31 ローゼンの赤い本
「お、おじゃましまーす」
「どうぞ」
シャナに続いて、俺も家の中に入った。
玄関扉が重い音を立てると同時に、家の匂いを感じた。
少しだけ、甘い。
「じゃあ、少し待ってて。あの人もそろそろ来るだろうから」
シャナがテーブル近くの椅子を指差して、座るよう促した。
あの人って、誰のことだろう。
「確かに片付いてる。あれ?で、何のために俺呼び出されたんだ?破壊魔法の使い方を教えるって言っても、室内じゃ出来ねえだろ?」
テーブルに肘を突いて、シャナの方を見る。
シャナは戸棚に掛かった施錠魔法を解除するなり、一番上から丁寧に出し入れして何かを探していた。
「そういや聞く暇貰えなかったんだが、シャナ、お前なんで俺の治療費払ったんだ?」
治療師さんが口を滑らせてくれたお陰で知ったことだが、どうしてシャナがそんなことをしてくれたのか、いまいち分からなかった。
今も、それは引っ掛かっている。
「さあ。気まぐれ、かしら」
「まぐれでって、じゃあ一回戦で俺をボコボコにしたのも、まぐれなのか?」
そしてシャナのことを深く考える度に、あの心を塗り潰すような痛みも自然と、ふと身体が思い出す。
苦い記憶が蘇って来る。正直言ってトラウマだ。
けど、シャナには助けてもらった。本当は、俺が助けるつもりだったのに。
「あれは違う。私は弱い貴方が、初対面で嫌いだった」
真っ直ぐで、尖った否定。
「そ、そりゃそうだな。あんたみてえな強い奴には、俺程度なんて…」
そう受け取った俺は、次の瞬間から、目を閉じることが出来なくなった。
「でも間違いだった!どれだけ痛み付けても見上げてくる貴方の眼は、諦めていなかった。昨日の夜にも、言ったはずよ。私は貴方みたいな馬鹿になって、そして、一緒にいたい!怖いはずなのに、怖がらない貴方が、私は羨ましくなった。勝てるはずもないのに抗うなんて、馬鹿馬鹿しいことを、必死になってやり遂げたその姿に、憧れたの」
憧れ。
そんなものは、俺には似合わないものだとばかり思っていた。
「あった」
棚に突っ込んだシャナの腕に引っ張られ、本が出てきた。
分厚く、その割に小さな一冊の赤い本。
「その本は?」
「これはね、ローゼンの…」
その時、足音が聞こえた。
俺のものでも、シャナのものでもない、誰かの。
「半日ぶりだな。グレイ」
その人物は、鼻から上以外の全身が黒ずくめの男だった。
「アルファルド!?」
更新また忘れてました!!すいません!!




