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第百十三章 小姓

 他世界の神の脅威は消え去り、俺達は居城へと帰ってきた。

「でかしたぞジンバ!」

 そして開口一番俺は喜びの声を上げる。

 ジンバが遂に魔素の回復を手に入れた。正確にはシノの遺体についていたコアだ。これを使えるようになり、魔素の生成が可能になった。勿論コアとしての使用も勿論可能。だが攻撃に使うには不安の多いコアだ。基本は回復に使うのが安全だろう。

 そして内蔵していた魔物武器も強化されたようだ。獅子鬣に格納された魔物武器が他世界の神の影響でこの世界の施された武器に匹敵する代物に生まれかわったらしい。ここはまだ色々と未確認だが、矢を魔物武器で使っていたジンバだ。今後、他世界の神やコア付きが出た時は頼りになるだろう。

 そういえばコア付きがあまり出なくなったのは理由があったらしい。当初こそコアの有用性を探っていた魔物側だったが、あまりの危険性に発見即排除が原則になっているそうだ。そのあたりはスコルピィの配下のシャウラ。彼女が率いていたサキュバス系統が実験を行っていたようだが、芳しくなかったのだろうな。今回の顛末をスコルピィと話していた時に知った事だ。

 

 俺の方も色々と増えている。合体によっていろいろなスキルが宿っている。


 世界の改変の解体。

 これはムリエルとの結界の塔で合体した時に得た能力だ。本来なら世界の改変の禁止を発動すればこれ以降世界の改変は使えなくなるが、これによって相手の世界の改変を崩す事が出来る。初手に禁止が遅れてもこれで相手の既に展開したチートを崩せるという物だ。瞬殺とはいかないがジワジワと相手のチートを消していく形だな。


 勇者の骨。

 これはマカツから得られたものだ。パッシブとして骨が強化されるのは勿論のこと、アクティブとして追加魔素の消費で部位破壊を無効化できる。簡単に言えば骨を折られる一撃を受けても追加魔素の消費で折られずに済む。首切りのような即死も防げる有能スキルだ。

 物理無効との違いは、こちらは怯みやよろけを無効化して強引に攻撃を挟めるが大ダメージを負ってしまう。対して勇者の骨は骨で攻撃を受けられる。体勢は崩すが使いようによっては起死回生の一撃に繋げられるだろう。

 

 勇者の特性。

 これはマカツとジンバの両方を取り込むことで得られたようだ。聞こえはいいが世界の改変への抵抗能力や禁止能力の効率化による強化だ。聖女を含めた人間との戦闘には全く役に立たない。だが、今回のような他世界の神のような上位種の世界の改変を阻止できる。先の解体と組み合わせる事で他世界の神やコアなどの異世界系のチートを悉く潰せるという物だ。

 破格と言えば破格だが、この世界の者にはなんの効果もない物だな。


 レオーネとのリンク。

 これはそのままだ。ジンバを取り込むことでレオーネの時にあった双方向の繋がりが復活した。とはいえ使う事は無いだろう。遠隔操作が出来たとしてもジンバであれば俺が介入する必要はない。あるとすれば他世界の神か異世界転生者のコアが出てきた時ぐらいだろう。世界の改変への適応力は俺の魂にある。同期すれば禁止能力の一次的な譲渡ぐらいは出来そうだ。

 地味に女言葉も使えるが、これはもう必要ないだろう。やろうと思えば俺とレオニスとジンバの三人を同時に操る事は出来るが、使い道が見つからないな。


「どうですかとと様? これでわたくしとどこまでも高みへと昇れるでしょう?」

「確かに。どこまでも、それこそ世界の果てにまで行けるな。この一件が終われば正常化した世界を見て回るのも悪くない。ジンバ。レオーネとして見た世界はもっと広いのか?」

「いえ、わたくしもこの大陸の中だけです。わたくしにはそれで手一杯。広いと思っていた世界を疎ましく感じて、狭く見ていました。でもとと様とならこの世界を見て回るのもやぶさかではありません。わたくしと、共に居てくださるのでしょう?」

