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第百十六章 神

「ひかりあれ!」

 神のその一言で俺の体から力が抜けてくる。

 体の各所の繋がりが弱まり、視覚と魔素のセンサーまで持っていかれる。

「悔い改めよ!」

 俺の思考が遮断され、何かに上書きされていく。

 ここは何処だ? 俺は誰だ?

「王牙さん! 神に挑むのに世界の改変を使わずに済むとでも思っているんですか!?」

 俺はその声に応えて世界の改変の禁止を展開する。上書きされた思考が元に戻り、体の繋がりが戻ってくる。これは禁止だけではなく解体。神の使った世界の改変を俺が解体し、元の状態に戻っていく。

「そうです! 今のあなたは勇者を取り込み私を殺せる存在になった! さあ、私を殺してみなさい!」

 神が左手を上げると膨大な数の光が溢れ、光の粒が放射状に迫ってくる。

「王牙さん! 避けようなんて思わないでください! この光の粒は人間用です! 王牙さんの巨体では避けられません! 耐えるんです!」

 俺は神の声に従う。盾を取り出すと世界の改変で強化し、その面積を上げる。出しゃばり盾に世界の改変付与だ。避けようがない程の光の粒を受け止めていく。確かに人間サイズならこの隙間を縫えるが俺には無理だ。

 神が右手を伸ばしてくる。優に俺の三倍はありそうな巨大な石膏像から右腕が伸ばされる。

 俺は神の塔を呼び出すと、神の右腕にぶち当ててその動きを止める。そしてまた神の左腕が上げられる。光の粒子か。俺は咄嗟に神の塔の影に隠れる。

「王牙さん! 神の塔如きで私の攻撃が防げるとでも思ってるんですか!?」

 俺は神の助言に従って、再度盾に世界の改変を施し光の粒子を受け止める。神の言う通り神の塔では光の粒子を受け止められない。

「王牙さん! 神の塔はすぐに片付けてください! 次の準備もそうですが! 私の姿が見えていますか!?」

 俺は神の塔の影から身を乗り出すと神の姿が見えない。

 どこだ? と思う間もなく下から神の右腕がせりあがり、俺は宙に飛ばされる。そして追撃が来る。俺は巨大な神の右腕に翻弄され、地面に叩きつけられる。

「王牙さん! 神の姿を見失えば即死級の追撃が入ります! 一人なのですから決して私から目を離してはいけません!」

 俺は神の助言に従って神の塔を引っ込める。常に視界にか。神から目を背けるのは死と同義か。

「光あれ!」

 先の目潰しか。それは世界の改変の禁止で効かないはずだが・・・俺は体の繋がりが弱まるのを感じる。

「王牙さん! あなたは神を相手にしているんですよ! 初手の禁止が何時までも効いているとでも思いましたか!? この光が来る前に禁止を掛け直すんです! 私が光を使えるという事はあなたの禁止が解けている証拠です!」

 俺は神の助言に従って最大級の禁止を放つ。確かに神の禁止が解けている。俺はこれにすら気付けていないのか。

 そして神の左腕が上がり光の粒子が来る。俺は右手の相棒聖剣を握りしめる。近づくどころじゃない。また左手の盾に世界の改変を掛け直す。

「王牙さん! いい加減自身の禁止くらい跳ねのけてください! 禁止を使っている間は自分は世界の改変を使えない! それはあなたの思い込みです! 異世界転生者であり! 神を超えるインナースペースを持っているんです! あなたの世界の改変は神を超えられるんです!」

 神の助言に従って俺は自身の禁止を自身で破る。相手に禁止を施し、自分は使える。それこそがチートたる世界の改変だろう。俺はそれを使いこなさなければならない。

 神に禁止を使ったまま俺は相棒に世界の改変を纏わせる。長大に長く、それを振る事で世界の改変の刃が神に届く。

 やっと一太刀。神にダメージを与える事に成功した。

「御留守ですよ! 悔い改めよ!」

 俺はそれが来る前に禁止を神に掛け、発動を阻止する。そして神の右腕がやってくる。俺は神の塔を呼び出し、それを遮ると、瞬時に元に戻す。

 神が両腕を上げた。そこには膨大な魔素の塊が収束していくのが感じられる。

 神の魔法か。俺は盾を背にすると世界の改変で加護の鎧を呼び出す。白金の鎧が俺を覆う。神の収束した魔素塊が神の両手で潰されるととんでもない量の魔素が溢れ出さす。あまりにも濃密な魔素の濁流だ。俺は加護の鎧の密閉を高め、それに耐える。

