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第百十二章 獅子鬣

 他世界のネームド「獅子鬣の天馬」

 そう形容するのが正しいだろうか。馬になったジンバが獅子のような鬣を生やした。そして他世界からの神の手先、言うなれば他世界神の手先を降ろす。

 天から他世界のゲートが開き、黒い腕が降りてくる。それがそのまま天馬の翼の位置に。背から一対の巨大な腕を生やした獅子鬣の天馬という感じだ。

 

 相対するこちらはマカツとの合体だ。

 勇者の遺骨と肥大化した左腕。右手には聖剣化した相棒。

 この肥大化した左腕は獅子鬣の天馬の黒腕の一撃を受け止められる。筋力も勿論だが、繋がった全身の骨が勇者の骨と化して受けた衝撃をものともしない。欠点は筋力配分のせいで攻撃には使いにくい事だ。もしも攻撃に使うとなれば全身の筋肉を肥大化した左腕に合わせて強化する必要がある。できはするが相手の動きに慣れていない今は、肥大化した自分の体を把握する前に撃破されてしまうだろう。

 そして一番大きいのが世界の改変の禁止だ。俺単体では禁止が出来ないが、勇者を取り込むことによってそれが可能だ。もしマカツとの合体が少しでも遅れていたら獅子鬣の天馬の超ハイパーモード永続化をされていたかもしれないな。相手が神であろうと、いや神だからこそ勇者の力が有効ともいえる。神と五分五分で戦えるだけでも破格だろう。

 リブラめ。俺が神と戦えるなどと・・・とは思ったが、他世界の神がここまで力を使えるのはコイツもジンバという勇者を取り込んでいるからか。

 勝つという意味でもジンバを取り出さないと話にならんな。

 他世界の神も無策でここに来ているわけではないという事だ。

 今回のチート合戦は肉弾戦オンリー。精神面があまりにも強固で崩せそうにない。そしてそれは向こうも同じ。精神面を強固にし過ぎたせいで攻勢に出られない。お互いに物理面で崩すほかはないようだ。


 世界の改変を禁じられた獅子鬣の天馬はムキになって近接攻撃だ。本来なら何かの不思議パワーがあるのだろうが、その系統は使えないようだ。そのぶん大ぶりの大技が一切ない。純粋に肉体のぶつかり合いだ。

 獅子鬣の天馬の攻撃方法は今の所二つ。

 一つは黒腕。背から生えた腕が殴りつけてくる。構造上、腕の筋力だけだろうがその巨大さがそれを補っている。その長さもあり、馬体とは干渉しにくい。背面も安全ではないな。アッパーカットの様に振り上げられた腕がそのまま後ろの地面に叩きつけられた。可動域は相当に広い。死角はほぼないな。馬体の下も安全ではないだろう。

 二つ目は獅子鬣。ここから刃が飛び出してくる。首を中心に放射状に突きだしてくる。生えてくるというよりも、出てくるという感じだな。これは武器庫と考えてもいいだろう。多彩な武器の刃が出てくる。そのうち黒腕に合う巨大武器が出てくるだろうな。ただの防衛用とは考えにくい。

 

 この戦い、互角と問えば聞こえはいいが決め手が見つからない。

 俺の肥大化した左腕は防御には有用だ。獅子鬣の天馬の黒腕両手組みの叩きつけすら無傷で凌げた。だがどうしても片手が塞がる。両手で相棒を構えられない。

 この左腕も地味に欠点がある。攻撃を無効化すればそれに耐えるために硬直が入る。ゲーム的に言えばパリィは出来るが追撃が出来ない状態だ。パリィ硬直が長すぎる。そして致命の一撃が入れられるわけでもない。

 俺は聖剣を片手で突きの形に握る。要所で攻撃を入れるが文字通り削りだ。変に攻撃に回ると骨を断てずに反撃を受ける可能性がある。地味に削れてはいるが相手の体勢を崩せるような一撃は打てない。


 この膠着状態に業を煮やした獅子鬣の天馬が鬣から武器を取り出し黒腕に装備する。黒い手斧。それを両手に二丁。奴の動きが攻撃的に変わる。刃がある事で肥大化した俺の左腕では肉が削られそうだな。これは流石に無傷でパリィとはいかないだろう。

 俺は相棒を聖剣から聖槍に変える。単純にバスタードソードの柄を長くしただけだ。そして出しゃばり盾を左腕に手甲として取り付ける。槍を両手で使い、左腕を前にして右腕で槍の操作だ。