「勿論だ。だがお前はいいのか? このまま魔物の側で戦えるのか?」

 それというのもマカツはここを去った。人間と魔物の戦いには参戦しないと言ってたが、人間の領域に心残りがあるのだろう。自分の全てが知れた今、その立ち位置も含めて考える時間が必要なのだろう。救世に関して敵になる事は無いとは思うが、神を立てる段階で敵として出てきてもおかしくはない。

 だが奴に関してはそういう心配はないだろう。人として生きる事が奴の目的だろうからな。逆に救世のような勇者的行動に出るとは考えにくい。

 しかしジンバは? その目的は終わりを告げ、レオーネとして生きて来た日々は終わった。

「わたくしはジンバとしてここに残ります。とと様と共に。とと様が示してくれた道をわたくしも知りたい。今はこの道こそがわたくしの全て。・・・とと様はわたくしを信じられませんか?」

「信じよう。お前を受け入れたあの時に腹は決まった。だがジンバと呼んでもいのか? レオーネとしてのお前に戻りたいのであれば俺は止めんぞ」

 ジンバはかぶりを振った。

「いえ。こちらが素のわたくしに近いです。勇者が望んだ意のままに従わない魂。それがわたくしです。この姿は、単に趣味だったのでしょう。自分に仕える、自分に従わない存在。この矛盾した存在こそが彼の心を押し留めていた」

「聞いてもいいのか?」

「取るに足らない話です。神の力を受け継いだ勇者は全てが自身の思うがままになりました。人々の意思でさえ。それは彼の意思ではなく、力を使いこなせないからこその弊害でした」

 なろほど。この世界の創生が出来るほどの力だ。ふと意識を向けるだけでこの世界の存在が思うがままになる。

「それは、孤独であったのだろうな。最早それは他者が存在しない」

「・・・とと様。それを理解できるのですね。あなたがいれば、いえだからこそ、でしょう」

 ジンバを一度何かに納得したかの様に目を閉じる。そして話は続く。

「・・・わたくしが生まれたのは必然。意のままにならない存在は自分自身しかありません。勇者から分かたれたわたくしは女神に創造されたという虚偽の情報を埋め込まれ、作られました。今にして思えば彼が何故ああもわたくしに頭を下げていたのか。その理由が嘘を吐いていた事への謝罪と後悔だったのでしょうね」

 自分から他者を生み出すには、分かたれた魂には自分でないと思わせる必要があったという事か。そしてその引け目もあった。

「そこまでしてでもお前が必要だったのか?」

「そうですね。彼の心は限界でした。わたくしの目から見ても。そして彼は神の力の分配という形でその力から逃れようとしたのです」

 例の神肉食いの惨状か。現存する全ての人間に神に力を分配し、それで済めば事なきを得た。だが、その力は人間を殺す事で手に入り、奪いあい起こった。

「それで勇者は救われたのか?」

「それはわたくしにもわかりません。神の力を捨てた彼はわたくしを維持することが出来ませんでした。わたくしは消え、彼はまた一人に。ですが彼は他者と触れ合う事が出来た。そのためにわたくしが消える事になっても、わたくしは笑顔で彼を見送りました」

 いい話だが、勇者にとってはキツイな。話の流れはイマジナリーフレンドからの卒業という形だろうが、実際はそんな生易しい物ではないだろう。そもそもジンバが消える事を想定していただろうか? その後の神肉食いの世界で何を思って再度神の力を集めたのか。

「そこでお前の記憶は終わりか?」

「・・・わたくしが目を覚ました時にはすでに勇者はこの世に居ませんでした。ただ、それでも、彼の声を聞きました。助ける、と。ここからはとと様が知る通りです。レオーネとして勇者の復活だけを目的としていました」

 なるほど。目覚めた時のレオーネの記憶が正しい物かはジンバ自身にもわからないだろう。勇者が手を差し伸べたのか、それとも単に勇者が消えたから目を覚ましたのか。だがマカツとの融合を阻止する仕様を勇者が仕込んでいたとすれば、なんらかの考えはあったのだろうな。

「・・・結局勇者の事はわからずじまいか」

「いいえ。とと様。わたくしにはわかります。わかってしまいました。彼はもうこの世に居ません」

 ? 何故か晴れ晴れとしたジンバの表情に違和感を覚える。それはもうわかっていたことではないのか?

