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不器用な怪異たちシリーズ  作者: 瀬戸 陽子


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【本編】Ep.22 陰陽師、深夜の見廻り

不穏な気配を追う陰陽師の子孫。

しかし辿り着いた先にいたのは、座敷童子と幽霊と、妙に穏やかな住人。

緊張と日常がすれ違う、深夜の見廻り回です。

1. 夜の気配に導かれて


とある曇り空の夜。

月は雲に滲み、街全体が薄墨を流したような色をしていた。


白い羽織が、湿った夜風にゆらりと揺れる。

首から下げた古い木札が、かすかに乾いた音を立てた――かちり。


足取りは妙に落ち着かない。アスファルトに残る昼の熱が抜けきらず、夜気が重く肌にまとわりつく。


――由緒正しき陰陽師の子孫。


この街には、不思議な気配が多い。


そう感じながら、深夜の見廻りを続けていた。


遠くで救急車のサイレンが尾を引き、やがて溶ける。

コンビニの自動ドアが開く電子音。

どこかの室外機の低い唸り。


そのすべての隙間に、“何か”がいる。


手にした風水盤が、かすかに震えた。

最初は小さく――やがて、びり、と震動が指に伝わる。


普段は微動だにしないのに、この町では激しく揺れている。


街灯が、ちかちか、と瞬いた。

一瞬だけ辺りが暗転し、次の瞬間、橙色の光が戻る。


数メートル先。

その明滅の隙間に、立っていた。


赤い目をしたマスクの女性。


光が戻るたび、距離が近づいている気がする。

陰なる気配が強まり、空気がひやりと冷える。

さきほどまでの湿気が嘘のように、肌が粟立つ。


女性はゆっくりとマスクに手をかけた。

布が擦れる音が、やけに大きく響く。


陰陽師の子孫は札を取り出し、身構える。

指先に汗がにじみ、紙がわずかに湿る。


???:

「……ワタシ、キレ……くちゅん!

……ワタシ……くちゅん!」


沈黙。


陰陽師の子孫:

「……えっ!?」


張りつめていた空気が、ぱちん、と音を立てて切れた。


札が手から滑り落ち、ぺらりと回転して女性の足元に落ちた。



???:

「……あ、ごめんなさい……」


鼻を赤くした女性は、くしゃりとした声で言う。

白い息が、小さく震えた。


彼女は札を拾い、両手で丁寧に差し出す。


陰陽師の子孫:

「あ、ありがとうございます……

えっと……お大事に」


???:

「……ありがとう」


女性はゆっくりと歩き去る。

足音は、やけに普通だった。


やがて闇に溶ける。

街灯は、今度はもう点滅しない。


陰陽師の子孫:

「……さっきの女性、マスクをつけてたけど、何か口元が……?」


だが、曇天の夜はすべてを曖昧にする。


「…気の所為…か…」


まだ気配はある。


風水盤は、今度は静かに、しかし確かに方角を示していた。


彼は歩みを進める。

路地の奥、古い木像アパートの前へ。


2. アパートの前で


外壁は少し剥がれ、鉄階段は夜露で鈍く光っている。

蛍光灯が、じい……と低い音を立てていた。


陰陽師の子孫(心の声):

(……この辺りに妙な“集まり”の気配がある……

結界の揺れではない。

もっと……柔らかい……?

なんだ、この気配……)


風水盤は震えない。

だが、中心の針がゆっくりと、呼吸のように揺れている。


そのとき、頭上で金色の光がひとつ、

ゆらりと煌めいていた。


風が穏やかに流れる。

その中に、かすかな笑い声。


陰陽師の子孫:

「……やはり、何かいる」


両手を胸の前で組み、印を結ぶ。

指先が月明かりを受け、白く浮かび上がる。


陰陽師の子孫:

「臨・兵・闘・者・皆・陣――」


一つずつ、丁寧に形を作り、念を込める。


ぱたぱた、と軽い足音。

畳を踏むような柔らかな響き。


視界の端に、白い袖がひらりと現れた。


着物姿の子供――座敷童子。


座敷童子:

「こんばんは。

でも、夜遅いから静かにして欲しいな」


陰陽師の子孫:

「!?!?!?」


印を結んだまま凍りつく。


座敷童子は、彼の手元を覗き込む。


座敷童子:

「それ、なぁに? おまじない?」


陰陽師の子孫:

「お、おまじ……っ!?

