【本編】Ep.12 はじめての返事
座敷童子の声が、ついに“返事”として届く朝。
小さな一言が、二人の距離をそっと近づけるお話です。
1. 朝の気配
なぎが熱から回復した翌朝。部屋の空気は、いつもより少しだけ柔らかかった。
なぎ:
「……ふぁ…だいぶ楽になった。
でも頭冷やしてたっけ…?」
ぼんやりとした声が、朝の光に溶けていく。
座敷童子は枕元の近くでそっと揺れていた。昨日より姿が濃く、白い袖が光を淡く返す。
座敷童子:
「……おはよう……」
確かに届く小さな声が、朝の光に溶けて部屋の隅々へと広がった。
なぎは靴下を履く手を止め、ゆっくりと顔を上げた。呼吸がわずかに浅くなる。
なぎ:
「……おはよう」
座敷童子は驚き、胸の奥で小さな灯りが跳ねた。袖が嬉しそうに揺れる。
呪いの人形(棚の上から小さく):
「…顔色、良くなってる…」
2. 朝ごはんの音
なぎが朝ごはんを作り始めると、座敷童子は音に誘われてふわりと近づく。
トースターのレバーが下がる音。ケトルの湯気。パンが弾けるように跳ねる。
座敷童子:
「……びっくりした……!」
なぎ:
「え……今のって…?」
座敷童子はテーブルの端にちょこんと座っている。
座敷童子:
「……パン、ぴょんってした……」
なぎは思わず笑う。
なぎ:
「そうだね。びっくりするよね」
袖が嬉しそうに揺れた。
3. 呪いの人形の観察
棚の上から、呪いの人形がひょこっと顔を出す。
呪いの人形:
「……しゃべったね…」
座敷童子:
「挨拶しただけだよ〜」
呪いの人形:
「…それが“しゃべる”ってこと…」
座敷童子はむずがゆそうに袖を握る。
なぎは素知らぬ顔でコーヒーを飲む。
なぎ:
「……なんか、にぎやかになってきたなぁ」
座敷童子はその言葉に反応して小さく揺れた。
4. 神様のひとこと
ふわり、と空気がひとつ息を吸ったように揺れる。
神様:
「……ほほう。ずいぶん“言葉”が出るようになったのう」
座敷童子:
「神様!
今日、なぎといっぱいおしゃべりしたよ!」
朝の光の中に、神様の影がゆっくり立ち上がる。
神様:
「ほっほっほ…
こうして少しずつ“声”を覚えていくものじゃ」
呪いの人形:
「……昨日より、はっきりしてる…」
神様:
「うむ。なぎが聞こうとしておるからの」
座敷童子の胸がぽっと温かくなる。
神様:
「では、またそのうち来るとしよう」
なぎの方をちらりと目を向け、光が揺れ、神様の姿は静かに消えた。
座敷童子:
「……神様……」
呪いの人形:
「……見てたんだね…」
座敷童子は小さく、嬉しそうに袖を揺らした。
5. 玄関での一言
なぎが出かける準備をし、玄関で靴を履く。外のひんやりした空気が、部屋に細く流れ込む。
座敷童子は、胸の奥がきゅっとなるのを感じながら、そっと声を押し出した。
座敷童子:
「……いってらっしゃい……」
なぎは靴を履いたあと、扉に手をかけたまま一拍だけ動きを止めた。振り返り、目元がやわらぐ。
なぎ:
「行ってきます」
座敷童子は照れて姿を薄くしたが、白い袖だけが、余韻のように揺れていた。
次話:■怪異相談室③ 豆は怖くねぇ
2026/4/03 20:00に更新します