「王牙さん! いい判断です! これなら手加減の必要はありませんね!」

 俺は魔素の濁流が無くなると同時に相棒に世界の改変の刃を纏わせ切りつける。

「そうです王牙さん! 私を殺せるあなたを私が近づけさせるわけがない! 棒を振り回しているようでは私は殺せませんよ!」

 神の言う通りだ。奴からすれば近接されてインナースペースを引きずり出されるのが一番危険だ。それを狙うのは最後。神を弱らせてからだ。俺は世界の改変の刃で突きを連打する。

「王牙さん! 切り裂くんです! 命を断つんです! 突きでは断てる面積が小さい! 大胆に切り裂くんです!」

 俺は体を回転させると世界の改変の刃を神の体に叩きつける。胴体を切りつけられた神の体が揺らぐ。こういう事か。

 神の目が開く。これは神の加護か? 盾を背に背負い加護の鎧を顕現させる。予想通りの加護ビームだ。俺はそれを加護の鎧で無効化しながら世界の改変の刃で切りつける。

「光あれ!」

 クッ。鎧と刃と禁止を同時に行う。俺の扱える世界の改変自体はまだ余裕がある筈だ。それなのに揺らいでいる。鎧と刃が消えそうだ。

「王牙さん! あなたの常識が邪魔をしているんです! 神殺しは世界を殺す! あなたはこの世界を殺すんです! この世界の常識があなたを留めています!」

 俺は全てを扱えるのか?

 鎧を顕現したまま、盾を左手に持ち世界の改変を付与する。そして相棒に世界の改変の刃を。そのまま神に禁止を迫り、神の施しているであろう世界の改変を解体していく。

 それはつまり神の解体だ。弱った神の体に世界の改変の刃を叩き込む。近づく必要はない。この刃が最適に削れる距離を保つ。

 神の左腕が上がり光の粒子が来る。俺がその腕を切り刻むと発動の中止に成功する。そこに神の右腕の気配。今の俺なら神の塔は必要ない。世界の改変の刃で神の右腕を切り裂いていく。俺の体に触れる前に傷つき引っ込められる神の右腕。発動の阻止に成功したようだ。

 そしてすぐに両腕が上げられ魔素の濁流が現れる。

 発動が早い。俺が耐えようとすると、

「悔い改めよ!」

 俺は盾を持ち、鎧を顕現し、刃を扱い、後はなんだ。これに対応するのには、禁止か!

 禁止を神に掛け直す。神の解体による神の弱体化効果も解けている。それも掛け直す。

「グオ!?」

 俺は溢れる濁流に飲み込まれる。体の操作が追い付いていない。世界の改変の操作に囚われて、自分の体の状態が把握できていない。

 そして目をやると神の姿が見えない。

 マズイ。神から目を離してしまった。

 だが、俺は世界の改変を扱える者だ。確殺を約束された神の不意打ちですら、上回れるはずだ。

 下からではない。先の一撃は俺の意識外から来た。先の攻撃はたまたま下だっただけだ。それに囚われれば、上か。

 確殺の筈の神の不意打ちを相棒でいなすと俺は切りつける。この距離ならば神のインナースペースを引きずり出せる。

 俺は一瞬だけそっとリブラのインナースペースに触れると剣戟を速める。神の確殺である不意打ちの追撃を全て返り討ちにし、跪いた神の首を切り落とす。

 そして転がった神の首から称賛の声が流れた。

「流石です王牙さん! さすおが! たった一人で私を倒せるなんて前代未聞ですよ!」


ーーー


 俺は世界の改変を解くと神の姿が消え、いつものオニアック教二人掛け王牙像が現れる。

 そう、ここはいつもの神の塔だ。リブラの現身もやってくる。俺のスケールに合わせて俺の首一つ下くらいの巨体だ。

「これでようやく王牙さんも神を殺せそうですね」

 リブラの言葉に俺は頷く。先の他世界の神との戦いはさぞかしリブラも満足だろうと思っていたのだが、リブラからすると問題外だったらしい。それならばと神との戦いをここで再現しようという訳だ。