 困惑する俺の顔を見てジンバは人差し指を俺の胸に突き付ける。

「彼はここに居ます。いまだからこそわかったことです。とと様。あなたは勇者に導かれてこの世界に来た。異世界に拡散した彼の魂があなたをここに導いた。勇者の死はこの世界を救ってくれる存在を探すため。そして今、とと様の中に集結しつつあります」

「まて、なんだそのトンデモ理論は。勇者が俺という殻を使って復活するという話か?」

「なぜそんなグロテスクな話になるのですか。とと様のインナースペースは成長していました。それはとと様がこの世界を救えると判断した勇者の魂の欠片が集まっているからです。単に力を貸しているだけ。自身の復活に恩人を使うほど彼は非道ではありません」

「わからんぞ。お前をまた手中に収めんと嫉妬心で俺を乗っ取るのではないか?」

「彼はわたくし自身です。彼が信じられないならわたくしを信じてください。とと様のその冗談は面白くありません。とと様には何もないのですか?」

 このままではジンバの忠誠心が爆発しそうだから止めたが、流石にバレているか。

 代わりにこの質問には真面目に答えよう。

「俺か。・・・俺がこの地に降りたのは俺に応えられる人間を探すためだ。それは俺を討ちとれるほどの猛者との戦い。俺は人を捨て、鬼としてこの世界に降臨しその最後を求めた。だが実際は、俺に戦いではない方向で俺に応える存在が多く現れた」

 ここで区切りをつけまた思考に耽り、言葉を繋ぐ。

「・・・俺の根源はこの俺に応えられる存在が居ない事だ。それに強い憤りと恨みのような物を抱えていた。確かに、勇者であればそいつも俺と同じだろう。どれほどの功績を積み重ねても、応えられる人間が居ない。応じる事の出来る存在が居ない。だからこそ俺がそれに惹かれたのかもしれん。同じ境遇として、応じる事の出来る存在として立ったのかもしれん」

 ジンバはそれを黙って聞いていた。そして口を開いた。

「とと様。あなたは何者なのですか?」

「大層なものではないぞ。全ての記憶があるわけではないが、ただの人間だ。幾多の転生を繰り返し、人の世では生きられぬと絶望した者だ。武力があっても、武力を捨てても、何も変わらなかった。俺の居場所はただ想像の中にのみ在る。その最後がゲーマーであることがその証拠だ。これを最後に俺は人間を捨てた」

 俺の言葉にジンバが思考に入る。それは長かったが、ようやく言葉が出来たようだ。

「・・・とと様。わたくしも人間を捨てます。わたくしは勇者ジンバレオーネ。勇者によって生み出された分霊。それに応えたのが人外であるならば、わたくしも人外に堕ちましょう。わたくしもとと様と共に鬼に。魔物の陣営に馳せ参じます」

 ジンバの顔を見て俺の顔が綻ぶのがわかる。

「歓迎するそジンバレオーネ。お前なら共に居られると思った。俺の見立ては間違っていなかったな。これからも頼りにするぞジンバ」

「お任せください。わたくしもとと様とずっと共に。・・・つきましてはご褒美が欲しいのですが・・・」

 ジンバの物欲しそうな眼をみて俺は頷く。

 ドォン! という轟音と共にジンバの蹴りが俺に炸裂する。音速を超えて音の壁を破壊しながらジンバの蹴りが俺に迫る。俺はそれをいなさず受け止める。さらに爆音が重なり合う。