 獅子鬣の天馬の手斧は威力を上げるために刃を立てる動きだ。腕を伸ばしきった叩きつけとは違う。どうしてもリーチが下がる。俺はその間合いを見極め、攻撃を誘い、槍の一撃を入れていく。相手の攻撃硬直に確実な一撃を入れる。刃があるぶん攻撃が読み易い。攻撃力は確実に上がっているだろうが、武器の扱いにはなれていないようだな。さっきの腕ブンブンの方がマシだが、それはもう俺には通用せん。間合いの測れた今、あの雑な攻撃が来れば肉を抉り取るのは容易だろう。

 そして雑に手斧を投げつけてくる獅子鬣の天馬。俺はそれを盾で受けると、素手になった奴の右手に俺の槍を突き入れる。それに抵抗して無駄に振り回しているが、俺は間合いで張り付き、奴の右腕を抉っていく。振り回せばその軌道に槍を置いて串刺しにし、下がればその分詰めて突き入れる。

 武器を捨てたのは間違いだったな。

 俺は獅子鬣の天馬の右側に陣取り右黒腕を貫いていく。鬣から武器を出してガードしようとしているが、所詮は突き出ただけだ。俺の槍を掠める事も出来ない。そして武器を鬣から射出もしてくるが、悪あがきだ。何の意味もない。


 だが、二つ気になる点がある。

 一つは獅子鬣の天馬の武器が手を離れても消えずに残っている事。二つ目は投げつけられた武器が神の塔の外周から出ようとした時に弾かれて中に戻ってきた事だ。

 一つ目は罠にも見えん、ただの仕様だろう。二つ目はリブラの仕業だな。神の塔の外周ピッタリに壁を張って神の塔デスマッチ状態だろうな。相変わらず敵か味方かわからん行動だ。リブラに言わせれば「王牙さんなら問題ないでしょう!」と他意の無い行動なのだろう。確かに他世界の神を逃がさないという意味で良い仕事だ。だが見方を変えれば俺を陥れているようにも取れる。リブラが大多数に勘違いで疑われるわけだ。

 

 獅子鬣の天馬が左腕を使おうともがいているが、俺はそれを許さない。強引に左側を向けて来れば、機先を制して攻撃に移る前の左腕に突き入れて攻撃を殺す。歯と足も使ってくるが、俺はジンバの噛み癖と足癖をいなしてきた。予備動作どころか予兆でわかる。

 そこに奇をてらった一撃が来る。左腕を真上にあげ首を境に右手側から攻撃してくる。その無茶な体勢で威力が出る筈もなく、盾で受けて槍を突き入れ間合いを離す。

 案の定武器を持った右腕の追撃が来る。もし俺が左腕に食いついていたら最適の一撃だっただろう。だが俺はそれを読み、間合いを離した。それこそパリィに最適な間合いだ。長剣を持った奴の右腕を盾で弾くと、奴の胴体に槍を深く突き刺す。今は奴の両腕が使用不可能な絶好の一瞬。つまり致命の一撃を決められる数少ないチャンスだ。相棒を聖槍として内部で暴れさせる。

 揺らぐ獅子鬣の天馬。

 ここか。

「マカツ!」

 俺は呼びかけと同時にマカツとの合体を解除する。俺の背から這い出して来たマカツが獅子鬣の天馬に迫る。

「これならいけそうだ! しばらく耐えろよ王牙!」

 俺は槍を突き入れたまま頷く。

 マカツが獅子鬣の天馬の首筋に手を触れると、そこが変形して何かが浮き上がってくる。これは、シノの体、シノが転生する時に俺の中に残した遺体。俺がレオーネを俺の内から排出する時に使ったシノの遺体だ。他世界の神はこれ毎レオーネを取り込んでいたのか。

 その遺体の輪郭がはっきりとし、目を開けると形が変わっていく。シノの姿からジンバへと。いつものメイド姿だ。


「ジンバ! 無事か!」

 俺の声を聞いてジンバの開いただけの瞳が俺に焦点を合わせてくる。

「とと様?」

「ああ。迎えに来たぞ。準備をしろ。マカツと合流だ」

 ジンバの目がマカツを捉えるとその体が光の球体に包まれる。そしてマカツも。その二つの球体が交わろうとすると、弾かれるようにその接触面から稲光が走る。

「なんだこりゃ。王牙! ジンバを取り込めねぇ! 引き合いはするが融合が出来ねぇぞ!」

「ジンバが否定しているのか!?」

「違う! 俺だ! ジンバを取り込めねぇ様に細工がしてやがる! 俺の体にジンバが取り込めねぇ!」

「どういうことだ!?」

「そのまんまだ! 勇者がジンバを取り込めねぇようにこの体を細工をしてやがる! 俺じゃ解除できねぇぞ!」

 勇者の意思である魂が融合できない様に仕組んだのか? いや、それはどうでもいい。

「このままじゃ駄目なのか!?」

「駄目だ! 俺達が引き合ってないとジンバは元に戻っちまう! 王牙! お前の中はどうだ!?」

 マカツの言葉はつまり俺とジンバの合体だ。それは可能だ。そして罠でもないだろう。だが、ジンバはレオーネだ。もう一度俺の中に取り込むということは、またレオーネの介在を許す事になる。


 これを俺は受け入れられるのか?


