19 絶望だけが瞳に映る
軽々と吹き飛ぶ、シャナの身体。
後ろから激突した壁に背中がぴったり張り付いたまま、シャナは座り込んでしまう。
大きな外傷は無く、血もそこまでは出ていない。
「おい!シャナ!まだ、やれるか!」
返事が無い。
気絶しているのか。
「立てるだろ!もう一回!」
その姿は、俺の目に映るその光景は、絶望そのものだ。
「なんでだよ…まだ…やれるだろ!」
負ける。負ける。このままだと負ける。
何か無いのか。まずいぞ。死ぬかもしれない。どうしようもない。分かり切ってる。でも諦めたくは無い。諦めなければならないことを知っていても、嫌だ。どうにかするんだ。自分の力で。どうにか逆転させるんだ。
この差を、俺の努力で、どうにか!!
「右腕はまだ使える。感覚はほとんど無い、けど、やれる…!」
左手を添えて、右腕を氷の剣へと変える。
痛い。
腕を貫く痛みに、凍結が途中で止まる。
膝が綺麗に左右揃って、地面に落ちた。
どうして。
ああ分かった。
限界だからだ。
「俺は負けていた。最初から」
何もかもが限界だ。
嫌になったんだ、全てが。
「負け続けていたんだ」
そもそも、自分の身体を凍らせて武器にするなんて、頭がおかしい。そうだ俺は、頭のおかしい人間だ。ぼーっとした田舎暮らしをして、突然身の程に合わない夢を勝手に抱いて。世間知らずで、頑張りゃどうにかなるなんて甘い考えで十五年も過ごしてきた。何が出来た。俺に一体、何が出来た。
「俺は人の顔を、いつも見上げてばかりいる。勝ち誇った笑い方なんて知らない。負けて、負けて負けて負けて負けてぇ!何がしたかった!!俺は!!」
くだらない英雄ごっこなんて、どこかの誰かがやってしまえば、
「あれだけ」
その声に気付いて、息が止まった。
血の流れまで止まったような心地だ。
荒い呼吸を挟んで、シャナは、隅で手足を投げ出したまま、小さく言葉を紡ぐ。
「魔導戦術大会の初戦で、あれだけ無様な表情を、貴方の顔面に張り付けさせて、地を這う力も残さないくらい、徹底的に、やって、勝った。誰もが私に歓声を送った。誰もが私だけを見た。私だけが、貴方を見ていた」
俺はシャナを見つめていた。
シャナの方は、分からない。
視線が虚ろだ。声も小さい、けど、耳に入ってくる。
「初めて、勝って、悔しかったの。悔しくて堪らなかった。圧倒的な勝利を収めて、完璧な姿を見せつけて、それでもグレイは、負けなかった。負けないんだって、分かった。グレイの、薄く、灰色に濁った瞳は、力が費える最後まで、輝いていたから」
熱かった。
身体のどこかなんて分からないけど、俺の奥底で凍っていたものが、凄まじい火力で燃えている。
「私も、負けない」
俺の小さなものに、シャナの小さな声が重なって、爆発して、溢れ出した。