 しかしジンバめ。これほどの蹴りを放ちながらスカートがめくれないとは大したメイド愛よ。腕は基本的に自分を抱きしめている。要所にスカートに触れているぐらいだ。その卓越した魔素操作をスカートにのみ使っている。これほど無駄で贅沢な使い方を見たことがないぞ。

 そして轟音が消えていく。これはジンバの大気の支配だな。空気を操って音の壁を減らしている。そしてスカートの一部を翼に変え、それに風を纏う事でダウンフォースを生み出している。この力だけでも人間を昏倒できるな。だが実際やろうとすれば神の加護の支配領域で魔物の支配がほぼ消される。神官の森などをやられたらこの技は使えないだろう。

 そんなことを考えながらのんびりとじゃれ合っていたが遂に奥義が来る。

 ライダーキック。スカートの翼で大気を受け、突進してくる。

 ・・・この状態でさえスカートがめくれないのか。奴のメイド愛は本物だな。あの変態性は素だったのか。

 俺は拳を握ると大地を踏みしめ衝撃の構えを取る。流石に受けるのは無理だ。

 ドォン! とまたド派手な音を立ててぶつかり合う俺達。俺の衝撃でダメージを負ったジンバが地に落ちる所を掴み腕に抱える。

「ハァ、ハァ、ハァ、とと様は何故足技を使わないのですか?」

 ジンバの様子に違和感を覚える。そしてすでに忘れていた仕様を思い出す。コア持ちの体は休養を要するのだったな。シノの以前の体がベースならそうなるだろう。まったく同じ仕様かはまだわからないが、ジンバが睡眠を必要とするのならその間の操作を俺が受け持っても良さそうだな。

「足は兵士の資本だ。これが無くては何も始まらん。お前も遊びで使うのは構わんが聖女に足蹴りはしてくれるなよ」

「そんな恐ろしい事わたくしでも致しません。それにしてもとと様? このまま体を撫でてもらえませんか?」

「流石に馬に戻れ。お前が男とはいえ女性体だ。それを撫でまわしてはな」

「それならば、とと様♡ 今のわたくしなら出来るのではありませんか♡」

 ぐっ。嫌な予感しかしない。次のジンバの言葉は俺の予想通りだった。

「ヌルヌル触手プレイです♡ 以前の体では出来ませんでしたが魔物である今のわたくしなら・・・」

 レオの体のレオーネの時の話だな。人間の体では危険すぎると拒否したのだが。(第六十六章 姫騎士参照)

「却下だ。安全がどうとかいう問題ではない。それに悦ぶお前を俺は見たくないぞ」

「身も心も貞操もとと様に捧げたいのです♡」

「身と心は受け取るが貞操はいらん。いつか魔物にアルラウネが出てくるのを期待してはどうだ? 魔王種には既にいるかもしれんぞ」

「それはなんでしょう?」

「ツタと根がそれこそ触手の女性体魔物だ。異世界の創作では良く出てくるが、この現実に居るかはわからんな」

「今のわたくしは触手が欲しいのではありません。とと様の小姓としてとと様の施しが欲しいのです」

 ・・・何かが曲がっている異世界知識だな。ジンバは異世界転生ではない。知識が偏っているのだろう。

「それに関しては蹴り癖と噛み癖でチャラだ。この先もないぞ。欲しければ自分で女を探せ。女性体とはいえ男同士で触手プレイの趣味はないぞ」

「では噛み癖の権利をいただきましょう。それと、せめて褒めて頭を撫でて欲しいのですが」

 ジンバはあっさりと引き下がる。こちらがメインか。

 俺は胡座をかくとその膝にジンバを乗せ頭を撫でる。

「素晴らしい足技だったぞジンバ。あの足さばきならば聖女にも遅れは取るまい」

 ジンバは嬉しそうに俺の肩を噛むと膝蹴りを俺の腹に入れてくる。

 まったく愛い奴よ。だがせめて人前では馬でやって欲しいものだがな。

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