「しかしあれほどの強さを誇る神を人間達は倒していたのか?」

「まさか。相応に手加減していますよ。アリンコに私が倒せるわけないじゃありませんか。今のフルスペックは王牙さんだからですよ。本来ならもっとスピードも上げられるんですが、模擬戦ですからね。あまりに白熱して王牙さんが我を忘れるのも怖かったですし」

 あっけらかんと答えるリブラ。こいつも相変わらず歯に衣を着せぬ物言いだ。やはり一人で来たのは正解だったな。スコルピィはもとよりレオニスを連れてきたらどうなっていたか。

「世界の改変を嫌っていたツケが回ってきた感じだな。神を殺せる可能性を持っていても手が届かんのでは絵に描いた餅か。お前が憤るのも頷ける」

「今回は本当にうまくいきました。他世界の神が搦手を使ってくれたおかげで勝てましたが、全力で来ていたら危なかったですね。あ、そうだ王牙さん。あの闘技場になった神の塔×3はそのままにしておいてもらえますか?」

「構わないがなんだ?」

「あの他世界の神が残した棘か角か牙か知らないですが、あれがまだ塔の間に挟まって現存しているんです。あれに真っ向からぶつからなくて本当に良かったです。片付けるのも大変なんで、あれは神が立ってから処理しようと思っています」

「わかった。迎撃に使った神の塔×2の方は戻して再利用しても構わんな?」

「はい。そちらはこれまでどおり好きに使ってください。・・・ええ、好きに使ってください」

 歯にモノの詰まったような言葉のリブラだ。先の俺達の会話を聞いていたのだろう。

「なにか間違った事を言っていたか? 俺が無駄に人間達を摺り潰すのに神の塔を使ったらお前はどうしていたリブラ?」

「そんなことは起こりません。王牙さんは100%そんなことはしないでしょうから」

「仮定の話だ」

「起こらないことは話せません。0%は私にも推測不可能です」

「やはり俺とパルテの推察は当たっているではないか。だが、勿論そんなことはありえない。100%起こる可能性は無いがな」

「・・・さすおが、です。ですが! 私にも思う所はあります! 王牙さん! 私はあなたをアリンコの一つだと見ているのは確かです! ですが! それでも特別扱いは出来なくても特別視はしているんです! この感謝の気持ちは行動には出せませんが、その言葉は噓偽りありません!」

「わかっている。だがそれを他者に説明した所でどうなる。特別視で特別扱いは無いのだとしたら何のための繋がりだと責められるだろう。痛くもない腹を探られるよりは、より分かり易い例えで話すのが最適だ。俺がお前を信じていないとは言っていないだろう」

「わかります。わかりますけど寂しいんです。ここまで信用し合えた存在なんて王牙さんが初めてなんです。陰口叩かれたようでムカつくんです!」

 とはいえ、何も間違ったことは言っていないだろうに。俺が人間を無駄に虐殺し始めたら天罰だけでは済まないだろうしな。

「だが信用には応えているだろう。俺は言葉ではなく行動で返しているぞ。・・・そういえばレオニスがもし神に返り咲いたとしたらお前は受け入れられるのか?」

 神を立てると言ってこの世界を棄てたかもしれない女神がやってきたら、心中穏やかではないだろう。だがその返事はあっさりと帰ってきた。

「勿論オーケーですよ。私は神を立ててこの世界を立て直せればそれで満足です。それに王牙さんの推薦なら問題ないでしょう。その時はまた逃げだすなんてことはないでしょうから」

「それは本心か? そうでないなら言ってくれ。レオニスが神として立つとしてお前が機能しないのではこの世界の救世とは言えんだろう」

 俺の言葉を聞いて急にリブラの機嫌が良くなる。

 「・・・もう、王牙さんたら。わかっているじゃないですか。私はこの世界そのもの。だからこそこの世界の維持と正常化が最優先です。もしレオニスさんが女神だとしても、仮に狂言だとしても私は協力しますよ。そうですね王牙さんの世界で言えば・・・」

 そこでリブラは考え込み言葉を放つ。

「うるせぇ!!! とっとと神立てろ!!! です。私の心情うんぬんよりもこの世界の正常化が一番私の精神衛生上好ましいです。元女神なら勝手もわかっているでしょう。逃げる前と後に手を動かさせて現状を直させます。今度は死のうと逃がしません。わかりますか?」

