【本編】Ep.15 ここに来た理由
光と音と気配が重なる夜。
座敷童子の小さな声が、過去へと静かに道を開きます。
夜の静けさがゆっくりと部屋に沈んでいく頃。
外の木々が風に揺れる音が窓越しに淡く届き、室内のギターがそれに寄り添うように流れている。
畳の匂いがふわりと立ち、窓際には夜の冷気が残っている。
スマホから流れるギターの音色が部屋の隅々に溶け込み、リビングには静かな安らぎが満ちていた。
なぎはソファに座り、読みかけのページを指で押さえたまま、隣の気配を感じていた。
座敷童子は小さく体を揺らしながら、なぎの横にちょこんと座っている。
なぎは小さく息を吸い、本を閉じた。
なぎ:
「……あなた、だよね。
熱が出たとき、タオルで冷やしてくれたの」
座敷童子:
「うん!そうだよ!」
少しだけ、誇らしそうに笑う。
そして座敷童子は一瞬だけ目を伏せ、袖の先をぎゅっと握る。
その小さな動きに合わせて、部屋の空気がほんの少しだけ詰まった。
座敷童子:
「なぎが、つらそうだったから」
なぎの口許がゆるむ。
なぎ:
「ありがとう」
なぎは目を細め、肩の力を抜いた。
「…やっぱりそっか。
最近、なんとなく気になってたんだ。
もしかして、ずっとここに居たのかな?」
座敷童子は頷いた。
座敷童子:
「ずっと前から。
……ここ、あったかいから」
その言葉は、まっすぐだった。
なぎは小さく笑う。
なぎ:
「そっか。
もしかして、時々難しい言葉の書かれたメモを置いてるのも、あなた?」
座敷童子:
「ううん。それは人形だよ!」
棚の上の人形が肩をぴくりと震わせ、糸がかすかに揺れた。
呪いの人形(心の声):
「…なんで言うの!?
……動いたら…だめ…」
なぎは棚に目を向ける。
しばらく見つめてから、静かに言った。
なぎ:
「行くあてがないなら、ずっといていいよ」
呪いの人形:
「……なんで、怖くないの?
…呪いの人形なのに…」
思わず声が出る。呪いの人形は言葉を失い、目を細めた。
なぎ:
「ここに居てもいいですかって、手紙を残してくれてたでしょ。
それに――やっぱり、お話できるんだ」
屈託のない笑顔に呪いの人形は胸がきゅっとなる。
呪いの人形は、言葉を失う。
呪いの人形(心の声):
「……ここにいていい、なんて言われたのは初めて…」
呪いの人形:
「…そうだけど…」
もうすっかり捨てられていたと思っていた。
「…ちゃんと読んでくれてた…の?」
なぎ:
「ちょっと難しかったから、友達に訳して貰ったんだけどね」
座敷童子はそのやり取りを見ながら、どこか安心したように肩の力を抜いた。
なぎ:
「ついでに聞くけど、
隣の部屋にも…お友達いるの?」
座敷童子:
「うん!いるいる、”いっぱい”いるよ!」
なぎ:
「…そんなに”いっぱい”…」
目を丸くしながら、誰もいないはずの隣の部屋に、なぎは軽く手を振った。
その仕草に合わせて、隣室の暗がりで小さな光がちらりと揺れた気がした。
呪いの人形:
「……見えてるの?」
なぎ:
「なんとなく、“そんな気がする”くらいかな」
しばらく静かな時間が流れる。
なぎは、座敷童子の横顔を見つめる。
なぎ:
「それじゃあなたは…
ここに来る前はどこにいたの?」
畳の上に座り直し、まっすぐ前を見る。
座敷童子:
「……えっとね」
小さく息を吸う。
座敷童子:
「なぎのところに来る前は――」
その声は、静かに過去へ向かった。
畳の匂い、カラリと鳴る小さな瓶の音――なぎがまだ知らない時間の断片が、
ふっと部屋に漂った。
次話:【本編】Ep.16 座敷童子:エピソード0 -- おばあさんとの記憶 --
2026/4/20 20:00に更新します