こ、これは正式な……古来より伝わる……!」


座敷童子:

「ふーん……でも何言ってるのかわからないよ?

なに?りんぴょーとーしゃーって?」


蛍光灯が、ちか、と一度だけ明滅する。


陰陽師の子孫:

「……えっ、あ、うん……」


そのとき。


部屋の奥から、ふわりと冷気が漏れた。

エアコンの冷気ではない。

もっと透明で、静かな冷たさ。


幽霊:

指♡?(どうしたの?)


空気が少しだけ歪む。

月光が、淡く揺れる。


陰陽師の子孫:

「これは、彷徨える魂……!

怪異は本来、在るべき場所へ還すものだ!」


再び印を結ぶ。


陰陽師の子孫:

「臨・兵・闘・者・皆――」


幽霊:

手をぱたぱた、ぐーぱー、指をひねり……

最後に指♡(なぜか自慢げ)


座敷童子:

「できてないよ〜?」


陰陽師の子孫:

「ちょ、ちょっと待て!? それは印じゃない!!

っていうか、なんで真似するの!?」


幽霊:

指♡(しょんぼり)


さきほどの冷気が、ほんの少し温くなる。


陰陽師の子孫:

「……な、なんだこの幽霊は……」


3. 住人の声


部屋の明かりはまだ点いている。

カーテン越しの橙色が、夜にやわらかく滲む。


意を決し、チャイムを押す。


ぴんぽーん。


少し遅れて

ドアがわずかに開き、チェーンが光を反射する。


その隙間からギターの音色が聞こえてくる。


???:

「……どちら様ですか?」


陰陽師の子孫:

「夜中に申し訳ありません。

このあたりで、変な物音などは……」


???:

「……物音? ん~何かあったかなぁ。

……それより、どちら様ですか?」


陰陽師の子孫:

「あ、えっと……近くで巡回を……」


???:

「巡回……?警察ではないですよね。

勧誘でしたらお断りします」


その横から、座敷童子がひょこっと顔を出す。


座敷童子:

「なぎ〜、この人ね、悪い人じゃないよ〜。

さっきお外でおまじないしてた」


なぎ:

「おまじない……ああ、また"何か"来たのかなぁ。

……まぁ、いっか。

うちは問題ないので、大丈夫ですよ」


空気は穏やか。

怪異の気配はあるのに、恐ろしさがない。


陰陽師の子孫:

「……なんだこの家……

座敷童子はわかるけど、幽霊まで……普通に……共存している……」


4. そして、静かに


部屋の隅。

薄暗い棚の上。


呪いの人形は、扉の隙間からじっと陰陽師を見つめていた。


窓から差し込むわずかな月光が、片目だけを照らす。


呪いの人形(心の声):

(……この人、視えてる人……

…座敷童子と会話まで……)


空気が、ほんの一瞬だけ重くなる。


陰陽師は、その視線に気づく。


陰陽師の子孫:

「……この人形、もしかして……」


だが、人形はぴくりとも動かない。

ただの古びた布と糸にしか見えない。


呪いの人形(心の声):

(……でも、この気配……

どこか、ずっと前にも……)


座敷童子:

「今日はもう帰った方がいいよ〜。

なぎ、明日仕事だし」


陰陽師の子孫:

「……あ、はい……」


なぎ:

「おやすみなさい」


玄関の鍵が、かちり、と鳴る。


夜風が吹き抜け、羽織が揺れる。


陰陽師は路地へと消えていった。


ただ――

人形だけは気になった。


確かに“何か”が、あった。


調べてみるか。


そして

金色の光は

夜の空気を震わせるように、かすかに揺れ――


ふっと、消えた。


次話:【本編】Ep.23 口裂け女 エピソード0 「鏡の中の涙」

2026/5/11 20:00に更新します

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