↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾った卑弥呼は、ポンコツでした。  作者: もちむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/20

第八章 今は帳簿で頼むわ

第八章 今は帳簿で頼むわ


 五百円、多い。


 航平はレジの中を見た。


 足りないと言われるのも困るが、多ければいいわけでもなかった。


 客へ渡すはずのお金が、ここに残っているのかもしれない。


「すみません」


 店長が顔を上げた。


「まだ何が違うか分からへんから。順番に見よ」


「はい」


 航平は手元の記録へ目を落とした。


 隣では、卑弥呼が袖から両手を出していた。


「航平さん」


 航平は顔を動かさなかった。


「占ってみましょうか」


「……今は帳簿で頼むわ」


 小さく返すと、店長が振り向いた。


「何?」


「いえ、記録、確認します」


 卑弥呼が手を引っ込めた。


     *


 航平は、今日レジへ来た客を思い返した。


 弁当を二つ買った人。牛乳とパンの人。かごいっぱいに買い物をした家族。


 千円札を受け取った場面と、五千円札を受け取った場面が、頭の中で重なった。


 いつも画面の金額を見て、確かめて渡している。


 けれど、全部を一人ずつ覚えているわけではなかった。


「今日は、途中で返金もあったな」


 店長が言った。


「はい。お菓子の」


「そこから見てみよか」


 航平はうなずいた。


 店長が記録を開く。


 卑弥呼も、横からのぞき込んだ。


「お孫さんのために、違うものをお買いになった方ですね」


 航平はその女性を思い出した。


 レシートを出すときに、袋から別のお菓子ものぞいていた。


 返してもらったのは、一袋だった。


 卑弥呼が続けた。


「もう一つのほうは、お好きやとおっしゃっていましたね」


 そうだった。


 女性は、袋の中を指さして言っていた。


 こっちは合ってるから、これだけ返したい。


 航平は画面の金額を見た。


「……返金、千三百円になってますね」


「うん」


「俺、渡したん八百円です」


 店長が航平を見た。


「覚えてる?」


「五百円玉一枚と、百円玉三枚。渡すとき、八百円ですって言いました」


 店長は返品した商品の袋を取りに行った。


 航平もついていく。


 袋についている値札は、八百円だった。


 店長は保存していたレシートの控えと見比べた。


「買ったんは、二つやな。八百円のと、五百円の」


「はい。返したんは八百円のだけです」


「せやな……」


 レジへ戻り、店長が処理の内容を確かめた。


 航平は横で待った。


「これ、二つとも返品した扱いになっとるわ」


 航平は画面へ身を寄せた。


 返金額は千三百円。


 実際に渡したのは、八百円。


 記録の上では、現金が五百円多く減ったことになっていた。


 だから、数えたお金が五百円多い。


「あ……」


 店長も画面を見ていた。


「一つだけ取り消すところ、買い物全体を取り消してもうたな」


 航平は女性にお金を渡した場面を、もう一度思い返した。


 八百円。


 女性は受け取り、財布へ入れた。


「お客さんには、合ってる額、渡せてますか」


「この商品八百円やから、合ってる。少なく返したんちゃうよ」


 航平は息を吐いた。


 店長が航平の顔を見た。


「そこ気にしてたん?」


「はい。五百円、返せてへんのかと思って」


「今回は記録のほうやな。俺も横で確認してたのに、見落としてたわ」


「すみません」


「次から、一品だけのときは、ここ。金額だけやなくて、どの商品が消えてるかも見てな」


 店長が操作を示した。


 航平は画面を見て、うなずいた。


「はい」


     *


 処理を直し、もう一度数えた。


 今度は合った。


 航平は店長と確認を終え、更衣室へ向かった。


 卑弥呼もついてくる。


「よかったですね」


「うん」


「お客様のお金でなくて」


「店のお金も大事やけどな」


 卑弥呼が小さくうなずいた。


 航平はエプロンを外した。


「向こう向いといて」


「はい」


 卑弥呼が壁へ顔を向けた。


 航平は着替え、勾玉を普段のズボンへ移した。


 勤務を終えて店を出ると、外は暗くなっていた。


 自転車の鍵を開けたところで、スマートフォンを見た。


 母から、帰ったらご飯を温めるようメッセージが来ていた。


 航平は『今から帰る』と返した。


「私も、少しはお役に立てましたでしょうか」


 卑弥呼が尋ねた。


「おばあさんの話、よう覚えてたな」


「お孫さんのこと、お話しされていましたので」


「俺、そのあと次のお客さん来て、頭切り替えてもうたわ」


 航平はスマートフォンをしまった。


「助かった。ありがとう」


 卑弥呼は目を下げた。


 けれど、口元は少し緩んでいた。


「占いは、必要ございませんでしたね」


「半々やと、お金合う確率も半々やからな」


「そのような占いではありません」


「ほな、俺の財布にいつ金入るか占って」


 卑弥呼が顔を上げた。


「……お給料は、いついただくのですか」


「二十五日」


「では、二十五日に」


 航平は自転車を押し出した。


「それ、占いちゃうやろ」


 卑弥呼が、その横についてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。