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不器用な怪異たちシリーズ  作者: 瀬戸 陽子


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■怪異相談室⑤ 山で修行に集中したい

静かに修行したい天狗が、観光客で賑わう山に悩んで相談に来ました。

格式高いはずの天狗が、怪異たちに振り回されるゆるい相談回です。

✨怪異相談室⑤ 山で修行に集中したい


相談:山に人が多すぎて修行にならぬ(※天狗)


(ふわりと風が巻き起こる。

畳の上に、松の香りがすっと流れ込む。)


座敷童子:

「……なんか、山の匂いする」


呪いの人形:

「……風の気配……強い……」


(影がすっと伸び、羽が揺れる。)


天狗:

「——失礼する」


座敷童子:

「天狗さんだ!鼻高い!」


天狗:

「うむ、よく言われる。

だが、礼としては“立派な鼻”と言うのが望ましいぞ」


幽霊:

指♡(かわいい)


天狗:

「……かわいい、とな。

悪しき響きではないが……格式が揺らぐな」


呪いの人形:

「……かわいい……似合う……」


天狗:

「そなたまで言うか……まあよい。

本題に入らせてもらう」


神様:

「うむ、申してみよ」


天狗:

「——山に、人が多すぎるのだ」


座敷童子:

「人気者じゃん!」


天狗:

「人気など望んでおらぬ!

静かに修行がしたいだけなのだ!」


幽霊:

指♡…(わかる…)


天狗:

「修行をしている高尾山が“三つ星”とやらに選ばれて以来、

山道が常に行列である。

修行僧が渋滞に巻き込まれるとは、何事だ……!」


呪いの人形:

「……修行……できない……?」


天狗:

「できぬ!」


一呼吸置いてから少しずつ話す。


「瞑想しておれば背後で写真を撮られ……」

(“すみませーん、こっちに目線お願いしまーす”)


「飛べば"もう一回飛んで”と言われ……」

(“あっ、ブレた!取り直すんでもう一回お願いします!”)


「鼻は触られそうになる……!」

(“鼻触っていいですかー?”)


呪いの人形:

「…本当は……不動明王の力に連なるもの……

触れていい類じゃない……」


天狗:

「うむ。この鼻は“授かったもの”だ。

軽々しく扱うでない」


座敷童子:

「鼻、触わってもいい?」


幽霊:

指♡(わくわく)


天狗:

「……やめておけ。

鼻は尊厳の象徴だ」


神様:

「ふむ……で、そなたはどうしたいのじゃ」


天狗:

「山の気を守りたいのだ。

人が来るのは構わぬ。

だが、礼を欠く行いは山を乱す。

“静かにしてほしい”と伝えたいが……」


座敷童子:

「言えばいいじゃん」


天狗:

「言えるか!

我は山の守り手ぞ!?

“静かにしてほしい”など、子狐のような台詞……!」


呪いの人形:

「……格式……邪魔してる……」


幽霊:

指♡(かわいい)


天狗:

「かわいいと言うな……

いや、悪くはないが……」


神様:

「天狗よ。

“守り手”とは、ただ威厳を保つ者ではない。

山を良き形に導く者じゃ」


天狗:

「……導く、か」


神様:

「“静かにしてほしい”は弱さではない。

山を守るための“お願い”じゃ」


座敷童子:

「天狗さん、ちゃんと言えば伝わるよ」


呪いの人形:

「……言葉、大事……」


幽霊:

指♡(がんばれ)


天狗:

「……そうか。

ならば、言ってみよう。

“修行中につき、静かに願いたい”と」


神様:

「うむ、それでよい」


天狗:

「……しかし“かわいい天狗”と呼ばれるのは……

やはり慣れぬな」


座敷童子:

「かわいいよ?」


天狗:

「……いとをかし、とは思うが……

やはり格式が揺らぐ……!」


幽霊:

指♡(かわいい)


天狗:

「まったく……そなたらは容赦がない……

だが、悪くはない」


(羽音とともに、天狗は静かに去っていく。)


座敷童子:

「天狗さん、かわいかったね」


幽霊:指♡(うん)


呪いの人形:

「……格式、揺れてた……」


神様:

「あれもまた天狗の魅力よ」


窓の外で穏やかな風が山の木々を揺らしていた。



その数日後…

【天狗の修行場につき静かに願う

※鼻は触らないでね(天狗の絵)】

と真新しい看板が立てられていた。

木の匂いが微かに漂う。


観光客:

「この看板もかわいい!

写真撮らなきゃ!」


思い掛けず誕生した新らしいフォトスポットに、さらに人が集まっていた。


休憩中の天狗に声がかかる。


観光客:

「ほらほら天狗さん!こっち向いて〜!」


「ギャルピして〜!」


天狗:

「……ギャル……ピ……とは何だ?」


観光客:

「こうやるの!」

ピースサインを手のひらを上にして逆さにする。


天狗:

「……むぅ……これでよいのか……」


(ぎこちなくギャルピする)


観光客:

「かわいいーーーー!!!」


(シャッター音が連打され、列が長くなる)


天狗:

「——なぜだ……

静寂を求めたはずが……」


「……だが、この形もまた……

山の在り方、か……」



次話:【本編】Ep.15 ここに来た理由

2026/4/17 20:00に更新します

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