 どうやらその言葉に嘘はなさそうだ。

「ああ。ならば問題はなさそうだな。あとは神の力の一極化か。それを打ち倒せば神を立てる事が出来る。ああ、そういえばもう一つ懸念点があったな」

「なんでしょう?」

「レオニスの魂は俺のインナースペースに隔離された状態で存在する。これでレオニスが神として立った場合は俺は巻き込まれると思うか?」

「・・・そうですね。流石にそのままという事は無いでしょう。分離するのが自然でです。巻き込まれるよりも、削り取られる形でしょうね。もしかした記憶の一部の欠如がおこるかもしれません。それこそ転生と同じです。その一部が霧散してしまう。特にレオニスさんとの記憶は危ういでしょう。正にその部分でしょうからね」

 ・・・なるほど。その可能性もあるのか。単に俺が弱体化するだけでは収まらない。俺はこの部屋のオニアック教二人掛け王牙像に目をやる。そこには以前に撮った写真が飾られている。記憶が無くなるのなら残しておけばいいだけだ。

「ならば記録を残すのが重要か。リブラ。これはここだけの話にしてもらえないか?一時的な記憶の混濁ということにしてもいい。そしてもしも俺が王牙でなくなった時はその処分を頼めるか? 害がなければいいのだが、それこそ新しく立った神に影響が出るようであればお前の敵でもあるだろう」

「・・・そこまでの状態にはならないとは思いますが、承りました。こちらも対処の方法を考えておきます。記憶自体は消えてなくなるわけではありません。減ったインナースペースの代わりがあれば、それこそ一時的な記憶の欠落で済むかと思います。ですから、あまり思いつめないでくださいね。王牙さんを討たなければならないほどの状況はまず起こりません。わかりますか?」

「心得た。だがその仕様を聞くと俺の一部になっている勇者の欠片が消えた時に同様の事が起きるのではないか?」

「王牙さん。彼はそこまで薄情ではありませんよ。世界を救った英雄をないがしろにするとも思えません。むしろ共に居るでしょう。この先、転生を繰り返してもあなたと共に居る。記憶を失いまっさらな魂に戻っても王牙さんは王牙さんです。私はそう思います。わかりますか?」

「そうか。それ程の俺を維持できればいいが、今の俺は応える者達に囲まれて存在している王牙だ。元の俺はそこまでの人物とは思えん。まあ、その時の俺ではその強大な力は必要ないだろうがな」

「そんなこと言って、どうせまた王牙さんは何処かの魂に応えるんでしょう? 知っています。でもまずはこの世界に応えてください。まだ何も終わってませんからね。世界の修復さえ残っているんですから」

「神を立てた後の世界に俺が必要だとは思えないがな」

「いえ、王牙さんこそが必要になると思います。この大陸の外がどんな状態になっているのか考えたくもありません。王牙さんの望み通りの一人旅が出来るような温い状態ではありませんよ」

「ほう。それは興味深いな」

「そんなこと言っていられるのは今だけかもしれません。神が立つことで世界は救われますが、パンドラの箱を開けるような惨状が待っていてもおかしくありません」

「なるほど。この世界の希望を手にするために幾多の災厄が解き放たれるか。それは困った状態だ」

「王牙さん。そんなイキイキした顔して言わないでください。ですがこの一件が終わった後も期待して良さそうですね」

「ならば俺も色々と手を打つか。世界の改変の可能性も見えて来た、俺のインナースペースの見直しも必要だな」

「王牙さん。どの面で託すとか言ってたんです? 愉しむ気満々じゃありませんか」

「子育ても終わったのだ。そしてその助けにもなるだろう。楽しむことに罪悪感はない。期待してもいいぞリブラ。お前も神が立てば全力を出せるのだろう?」

「そうですね。その時は私も休暇がてら下に降りて久々に大地を足で感じましょう」

「決まりだな。ではそろそろ戻るとするか」

「はい。またの邂逅をお待ちします。わが友、王牙さん」


 わが友か。そちらの方がいい。神など俺の器ではない。

 だがレオニスはどうなのだろうな。望むのであればそれが最善だが、ただ俺に応えただけなのだとしたら無理強いはしまい。

 神の力の一極化。それを誰が手にして神になるのか。まだ答えは出ていない。


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