ!」
座敷童子:
「怖いと思ってたのに急に面白い。
子どもも、お腹痛くなるまで笑ってくれるよ!」
呪いの人形:
「…笑い泣き達成…」
なまはげ:
「それじゃ芸人だべよ……」
神様:
「進化形“エンタメ型”来訪神じゃな」
なまはげ:
「勝手に分類すんなって」
座敷童子:
「しかも最後に“今年もちゃんとやれよ〜”って優しく言う」
呪いの人形:
「…ギャップ…萌え…(*´ω`*)」
なまはげ:
「俺は萌えじゃねぇ!」
神様:
「泣かせるのではなく、泣ける存在になればよい」
(少し静かになる)
なまはげ:
「……変顔の練習、いるべか?」
幽霊:
(鏡差し出す)
なまはげ:
「なんで用意してんだよ!
……まぁ、考えとくべ」
なまはげ:
「……実はもう一つ相談があるんだど」
(空気が引き締まる)
「俺ぁ……酒が飲めねぇんだ」
全員:
「え?」
神様:
「なまはげは家に迎えられ、もてなしを受ける。
酒を受けるのは儀礼の一部じゃ」
呪いの人形:
「…断っちゃだめ…」
神様:
「しかも何軒も回るのじゃ」
なまはげ:
「体質的に無理なんだべ。
一口で真っ赤、二口で視界が歪む」
座敷童子:
「…神様なのに?」
なまはげ:
「来訪神とアルコール分解酵素は関係ねぇべよ」
呪いの人形:
「…神様は基本お酒好き…」
ちらりと神様を見る。
神様:
「……否定はできんのぅ」
呪いの人形:
「…でも、なまはげ酒豪じゃなきゃ…」
なまはげ:
「それは人間側の都合だべ。
俺の本質は“厄祓い”。
飲酒量じゃねぇ」
神様:
「象徴としての酒だからのぅ…」
なまはげ:
「象徴が強すぎんだよ……」
座敷童子:
「お酒飲むと、どうなるの?」
なまはげ:
「頭が回らなくなってな、
“泣く子はどちらにおられますか〜”って言うらしいんだべ。
覚えてねぇけど」
なまはげ:
「そんで、
“親の言うこと聞くんだぞ〜”って涙ぐむらしい」
座敷童子:
「優しい〜〜」
呪いの人形:
「…存在意義の崩壊…」
(静寂)
座敷童子:
「でも最後にはみんな笑ってるんでしょ?
いいことだと思うな!」
幽霊:
指♡指♡(うんうん)
呪いの人形:
「…そうなの…かな…」
なまはげ:
「だから、どうしたもんかと……」
神様:
「来訪神の本質は“交流”じゃ。
恐怖は手段に過ぎぬ。
杯を交わし、言葉を交わすことこそ祓い」
なまはげ:
「……」
神様:
「泣かなくなったのは、
お前が“畏れ”から“親しみ”へ変わったからかもしれん」
座敷童子:
「じゃあ問題ないね!」
呪いの人形:
「…時代に合わせて儀式を変えたの…(驚愕)」
なまはげ:
「怖がらせたいわけじゃねぇ。
怠け心を剥ぎ取りてぇだけだべ」
呪いの人形:
「……“なまはげ”。
怠けて囲炉裏に当たりすぎてできる“なもみ”を剥ぐって意味……」
なまはげ:
「おめぇ、ほんっと物知りだなぁ」
関心したように目が大きく開き、白黒させた。
座敷童子:
「あ、今の顔ちょっと面白い!」
なまはげ:
「いや、今のは変顔じゃ……まぁいいべ。
そして、俺ぁ鬼じゃねぇ。
戒めと祝福のために在る存在だべ」
座敷童子:
「でもお酒飲めないんだよね」
なまはげ:
「そこは言うな!」
幽霊:
(おちょこ差し出す)
なまはげ:
「だから無理だって言ってるべよ!!」
神様:
「ではこうしよう。
酒は象徴。象徴は変化する。
来年からは“杯”を交わすことを重んじよ。
中身は……薄めてもよい」
呪いの人形:
「…“祓いハイボール(0%)”…?」
神様:
「……ありじゃな」
座敷童子:
「良かったね!神様公認だよ!」
なまはげ:
「それで厄祓いできる…のか?」
神様:
「……目に見える形では無い。本質を捉えるのじゃ。
お前は鬼ではない。
恐怖の化身でもない。
“迎えられる存在”なのじゃ」
(静かになる)
座敷童子:
「ねぇ…最近の子どもが泣かないのって、
“怖くないから”じゃなくて、
“信じてるから”なんじゃない?」
呪いの人形:
「…福、ちゃんと届けてくれるって…」
座敷童子:
「だって、なまはげさんとお話しても全然怖くないもん」
なまはげ:
「……」
(無理やり怖がらせなくてもいいのか…)
呪いの人形:
「…で、今夜はどうするの?」
なまはげ:
「……一口だけだべよ」
わずか一滴、口をつけた瞬間、
もう目元に涙が溜まっている。
全員:
「弱い」
なまはげ:
「俺にアルハラすんなぁ……」
次話:【本編】Ep.22 陰陽師、深夜の見廻り
2026/5/08 20:00に更新します




