12 シャナ・アークと、その兄
駆け出して、擦れ違ってはその顔を覗いて、あの凶悪な眼差しを宿した記憶を頼りに右へ左へ。
行き着いたのは、一つの曲がり角だった。
「見つけた…!」
俺は息を切らしていた。
そのせいで、喉も乾いていた。手足も振って振ってへとへとだった。
「見つけたぞ…!アルファルドぉ!」
その男の横顔は、初めて会った時の狂気を宿してはいない。
ただ、冷たかった。
足を止めて、一瞥して、歩き出す。
そして右の方の路地に消えていった。
「待てよ!お前、今日、俺を刺した奴だろ!?」
俺は必死の形相を浮かべているはずだ。
そんな奴に睨まれ、名を呼ばれて。
人違いなら、誰のことかととぼけたり、驚いたり、本人なら尚更、反応を見せるはずなのに。
「俺を、誘い込んだつもりかよ…!!」
切らした息が徐々に繋がって、俺はまた駆け出す。
アルファルドが曲がった角の先で、俺が見たのは、全く予想外の存在だった。
「え?」
凄まじい攻防だった。
技が交互に炸裂し、鋭く散る。
センスの輝きだった。
純粋な才能の圧倒だった。
その戦場は、俺が立てる場所では無かった。
なぜなら、見えないからだ。
魔法が放たれ、発動する前に打ち消される。
対峙する二人が互いのどこを狙っているのか、何を起こそうとしているのかが、分からない。
「流石だよ。これだけ仕掛けても、傷一つ付けられない。やはり君は本物の強者だ。ここで!僕の腕で!美しく!儚く!君は消えてゆくんだよ」
一方は、灰色の長髪の痩せ男だ。その表情は歓喜に満ちていて、天命を授かった瞬間の如く、腕を大きく広げ天を仰いでいる。
そしてその男の口は、思いも寄らない名を口にした。
「シャナ・アーク!」
もう一方で、尖った眼差しを相手へと向けるのは、赤を基調としたデザインの魔術学院の制服に身を包む少女。
今日、俺を立ち上がれなくなるまで叩きのめし、目もくれずに、勝者の道を進んだ少女。
「気持ち悪い」
彼女の声は、怒りに震えていた。
「醜悪だよ、その面。なんでよ。どうして、こんな風になったの」
彼女の瞳は、薄い水色の、雲一つ無い青空の色をしていた。
「兄さん!!」
彼女の表情は、とても、苦しそうだった。