 俺は目を閉じ瞑想すると再び開く。

「ジンバ! 俺の所に来い! お前は俺のモノだ! 共にこの世界を生きるぞ!」

 俺は獅子鬣の天馬に突き刺した槍から片手を離しジンバへ向ける。

「・・・わたくしが必要ですか?」

「お前が欲しい! まだ道は続いていくぞジンバ! この世界を俺達のモノにするためにな」

 ジンバは俺を見つめるとフフッと笑う。

「・・・わかりました。本当は『助けてとと様!』と言って庇護されるわたくし展開を望んでいたのですが」

「お前がそんな玉か。助けが欲しいのはこっちだ。これから救世だぞ勇者よ。俺に力を貸せ」

「仰せのままにわが主。わたくしは勇者ジンバレオーネ。見返りとして生涯とと様を噛んで蹴る権利を所望します」

「それはもう持っているだろう。いや、今から与えるのか。ジンバ。マカツ。用意は良いな?」

 俺は二人の顔を見るとジンバは頷き、マカツは口を開く。

「俺も一緒か?」

「この状態でジンバとだけ合体すればお前はどうなる勇者の遺骨よ。まだ終わっていないぞ」

「そりゃそうだな。だったら観念するしかねぇな。やっぱり勇者なんて柄じゃねぇ。俺も俺の生きたいように生きるぜ」


 俺は二人を取り込む。

 勇者の精神体と肉体。それが同時に存在し、混ざり合う事もない。確固たる個として俺の中に存在する。

 これが勇者の望みだったのか?

 その意思であり魂はここにはない。

 だが、それでも、俺達三人にはその存在が近くに感じられた。

 

 俺達が合体を終えると俺の体は金色に彩られていた。

 手に握られた聖剣も、出しゃばりが出したであろう鎧も、そしてマントも全てが金色。さしずめ黄金勇者騎士と言う所か。

 そして獅子鬣の天馬の方は体が崩れ、獅子鬣の部分だけが残っている。

 ・・・そっちが本体なのか。馬体はジンバの顕現。ジンバを抜かれて消え去ったという所か。

 その獅子鬣がアンコウドラゴンの死体に取り付くと顔だけが落ちる。

 その姿はエリマキアンコウ。鬣の一本一本が腕となり頭を支え、蠢いている。

 その巨大な口の中に他世界のゲートが出現する。

 その中にはかつて栄華を誇ったであろう世界の残骸が見て取れる。

 そう。他世界の侵攻とはつまり他世界との交換。滅びたであろう自分の世界を棄て、他神の作った世界に寄生する。こうしてできたのがこの醜悪なエリマキアンコウの姿なのだろう。

 

 キィン! という音がして地面に突き刺さっていた神の槍が飛び上がると、エリマキアンコウの大口を目掛けて突き刺さる。他世界のゲートが閉じられるどころか抉じ開けられ、その中に獅子鬣だった多数の腕が飲み込まれていく。

 腕が飲み込まれ、鬣を失ったアンコウヘッドに俺は手を掛ける。

 強大であった強固な精神面が解放され、奴を殺せる状態になる。

 俺は抉じ開けられた他世界のゲートの向こうにある他世界の神の意志に触れる。

 それはとても脆いものだった。

 一瞬で崩壊したインナースペースを境に世界が消えていく。

 そこには何もなかったかのように、静かに空間へと戻っていく。

 それが消え去る瞬間、神の槍がゲートを貫き消滅させる。

 

 そして残されたものは救いを求める姿ではなく。ただどん欲に奪い食らう他世界の神の権化、アンコウ部分が残る。

 あの鬣であった手は、救いを求めるのではなく、他者と手を取り合う物でもなく、ただ、奪う、掴む、引きずり込む、悪意だけを具現化したものだった。

 そのような手を誰が取るのか。

 

 俺は、いや俺達は残った他世界の神の遺体に飛び乗り、聖剣を突き立てる。

「俺達が! この世界の勇者だ!」

 聖剣を通してこの世界に存在しない筈の異物を消し去る力を送り込む。

 分解ではなく消滅。この世界からその痕跡が消えていく。

 そして消滅した他世界の神の遺体から飛び降りる俺達。


 もうこの状態を維持する必要もないだろう。俺は合体を解除すると背からマカツが這い出し、胸からジンバを取り出す。流石に二人を取り込むのは俺の負担も大きい。

 ヤレヤレ。

 これで障害の一つは排除されたな。

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