【本編】Ep.10 にじむ気配
なぎのそばで過ごす日々の中で、座敷童子の姿は少しずつ濃くなっていきます。
その小さな変化が、静かに部屋の空気を揺らします。
Ep.10 にじむ気配
1. 静かな朝の揺れ
朝の光が、まだ眠りの残る部屋にそっと降りてくる。カーテン越しの金色が、空気の粒をゆっくり染めていく。
なぎはいつものようにパンを焼き、コーヒーを淹れる。
その小さな音のひとつひとつが、座敷童子の胸に静かに沁み込んだ。
座敷童子:
「今日も、いい音……」
胸の奥に安心がふわりと広がる。
それに呼応するように、白い袖の縁が水彩のように淡くにじんだ。
なぎ:
「……ん?」
振り返る気配に、座敷童子はそっと姿を薄くする。
そのとき、袖先が小さく震え、肩がほんの少し引けた。
なぎはパンを皿に移す手を、ほんの一瞬だけ止めた。
そのまま、部屋の隅へ視線がふっと戻る。
なぎ:
「……最近、白い影がよく見える気がするなぁ」
座敷童子:
「……っ」
胸の奥に小さな灯がぽっとともった。
2. 感情の波紋
夕方。
部屋に流れ込む音楽が、空気をやわらかく震わせる。
座敷童子はその音に吸い寄せられるように近づいた。
座敷童子:
「……きれい……!」
跳ねる音に合わせて胸がふわっと広がり、
小さな喜びがじんわり染みていく。
白い袖が、光を受けてふわりと揺れた。
なぎ:
「……あれ?」
視界の端で白い影が揺れる。なぎは目をこすり、もう一度だけ同じ場所を見た。
ほんの短い沈黙。視線が柔らかく揺れる。
なぎ:
「……まぁ、いっか」
座敷童子は胸の中で小さな弾みを感じた。
その言葉が、胸の奥にそっと落ちていく。
3. にじむ姿と“声”
夜。なぎの寝息が、静まり返った部屋にゆっくり広がる。
音楽の残り香。なぎの匂い。今日の笑い声の気配。スマホから流れる穏やかなメロディ。
それらが重なり、座敷童子の姿は自然と濃くなっていく。白い袖、淡い輪郭、霧のような影。
座敷童子:
「ここ、あったかい……」
かすかににじむような声が空気を震わせた。
なぎ:
「……ん……?」
寝ぼけた声に、座敷童子はびくっとする。だが、逃げる代わりにそっと身を寄せることを選んだ。
4. 夜のひそひそ話
部屋の隅で、小さな影がそっと動く。
呪いの人形:
「……今日、なぎに見られてたよね?」
座敷童子:
「そう……?」
人形は隣にちょこんと座る。
呪いの人形:
「…多分、声も聞こえてたよ。
でも“気のせいかな”って顔してた…」
座敷童子:
「そうなんだ!」
呪いの人形:
「…なんで嬉しそうなの…?
でも、あの人なら気にしないのかな…」
座敷童子の胸の奥がぽっと温かくなる。目を細め、そっと笑うように袖を揺らした。
座敷童子:
「ここ、いいよね。落ち着くし」
呪いの人形:
「…きっとそれでいいのかな…多分…」
白い袖がふわりと揺れた。
5. 小さな決意
なぎの寝顔を見つめながら、座敷童子はそっと呟く。
座敷童子:
「もっとお話したいな…」
声は少しだけ輪郭を持ち、窓の光がその縁を淡く照らす。
白い影がそっと寄り添う。
夜の静けさの中で、座敷童子の姿は今まででいちばんはっきりしていた。
次話:【本編】Ep.11 かすかな声
2026/4/01 20:00に更新します




